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出版史上初!4形態同時発売!!衝撃の前作から10年の時を経てシリーズ第2弾ついに登場!京極夏彦さん『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』

2001年に出版された近未来SFミステリー『ルー=ガルー 忌避すべき狼』から10年、待望のシリーズ第2弾が登場。――近未来、人々は完全に管理された社会の中で暮らしていた。しかし連続殺人事件が発生、若い少女たちが巻き込まれる。事件は一旦は収束したかに見えたが、ある日事件の犠牲者である律子のもとに毒の小壜をたずさえた雛子がやってくる。雛子から託された毒の正体が気になった律子は調査を始めるが……。  
9月某日、京極さんの御自宅で行われた取材に当初は少し緊張気味の取材陣でしたが、イメージとは裏腹に大変ユーモラスに、時には役者顔負けのパフォーマンスまで交えつつお話いただきました。炸裂する京極節、どうぞお楽しみください。

プロフィール

京極夏彦(きょうごく・なつひこ)さん
1963年北海道小樽市生まれ。桑沢デザイン研究所を経て、広告代理店等に勤務後、制作プロダクション設立。アートディレクターとして、現在でもデザイン・装丁を手掛ける。1994年『姑獲鳥の夏』でデビュー。1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花賞、2003年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞を受賞。2004年『後巷説百物語』で第130回直木賞受賞。現在、世界妖怪協会・世界妖怪会議評議員。関東水木会会員。怪談之怪発起人。古典遊戯研究会紙舞会員。全日本妖怪推進委員会肝煎。

インタビュー

■10年の間に現実が小説に近づいた

−−2001年に出版された『ルー=ガルー忌避すべき狼』からちょうど10年、ついに第2弾が発売されますね。待ちわびていたファンにとってはうれしい限りです。
京極さん 10年も経ってる気はしないんですけどね。それに、1作目のときすでにシリーズ化の要請があったので、何作分かは考えて、2作目なんか書き出していたんですね。諸事情があって止めてたんですけど、それが動いたというだけのことで。版元さんは変わってしまいましたが。
−−小説の舞台設定は「近未来」ですが、この10年で現実社会のテクノロジーも進歩しました。前作で描かれていた世界観に現実が追いついた印象もあります。
京極さん 前作が出たのはかろうじて今世紀だけど、書いたのは前世紀ですからね。はっきり書いてませんが、だいたい30年後の設定だったんです。でももう10年経っちゃって、『ルー=ガルー』で描いたテクノロジーは、かなり日常的になっちゃいましたね。たぶん、みなさんが思ってるより10年前は遅れてたんです(笑)。当時一般に「端末」なんて言い方はしなかったし、だから採用したんだけど、今は普通ですもんね。携帯電話だって、当時やっとデジタルになって、ようやくネットにつながるようになったよね、くらいの時期でした。GPS機能なんかも、技術的にはできるけど当たり前じゃなかったわけだし、3G出たてくらいじゃないかしら。スマートフォンなんかなかったわけで。今思えばもう少し先の話にしておけば良かったですね(笑)。50年後くらいにしとけばよかったです。
−−前作『ルー=ガルー』では小説の社会設定を読者公募されたとか。
京極さん 何でもアリだとつまらないから、僕が思いつかないような「縛り」があったほうがいいかなと考えたんですね。そこで最初の版元の徳間書店さんにお願いして、いろいろな媒体を使って幅広い年代からアイデアを募集しようという計画だったんですが、結局『アニメージュ』中心ということで落ち着いて、たくさん応募していただいたんですが、あまり「縛り」にはなりませんでしたね。形状記憶植毛と伝書鳩くらいですかね、採用したのは。
−−今回は前作ではほとんどクローズアップされなかった「律子」がメインになってますね。
京極さん 前作では端役もいいところなんだけど、妙に悪目立ちしてますね、律子(笑)。それもそのはずで、少女6人のキャラシフトは最初から決めていたんですね。1作目ではそういう形ではそろわないんだけど。本来、「インクブス×スクブス」は作倉雛子のお話で、性的虐待をモチーフにした、もっと倒錯的でアンモラルな展開だったんですけど、時節柄それはやめて(笑)。3作目にあたる作品とリミックスしたんですね。来生律子が主役の話は元々3作目だったんです。それに伴って細かいところは変えました。作中にでてくる“OTS”(オーバータッチングシンドローム)なんかも、架空の症例なんですが、元はただのロリコンの強姦魔みたいな設定で、それはやめようと。

京極夏彦さん

■『邪魅の雫』 から引き継がれた毒の物語

−−本作で登場する「毒」のトリックもなかなか斬新なものですが、これも10年前からのアイデアなんでしょうか?
京極さん トリックなのかなあ(笑)。ただ「百鬼夜行シリーズ」の『邪魅の雫(じゃみのしずく)』の後日譚であることは間違いないですね。1作目のほうも世界観は継続していて、『百鬼夜行』の続きにはなっているんですけど、考えてみれば10年前に『邪魅の雫』は書いてないですからね。あのまま書いていたら『邪魅』がこっちの前日譚になってましたね(笑)。
−−先生の作品は物語同士がリンクしていることも多いですが、何か狙いがあるのでしょうか?
京極さん 小説は虚構ですけど、何から何まで「創る」わけじゃないですね。どこかしら現実によっかかって、ありものを借りることで作られてます。そうしないと誰にも通じない。どんなにオリジナルの設定で作り込んだって言葉は「ありもの」ですからね。問題は、どこまで借りて、どこまで創るか、ということですね。そのへんのバランスが悪いとどうもいけない。僕の場合は、まあ構造的な部分だとか、モチーフやガジェットのほうに重心が傾く作り方なので、そのへんの設定は流用しちゃってるというだけのことで。下地をオリジナルで組み直すより効率的ですから。そのせいでエピソードやキャラクターに連続性が出ちゃうというだけです。
−−近作も前作と同じく、少女たちの目線と大人たちの目線が交互に描かれていますね。
京極さん偶数章だけつなげて読んでも、奇数章だけつなげて読んでも一応大丈夫なように書いてるつもりです。子どもパートだけつなげて読むと、またちょっと印象が違うと思うんですけど、どうでしょうね、読者じゃないのでわかりません(笑)。11作目の時に「ガールズラブ小説として読みました」的な感想を結構いただいて、驚いたんですけど、というか勉強になったんですけど、今回は間にはさまるのがオヤジ視点なので、そのへんはどうなのかなと思いますが。ただ、子どもパートだけだと武闘派スタンドバイミーみたいになっちゃう可能性があって、それは違うなあと。そういうお話じゃないよなあとは思っていて。それに、子どもはしょせん子どもで、どうしたって限界はあるわけです。警察だったり権力だったり、社会をある程度動かせる層が絡まないと、どうしようもないことって多いですからね。
−−「ガールズラブ」的な読み方もできるというのは驚きでしたが、読み手によって様々な楽しみ方ができるのも魅力ですね。
京極さん どなたにお読みいただけるのかわかりませんから。レンジは広めにとらないといけないですよね。今年、ジュブナイルを一冊書いたんですけど、結局あんまり「子ども向け」には書きませんでした。幼児向けの絵本はまた別だと思うんですけど、子どもは背伸びして読むもので、あからさまに子ども向けだと食傷気味になるでしょう。僕自身はご覧の通りの年寄りなので、じゃあ年寄り向けが書きやすいのかというとそんなこともないんですけど。お好きに読んでいただければ。


■京極夏彦の小説が長い理由とは…?

−−今回、プロモーションページの動画イラストも先生が作成されたそうですね。プロ顔負けのイラストに驚きました。
京極さん うっかり描きました(笑)。今年は、もうずっと小説書かされてて、まあ毎年そうなんですけど、震災の影響もあって夏場の「お化け大学校」イベントなんかもなかったので、それはもう小説書かされてまして(笑)。そんなだから、今回書き終えた時にうっかり描いてしまった絵を担当さんが見て、なんとなく「動かそうか」とか言っちゃったんです(笑)。
−−先生の作品は映像化されることも多いですが、このイラストが先生が考える『ルー=ガルー』の世界ということでしょうか?
京極さんいや、そうじゃないですね。僕はできるだけビジュアルイメージを持たないように心がけて小説を書くようにしてます。文章を読んだ人が思い描いた情景や姿が、常に正解ですね。だから挿し絵もほとんど入れないし、できるだけ自由に読んでいただけるようにしたいと思っています。だからオフィシャルのキャラクターデザインなんかはありません。コミカライズされたり映画化されたりする場合も、それはその漫画や映画のキャラなのであって、小説はあくまで文字だけ。『ルー=ガルー』はアニメにもなったし、コミックもあるし、ノベルスの表紙にもキャラが描かれているし、それぞれ全部違うわけで、PVもそれらのバリエーションのひとつですね。そもそも、いったいどんなんだろうと考えちゃったくらいで。わからないですよ、実在しないんだし(笑)。
−−小説も絵も…、多才でいらっしゃいますよね。
京極さん もともとグラフィック系の仕事をしてるので、むしろ小説のほうが畑違いなんです。苦手なんですよ。読むほうがどれだけいいか。書いても書いても終わらないし、締切りは守らなきゃいけないし、仕事でなかったら絶対に書きませんね(笑)。どうして書いちゃったんでしょ。
−−何とも信じられない話ですが(笑)、ではもともと小説家志望というわけではなかったのでしょうか?
京極さん志望はしてなかったですねえ。魔がさしたんでしょうか(笑)。でも、ありがたいことにご依頼をいただくものですから、仕事としてお引き受けした以上はちゃんとやらなくちゃと思って、それでコツコツやっているだけですね。得意不得意で言えばかなり不得意分野なんだと思うんですが、仕事である以上はちゃんとしないといかんですからね。僕の小説が長いのは、下手だからですね。苦手な教科ほど勉強時間が長くなっちゃうでしょ。あれと同じ。きちんと書かないと申し訳ないなと思ってるとどんどん長くなっちゃうんです(笑)。いかんですね。


■4形態同時発売は出版のあるべき姿

−−今回の作品は単行本、ノベルス、文庫本、電子書籍の4形態同時発売されますね。これは出版業界初ということですが。
京極さん 価格も含めて、判型というのは商品属性にすぎませんよね。ハードカバー、ノベルス、文庫というスタイルは、あくまで読み手側の希望に則ってできあがったものなのであって、それぞれに役割があるはずなんです。決して鮮度が落ちたから値段が下がるというようなものじゃない。スーパーのタイムセールじゃないんですから。売り手側の一方的な思い込みで商品価値を下げるようなことになったのじゃ、あんまり意味ないだろうと。電子に至ってはまったく別物ですからね。それなのにいまだに同時発売には抵抗があるんですね。半年後ならいいとか言う。それって、半年たったらハードカバーは売れなくなると出版社が考えてるという意味なんでしょうかね。本好きとしては、それこそ本に失礼な話だなと思うんですね。その昔はいい本は長く店頭においてもらって、じっくり売ってたもので。今はすぐ返品で、断裁でしょ。自社の商品にもっと誇りを持ってほしいですよね。そうでなきゃ売ってくれてる本屋さんにも申しわけないですよね。
−−では今回の「4形態同時発売」というのは京極さんの念願でもあったということでしょうか?
京極さんそんなたいそうなことじゃなくて(笑)、「やってみればいいじゃん」みたいな感覚なんですけどね。それに、小説って、どれだけ校正してもミスは必ずあります。『姑獲鳥の夏』なんか、27刷りくらいの時に誤字を見つけましたからね(笑)。そういうミスは、増刷で直すわけですが、最近は少ないでしょう、増刷(笑)。そういうのがなくても、文庫化の時に手を入れるケースは多い。すると後発の、値段の安い文庫本がファイナルヴァージョン、完全版ということになっちゃいますね。それだと最初に一番値が張る単行本を買われた方はどうなるんだと。だったら最初からすべての判型をファイナルにするつもりで出版したほうがいいじゃないですか。ミスも均等にあるわけですが(笑)。
−−今年はこの『ルー=ガルー』を含めるとすでに7作出版されていますが、近々絵本も出版されるとか。
京極さん 絵本、書きました。怪談絵本という企画で、これは楽しい仕事でしたね。なにしろ制作時間が短い(笑)。いや、作画の方は大変なんだろうと思いますが、テキスト自体は分量が少ないですからね。いや、手は抜いてないですよ。800字だろうが400000字だろうが、一作品は一作品で、精神的な負担は同じですからね。ただ、僕の場合、分量と制作時間はほぼ比例しているので、機械的に作業が早く終わるというだけですね。かけた時間と作品の精度は関係ないですしね。
−−読者としては『ルー=ガルー』の次回作も楽しみなところです。
京極さんうーん、書いてないだけでできてはいますから、依頼されたら書きます。あ、依頼はされてるんだっけ(笑)。でも、他の仕事もありますからね。今回の作品の評判が良かったら、多少順番を繰り上げます(笑)。皆さんどうぞよろしくお願いします。

京極夏彦さん


Written by Shinobu Nakagami

思いがけず京極さんの出版に対する熱い思いに触れることになった「4形態同時発売」に関するお話。そしてすべての質問に対して取材側の期待値以上の質量で返ってくる回答。それは、相手をいかに楽しませるかというサービス精神の表れでもあるように感じ、その姿勢に京極作品の人気の秘密を垣間見た思いでした。


2011年10月29日(土)、京極夏彦さんが朗読会に出演!
超探偵・榎木津礼二郎の活躍を描く「五徳猫 疾風怒濤ヴァージョン猫抜き」が登場します!

『大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき 自作朗読会 リーディングカンパニー Vol.10』
詳しくはこちら⇒ http://www.osawa-office.co.jp/event/

京極夏彦の人気シリーズ!

舞台は、第二次世界大戦後まもない東京。次々と起こる奇怪な事件を、「京極堂」こと中禅寺秋彦が解決する大人気シリーズ。

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