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近藤史恵さんインタビュー「胡蝶殺し」

市川萩太郎は、蘇芳屋を率いる歌舞伎役者。花田屋の中村竜胆の急逝に伴い、その息子、秋司の後見人になる。同学年の自分の息子・俊介よりも秋司に才能を感じた萩太郎は、ふたりの初共演「重の井子別れ」で、三吉役を秋司に、台詞の少ない調姫(しらべひめ)役を俊介にやらせることにする。しかし、初日前日にあるアクシデントが秋司を襲い…。長年あたため続けていた「歌舞伎の子役」について描かれた本作について、近藤さんにお話を伺いました。

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胡蝶殺し
胡蝶殺し
市川萩太郎は、蘇芳屋を率いる歌舞伎役者。花田屋の中村竜胆の急逝に伴い、その息子、秋司の後見人になる。同学年の自分の息子・俊介よりも秋司に才能を感じた萩太郎は、ふたりの初共演「重の井子別れ」で、三吉役を秋司に、台詞の少ない調姫(しらべひめ)役を俊介にやらせることにするのだがー。
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プロフィール

近藤史恵(こんどう・ふみえ)
1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。93年『凍える島』で第四回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
2008年『サクリファイス』で第十回大藪春彦賞を受賞、第五回本屋大賞二位となる

インタビュー

■子どもの時から「運命」が決まっている、歌舞伎の特異な世界を描きたかった

-本作「胡蝶殺し」ですが、まずはこのタイトル自体がとても印象的でした。
近藤さん自分の何かを殺すという意味で、歌舞伎の演目である鏡獅子(春興鏡獅子)の胡蝶と、『胡蝶の夢』という故事成語のダブルミーニングのつもりでつけましたが、綺麗なタイトルでちょっとインパクトのあるタイトルがいいなという思いがありました。一番大きいのは、ほかの大事なもののために自分のなかの大事な部分を殺す、という意味合いですね。
--長年あたためていたストーリーとのことですが、そのあたりをお聞かせください。
近藤さんはい。5~6年前から歌舞伎の子役の話を書きたいと思っていました。なかなか書く機会がなかったのですが、連載の機会をもらった時に歌舞伎の話をとご相談してようやく実現できました。 歌舞伎のいわゆる「御曹子」は普通の子役と全然違って、才能があるからそれを伸ばしていくのではなく、才能のあるなしにかかわらず自分の子どもだから稽古させて役者にしていくというのが当然の世界。他の分野と比較するとすごく珍しいと思うのです。たとえば小説家の息子だから小説家になれるというわけではないですよね。だけど歌舞伎の世界は世襲制でうまくいってしまう、それで上手い役者さんがたくさんでてくるというのはどういうことなんだろう、という不思議な感じがずっとあったんです。 「子役は運命」というフレーズをオビにつかっていますが、生まれたときから「歌舞伎役者になる」という運命がすごくはっきりと決まっていて、それがいいことばかりではないのでは…という思いも込めています。
--「御曹子」の俊介が突然、稽古をつけていない、傍で聴いていただけの台詞を諳んじている場面、それがとても印象的でこの物語を回しているのではないかと思いました。あれは最初からそういう設定だったのでしょうか。
近藤さん御曹子の俊介は踊りが上手でもなく、気が散って歌舞伎役者としての才能がないように見えるのですが、すごく頭がよくて物覚えがよいという才能を持っていたんですね。才能にもいろんな種類があります。私は「血筋だから」というのはそんなに信じていないんです。もしかしたらそういうのもあるのかもしれませんが、少なくともこの作品を描くうえで結論として「血だから」という結論にはしたくありませんでした。子どもは与えられた環境の中で自分でやっていくんだということを描きたかったのです。
--本作は歌舞伎の世界の独特の世襲制度を書く一方で、2組の家族から現代の親子関係を書くという要素も強く感じました。
近藤さん「現代の」と限定せずともたぶん親子関係というものはあまりかわらないと思いますが、父と子ども、母と子どもという部分を書きたいなとは思いました。はじめはそんなに意識していませんでしたが、天涯孤独の子どもでなければ、子どもを書くということは親を書くということなんでしょうね。子どもを経験せずして親になる人間もいませんし。
--近藤さんご自身がそもそも歌舞伎鑑賞がご趣味とのことをうかがっていますが、それはどのようなきっかけだったのでしょうか。
近藤さん歌舞伎は10代のころから見続けています。もともと演劇を見るのが好きでした。ちょうど私の10代のころって小劇場が全盛期だったんですよ。そこからお芝居が好きになって、数をたくさん見ていくうちにお芝居のもっと根本にある、芸事のルーツとしての歌舞伎に興味が出たのです。それで実際歌舞伎を見たときにとても面白く感じた。なんて大胆なんだろうと。単に伝統的というだけのものではない感じがしたのです。 本作の題材となっている「重の井子別れ」という演目もとても好きですし、劇場の内部なども過去に見せていただいています。ただ、書くにあたってはあくまで「傍観者」という立場を崩さずに、実際の役者さんとは距離を置こうと心がけました。インタビューを読んだり役者さんが書かれたものを読んだりということはしましたし、実際起こり得ないことは指摘をもらって直してはいます。やっぱりいくら取材をしても私はあくまで「傍観者」でこの物語は「傍観者が書く世界」。実際にやっている人の話を聞いてその人の心に踏み込んでというのはちょっと違うんじゃないかなと思うのです。
--ある種ご自身がお持ちの世界観、そこから描き出される物語感を生かすという感じなのですね。

■「好きなもの」にまつわる作品を書き続けたい

--本作の「胡蝶殺し」、代表作「サクリファイス」ともに様々な要素や出来事が積み重なった物語という印象を受けます。特に「サクリファイス」はサスペンスの要素あり、スポーツ小説の要素あり、恋愛の要素あり、そしてラストがまったくもって予想できないというスリルが満点でした。執筆される際はどのような展望を持ちながら臨まれているのでしょうか。
近藤さん私は最初からラストを決めて物語を書くことが多いです。「なぜラストではこうなってしまったか」というキモの部分だけを決めて、あとは書きながら決めていくという感じですね。読んでいる途中で飽きずに楽しんでいて欲しいというのがあって、小さい謎を投げ少しずつ回収しながらラストに向かって書いています。読む人にとってもそちらのほうが面白いと思いますし、書く側としても最後だけを目指して書くというのはしんどいので、自分へのモチベーションみたいなものにもなっているなとも思います。
--変な話ですが、想定していたラストまでたどりつかないということはありませんか。
近藤さんたどりつかないということはないのですが、最初のうちにしくじって、それ最後まで引きずって困ることはたまにありますね。その時は、最後までいってから最初に戻って書き直すか、あとは本になる時に書き直しますね。
--歌舞伎、自転車競技と「好きなもの」にまつわる作品が多く、いわゆる「作風」についても作品によってだいぶ違いますね。
近藤さん私は、興味の対象が多方面にとっちらがりがちなのですが、好きな対象について書けるのは嬉しいですし、好きだからこそ調べて書いていくのが楽しいですね。好きじゃない世界は書けないし、「好きじゃない」ということは結局「分からない」ということなのではないかと思います。作風も自分が楽しいな、書きたいなと思う対象によって書きかたが自然と変わっているからかと思います。売れるものと売れないものの違いみたいなのは自分のなかでなんとなく分かってきているのですが、あまり売れない題材でも自分にとっては書かなければならないような必然性のあるものがあります。自分の書きたいものを書きながら、そのなかで広い読者にとどくもの、一部であっても読者にぐっとささるものを書いていきたいと思います。
2013年で作家としてデビューをして20年を迎えました。結構長くやってきましたので、小説家になる前に書きたいと思ったものはほとんど書いてしまいました。あとは自分の興味の対象を探してその中で小説の対象になりそうなものを探していくしかないのかなと思っています。
--ちなみに今後描きたいと思われている題材はどのようなものですか。
近藤さんちょっと今、描きはじめているのですが、「旅」をテーマにした連作短編のようなものですね。私自身旅が好きで、ちょっと前にも海外にいってきたのですが、旅って本当に人それぞれ個性が出るじゃないですか。たとえばバックパッカーで安いところしか泊まらない人とか、普段は小さいアパートに住んでいるのにゴージャスなホテルに泊まりたいとか、向こうで友達をつくりたい人だとか。あと場合によっては旅自体が嫌いな人もいて。そういうのってすべて自分の人生を投影しているのだという感じがして。荷物の多い少ない、みんなスタイルが違う。そのスタイルの違いもその人の生き方に関連しているのじゃないかって。そういうところで「旅」をキーワードに小説を書きたいと思っています。これまでの作品でも女性のアイデンティティに関する作品も書いてきているので、それに近い作品になるかと思っています。
--では、最後に読者にむけての一言をお願いします。
近藤さん歌舞伎を好きな人に読んでもらいたいという気持ちもありますが、歌舞伎を全然知らないかたでも大丈夫かと思います。子どもと親の問題、親にならない人はいても子どもでなかった人は絶対いないのでいろんな人にも通じる問題、気持ちが揺さぶられるという意味で読んでもらいたいですね。特にラストシーンは気に入っています。ネタばれになるから詳しくは言えないのですが(笑)。 俊介と秋司、子役がふたり登場しますが、決して天才対秀才、御曹司対努力型という対立ではありません。みんな子どもだったのだからきっと読む人それぞれに「子どもの気持ち」に共感できるのではないかと思います。

【取材・文】宇田夏苗

胡蝶殺し
胡蝶殺し

内容紹介
市川萩太郎は、蘇芳屋を率いる歌舞伎役者。花田屋の中村竜胆の急逝に伴い、その息子、秋司の後見人になる。同学年の自分の息子・俊介よりも秋司に才能を感じた萩太郎は、ふたりの初共演「重の井子別れ」で、三吉役を秋司に、台詞の少ない調姫(しらべひめ)役を俊介にやらせることにするのだがー。

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