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楽天ブックス 著者インタビュー

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『血と骨』などの小説でバイタリティーあふれる登場人物たちの姿を描いてきた梁石日さんの新刊『海に沈む太陽』は、イラストレーター・画家の黒田征太郎さんをモデルにした青春小説。高校を中退して船乗りになった輝雅は軍事物資を積んで戦争中の東南アジアへ。船を下りてからもさまざま職を転々とするが、やがて絵を描きたいという情熱に突き動かされ、ニューヨークへの渡航を夢見る。戦後の日本の世相を背景に、自分の力で運命を切り開いていく主人公の姿はパワフルの一言。黒田征太郎の青春時代として読んでも読み応えがあるが、それ以上にその生き方が刺激的だ。梁石日さんに『海に沈む太陽』について聞いた。

今週の本はこちら

梁石日さん『海に沈む太陽』『海に沈む太陽』(上)
16歳で家出した輝雅は米軍籍の船で東南アジア各地を航海。様々な職業を転々とするが…。
630円(税込)
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梁石日さん『海に沈む太陽』『海に沈む太陽』(下)
画家・黒田征太郎の半生を下敷きに「血と骨」を凌ぐスケールで描く不屈の青春。
630円(税込)
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梁石日さんの本!

めぐりくる春
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闇の子供たち
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プロフィール

梁石日さん (ヤン・ソギル)
1936年大阪府生まれ。高校卒業後、さまざまな職を転々とした後、25歳で印刷業を興すが、29歳の時の莫大な負債をかかえて倒産。大阪を出奔して、東北地方を放浪した後、東京でタクシー運転手になり、十年間勤める。その間に書いた『タクシー狂躁曲』でデビュー。『月はどっちに出ている』のタイトルで映画化され話題を呼ぶ。実父をモデルに描いた長篇小説『血と骨』は山本周五郎賞を受賞しベストセラーに。映画化されたことでも話題になった。そのほかの主な作品に『族譜の果て』『夜の河を渡れ』『夜を賭けて』(映画化)『異邦人の夜』などがある。

インタビュー

−−『海に沈む太陽』の主人公は黒田征太郎さんがモデルとのことですが、黒田さんとのおつきあいはいつごろからですか?
梁さん友人になって10年くらいですね。六本木のライブハウスで彼のライブを見て、ショックを受けましてね。音楽に合わせて絵を描いていく即興的なものだったんですが、高さ2メートル、長さ3メートルくらいの大きさの紙に描いていく。ものすごく迫力がありました。それで彼と親しくなったんです。
−−それ以前の黒田さんの印象から変わりましたか?
梁さんそれまで黒田さんの名前すら知らなかった(笑)。ライブも、たまたま黒田さんを知っている人に連れられて行ったんですよ。黒田征太郎といえば有名な人なんだけど、知らなかった。私はそういう方面には疎いんです(笑)。
−−では、ナマの黒田さんが絵をお描きになる姿をいきなりご覧になった。
梁さんそうです。黒田さんは私の本をたまたま読んでくださっていたんですよ。それで、その場で黒田さんも私に対して興味を持ってくれた。
−−黒田さんを主人公にして本を書こうと思われたきかっけは何かあったんですか?
梁さん黒田さんとはその後、テレビにいっしょに出たり、共著で『路地裏』(アートン)という本を出したりしているんですよ。『路地裏』という本に、この本と同じタイトルのエッセーがあるんですが、それを書いた後で、これはやっぱり小説にしたほうがいいと思って、小説を書き始めたんです。
−−これは小説に、と思われた理由は?
梁さん一つには、彼の生き方が非常にダイナミックで、とにかくしつこい(笑)。自分のやりたいことはとことんやるというエネルギーを小説にしたいと思ったんだね。
−−『海に沈む太陽』を読んでいると、主人公の行動力、パワーに圧倒されます。
梁さんもう一つは、いまの若い人たちに欠けているものが黒田さんの生き方の中にあると思うんですよね。別に、黒田さんのような生き方をしろと言っているわけじゃなくてね(笑)。自分のやりたいことをやり続けるということが結果を生むんだと思うんですよ。

最初からすごく才能がある人は確かにいると思うんです。でも、才能はあっても持続しなければその才能は実らないと思うのね。逆に、才能があるかないかわからなくても、ずっと持続していけばやがて実ると思うんです。

黒田征太郎は後者のタイプだと思うんですよね。才能があるかないかわからない。自分がやりたいことが何なのかもわからない。漠然としている中で、自然と絵を描く世界に入っていったわけですね。その結果が今に至っているわけだからね。
−−黒田さんといえば有名なイラストレーターですが、そういう方の青春期がこれほど凄まじいものだったということに驚かされました。
梁さん黒田さんのようなタイプは珍しいんだけど、彼は右翼でも左翼でもないの。彼の生き方の中では思想性とはほとんど関係ないんです。だけど、たとえばニューヨークの9.11.テロ事件について、もちろんテロは否定する。でも、イラク戦争を起こしたブッシュに対しても徹底的に反対する。絵をハガキに描いてあっちこっちに送ったりしている。いまはヒロシマについて「PIKADONプロジェクト」という活動もやってるし、その前は『忘れてはイケナイ物語り』(野坂昭如さんとのコラボレーションによる戦争童話集)なんかを延々とやってる。『忘れてはイケナイ物語り』だけで5万枚か6万枚の絵を描いてるんですよ。
−−5〜6万枚!
梁さん普通じゃないから(笑)。延々と、もう10年くらい描いているんじゃないかな。そこが面白いと思うわけです。
−−黒田征太郎さんについてのぼくの印象ですが、権威や権力におもねらず、マイペースに生きていらっしゃる方だと思います。
梁さん彼はまったくの反権力主義者ですよ。彼の持っているモティベーションは、若者にも共通するところがあると思いますね。生き方とか行動が。
−−『海に沈む太陽』は時代背景も戦後の落ち着かない時期です。何か起こりそうな混沌としたエネルギーがありますね。
梁さん黒田さんは戦後、アメリカにすごく憧れたわけですよ。アメリカの進駐軍がかっこよかった。それでアメリカに憧れて、アメリカに行こうとして家を出た。そして、紆余曲折を経てニューヨークに行って、住むことになるわけだけど、そうやって憧れて住んだアメリカに対して、今は反アメリカ的になっている。そこが面白いと思うんですよ。

いわば、黒田さんは日本の戦後の映し鏡みたいなところがあるんですよ。戦後、若者たちはみんなアメリカに憧れてニューヨークに行った。そこで成功した人もいれば、失敗して消えていった人たちもいた。たいがい挫折してるけどさ(笑)。

アメリカに行くということは、大変なことだったわけですよ。それこそ、死ぬか生きるかくらいの決意が必要だった。若いときは、わりあい平気で行っちゃうんだけどね(笑)。
−−日本人は渡航制限があったし、1ドル360円の時代。大変だったはずなのに、けっこう大胆にバーンと行ってますね(笑)。
梁さん片道切符でね(笑)。
−−いまの日本は情報過多社会で、若者たちも、事前に情報を調べてから旅に出ます。 でも、知らないほうが無鉄砲なことができるんじゃないか。そんなことを『海に沈む太陽』を読んで思いました。
梁さんそうね。情報も大事だけど、どんなに情報を集めても、情報と現実は違うからね。情報を集めて安心だと思っていると、実際はまったく違う。そのギャップを埋めることが現代の若者には難しい。われわれの世代は情報がないから身体ごとぶつかっていくしかない。だから、こんなはずじゃなかったはあたりまえ。乖離はないんです。

結局、渇望が強かったんだと思いますね。欲しいものがなかなか手に入らないわけだから。だから、欲しいものが手に入ったら、一生、大事にしますよ。

いまの若い人たち、子供たちは何でも手に入っちゃう。そうすると、すぐに捨てちゃうよね。モノを捨てる時代だから。渇望感が違うと思いますね。
−−求める力、生きていく力が違うような気がします。梁さんのほかの小説にもそういう力を持った人たちが登場しますね。
梁さん在日(韓国・朝鮮人)にはわりあいそういう人が多いのね。日本人とは違うから、そういう活力を持った人は多いですよ。ぼくはそういう人たちに囲まれて育ってますから。ぼくの考え──思想というほどのものでもないけど──は、「生きる」ということが大前提なんです。生きるという大前提をとっぱらって何か考えたり言ったりしても、それは間尺に合わないわけですよ。
−−『海に沈む太陽』で黒田さんをモデルにするにあたって、黒田さんは何かおっしゃってましたか?
梁さん黒田さんは「私はまな板の上の鯉ですから、好きなようにやってください」。自分からぼくに今まで誰にも言ったことがないようなことをしゃべっといてね(笑)。 「書いてもいいの?」「いいです」。そうはいっても、迷惑にはならないような書き 方をしますけどね。
−−それだけ黒田さんが梁さんを信頼されているということなんだと思います。 では、最後にいま取り組んでいる仕事について教えてください。
梁さん「IN★POCKET」に『ニューヨーク地下共和国』という長篇小説を連載中です。9.11を下地にしたもので、もう1000枚を超えてます。上下巻になるでしょうね。

もう一つは「小説宝石」で連載中の長篇小説『シネマ・シネマ・シネマ』。韓国のパク・チョルス監督が柳美里の『家族シネマ』を映画化しましたけど、その顛末記です。
−−梁さんもご出演されているんですよね。映画作りの裏話、面白そうですね。
梁さんたいへんだったのよ、ハチャメチャで(笑)。
−−完結が今から楽しみです。今日はありがとうございました!
『海に沈む太陽』は「ちくま」に4年にわたって連載されたもの。連載中は「はじめ言葉ありき、で始まって、終わりはだいたいこうなるだろうというのはあるけれど、その途中がどうなるかはまったくわからないわけよ」(梁さん)とのことだが、荒波に翻弄されながらも自分の生き方を貫いていく主人公の力が物語を引っ張っていったのではないかとも感じた。読んでいて元気が出る本だ。ぜひ一読を【インタビュー タカザワケンジ】 梁石日

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