- 平山夢明さん (ひらやま ゆめあき)
- 1961年神奈川県生まれ。「デルモンテ平山」名義による映画・ビデオ批評で注目される。94年、ノンフィクション作『異常快楽殺人』を発表。『東京伝説』『超怖い話』などの実話怪談作品が大ヒットする。小説家としては96年、長編スリラー『Sinker』でデビュー。「独白するユニバーサル横メルカトル」で第59回日本推理作家協会賞を受賞。 短篇集『独白するユニバーサル横メルカトル』は「このミステリーがすごい!」2007年度国内部門第1位を受賞した。
インタビュー

- −−日本推理作家協会賞短篇賞、「このミス」第一位、おめでとうございます! 『超怖い話』などの著作で知られている平山さんですが、今回、初めての短篇集を編まれるにあたってどのような選び方をしたのかから教えてください。
- 平山さんかなり味の濃い、タチの悪いものを選ぼうと思いましたね。ぼくの場合だと、小説というジャンルではハンデがあるわけですよ。前に出した長編は6年前だから(笑)。最初に世の中に知ってもらうためには、トンガったものじゃないと。
- −−たしかに、刺激的な短篇集です。クセになりそうな魅力がありますね。平山さんが子供の頃に読んでいたのはどんな本ですか?
- 平山さん俺らの世代はマンガの影響が強いね。日野日出志さんとか楳図かずおさんのマンガ。とくに日野日出志さんは連載をリアルタイムで読んでいた。学校の友達の間でまわし読みして、みんなで夜うなされたという、平山少年の人格形成において、かなり大きな影響を与えられましたね。
あと、まだ貸本マンガが残っていた時代で、つげ義春さん、辰巳ヨシヒロさんのマンガも小5あたりで読んでいたね。俺って何のために生まれてきたんだ!? って考えさせるような、ああいう本が自分に合っていたね。
もちろん、片方には手塚治虫さんがいて、藤子不二夫さんがいた。ぼくは藤子先生でも、『魔太郎がくる!!』とか、藤子不二雄A先生のほうが好きでしたね。 - −−小説で覚えているものはありますか?
- 平山さん
最初は星新一さん。その次は、時代物で司馬遼太郎さんや吉川英治さんとか。でも、小説にめざめたのはずいぶん後ですね。十代の頃は映画監督になりたかったから、映画ばかり見ていた。『激突』とか『悪魔のいけにえ』とか『ジョーズ』とか『悪魔の植物人間』とか。
どちらかというと小説よりもノンフィクションものをよく読んでいた。人間はどのくらいまで血を入れ替えても生きていけるかとか、ナチの人体実験のことを書いた本とか。今思うと、病んだ青年だね(笑)。
ぼくは生まれも育ちも川崎の南部、競馬場の裏だったんだけど、子供の頃、よく目の前で人が死んでいたんですよ。トラックに轢かれたり、ヤクザに腕を切られるとか。だから、普通の日常より、そういう世界のほうがしっくりくるんだよ(笑)。
この小説の中でもたまに無意識に出てくるんだけど、俺の場合、リアルとか現実がゆがんでいるんだよね。神様がいるとすると、俺にとっての神様は厳しい人なのよ。砂漠の神様みたいなもので、どんなにいい人でもあっけなく死んじゃう。どんなに善行を積んでいても結末は変わらない。それは子供の頃の体験から来ているのかもしれないね。
だから、普通の人が感動するような小説を読んでもピンとこない。悲しい話、痛い話でも、ピンと来ないんだよね。だから何? みたいな。そこからもう一段下がらないとしっくりこない。そこが、普通の人がぼくの小説を読んだときに強烈さを感じる部分なのかもしれない。 - −−なるほど、平山さんの小説を読んでいると、どこか違う世界に連れて行かれるような強烈さがありますね。大人になってからよく読んだ小説はありますか?
- 平山さんぼくは気に入ると何度も同じ本を読むんですよ。影響を受けたということでいえば、トマス・ハリスの『羊たちの沈黙羊たちの沈黙』、ロバート・K・レスラーの『FBI心理分析官』、グレゴリー・マクドナルドの『ブレイブ』、トム・ゴドウィンの『冷たい方程式』、ブコウスキー、日本のものだと、筒井康隆さんの『佇むひと』や『虚航船団』。ああいうのが好きですね。
やっぱり刺激が強いものが好きだね。しかも、それが現実とつながっていないとイヤなんだよね。あと、個人的には厳しい話が好き。人が死んでも死ななくてもいいんだけど。内田春菊さんの『ファザーファッカー』なんかがそうだね。人は死なないけど、痛いでしょ。
うわ、どうするんだろう? っていう厳しい話が好きだよ。だから、漂流記、遭難記の類は好きだね。あと、プログラムを作るとか開発する話、ダムを作る話とかも好き。困難にぶつかって、これ、どうやって乗り越えるの? うわ、気が狂いそうだ──みたいな。 - −− 平山さんの小説には残酷描写もあるし、“厳しい”話でもありますよね。でも、読者が小説の中で起きていることを客観視できるだけの距離がちゃんと取ってあると思います。
- 平山さん
ホラー小説ものは、読者に対して“恐怖”を与えないといけないと思われているんだけど、恐怖ってつかみどころがないのよ。ミステリーなら「謎解き」をはっきりと提示できるけど。
恐怖って何よ? 何だろう、と思っていた時期はあった。だけど、最近は、道徳実験じゃないけど、読者に、こういう場合にどうジャッジするの? って迫るのもその一つのやり方じゃないかと思っている。この本に入っている「無垢の祈り」なんか、そういうところはあるよね。あと、最後の「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」もね。ここまでやっても、そういう心情を持った人に感情移入できるの? ということを読者に突きつけているんだよね。
- −−収録されている短篇についてお聞きしますが、最初に入っている「C10H14N2(ニコチン)と少年」はナンセンスな笑いがちりばめられていますね。しかし、この話を最初に持ってきたというのは、冒険ですね(笑)。
- 平山さん俺、人に迷惑はかけたくないから。これを読んで「ダメだ」と思った人には、その先、ついてこれないだろうと(笑)。逆に、これを読んで「いい」と思った人は、俺側の人間だろうと。だから最初に入れたんだよ。
- −−一種の“踏み絵”ですね(笑)。ところが、次の「Ω(オメガ)の聖餐」は、カニバリズムというグロテスクな題材を扱っていながら、一方でとてもロマンチックな印象を与えます。
- 平山さんこれからもチャンレンジしてみたいと思っていることが一つあって、それは、超長距離から的を打ち抜きたい、ということ。「こんなにグロテスクな話なのに泣けた」って読者に言わせたら、俺の勝ちじゃない? グロテスクで、泣くということから遥か遠い話なのに、泣ける。まさかこんな話で感動なんかしないって話で感動させたい。それを狙ったのがこの小説だよね。
- −−次の「オペラントの肖像」は未来を舞台にしたSFですね。超管理社会を描いていますが、その歴史、社会体制についてかなり細かく書かれています。事前に細かい設定まで詰めてから書いたんですか?
- 平山さんあらかじめ考えてメモっておくとかできないんだよね。ねりねり考える、その時間が長いんだよ。書き始めると、早いんだけどね。
- −−設定が魅力的なので、連作小説にされても面白いんじゃないかと思いました。
- 平山さん 連作を書くつもりはないですね。ひねくれてるんですよ。でっかいマグロのほんとにおいしいところだけで書けないかな、と思っているんですよね。
- −−残りの部分は捨てちゃうんですね、それは贅沢な。「卵男」はラストが鮮やかな作品で実によく練られたミステリー。一方、次の「すまじき熱帯」はコッポラ監督の『地獄の黙示録』を思わせる世界をもっと徹底してグロテスク&ナンセンスに展開していますね。
- 平山さん 「C10H14N2(ニコチン)と少年」と同じ種から生えているっていうのかな。モンティ・パイソンみたいな笑わせ方をしたくなるんだよね、時々。
- −−表題作の「独白するユニバーサル横メルカトル」は地図が語り手という奇抜な発想のミステリーです。もともとは、作家があるテーマについて競作するアンソロジー集、異形コレクションの『魔地図』に収録されていた作品ですね。
- 平山さんアイディアが思い浮かばなくてね。お題が「魔地図」だから、宝探しと地図がしゃべるというのが絶対に誰かやると思っていて、そうじゃない話を書こうと。一つアイディアがあったんだけど、うまくいかない。そのうち締め切りが迫ってきて、時間もないし「じゃ、地図、しゃべるか」。
そこに、昔、『異常快楽殺人』というノンフィクションを書いたときに、プロファイラーの方から聞いた話で「地図的プロファイリング」というのがあった。あれをちょっと使うか、しょうがないなあ、みたいな感じで書き始めたんですよ。本ができてみたら、地図がしゃべる話を書いた人は誰もいなかった。 - −−地図がしゃべるだけなのにちゃんと物語が展開して、しかもその世界の見え方がとてもユニークだと思いました。最後の話「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」は、ハードな描写とサイコな主人公にドキドキさせられますが、これもクライマックスにとても美しいイメージが登場します。
- 平山さん綾辻(行人)先生が褒めてくださったらしいんです。それで、短篇集の最後に持ってきて、読者を送り出そうと。
これも異形コレクションに書いたものなんだけど、お題が「夢魔」。ダリの絵を連想して、あの世界の中でうごうごしている人たちを描きたいと思ったのと、そこに心理学的なものを入れたかった。時代の気分としては、依存と強迫観念が強いでしょう。だから、強迫観念をメインにしよう、と。これはまだ実験なんだけど、読者が読んでいるうちに強迫観念にとらわれてくるような小説が書きたいと思ったんですよ。
自分の中に、自分が持っているアイディアは必ずもっと腕のある人が使っていい小説を書いている、という強迫観念があるんですよ。だから、アイディアが出ると、ぺんぺん草も生えないようにしたい。なんでもかんでもつっこんで、ぐつぐつ煮ちゃう(笑)。
- −−8つの短篇はどれも個性的で、それぞれにジャンルも違っているのに、テイストとしては見事に“平山調”です。平山さんの“小説家宣言”ですね。
- 平山さんこんな感じでやっていきますけど、どうですか? みたいな本ですね。あんなの読んじゃダメよ、みたいな人もいるかもしれない。書棚に平山の本があって、部屋に来た人に見られて、こんなの読む人だったの? って思われちゃうような(笑)。
- −−堂々と書棚に入れておきます(笑)。今日はありがとうございました。





