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商品情報

『ブルータワー』
石田衣良
徳間書店
1,700円 (税込:1,785円)買い物かごにいれる

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『池袋ウエストゲートパーク』『4teen』などの話題作を次々と発表する気鋭の作家・石田衣良さんの新作『ブルータワー』は、9・11事件に触発されて書いたというヒューマン・ファンタジー。
死の宣告をされ余命幾許もない平凡な一人の男が、高さ2キロメートルの塔と矛盾に満ちた世界を崩壊から救う、魂の冒険と愛の発見の物語だ。
SF的設定で心ゆさぶられる作品を描いた石田衣良さんに、新作『ブルータワー』についてお話を伺った。

プロフィール
石田衣良(いしだいら)
1960年東京都生まれ。成蹊大学経済学部卒。広告制作会社勤務後、コピーライターとして活躍。1997年『池袋ウエストゲートパーク』でオール讀物推理小説新人賞。ドラマ化された同作品は、今も根強いファンのいるドラマ史に残る作品となった。2003年『4TEEN』で第129回直木賞受賞。『うつくしい子ども』『エンジェル』『娼年』『スローグッドバイ』『波のうえの魔術師』『約束』など、著書多数。


インタビュー

――今回の作品は9・11事件に触発されて書かれたということですが。

石田さん これは、タイミングなんですよね。11月から連載が始まるっていう時に、あの事件があったばかりで、塔が倒れるシーンが、一日に何十回も放送されていたんです。それで、あの映像をなんとか小説にできないものか、と思ったんです。なにしろ、ショックが大きかったじゃないですか。あの絵は異常でしたよね。一機目がぶつかった時に、これは物凄い事故だと思って、でも二機目の飛行機が突入した時には、これはもうテロなんだっていうのが衝撃でしたね。世界中でみんなが忘れられないのじゃないかなぁ。それで、考えたのがこの話なんです。大まかな世界観とか構造とは一晩でできたものなんです。

――これだけ緻密な構造を、一晩で考えられたんですか!

石田さん もちろん、アバウトな設計図ですよ。それを、苦しみながらなんとか埋めていったんです。作業は毎回かなりな綱渡りでした。いつもはそういう作り方ではなく、プロットを組んでから書くんですけど、今回は、冒頭のシーンとエンディングに50年代のアメリカのSFのパターンを使いたいっていう構想があるだけで、あとのアイデアは書きながら作っていく形でした。おかげで、連載の枚数も毎回かなり増減があって、約束では70枚なんですが、一番少ない時は20枚。100枚の回までありましたから。ちょうど半ばぐらいで、直木賞の大騒ぎもあったりして(注:2003年『4TEEN』で第129回直木賞受賞)、波がありましたね。

――書きながら構成を考えていかれたんですね。あとで実は入れ違っていたり、なんてことはなかったんですか?

石田さん それが、小説って不思議なんですけど、適当に書いたものがあとでちゃんと生きてくるんですよ。狙っていない伏線がちゃんとした伏線になっていたりするんです。なるほど小説っていうスタイル自体がすごいんだなって思いました。今までは、カチッと3幕ものにわかれていて、それぞれこういうことがあって、最後の結末でこうなるっていうのがあって書くんですけど、これはプロットを作り込んでいなかったですから。書きながら、さぁどうなるんだろうっていう不安もあったし、うまくいった時の喜びも大きかったですね。

――ブルータワーのイメージなんですが、他の塔にも色がつけられていますね。色が象徴するものはなんなのですか?

石田さん 星条旗の「青」で「ブルータワー」にしようというのがありましたから、それで他の塔にも色をつけようと思っただけです。「アメリカ」の青っていうイメージが強力にあって、その大きな塔の中に、世界全部を圧縮して入れる。それが一つのコンセプトかなと思います。この作業は楽しかったですよ。塔の構造を含めて、世界の設定を考えるのはたいへん面白かったです。思いつきの想像力、大解放!っていうか。楽しかったですねぇ。

――塔を救いたいという気持ちが感じられました。

石田さん そういうことだと思います。塔が壊れるのが現実なら、物語の中では塔を救いたいっていう気持ちが強かったんですね。あまりにも強力だったじゃないですか、あの映像が。ようやく3〜4年たってポツポツと出てくるものなんですね。ああいう大きな事件があったあとで、いろいろな表現として顕れてくるまでにはやっぱり時間がかかるんですね。正直言って自分でも、一晩でできた世界観は面白いけれども、なんなのだか、わからなかったですよ。最後にどういう物語になるのかもわからない。ただ、イメージだけがどんどん湧いてきて止まらないという感じで。9・11のインパクトで作られたということだけがわかってるんですけど、それがどう転がっていくのか、何を意味しているのか、その段階ではまだよくわからなかったですね。

――途中でたくさんの人が死んだり、テロがあったり、リアルなエピソードがでてきますが、世界情勢などに対しても普段から考えて見ていらっしゃるのですか。

石田さん それは皆さんがニュースを見るのと同じだと思いますよ。たとえばイラクだったり、パレスチナだったり、テロや事件のニュースが報道されないことはないですよね。そういうことが普通なのはやっぱり悲惨だと思います。だって、晩ご飯を食べようかなと思ってテレビをつけると、17歳の女の子が15歳の子を爆殺する、みたいなニュースが流れるでしょう。世界ってなに?って感じにもなりますよね。だからと言って、今の世界をものすごく暗くてダメだっていう風に書くのは好きではないんです。甘いのかもしないけど、なんとか、救済なり希望なりを書きたいという気持ちがあります。

――助けたい、という気持ちは、もともとほかの作品でも感じることがありますね。

石田さん 助けたいっていうよりは、最悪な中での希望を見たいっていう感じでしょう。いくら暗い世の中っていっても、「人間みんな死んじゃえばいい」っていうような小説はいやなんですよ。だって、そういう作品を描いてる作者は、生きてますからねぇ、のうのうと。世界にはもちろん暗い面がありますけど、それだけではなく、良いところがたくさんあります。それを両方書きたいです。暗い部分だけを書く人はそれが得意なんでしょうけど、僕は小説の中に明るいところだけ書くってことはないですから。そういう意味では、今の世界のバランスにごく近いんじゃないですか。子供達全員が人を殺すわけではないし、事件もあるけれど、強く復元していく子たちもいる。その両方が書けるといいなと思います。

――ウイルスのことについても今の時代の問題とつながっているんですね。

石田さん ウイルスに関してはSARS(サーズ)や新型インフルエンザなどの報道がありましたけど、僕は実は以前から別の小説のために資料を調べていたんですよ。新宿にある感染症研究センターの、インフルエンザ室の人に会ったりしました。その時調べたことがこの小説で生きたってカンジですね。インフルエンザ学っていうのは、いま新しいところがすごくおもしろいんですね。

――ウィルスを何とかすることが解決につながるという筋立ては、最初からお持ちだったんですか。


石田さん 何かそこにキーがあるだろうとは思いました。けれど、どういう風に救うのか、方法は全然考えてなかったんですよ。でも、あの終わり方はよかったと思いますね。ダメ男みたいな人が、若い美人に助けられて終わりってアリですね。憧れですよ、完全に僕の願望です。映画なんかでも、すごくいいシーンになると思いますよ。

――たしかに、カッコイイですね。映画のシーンみたいな、すごくクッキリしたビジュアルをお持ちなんですね。

石田さん そんなことはないです。頭の中で映画をイメージして、それを描写するパターンじゃないです。ストーリーの流れの中で絵があって、それを書くことはありますけど。あまり視覚情報を延々と描写するほうじゃないですね。それよりは、一瞬の描写のキレでイメージを立たせるっていうか。それが生なましかったりするんで、立つときは立って見えるんですけど、視覚情報型の作家ではないと思いますよ。

――SFを書かれたのはいかがでしたか?

石田さん いやぁ、おもしろかったですね。SFを書いて楽しかったなぁ。苦しかったけど、今思うと、SFっていいなぁって思います。もっとみんなに読んで欲しいですね。『スターウォーズ』とか、『マトリックス』とか映画をあれだけの人が見てるんだから、SFの本のほうも読んで欲しいですねぇ。もともとSFが大好きで、小〜中学校、高校の頃まで、SF作家はカッコイイし頭良さそうだって思ってましたね。アメリカのSF作家がとくに大好きだったな。ハインラインベスタークラーク(あ、クラークはイギリス人ですけど)、アシモフ、それにニューウェーブででてきたディレーニとか『世界の中心で愛を叫んだけもの』ハーラン・エリスン。エリスンなんかほんとカッコよかったですねぇ、抜群でした。その辺はみんな好きでした。そのころは本当に創元SF文庫とハヤカワSF文庫は、ほぼ全作、完読でしたよ。

――「ココ」っていう素晴らしいキャラクターが登場しますね。私も欲しいなって思いました。あまりに魅力的に描写されているので、もしかして石田さんのご自宅にいるのではないかって思っちゃいました。

石田さん はいはいはいはい!欲しいですよね!ココはすばらしい、一番人気ですよ。うちにココって猫はいますけど、あんなに頭はよくない。あの人工知能はすばらしいですね。ああいう小道具なりサブキャラを考えるのが楽しいんですね。インテリだし(笑)。ああいうのは得意なんですよ。かっこいいのは、無理しなくてもすぐ書けちゃう。暴力シーンとかは苦手なんですけど。でも、機械が人格を持つとしたら、あの方法しかないだろうなと思います。どんなにプログラムを作ってもダメ。機械自体が目覚めないとダメでしょうね。いや、ココはいいですよ。

――読んで欲しい部分は?

石田さん 主人公の周司が、なんとか未来にステイしてがんばるところですかね。もちろんSFなので大きい新しい世界感とかは当然読みどころだとは思うんですけど。平凡な人間がとんでもない状況に追い込まれて、その中でだんだん覚醒していく。しかもほとんどの場合、状況に翻弄されて苦しんでいるだけじゃないですか。それでもステイしているところかな。それは今生きている人たちみんながそういう状況だと思います。そうやって待っていれば、いつかね、自分に運がまわってくる時もある。そのへんだと思うんですけど。

――その周司なんですが、二つの世界で結婚に失敗しているのは何故なんでしょう。

石田さん うーん、なんででしょうね(笑)。それはぼくの結婚観ではなくて、主人公を徹底的に追い込みたかったからなんですよ。余命いくばくもないってところに追い込まれていますけど、そこにすばらしい妻とかわいい子供たちがいて、必死で尽くしてくれたら、「いい話だね」で終わっちゃうじゃないですか。彼はその上に、信頼する人もいなくて、妻は自分のキライな年下の上司とできている、いつ死んでもいいやってなりますよね。そうなった人なのに死なないっていうのがやっぱり。

――でも年下の恋人は両方の世界でできるんですね。

石田さん それはちょっと不倫願望みたいな、愛人願望みたいなのがあるのかもしれませんけど(笑)

――個人的な質問で恐縮ですが、石田さんの願望というか、欲望の中では何が一番強いんですか?
石田さん うーん、所有欲はあんまり強くないですね。驚異的なものをみていたいっていうカンジかな。よくSFでセンス・オブ・ワンダーっていうじゃないですか。この世の不思議をたくさん見ていたいっていうカンジかな。自然現象もそうですし、人間の不思議もそうだし。ある瞬間、風が吹いたり、空がきれいだったりするのでもいいんですけど、驚くべきものを発見し続けたいっていう、発見欲っていうのかな。そういうのがあります。物欲が下で、食欲も下で、睡眠欲とか性欲とか、びっくりしたいっていう発見欲が強いかもしれないです。でもそれは作品の中で使わなくても幸せだと思いますよ。85歳で小説が書けなくなっても、嵐の空でもみたら盛り上がるとおもいます。毎日生き生きしてるっていうか、それが一番楽しいでしょう。

――終わり方も願望がはいってるんですか。


石田さん あれに関しては、『スターキング』ってSFが、まったく同じ終わり方をするんです。それに対するオマージュのつもりです。本当にその話のエンドシーンは大好きで、中学校に入るか入らないかって頃に読んだのですが、大感動しましたから。ほんとにね、無限に広がって終わっていくっていうのがすばらしい。夜中に歌でも歌いたい気分になりました。小説って、そういうことがあるから、いいんだよね。

――本日はありがとうございました。

時代的センスと生きる力を持つ登場人物を描き、現代感覚の妙手といわれる石田さん。軽やかにきさくにインタビューに答えてくれながらも、暴力やテロに対する憤りが感じられた。好きなSFの話になると読みふけっていた当時を思い出すのか、懐かしそうな様子もまた、印象深いインタビューだった。

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