楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

この好景気は永遠に続く。そう日本人の誰もが信じていた15年前、あるイギリス人ジャーナリストの本が出版された。その名も『日はまた沈む』。バブル崩壊を予言したことでベストセラーになったこの本の著者が、今年いよいよ『日はまた昇る』という本を書いた。日本経済の太陽は、本当にのぼりつつあるのか。著者であり、英「エコノミスト」編集長としても活躍するビル・エモットさんに聞いた。

プロフィール

ビル・エモットさん
1956年ロンドン生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。英国「エコノミスト」誌ブリュッセル支局員などを経て、1983年〜86年に東京支局長として日本に滞在。93年には同誌編集長に抜擢される。90年の「日はまた沈む」が日本でベストセラーになったほか、『20世紀の教訓から21世紀が見えてくる』・『官僚の大罪』などの著書がある。

インタビュー

−−昨年11月にはエコノミスト誌で、この本と同名の「日はまた昇る」という日本特集が組まれていますね。やはりきっかけは、昨年秋の総選挙での小泉大勝ですか?
ビルさんいえいえ、記事の企画が始まったのは1年ほど前。日本の回復がより本格的になったのを見て、日本に戻ってそれを確かめてみようと決めたのです。「日はまた沈む」という本を書いた15年前から、つねにいつ「昇る」という記事を書けるのか待ちこがれていました。そしてようやくその本を書くときがきたと考え始めた。そうして取材やリサーチに来日したのが昨年夏。つまり、私も9月のあの選挙の結果に驚いたひとりでしたね。
−−日本経済の本格的な回復を感じるようになったのはなぜ?
ビルさん「昇る」という本を書くために必要な材料として探していたのは、あたらしい雇用が生まれる兆し、そして人々の賃金が上がり始めるという現象でした。ところがバブル崩壊後の日本では銀行の問題が続き、企業の債務が増えて、中国など諸国などからの競争も激化していました。その結果、フルタイムの仕事が減り、雇用自体が不安定になっていた。でも去年になって状況は変わってきました。フルタイムの仕事が創出され、企業も強さを取り戻し始めた。これが、回復を感じたきっかけになりましたね。
−−ということは、「陽はまた沈む」を出してから15年間、ずっとこの本の構想はあった?
ビルさん 実はもっと早く、5年後くらいには「昇る」と言えるようになるのではないかと思っていたんです。私はロンドンに拠点を置いているし、この間に編集長という新しい職にもつきました。そのためじっくり日本の回復というテーマに取り組む時間が取れずに、誰か別の人がこの仕事をするのではないかと考えていました。けれども結果的に15年という長い年月が経ち、私はこれを書くことができた。これはうれしいことですが、裏返せば、日本経済にとっては、これだけ長く苦難の時代が続いたということ。その苦難があったからこそ書けた本だとも言えるでしょう
−−この本ではアジア情勢から靖国問題まで、さまざまな観点から日本の復活が語られていますね。私たち日本人が、日本経済を復活させるためにすべきことは?
ビルさん鍵となるのは3つ。 ひとつは政治家が、国民のお金を無駄に使おうとするのを食い止めることです。有権者は汚職や腐敗をウォッチして、お金を無駄にする政治家を罰しなくてはいけない。そのような状態が許されると、せっかく生まれた復活の目を摘むことになってしまうのです。 もうひとつは、高齢化社会にどう対処するかにかかっている。年金や医療費の負担が増えて、増税しなくてはいけない危険もある。こういう問題を解決するために、雇用を拡大するなどして税収を確保しなくてはいけないし、政府の支出を削減する必要もあるでしょう。 第3は、日本の基礎的な強みである教育水準を維持し、将来に向けて向上させること。すでに日本の労働者の教育水準はハイレベルではありますが、将来に向けて大学での教育の質を改善していく必要がある。技術の水準を上げ、産業界の研究分野で革新的な何かを遂げていくには、これが不可欠です
−− 出版と前後してライブドアの事件が起こりましたが、このニュースどう受けとりましたか?
ビルさん 驚きませんでした。というのも、このような金融面での犯罪というのはどの国でもいつでも起こりうるものですし、これからも起こりうる。株式市場というのは誘惑の多いところで、投資家の夢を悪用する行為や不正操作が起こりやすい。とくに堀江氏はメディアに取り上げられて有名人になったので、彼の敵とされる人たちからターゲットにされやすかったというのもあります。起こりべくして起こったことですね。つまり大勢に影響はない。もちろんライブドアの関係者や投資家にとっては意味をもっていたかもしれない。でも日本全体にとっては大きな影響はないと思います。日本は上昇しつつあるので、むしろその面に注目するべき。この事件は1企業の1事件として受けとらなくてはいけませんね。
−−この事件によって、改革の勢いがにぶるのではという懸念はありませんか?
ビルさんいえいえ、人々はライブドアをもっと詳しく知るべきですね。ライブドアが、本当に改革の本質と関係あったのかを考えてほしい。そう、実は関係なかったのです。むしろライブドアがしたことは古い日本のシステムの結果だったと思います。堀江氏はTシャツを着て、新しい時代の人のように見えますけれども、実は伝統的な金融界の人であると思う。経済でも社会でも、古い時代の人々は官僚たちの決定を信じてついていった。でも現代というのはもっと複雑です。経済は巨大になり、世界も理解は困難になりつつあります。一握りの官僚が賢明な決断を下せる状況ではないのです。それより多くの国民が自由にさまざまな判断をして、それをまとめて決断していくというのがこれからのスタイルだと思う。経済というのは実験のようなもので、多くの人たちが試みをするなかで、失敗する人もいれば成功する人もいる。たとえば……楽天のような成功した企業が新しい試みをしていくうえで、改革は必要だと思います。
−−そもそも日本に興味を持ったのは?
ビルさん26歳の若きジャーナリストだった私は、世界を冒険したいと思っていました。そのときちょうど、エコノミスト誌の東京支局のポストがあいたのです。まったく自分の国とは別の国で冒険したいと思ったのがきっかけでした。もちろん幸運なことだったと思います。
−−その「冒険」でどんな日本を発見しましたか?
ビルさん日本はイギリス人と似たところある。本音を隠し遠慮するところですね。そもそもこの類似点が、日本に興味を持つきっかけになったと思います。隠された本音をパズルのように解いていく。それが私の冒険心をさらにかき立てたのかもしれません。 日本の弱点? そうですね。女性が社会で十分に活躍する機会を与えられていないということろ。もっと日本の女性は解放されて、男性と同じように貢献できる状況になってほしい。もちろん男女の間の格差はどんな国にも存在するけれど、豊かな先進国のなかでは日本の男女間のギャップが大きいように感じます。
−−バブル崩壊以降、予想以上に復活までの時間がかかったわけですが、日本人ならではの特殊事情は?
ビルさん 日本人があまり対立を好まないというところにあるのではないでしょうか。平和を保とうとする日本人の体質。そのこと自体はいいことだけれど、バブルなどの危機的状況がおきたときには、痛みや不安定さをできるだけ早く解決しなくてはいけない。そんな場面で日本人の団結心などが、かえって改革を遅らせた部分もあるかもしれないですね。
−−今日本では、「下流社会」という本が売れています。またチャンスをたたひたすら待っているだけの人たちを指して「待ち組」という新語も聞かれます。日本の若者たちの性質に、変化は感じられますか?
ビルさん 低賃金で働いている人がいるという事実は、この5年間で重要な意味をもっていたと思います。企業は安いパート労働者を使うことができたから、コストを削減し、利益を増やすことできたのです。一方でそうした循環は、社会の不平等や個人消費の低迷などを招きました。 しかしこのような傾向は終わったというのが私の見方です。すでにパートではない正規の雇用が増えて、労働力の不足がおきている。これからはより平等な社会になっていくだろうし、格差は縮まっていくでしょう。90年代から最近まで、若者たちが募らせていたイライラも、そうした景気の回復が解消してくれるのではないかと私は期待しています。 そうそう、ライブドアの堀江氏が若者に教えた一番のことといえば、「前向きが大事」ということですよね。ライブドアの凋落が、そんな若者たちの前向きな気持ちに水を差すようにならなければいいと願っています。

このページの先頭へ