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青山七恵さん

『ひとり日和』で芥川賞を受賞した青山七恵さん人の心の中にあるまっとうじゃない部分に目を向けたい


二十歳のフリーター、知寿は上京すると同時に遠縁にあたる女性の家に居候することに。その女性、吟子さんは71歳。ジェネレーションギャップのある二人だが、二人とも女性で、恋をしている。やがて、つかずはなれず、独特の関係を築いていく……。選考委員から圧倒的な支持を集めて第136回芥川賞を受賞した青山七恵さん。気になるその素顔は?



青山七恵さんの本


『ひとり日和』
『ひとり日和』
青山七恵
河出書房新社
1,200円 (税込 1,260 円)


『窓の灯(あかり)』
『窓の灯(あかり)』
青山七恵
河出書房新社
1,000円 (税込 1,050 円)



青山七恵さんのオススメDVD


『カビリアの夜』
『カビリアの夜』
監督: フェデリコ・フェリーニ
出演: ジュリエッタ・マシーナ/フランソワ・ペリエ/アメディオ・ナザーリ ほか

ジュリエッタ・マシーナ演じるカビリアがラストシーンでカメラに向かって微笑む笑顔が好きで、今までに何度も見ている大好きな映画です。



青山七恵さんのオススメCD


ジョニ・ミッチェル『ブルー』
小説を書くときに音楽をかけることはないんですが、『ひとり日和』を書いている頃、通勤電車の中で聴いていたのがこのアルバムでした。


プロフィール


青山七恵さん(あおやま ななえ)
1983年埼玉県生まれ。筑波大学図書館情報専門学群(旧図書館情報大学)卒。大学4年の時に書いた『窓の灯(あかり)』で第42回文藝賞を受賞。大学卒業後、旅行会社に勤務するかたわら書き上げた『ひとり日和』で第136回芥川賞を受賞。

インタビュー


−−芥川賞受賞、おめでとうございます! 受賞されて変わったことはありますか?


青山さん とくにはないですね。受賞したてのころは驚いて、めまぐるしかったんですが、今は落ち着いて、早く次の作品を書き上げたいなと思っています。


−−『ひとり日和』は通勤途中の電車の中で思いつかれたそうですね。


青山さん パッと浮かんだイメージだけだったんです。主人公が東京に働きに出てきていて、家に帰ると古い家におばあさんがいる。でも、仲良く暮らしているわけではなくて、よそよそしくもあり、微妙に距離があって。イメージだけだったんですが、長く書けそうな気がしてきました。


−−書き上げるまでにどれくらいかかったんですか? 旅行会社にお勤めということで、両立が大変なのではないかと思いますが。


青山さん 半年くらいですね。休みの日にも書きましたし、仕事から帰って書くこともありました。とくに両立が難しいと思ったことはないですね。


−−主人公の「知寿」は二十歳のフリーターです。青山さんとは境遇も違うし、たぶん性格も違う。そういう主人公を描くことの難しさはあったのでしょうか?

青山さん やっていることは私と違うんですが、考えていることは私が考えていることに近いと思います。だけど、それをそのまま書くのではなくて「知寿だったらどうだろう?」と思いながら、知寿のフィルターを通して書いたという感じですね。


−−知寿と同居することになる「吟子」という71歳のおばあさんは毅然として自立している魅力的な登場人物ですね。誰かモデルにしたような方がいたんですか?


青山さん 私はこれくらいの年齢の方と暮らした経験がないので、まったく自分の想像です。でも、おばあさんだからといって、自分とまったくかけはなれた生活を送っているわけではないだろうと思いました。70年、年月を重ねてきた人はこうなんなんじゃないかという想像と、こうであってほしいという願望が混ざってできた登場人物ですね。


−−デビュー作の『窓の灯(あかり)』では女性主人公の軽いのぞき趣味、『ひとり日和』では知寿のささやかな盗癖が登場します。いずれも大きなものではないけれど、世間ではモラルに反する行為です。小さな犯罪を小説の中で描くことについてご自身ではどんなふうに意識されていますか?


青山さん 世の中にはたくさんの人がいて、それぞれに真っ当じゃないところや歪んでいるところが多少はあると思うんです。私は小説を書き始めたときから、人のそういうところを書きたいなと思っていました。のぞく、盗むということは、そういうたくさんある歪みのバリエーションの中の一つだと思っています。それが、その人なりの世界への向き合い方のうちに入っているということですね。だから小説に書いてみたいと思ったんです。


−−青山さんの小説を読んでいて感じたのは、人間の心の中にある、世の中のルールからほんの少しハミ出してしまう部分への共感です。一般的なモラルから外れてしまう部分への共感を読み取ることは、小説というパーソナルな表現形式の芸術に触れる楽しみの一つでもあると思います。
 ところで、『窓の灯』では主人公と同居人であり雇い主でもある喫茶店のママ、『ひとり日和』では知寿と吟子さん。どちらも女性二人の関係が描かれていますが、そのことについて作者としてはどうお考えですか?


青山さん 私自身が年上の人──男性も女性もなんですが──が怖いと思っていて、どうつきあっていけばいいかもよくわからなかったんですね。だから逆にあの人たちは何を考えているんだろう? と興味も沸くんです。とくに女性の場合は同性なので「あの人きれいだな」と思っても、それが妬ましかったり、あこがれたり、複雑な感情があるので、そういうところが面白いと思いますね。


−−観察力の鋭さは青山さんの小説の魅力のひとつだと思います。ところで、大学では司書の資格もお取りになったということですが、本はずっとお好きなんですか?

青山さん 小学校の頃からずっと好きですね。小学校の頃は『クレヨン王国』(福永令三著)シリーズが好きで、ファンタジーを書いてみたいと思っていました。


−−自分で書いてみようと思うようになったのは?


青山さん 高校生の頃に、一度自分で小説を書いてみようと思ったんですが、書きかけでやめてしまいました。


−−その頃に読んでいたのはどんな本でしたか?


青山さん いちばん印象的だったのはサガンの『悲しみよこんにちは』で、読んだ時はショックでしたね。自分と同じくらいの年頃の女の子がこれだけ冷静に物事を表現できるんだ、と驚きました。今、読み返してみると、そういうこととは関係なく、何ていうか……すばらしい小説だと思います。


−−大学在学中に『窓の灯』で文藝賞を受賞して作家デビューされて、『ひとり日和』は二作目の作品ですが、『窓の灯』が初めて書いた小説だったのですか?


青山さん 『窓の灯』の前に2作品書き上げたものがありました。1作目は本当にぐちゃぐちゃというか、もうテキストデータがなくなってしまっているので読み返せないんですが、ひどかったです(笑)。ただ、当時は一生懸命でしたね。たぶん、文体はサガンに似ていたんだと思います。2作目はもう少し肩の力が抜けて……でも、主人公=自分みたいな感じでしたね。


−−『ひとり日和』は青山さんが作家デビューされてから初めて書いた小説でもあるわけですが、書いていた時にはプレッシャーを感じたりしていましたか?

青山さん 『窓の灯』で文藝賞を受賞したことは、これから小説を書けば雑誌に載せてもらえて本にしてもらえるチャンスをもらったことだと思ったんです。だから、とくにプレッシャーは感じませんでしたが、このチャンスをみすみす逃してはいけない──そんな焦りがあって書いていたような気がしますね。


−−本好きの青山さんに、本の魅力についてお聞きしたいんですが、本を読んで得したことと損したことを教えてください。


青山さん 得したことは、お金をあまりかけずに楽しめるところ。現実逃避というか、文字だけで楽しい世界が頭の中に広がるというのはいいなあ、と思います。本があるから、現実でつらいことがあったときには、本の中に逃げ込めますね(笑)。本を読んで損したことはないです。


−−気になる作家。同じ文藝賞からデビューした綿矢りささんを始めとして、青山さんと同世代の作家の方々が何人かまとまって出てきていますが、そういう方々の作品は読みますか? また、ほかに読まれている作家がいれば教えてください。


青山さん 同世代の作家の方の作品も読みますね。どんなことを書いているんだろう、と気になります。好きで読んでいるのは、今はカズオ・イシグロさんです。どちらかというと外国の作家の作品のほうが気楽に読めますね。


−−いま取り組んでいるお仕事を教えてください。


青山さん 『ひとり日和』の後から書き始めた小説を書いています。夏ごろに発表できたらいいなあ、と思います。でも、納得がいく作品じゃないと出したくないので、あせらず丁寧に取り組んでいこうと思います。


−−楽しみにしています。今日はありがとうございました。







石原慎太郎、村上龍という二人の大作家に強く推されて芥川賞を受賞した青山さん。作品をお読みいただければわかるが、日常的なことを題材にしながら、小説として確固とした世界を作り上げており、読みごたえがある。年齢を超えて読者にアピールできるきわめて真っ当な小説だ。まだお読みでない方はぜひ読んでほしい。デビュー作『窓の灯』も合わせておすすめです。
【タカザワケンジ】


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