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大切な何かを守るため、人は悲しい嘘をつく。光と陰が重なり合う中を、一匹の蝶が希望の灯を点していく……。道尾秀介さん渾身の連作小説、待望の文庫化!道尾秀介『光媒の花』。

認知症の母と暮らす男の遠い夏の秘密。幼い兄妹が小さな手で犯した罪。心の奥に押し込めた哀しみに満ちた風景が、やがてあたたかな光に包まれていく……。道尾秀介さんが、絶望の果てに見える光を優しく描き出した、第23回山本周五郎賞作『光媒の花』が文庫化。精力的に新作を発表し続け、また道尾作品初の映画化『カラスの親指』が11月23日より全国公開になるなど、ますます注目を集める作家・道尾秀介さんに、あらためて6章からなる群像劇に込めた思いを伺いました。

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光媒の花
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プロフィール

道尾秀介(みちお・しゅうすけ)さん
1975年生まれ。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞受賞。09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞受賞。10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞を受賞。11年『月と蟹』で第144回直木賞受賞。その他『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』『片眼の猿』『ソロモンの犬』『ラットマン』『鬼の跫音』『花と流れ星』『球体の蛇』『月の恋人』『カササギたちの四季』、エッセイ集『プロムナード』など著書多数。近著に『水の柩』『』『ノエル -a story of stories-』がある。

インタビュー

■連作短編でしかできないことをやりたかった



−−一2010年に発表された『光媒の花』の文庫化にあたり、久しぶりに作品と向き合ってみていかがでしたか。
道尾さん僕は自分の書いた小説を、できれば何回も読み直したいんです。でも、普段それをやってしまうと仕事にならない(笑)。文庫が出るタイミングというのは、それができる貴重なチャンスなので、いつも楽しいんですよ。単行本から文庫にする際は、あまり手を入れるほうではありません。ただ時間が経つと文章の好みが変化しているので、てにをはや句読点の打ち方を変えたりはします。読者の方は、ほとんど気づかない程度の調整ですね。
−−『光媒の花』は6つの短編からなる連作集ですが、当初は単発モノとして書かれたそうですね。
道尾さんもともとは「小説すばる」のミステリー特集に向けて、第1章の「隠れ鬼」を書きました。でも短編って、いずれは単行本に収録されますよね。個人的に、オムニバススタイルの短編集があまり好きではなくて。短編を一冊にまとめるにしても、何か関連性を持たせたものにしたいといつも思っているんです。たとえば2009年に刊行した『鬼の跫音』は、僕にとって初めての短編集でしたが、全話に「S」いう人物が登場します。『光媒の花』も、第二話以降を連載していくと決めた時に、何か短編をつなぐものがないかと考えていたところ、第一章の主人公の男が、ふと窓の外を眺めた時に、偶然見かけた小学生の男の子が気になった。この少年を次の主人公にしようと思いついて、そこから、第一章の脇役が第二章の主人公になり、第二章の脇役が第三章の主人公になり……という形が出来上がりました。そして1匹の蝶がすべての物語の中を飛んでいる。たとえば1本の川が流れていて、全話がその流域の出来事である、といったつなぎ方も出来たけれど、ちょっと違うかなと。毎回出てくる蝶も、同じ蝶だとは書いていないし、いつも白い蝶が飛んでくるなあ、というぐらいに受け取ってもらえたらいいなと。その辺は読者にゆだねたいと思いました。
−−オムニバスの短編集が好みでないというのは?
道尾さん僕自身、短編はすごく好きなんですよ。でも、手の空いた時に作家が書いたものを集めました、といった風にはしたくないんですね。長編ではできない、連作短編でなければできないことをやりたかったし、自分が読んだことがないものを作りたかったというのもあります。
−−第一章から二章、三章と、気づけばつながっていく世界に誘われて、読み進めていくのがとても心地良かったです。6つの物語を書く上で、テーマのようなものは決められたのでしょうか。
道尾さん「これを見せたい」と最初に考えてしまうと、設計図通りに組み立てることになるので、全体のテーマは考えませんでした。それに、1冊を読み終えた時に感動を与えられたらいいだろうと思ってしまうと、この章はインターバルでいいかなとか、甘えが出てきてしまう。それぞれの短編のクオリティが高く、全話つなげて読んだ時に、ある種の化学反応みたいなものが起きて、また違う景色が見えるようにしたかった。人体模型でいうなら、外からはわからない内臓の部分までしっかり作りたかったんです。
−−闇が色濃く描かれた前半の3話と希望を感じさせる後半3話の変化を興味深く読みました。これは狙いですか。
道尾さん最初の3話を書き終えた後に、もっとこの世界を救ってあげたい、明るい方向に進ませたいと思ったんです。冬の蝶をとらえていたカメラが、春の光のほうへ向くようなイメージで。
−−第一章の「隠れ鬼」では正直、主人公の姿にやるせなさを感じて。ところが最終章の「遠い光」を読んで、こんな風につながるのかと驚かされました。連載期間が約2年と長かったことも影響しているのでしょうか。
道尾さんそれはたぶんありますね。書きたいものや見たい世界は常にどんどん変わっているのですが、それだけ連載期間が長いと、すごく大きなうねりがある。その間にも長編や他のシリーズの短編を書いていたので、この作品に戻る時は前の章までを読み返して、世界をもう一度体感してから書き始めていました。だからこれは、僕の小説の中では、世界への僕自身の出入りが一番多かった作品だとも言えますね。

■目に目えないものを描く



−−6つの短編に出てくるのは印章店を営む中年男からホームレス、小学生の兄妹、女性教師など、社会に生きる人間達すべてをとらえたような多彩さです。これだけバリエーション豊かな登場人物を描く作業はいかがでしたか。
道尾さんこの小説を書く時に、老若男女を主人公にしたいという思いがまずありました。チャレンジングだったのは第六章の「遠い光」で、じつは成人女性の一人称を初めて書いたんですよ。これまで書かなかったのは、女性作家にかなうわけがないと思っていたからで。でもこの作品では、老若男女を書くと決めていて、最後の一番長い章で書くことになりましたが、その時点ではすでに『光媒の花』の世界がしっかりと出来ていたので、考えていたほど苦労はなかったですね。といっても、今でも成人女性を主人公に1本短編を書こうと思ったらすごく難しい。たとえば人物の職業やバックグラウンドの描写については、実際にそれを経験している人は一握りなわけで、虚構が通じる。でも世の中の半分は女性なので、女性視点を上手く書けなかったら、半分の人に通用しないことになる。
−−なるほど。この作品にかぎらず、道尾さんの作品を読むたびに蝶や虫、植物といった小さな生き物たちの描写が非常にリアルだなと感じます。大学で林学を専攻されたそうで、これは勝手な想像ですが、小さな生き物たちに興味を持ち見つめてきた体験が、人間を俯瞰しながらも、優しく見つめる道尾文学の世界観につながっているのかなと思ったのですが。
道尾さん確かに子どもの頃から、生き物はとても好きでしたね。それが作品にどう影響しているのかは、自分ではわからないですけれど。 小説って、たとえばドタバタを起こせばある程度は面白がってもらえるわけですけど、僕自身は、映像では絶対にできないことをやりたいんです。目に見えないものをスケッチしなければいけない、という気持ちがあるんですね。だからものをよく見ることは、無意識にやっているのかなと思います。
−−目に見えないものとは?
道尾さん作家をやっていて残念なことが一つあって、それはいくら努力しても、書き手は自分の小説を完全に読者の目線で楽しむことができないということなんです。今回『カラスの親指』の試写を見た時に、笑って泣いて、初めて『カラスの親指』という物語を心から楽しむことができました。実際に、本当に面白い映画になっています。2時間以上、まったく飽きさせないのがすごいですよ。
−−公開がとても楽しみです。『カラスの親指』も嘘が大きなテーマであり、『光媒の花』にも6話それぞれに嘘を抱えた登場人物が出てきます。嘘に惹かれる理由とは?
道尾さん嘘は意図的に発信するもので、たんに言わなかったことが果たして嘘なのかどうか……だからすべてを嘘と言い切るのは違うのかもしれませんが。一つ言えるのは、見えない部分がまるっきり無い人間はいないですよね。その裏側の部分が見えることで、その人の実態が浮かび上がってくるというか。僕はそれを小説で書きたいんです。作りたいのは2Dではなく3Dの世界。人が隠していることや秘めていること、誰かを守りたい、あるいは自分を守りたいがために嘘をついたり。そういうことを書いて世界を立体化したいんです。
−−だからこそ、道尾さんの小説の登場人物たちはいつも温かな体温を感じさせてくれるのですね。最後に、文庫となった『光媒の花』をどんな風に読んでもらいたいですか。
道尾さん短編が好きな方にも、長編が好きな方にも楽しんで頂けると思いますし、その両方に飽きた方にもいいでしょうし、まあ全員手に取って下さいと(笑)。長編小説もにできる要素を、贅沢に短編小説に使ったりもしてます。僕の小説に触れて頂く1冊目としてもすごくいいと思いますよ。
 
【編集後記】
「僕は自分の好きなものを書いているだけ」と語る道尾さんが生み出す世界は、いわゆるジャンルの枠にははまらないもの。お話を伺って、ぐいぐいと読者を惹き込む道尾文学の秘密を少しだけ覗けた気がしました。ちなみに最新作『ノエル - a story of stories-』も絵本をモチーフに物語が絶妙にリンクする連作集。美しく刺激的な道尾さんの小説から、これからも目が離せそうにありません。 
取材・文/宇田夏苗

光媒の花
光媒の花

内容紹介
「もう、駄目だと思った それでも世界続いていた」
光に満ちた景色も、暗くて哀しい風景も、すべてがこの世界だ。
人間を、世界を、渾身の筆で描写した群像劇

●印章店を細々と営み、痴呆症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。
ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。
三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)

●共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)

●20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。(冬の蝶)など、6章からなる群像劇。

大切な何かを必死に守るためにつく悲しい嘘、絶望の果てに見える光を優しく描き出す、感動作。

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