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又吉直樹さんインタビュー「火花」

2015年1月発売の文芸雑誌「文學界」で、売れない芸人の“僕”と、笑いに命を燃やす先輩芸人との交流を描いた中編小説『火花』を発表した又吉直樹さん。同誌82年の歴史初の大増刷を記録するなど、大きな話題を集めています。芥川賞の呼び声も高い『火花』に込めた思いを又吉さんにうかがいました。

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火花
火花
笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。
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新・四字熟語 (幻冬舎よしもと文庫)
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鈴虫炒飯とは、噛むと鈴虫の鳴き声のように美しい音が響く炒飯。構内抱擁とは真夜中の駅構内で抱き合っているカップル、転じて「なぜここで?」という意。肉村八分とは鍋や焼肉で、他の皆が示し合わしたように肉を食べさせてくれないこと。幹事横領とは信じていた人に裏切られること。…ピース又吉が考え気鋭書家が表現する新・四字熟語120。
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第2図書係補佐
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お笑い界きっての本読み、ピース又吉が尾崎放哉、太宰治、江戸川乱歩などの作品紹介を通して自身を綴る、胸を揺さぶられるパーソナル・エッセイ集。巻末には芥川賞作家・中村文則氏との対談も収載。
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サラバ!(上)
サラバ!(上)
又吉さんが執筆に至るきっかけとなった作品。最後まで読めばその理由がよくわかります。西加奈子作家生活10周年記念作品にして第152回芥川賞受賞作
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プロフィール

又吉直樹(またよしなおき)さん
1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活躍中。著書に『第2図書係補佐』『東京百景』、せきしろとの共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』、田中象雨との共著に『新・四字熟語』がある。

インタビュー

■ 芸人の先輩後輩の関係って、すごく独特やなと思うんです。

--これまでにも短編やエッセイを発表されている又吉さん。はじめて中編を書くにあたっては、最初から“芸人の世界”を舞台にしようと決めていたのですか。
又吉さんいや、そうではないんですよ。そもそも自分には小説は書けないと思っていたので、出版社の方から小説のお誘いを受けても「書けないです」と言い続けていて(苦笑)。でも、急にテンションが上がって書きたくなったことがあったんですよね。
--きっかけは何だったのですか。
又吉さん要するに、小説を読んでテンションが上がったんですよ。不良マンガを読んで、けんかしたくなるのと一緒です(笑)。具体的には、西加奈子さんの『サラバ!』を読んだことですね。
それで「小説を書きます」と言ったものの、その時点でテーマは決まっておらず、最初に考えたのは同級生の話でした。男同士の月日の流れ、みたいなものを書こうと。僕にも中学時代からの親友がいるので、彼に話を聞こうとバーに呼び出したんです。ところが、あらたまって取材しようとすると照れてしまって、結局何も聞き出せなくて(苦笑)。友だちの前だと、ちょっとカッコつけるところがありますよね? 普段はダメ人間でも、そいつの前では、それなりにやっているところをみせなきゃあかん、という意識が働く。だからもし、その関係をリアルに書こうと思ったら、「相手のことはよくわからない」と書かないといけない。それだと小説にならないので、じゃあ何なら書けるかと考えた時に、芸人の先輩後輩はどうだろうかと。芸人の世界では、いくらカッコつけたところで客の前に出れば、そこで評価されてしまう。『火花』でも、先輩芸人の神谷が後輩の徳永の前ですごくカッコつけるけれど、徳永のほうが売れて仕事の幅が広がっていく。そのあたり、もしかしたらリアルに書けるかなと思ったんです。逆に漫才コンビの相方は、友だちに近いんですよ。両者ともに完全には腹を割らないところがあるし、運命を共にしているので。
--又吉さんご自身も、後輩芸人のパンサー・向井慧さん、ジューシーズ・児玉智洋さんと共同生活をされているとか?
又吉さんそうですね。芸人の先輩後輩ってすごく独特な関係やなって思うんです。僕も後輩2人の前では多少はカッコつけますし、芸人の世界は上下関係が厳しいから絶対に敬語だったり。ところが一緒に住み出して3人だけの世界になると、だんだんそこがゆるくなる。友だちみたいになっていくんですよね。それは密室の関係性だからで…『火花』の徳永と神谷の関係も、まさにそうですよね。
--そんな独特な人間関係、命懸けで“笑い”を追求する、芸人というものの根幹に、『火花』を通して初めて触れた気がしました。
又吉さんすごくうれしいです。芸人同士のやりとりは、結構リアルに書けたかなと思います。神谷と徳永にかぎらず、先輩がめっちゃいいことを言い始めて、後輩が聞いているみたいな時があるので。先輩のテンションだけそのままで、言っていることがだんだん薄くなっていくとか。お互いに答えが分からないまま酒を飲んでいる、ということはありますね(笑)。
--『火花』は批評家の方たちの評価も高く、普段本をあまり読まない読者からも人気が高いですが、芸人仲間の方たちの反応はいかがですか。
又吉さんみんなびっくりして、喜んでくれています。相方(綾部祐二さん)は、僕の小説が「文學界」に載るというニュースをちょうどNYを旅行中に、セントラルパークのカフェでカッコつけながらサンドイッチを食べていた時に見て、すごく不安になったと(笑)。でも、喜んでくれています。
--執筆にあたり、構成面で工夫されたところはありますか。
又吉さんほとんどないのですが、唯一あるとすれば冒頭ですね。芸人の先輩後輩の話にしようと決めた時、はじまりをどうしようかと考えて。漫才師は出囃子と一緒に舞台に上がるので、まずはそれを流そうと思って書き始めたら、お祭りのお囃子になり、お囃子があって不思議じゃない状況を考えたら、熱海の花火大会の設定につながっていきました。『火花』と名付けたのは、その後ですね。

■自分が書くかぎりは、玄人だけに受けるものにはしたくない。

--大の読書家として知られる又吉さん。それだけに小説を書くにあたっては、「こういう風にはしたくない」といった思いもたくさんあったのでは?
又吉さんそれはありますね。漫才のネタを作る時も、同じ題材を扱った優れた作品が先にあると、すごく作りにくくなるんです。その場合はちょっとスタイルを変えたりするのですが。小説もそうで、先輩後輩や師弟関係を描いた作品は、きっと他にもあると思うんですよ。でも、自分の念頭になかったのは大きかったですね。同じネタをよける必要も、それを飛び越える必要もないので。
--そういう意味で、またご自身がいる芸人の世界は書きやすかったと?
又吉さん そうですね。これまでにも文章は書かせてもらっていますが、お客さんの顔を想像して書いていたんです。『MAGIC BOYS マジシャンたちの肖像』というポートレート集に寄せた短編は、手品が好きな人を思い浮かべていました。別冊文藝春秋に書いた短編『そろそろ帰ろかな』は、若い人に読んでもらいたいという思いがあったので、分かりやすさを心がけたりとか。エッセイもわりとそうなのですが、「文學界」はいい意味で実験的なこともできる自由度の高い場所だと思って、好きなように書けたかなと思います。ただ、「ピース」で毎月ライブをやっているんですけど、そこに来てくれるお客さんの顔はやっぱり思い浮かべましたよね。お笑い好きの人たちが読んで面白いと感じて、なおかつ文學界の読者の方にもちゃんと刺さって欲しいなと。僕がやるかぎりは、文学好きの人だけに向けて、とは絶対に思わないです。それを意識すると合わせに行っているみたいになって、単純なものになってしまう可能性がありますよね。
--なるほど。本作は又吉さんにとって、初の純文学ですね。芥川龍之介の『トロッコ』をきっかけに本好きになり、太宰治をこよなく愛する又吉さんが思う、純文学の魅力とは?
又吉さんたまたま僕が読んできた小説の9割ぐらい純文学だったので、僕の中では「面白い小説」が「純文学」なんですね。いつか誰かに理屈で否定されると思うんですけど。といっても、自分が純文学の最前線に立ちたいとは思ってないです。それはやっぱりお笑いでやりたい。純文学以外にも好きな小説はたくさんあるし、西さんも純文学作家とはくくられていないですよね。だから読者として、純文学のすごい人たち、たとえば町田康さんとか、自分が好きな素晴らしい作家さんたちに、「このボール、一体誰が取るんだ」っていうぐらいのものをぶつけて欲しいですね。
--そうだとすれば、書き手としてご自身が目指す小説とは?
又吉さん 漫才のライブで一番やりやすいのは、僕と同世代のお客さんがいる時で、一番難しいのは日曜日とかにおじいちゃんやおばあちゃん、子どもたちがいる時なんです。それだけ幅広い人たちを笑わせるのは、師匠クラスでないとなかなかできなくて、若手はすごく苦労するんです。でも、そこを諦めたくはないですよね。諦めるのは簡単だけど、明石家さんまさんとか、それが出来てしまう人はいるので。しかも、全員が70点ぐらい笑えるのではなくて、めちゃめちゃ笑えるものができたらいいなと。芸人である以上、何をするにも玄人受けすればいいとは言いたくない、というより言えないですし。一方で、さっき言ったみたいに、読者としては「誰にもわからんようなものを投げてくれ。オレは全力で受け取るから」という欲求もある…だから書き手と読者と、あと芸人としての自分の思いが乖離してて、ややこしいんですよね(笑)。
でも、ある人に「観る人全員がハチャメチャになって笑うような漫才を作りたいと思わないのか?」と聞かれたことがあって。それで一気に目が醒めたんですよ。だって楽しそうじゃないですか。観た人がみんなめちゃくちゃ笑って、読んだ人全員が面白いと感じてもらえるものを作れたら…僕が一番興味があるのは、それなのかなと思います。

【取材】 宇田夏苗

火花
火花

内容紹介
笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説

売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。

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