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−−まず最初に、『コニー・ライオンハートと神秘の生物』シリーズの『サイレンの秘密』を、ハリー・ポッターの次に出版しようと思われた理由を教えてください。 松岡さん もともと、『ハリー・ポッター』が終わったら、ほかにもイギリスのファンタジーを出版してみたいと思っていたんですよ。それで、アメリカやイギリスの出版エージェントが持ってきてくれる、さまざまな本をたくさん読みました。ただ、どれを読んでも、、なかなか出版する気になる作品がなかったのです。そんな中で、「これはいいかな?」という感触があった最初の本がこの『サイレンの秘密』なんですよ。 一読して、良質なイギリスのファンタジー文学の流れを組む、静山社として出版しても、恥ずかしくない内容の本だと思いました。 それで4巻シリーズの全部の版権を買いました。著者のジュリア・ゴールディングは、たいへん力のある、正統派の文章を書く作家で、静山社はその次の9巻シリーズの作品も契約したのですが、そうしたら、そちらの作品で、オッタカー児童図書賞や、ネスレ児童文学賞を受賞されました。そういう意味でも、期待の作家の処女作というわけです。。 −−内容は、ファンタジー好きをくすぐる魅力的な物語ですね。『ハリー・ポッターシリーズ』同様、たいへん読みやすかったのですが、1巻は導入部で、壮大な物語がはじまったばかり、という印象ですね。 松岡さん 『ハリー・ポッターシリーズ』は1巻ごとに、ある程度、完結していましたが、『コニー・ライオンハートと神秘の生物』シリーズは4巻そろってはじめて全体がわかる構成です。 1巻だけだとわからないところがあると思うんですよ。ですが、2巻を読んで、3巻まで読むと、ガラッと印象が変わった感じがして、おもしろかったですね。4巻そろって完結するというのは、出版社にとっては苦しいところもあるのですが(笑)。 −−4巻そろって、起承転結という構成になっているわけですね 松岡さん そうなんです。4巻まで読めば、さまざまな神秘生物やキャラクターの意味や謎が、全部解けるのかもしれません。コニーはたいへん特殊な能力をもっているようですが、1巻ではまだ完全に発揮されていませんし、彼女の本当の心の強さがわかってくるのもこれから、です。 −−著者のジュリア・ゴールディングさんは、どういう方なのですか? 松岡さん ケンブリッジを卒業して、オックスフォードでイギリス・ロマン派文学のドクター(博士号)をとった秀才です。その上、外交官の経験があって、ポーランドに着任していたこともあるそうです。また、イギリスのオックスフォードを本部とする慈善団体「オックスファム」のロビイストとして環境問題にかかわり、国連の会議などにも参加していた人なんです。 ところが、会議で環境問題や戦争地域の紛争解決などに携わっているうちに、会議そのものは堂々巡りで、問題はちっとも解決しないし、悲観的になってきたんですね。それで、問題を解決するのは未来の世代、子供たちだと考え、国連の暗い一室で書きはじめたのが、この『サイレンの秘密』です。 彼女には、お子さんが3人いましてね、その子供たちが物語の最初の聞き手なんですよ。子供たちが、ああして欲しい、こうして欲しいというアイデアをどんどん出すのだそうです。それを取り入れながら、書き進めているんですね。 2巻にはコニーのペットになるドラゴンがでてくるんですけど、それもお子さんのアイデアだったそうです。J.K.ローリングは、離婚してシングルマザーで頑張る、ドラマチックなデビューでしたが、それとはまたちがった、イギリスの典型的なインテリとして、さらに母として主婦として、落ち着いた良質な物語を書いています。この人の書くシリーズなら、良書として多くの人に読んでもらえると思いました。 −−たしかに登場人物たちは、みんな根底にあたたかいものを感じさせますね。 松岡さん 血湧き肉躍る感じは、ハリー・ポッターに劣るかもしれませんが、落ち着いた良いところがある本ですね。いかにもイギリス的な海辺の町で、イギリス的な学校に、いろんな人種が通っている。そういった光景が伝わってくる本なんです。 一方、彼女の経歴から、もうひとつのテーマとして、環境問題に対する思いが物語に込められているんです。しかも、それを素晴らしいファンタジーにすることに成功しています。 環境が悪化するにともなって、神秘生物たちが追い詰められていく。それを救おうという協会が登場しますが、物語の中で冗談めかしてその協会のことを「環境保護団体みたいなものね」とコニーが言うのを聞いて、協会のメンバーがフッと笑うシーンがあるんです。「そう言えるかもしれないな」と。 環境問題は、本当に深刻な問題です。その意味では、本を読んだ子供たちも知らず知らずのうちに、環境問題を大切に考えるようになると思います。 −−一番の読みどころはどこだと思いますか? 松岡さん やっぱりサイレンが登場するところでしょうね。たいへんな迫力があります。物語の雰囲気は、静かな町の秘められた出来事という印象で、全体におだやかですが、このサイレンが登場するシーンは、ゾッとするような描写がありますね。サイレンがなぜか怒っている……とか。 サイレンという生物は、セイレーンやシレーヌなどの名称で、これまでの伝説では、美しい歌声で船乗りを海に引きずり込む魔物として描かれてきました。その印象がかわるかもしれませんが、この物語ではあえて「サイレン」と訳しました。それは、物語の中にもうひとつのサイレンが登場するからです。警告としてのサイレンですが、それと同じ語源であるということが大切な意味を込めて書かれているからです。 サイレンだけでなく、2巻以降にも、ギリシャ神話のゴルゴンや、キメラ、ミノタウルスなどが、絶滅の危機に瀕している生物のシンボルとして登場します。私もギリシャ神話が好きなのですが、そういった物語がお好きな方にも、楽しんでもらえると思います。 −−このあとのシリーズはどのくらいで翻訳されるのですか? 松岡さん どれぐらいの速度で出せるかはまだわからないですが、すでにイギリスでは全巻出版されていますので、そんなに時間はかからないだろうと思います。2巻の『ゴルゴンの眼光』も、まもなく翻訳に入る予定です。 できるだけ早く、シリーズ2巻を出版して、全体の流れを楽しんでいただけるようにしたいですね。 −−しかも、そのあとには、次の9冊シリーズが控えているわけですね。 松岡さん そうなんです。そちらも出していかなくてはいけません。私ひとりでは、翻訳するスピードに限界がありますから、どなたかとの共訳となると思いますが、いずれにしても、翻訳に一貫性を持たせるために、私がずっと関わらなければ、と思っています。 イギリスの方からは、次の9冊シリーズはもっとおもしろいよ、という評価をいただいています。 まったく別のミステリーですが、主人公はコニーと同じぐらいの年代です。物語の舞台は、ジュリア・ゴールディングが得意とするロマン派の時代です。イギリス人にとってもおなじみの舞台という感じがするらしいのですが、素晴らしいミステリーで、賞も獲った、乞ご期待のシリーズです。 −−翻訳のご苦労はありますか? 松岡さん 今回は、はじめて共訳という形にしました。一緒に作業をすることがたいへんな苦労でしたね。初めての経験でしたし、自分ひとりの考えで翻訳を進めるのとは違った苦労があります。必ずしもひとりでやるより、楽な作業ではなかったということですね。にもかかわらず、この4巻は、ずっと共訳という形ですすめる予定です。もちろん、最終的には私が責任を持って訳文を整えます。 −−最後にファンタジーの魅力をひとことお願いします。 松岡さん 自分ではないもうひとりの自分になれるというのが、魅力だと思います。それは、「物語」というもの全体にいえることだと思いますが、とくに、ファンタジーの場合は、その世界で遊ぶことができるんですね。自分でない自分になって、別の世界で遊べる……これがファンタジーの魅力ですね。 ケータイ小説や気軽にネットで読める小説もありますが、それも良いと思います。ただいつまでも、本を手にとって読む、その楽しみを忘れないで、大事にしてほしいと思います。 −−紙のページをめくって読み進む楽しさや、時間をわすれて没頭する感覚。ぜひ、小さいときから、お子さんたちにも知ってほしいですね。 松岡さん そうですね。いまはネットで、本がすぐ届きますから(笑)。 ぜひまた、たくさんの方に読んでいただきたいと思います。 −−今日はありがとうございました。