- 和田竜さん (わだ・りょう)
- 1969年12月、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2003年、脚本「忍ぶの城」で第29回城戸賞受賞。同作を小説化した『のぼうの城』(小学館)で2007年に小説家デビューし、直木賞候補、本屋大賞2位を獲得。小説第2作目『忍びの国』(新潮社)で第30回吉川英治文学新人賞候補に。
インタビュー

- −−『小太郎の左腕』は、もともと脚本として書かれた作品だったそうですね。
- 和田さん僕が初めて書いた戦国モノの脚本がベースになっています。執筆当時、自分の中にあった戦国時代のイメージや知識を全部突っ込んだような、かなり思い入れのある作品だったこともあり、小説化することにしました。
- −−前2作同様、魅力的な登場人物たちに惹きつけられたのですが、主人公である11歳のスナイパー「小太郎」を思いついたきっかけとは?
- 和田さん発想の根っこにあるのは“左構えの火縄銃”がこの世にある事実を知ったことです。『ゴルゴ13』など現代のスナイパーを描いた作品はあるけれど、戦国を舞台にしたものはないので、書いてみたら面白いんじゃないかと思いました。そこからスナイパーにどんな人間が向いているのかと考えてみたら、愚鈍に近い人ではないかと。過敏な人は心が動揺するので、スナイパー向きではないと以前読んだこともあって。そこで「イノセント」をキーワードに主人公を「子供」にしてみようと考えました。とはいえ、たんに「イノセント」というだけでは面白くない。歴史上には「雑賀衆」という、わりと知られた鉄砲傭兵集団がいるので、その一族の血を引く少年にしたんです。
- −−小太郎をはじめ、和田さんの作品を読むたびに感じるのは、1人ひとりの登場人物がとにかく生き生きとしていて、魅力的だということです。和田さんご自身が史実をひも解く中で出会った人物に、強く惹きつけられながら書いているような印象を受けるのですが……。
- 和田さん実は物語を書く時の着想の原点は、人物ではなく「出来事」なんですね。『のぼうの城』では「忍城攻め」、『忍びの国』では「伊賀忍者と織田信長軍との攻防」という出来事に興味を抱いた。それを起点に関わりのある人間を洗い出していくと、必然的にあまり知られていない人物に出会うんです。僕はよく「歴史上の人物を発掘したいのか?」と聞かれるのですが、そういう意図は全然なくて、自分が興味を持った出来事の関係者だから描いているだけなんですよ(笑)。
- −−本作が3作目の小説ですが、共通して戦国時代が舞台です。その理由とは?
- 和田さん幕末は別にしても、江戸時代になると比較的、現代に投影できてしまう側面があるのかなと。それに比べて戦国の頃は家臣団がまだそれほどまとまっておらず、個人が自由に家を渡り歩いたり、人間が自由で陽気で原始的だった気がします。戦乱の世、あらゆる規制が外れた時代の人間たちですから、喜怒哀楽もはっきりしている。そうした人間たちが闊歩している、というのが個人的な好みだから書いているのでしょうね。
- −−和田さんの作品を読んでいると戦国時代の人々の大らかさに、同じ人間としてほっとさせられることがよくあります。敵対する相手であっても能力を認め、尊敬し合うような……。
- 和田さんそういうイメージは確かにありますね。江戸時代に記された、戦国時代の回顧録などを読んでいくとそうした場面に出合ったりしますから。

- −−ラストでは小太郎と並ぶ重要なキャラクター、半右衛門の潔い生きざまに涙があふれました。
- 和田さん泣かせようという意図は全然なかったのですが。意外にそういう感想をいただくことが多くて驚いていますね。
半右衛門にしても、結果的に潔く見えたとしても、本人は身勝手というか、自分自身のために行動している。いってみれば、戦国時代特有の“男道”をまっとうするためにアクションを起こしているわけです。その“男道”が何かといえば、要は「カッコつけ」なんですよ。子供の世界にあるような告げ口や弱いものいじめはカッコ悪いとか、そういう気持ちに突き動かされている。当時の史料にあたっていくと正義感というより、自分が美しくあるために行動していると感じることがよくあります。 - −−そもそも時代小説を書こうと思ったのはなぜですか?
- 和田さん僕はもともと歴史が好きだったわけではなくて、中高生の時は、むしろ嫌いなほうでした。ところが歴史小説を読むようになって、その面白さに目覚めた。だから歴史がつまらない、苦手だという人の気持ちはすごくよくわかるんですよ。そのせいか僕が選ぶ題材はわりとキャッチーだし、いわゆる歴史小説家のように、人物や真実を発掘することにはまったく興味がない。結果的に真実を発掘することはあるでしょうが。それよりも普通の人が何を面白く感じるのかに興味があるし、歴史の素養がまったくない人にも分かるように書くことが、小説を書く上での自分の責任のひとつかなと思っています。
- −−ちなみに歴史小説の面白さに気づかせてくれた作品とは?
- 和田さん司馬遼太郎先生の『竜馬がゆく』ですね。「竜」という名前が坂本竜馬からつけられていることもあり、自分の名前のもとネタを読んでみるか、と思ったのがすべてのはじまりです(笑)。
- −−歴史になじみのない人間が時代小説を読むと「当然知っているでしょ?」といった史実に出くわして、先に進めなくなったりしますが、和田さんの作品にはそれがまったくないんです。そのせいか、女性の読者もとても多いですね。
- 和田さんそれこそ子どもが読んでも分かるように書く。あとはなるべく、登場人物に即して、具体的に歴史の事情を示すことは心がけています。たとえば、戦国時代の殿様は、実は偉そうにしているだけではなくて家臣にも頭を下げたとか、そうした描写があると歴史がより具体的に見えてきて、理解しやすくなるはずなので。その時代を体感してもらえるようにと思いながら書いています。
女性の読者が多いというのは……これもまた意図していたわけではないので驚いているのですが。女性も含め、今まで歴史小説を読まなかった人にも手にとっていただけるのは、オノ・ナツメさんの装画の力も大きいと思いますね。 - −−時代小説を書く上で気をつけていることはありますか?
- 和田さん史実を扱う際は、基本的に全部調べ上げて、なおかつ僕にとっての史実に従っています。同じ歴史上の事柄を調べても、複数の説が同時に出てきて、なおかつどれが真実なのかわからない場合が多々あるので。そのうちのどれを選択するか。僕が基準にしているのは「面白さ」です。同時にどれが真実に近いのか……などといったさまざまな選択をしていく。そうやって僕にとっての史実を導き出し、それに沿って書いていくスタイルですね。
- −−ご自身について伺いたいのですが、もともとは映画監督を目指していたそうですね?
- 和田さんそうですね。その勉強の一環として脚本を書いていました。

- −−そのうちの1作が映画の脚本家の登竜門である城戸賞を受賞されたわけですが。
- 和田さんそれを映画化する過程で小説にしたのが『のぼうの城』ですね。
- −−脚本を書いていた経験は小説を書く上で役立っていますか?
- 和田さん僕の小説はよくヴィジュアル的だと言われますが、自分でも映像を意識して書いています。『小太郎〜』も含め、これまでの3作はすべて以前に書いた脚本が基になっているんです。一般的な長編映画用に書いた脚本が設計図になっているので、約2時間、飽きさせないようにつけた起伏が、小説の中で多少生きているのではないかなと思います。
あとは僕の場合、歴史小説にしては描いているスパンが短いんですね。織田信長を題材にするにしても、映画の脚本でいえば、「うつけもの」と呼ばれた信長が桶狭間を経て、本能寺で死んでいくまでを約2時間で描くには、ダイジェストにせざるを得ない。でも一部の出来事だけにスポットを当てれば、たとえ2時間でもドラマはできる。脚本から始めたせいか、通常の歴史小説よりも描くスパンが短く、時間があまり飛ばないことが、読みやすいと言われる理由なのかもしれません。 - −−今後も脚本を基に小説を書かれるのでしょうか?
- 和田さんいや、小説にしたいものはすべてしてしまったので、脚本を基に書くのはこれで終わりです。今度は一から小説にトライすることになるわけですが、脚本を基に書くのに慣れてしまっているので、小説を書く前にやはり脚本を書くことになるのかなと。普通の小説家とは違ったプロセスを踏むことになるかもしれません(笑)。
今後も戦国モノは書いていきたいと思っています。僕は『竜馬がゆく』を読んで歴史小説がすごく好きになったのですが、幕末を描くことに関しては……今、僕たちが幕末に抱いているイメージや世界観というのは、すべて司馬先生が作られた感じがしていて。それにのっとって書くことはできないなと。戦国時代にしても『国盗り物語』といった傑作があるので、信長自体を書くのも面白くない気がする。史実を調べていく中で、僕なりに表現したいと思うことがあれば、書いてみたいと思っています。 - −−和田さんの小説を通して新たな人間、出来事と出会えることを楽しみにしています。ありがとうございました。
![]()
- ★相変わらず読みやすく一気に読んでしまいました。のぼうの城と雰囲気が似ているから好きな人は好きと思います。登場人物が生き生きとしていて惚れます。初めての人でもぜんぜん時代小説という感じがせず読めると思います。
- ★息子へのプレゼントとして購入しました。到着後、翌日には読みきってしまうほど、内容は大変おもしろかったようです。










