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■三木谷浩史 (みきたに・ひろし)
65年、神戸市生まれ。88年、一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。93年、ハーバード大学にてMBA(経営学修士)取得。興銀を退職後、96年にクリムゾン・グループを設立。97年5月、インターネットショッピングモール『楽天市場」を開設。00年、日本証券業協会へ株式を店頭登録(ジャスダック上場)。その後、インフォシーク、楽天トラベル、楽天証券、楽天クレジット、イーバンク等などの参画により事業を拡大する。04年、Jリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーに就任。同年、楽天野球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)を設立。
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−−今なぜノウハウを明かすのですか。
三木谷 私は以前、ハーバード大学に留学していました。そこで学んだ経営学を自分なりに12年間実践してきました。あちらのビジネススクール的な経営学をもとに自分なりに実践して、その経験を体系化した経営哲学的なものを広め、皆さんのお役に立てればいいなと思って、今回、本にまとめてみました。今、世界はITの劇的な進歩にともなうさまざまな革命が起きている革命期です。しかし世界の経営者と日本の経営者の間には意識のギャップがあります。新しいものに「前向きに取り組もう」という未来思考の世界に対し、日本はどちらかと言えば、いかに「生き残るか」という後ろ向きな思考です。「未来思考な受け入れ方もしていきましょうよ」というメッセージも、この本にはあります。
−−なぜインターネットではなく本という形なのでしょうか。
三木谷 デジタルメディアと(本などの)プリントメディアには違う機能があります。じっくり咀嚼(そしゃく)するには本の方がいいと思います。新聞や雑誌などニュース的なもの、接触時間がそれほど長くないものであれば、デジタルメディアにも機会があります。しかし、例えば聖書などいつも手元に置いておきたい、そういうものについてはプリントメディアのよさがあります。本にすることで、より読者の身近に置いてもらい、参考にしてもらうことができます。それに会社がグローバル展開するときに、本が必要なんです。世界には、まだ楽天という名前を知らない人もいます。本があれば、そんな彼らにも楽天はこういう考え方を持った企業なのだと理解してもらえます。ですので、本作は中国語版も英語版も出版します。
−−三木谷さんは起業以前、日本興業銀行(当時)の行員でした。安定した身分を捨てることは怖くありませんでしたか。
三木谷 怖くないものは怖くない(笑い)。例えば、不景気のときは大きな会社に勤めて安定したい人が多いようですが、そういうところに依存している人ほど将来は分かりません。公務員一つとってみても、リストラされない公務員なんて日本の公務員くらいですよね。本当に日本が経済危機に陥ったら、一気に崩壊します。興銀にしても、当時、私は興銀がなくなるとは予想しませんでしたが、それでも「役割は終わった」とは思っていました。もちろん、興銀も歴史的に見れば素晴らしい役割を果たしてきました。しかし、それまでの環境が変化し、マーケットが変わってしまったわけです。それに当時、自分のなすべきことは新しい産業を作る、新しい会社を作ることだと思い始めたということもあり、結果、起業に至りました。
−−三木谷さんは阪神大震災で親族を亡くして「人はいつか死ぬ」という死生観を抱いたとありますが。
三木谷 起業家には、どこかしら達観しているところがあると思います。私も普通のサラリーマンから起業し、周囲がだめだと思うことを次々にやってきました。失敗を恐れません。なぜ恐れないかというと「失敗しても大したことがない」と思えるようになったからです。阪神大震災の翌日、(地元の神戸に)帰ったんですよ。今まであった街が焼け野原になり、公民館に行くと500体くらい遺体が並んでいて、言い方は悪いかもしれませんが、成功しようが失敗しようが、大きな宇宙の歴史で考えると、あまり大したことではないんだと思いました。ある意味、人生は自己満足なのだと思います。その中で自己実現ができればいいんだと。そして私は、単純に自分の夢をかなえるというより、日本を変革するような器の会社を作ることを、自己実現の目標に掲げました。
−−「人間的なサービスこそインターネット・ビジネスの鍵」というフレーズが印象的です。
三木谷 楽天を始めたころ、私が思ったのは「最大のコンテンツはコミュニケーションだ」ということでした。人間はコミュニケーションが好きな生き物です。インターネットを使うとコミュニケーションのクオリティーが落ちると考えがちな人も多いですが、実はそうではありません。1対1の関係が1対n、多くの人とできる。時間も超える、距離も超える。楽天市場のデザインが、他のサイトと違ってごちゃごちゃしているのも、そのためです。情報量が多くて、人がいっぱいいる方が、将来的に絶対におもしろくなるという判断からです。機能性の追求だけでは、ショッピングは終わりません。レストランだってそうですよね。食事がおいしいだけではおもしろくない。やはりサービスする人とのコミュニケーションが大切ですよね。
−−「ブレークスルー(限界突破)」が成長の鍵だとあります。三木谷さんにとってのブレークスルーとは。
三木谷 あまり言われていませんが、楽天のサービスは創業当時、大きなブレークスルーでした。それまでのショッピングモールでは、各店舗のページまでモール側が編集していました。それを私たちは誰でも簡単に作れるという仕組みを作って、編集権を店舗側に預けました。それからステップアップという点で言えば、やはり楽天グループの流通量が年間で1兆円を超えたというのも、ブレークスルーだと思います。
−−「メディアの中心がネットになる」という表現が刺激的です。05年10月の楽天によるTBS株取得とその後の業務提携交渉の一件もあります。通信が放送をのみ込むということでしょうか。
三木谷
通信と放送という話がよく出ますが、基本的に何が違うのでしょうか。基本的には、コンテンツとディスプレーを結ぶ媒体手段を通信と位置付けるのか、それとも放送と位置付けるのかということだけです。今、アメリカでは「Hulu」というNBCとNews社が運営する動画サービスがどんどん広がっています。(いつでも見たいときに見たいものが見られるので)時間という制約から解放されるわけです。過去のテレビ番組や映画もさかのぼって見られます。以前は100万人に同じコンテンツを見せるのは無理だという話もありましたが、技術が日々進歩していますので、これからはそんな言い訳ができなくなります。音楽の聴き方がITの発展によって変わったように、テレビ業界も変わるし、おそらく新聞・出版業界も変わると思います。
−−創業から今年で13年目になります。本書には「世界一の企業」を目指すとありますが、具体的には。
三木谷 基本的には世界一の社員、世界一の組織、世界一のサービスですね。その結果として、売り上げや利益といったもので世界一になれればいいと思います。例えばトヨタは世界一の自動車メーカーですが、なぜ世界一かというと世界一になれる仕組みがあるからですよね。そして世界一の仕組みが作れるのは、世界一の社員がいるからという順番ですよね。
−−読者に一言お願いします。
三木谷 あえて言うと、成功できるか否かは、あるものを見たときに他の人と違う読み取り方ができるかどうかということだと思います。通信と放送の話にしてもそうですが、何事も俯瞰(ふかん)で見ることが重要です。特に日本人の場合は付和雷同しがちなので、世の中の流れに流されない、しっかりした自分を持つためのテクニックを持つべきです。そういうことを普遍的に、魂を込めて書いたので、本書を参考にしていただければ、きっとお役に立つと思います。
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