楽天ブックス 著者インタビュー

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ふしみみさを(伏見操)さんが翻訳した絵本は年間20冊以上。「訳した絵本もいいし、独特な訳も面白い」と絵本好きの中で評判の絵本翻訳家です。朔北社の編集担当者は「伏見さんが持ってくる本が面白くて、そこに伏見さんの訳がつくから、すてきな絵本になるんですよ」と絶賛。伏見さんの魅力をよく知っている松崎さんと、楽天ブックス元店長の安藤にも同席してもらって、伏見さんに、翻訳絵本の楽しさをたっぷり教えてもらいましょう!

プロフィール

伏見操さん (ふしみ・みさを)
1970年埼玉県生まれ。上智大学文学部仏文科卒。洋書絵本卸会社、ラジオ番組制作会社勤務を経て、フランス語、英語を中心に子どもの本の翻訳や紹介につとめている。主な訳書に『どうぶつにふくをきせてはいけません』・『ローラ うまれてくるあなたへ』・『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』・『ポッチャーン!』(朔北社)『マルラゲットとおおかみ』・『きいろいくつした』(パロル舎)・『あいにいくよ、ボノム』・『しらないひと』(講談社)『なつのゆきだるま』(岩波書店)『うんちっち』(PHP研究所)など多数

インタビュー

−−伏見さんの経歴を拝見すると……もともと、絵本の輸入会社にいらして、ラジオ制作会社勤務を経て、その後、絵本の翻訳家になった方なんですね。
伏見さんはい。大学を卒業して、なんとなく絵本関係の仕事に就けたらいいなあと、児童書専門書店のクレヨンハウスに行って、好きな本に挟まっているスリップ(本に挟まれている短冊型の紙のこと。書店で本を売る時に外され、販売数の確認や注文に使われる)を見て、書いてある電話番号に片端から電話をしたのです。そしたらひとつだけ、「いらっしゃい」と言ってくれた卸会社があって、そこに入りました。
 小さい会社だったので、掃除から、仕入れ・営業まで全部やらなくてはならなかったけれど、おかげで本を仕入れるのも販売するのも、全部の流れを見ることができて、すごく楽しかったですね。その会社には、6年くらいいたのかなぁ。仕事は面白かったのですが、集団でいるのが苦手なほうだったので、なにかフリーでやりたいと思うようになったんですね。ただ、具体的にやりたい仕事があったわけではないし、そんなすぐには会社もやめられないし。そんなときに、ふと、洋書は売れているのに日本語版がでていない絵本って、結構あることに気づいたのです。それで書店の棚を見て、日本の出版社で、この本が好きなのは、あそこの出版社かなと自分なりに考えて。そうして持ち込んだ最初の1冊を出版することができたのが、翻訳家になったきっかけです。
−−その記念すべき一冊目が……?
伏見さん『モモ、しゃしんをとる』 です。 それまで、翻訳の勉強は、まったくしたことがなかったんです。ただ、営業に行って本を売る時には、中身を全部読んでみせるんですよ、オタクだから(笑)。こうやって(と、本をこちら側に開いて)見せながら、本を紹介していたので、訳が自然とできちゃっていたような本はたくさんありました。それを実際に、文章にしていったんですね。
−−そうすると、本当に絵本がお好きで、好きな本を売りたくて、翻訳家になった方なんですね。ラジオ番組制作会社では、どんなことをされていたのでしょうか。
伏見さん 会社をやめてしばらくして……。一冊目の本ができたあと、年に一冊ペースでしか本が出せないので、とても食べていかれない。なので、アルバイトしようかな、と申込んだところがたまたま。そこでは、子ども向けのホームページを作ったり、ラジオ局のタイムテーブルを作る仕事をしていました。イラストや文章を書いたり、デザインしたり。
−−そこでも独学という感じなのですか? どこかで勉強されたりとかは?
伏見さんいいえ、ぜんぜん。イラストレーターなどのソフトの使い方は、会社の人に教えてもらって、作りながら覚えました。1年ちょっとくらい、その仕事をしていました。
−− ……本当に、自分で道を切り開く人なんですね。しかも、そういった経験を吸収されて……。
伏見さん 全然関係のない仕事のようですが、今思うと、自分の好きな絵本を作る時に、デザインをこうしたらもっとキレイになるんじゃないかとか、技術的にはこれも可能なんじゃないかということがわかるようになったので、……よかったですね。
 本全体を作るときには、書体(文字の種類)とか、これなんかも(本のサイズを)ちょっと縮めてみたり、いろいろやっているので。
−−判型(本のサイズ)や書体も考えられるのですか?
伏見さんはい。外国の絵本って、日本では判型がちょっと大きいことが多いんですね。それから『どうぶつにふくをきせてはいけません』。この本はすごく特殊で、片ページがまるまる文字だけで、それがデザインの一部みたいになっちゃっている。そのまま日本語に直しただけでは、この感じは伝わらないですよね。だから、デザイナーさんにいろいろな書体をあててもらった末、ちょっとクセのある明朝体(書体のひとつ)にして。これならすごく合っているかなって……。この原書は、アメリカで30年も前に出版されているんですが、今見ても表紙からして、すごいインパクトでしょう?
−−試して試して、一番いい形にされてきたんですね。
伏見さんどうでしょう(笑)。もちろん、僕が日頃思っていることは、主人公なりヒロインなりに、かなり言わせてますけどね。ただ、僕だけでなく、結婚していいような年齢で、借金などのハンディがあるわけでもなく、かわいい彼女もいる。ヒロインの涼子のように「(結婚するかしないか)1週間で答えを出して」と迫られることはなくても、彼女から「そろそろ結婚してもいいんじゃない?」という暗黙のプレッシャーをかけられる。なのに、結婚しない男性って多いと思うんですよ。何でその状況で結婚しないのかっていうね。
−−試して試して、一番いい形にされてきたんですね。
伏見さん『どうぶつにふくをきせてはいけません』は、帯がないんです。帯をかけると、表紙のはりねずみの絵が消えちゃうんですよ。せっかくボロボロの服がおもしろいのに。だから、そのかわり(表紙の右上にある金色の)シールにして、それもすごく遊びのあるものにしようって、朔北社の松崎さんやデザイナーさんと相談して。
松崎さん このシール、ちょっと推薦図書みたいだし、「動物が動物のオシャレについて考える会の推薦」……って、おもしろいかなって。
−−細部の作り込みまでこだわる方なんですね。
伏見さん そうですね。訳を含めて、本全体が一番キレイな形になってほしいって思います。それに、シールとかあとがきとか、よく見ないとわからないところまでこだわった、すごくおかしい本って、いいでしょう? 松崎さんはデザイナーさんとも話をさせてくれて、みんなで作っていけるので、ありがたいなって思います。
−−逆に、翻訳家の方で、ここまでこだわって、デザインや細部にまで関わってくれる方って、いらっしゃるのですか?
伏見さん私としては関わってくださったほうがうれしいです。絵本への愛情も深まりますし、最初から最後まで一緒に作っていけるといいですね。でもそういうのって稀ですよね。たいてい分業だから。
−−お話を伺っているだけでも、絵本作りのいい「場」ができていることがわかります。伏見さんが手がけられたどの本をみても、自分も大事にしたい本だと思えるし、大事に作っているんだなぁというのが伝わってきます。そこで、新刊の『ポッチャーン!』が楽しげに登場するわけですが……。
伏見さん原書はこれなんですけど(と、両手で広げて)形が珍しいですよね。縦開きで。横に開いて地平線のように見せる形のはよくあるんですけど、縦にして、長〜い画面を使って展開していくっていうのは、なかなかないので、面白くって。。
安藤さん楽しそうな本だね。読み聞かせでやってみたいなぁ。見ている子供たちの食いつきもよさそうですね。……ぼくだと、セリフにアドリブをいれたりするかな。子供たちだけで読んでも、いろいろ膨らみそうな内容ですね。
−−子供たちだけで読んでも、いろいろ膨らみそうな内容ですね。こういう絵本は、いったいどうやってみつけるのですか?
伏見さんよく聞かれるんですけど……、もともと、知っていた本とか……。『ポッチャーン!』なんかは、洋書卸時代に売っていた本ですね。あとは、外国に行った時に、図書館で見たり、本屋さんに行ったりとか……。気に入った作家の本は、今はインターネットでいろいろ手に入るので、まとめて買ったりします。
−−ご自身で見つけて手にとって、出版社さんに持ちかけるというスタイルなんですね。
伏見さんはい、今のところ、それがほとんどですね。
松崎さん朔北社さんで、最初にお仕事をしたのが『ローラ うまれてくるあなたへ』。これ、とってもすてきな本なんですよね。著者のベネディクトさんに会った時、彼女は、「おなかに赤ちゃんがいるとき、自分のために作った本だ」と言っていました。「ローラ」は、実の娘さん。出版のためではなく、自分のために作った絵本。だから淡々としているのに、すうっと心に迫ってくる。赤ちゃんを生む方がいたら、プレゼントにもオススメです。
−−拝見しましたが、いい本ですね。少し育ってきたお子さんにもオススメですね。
伏見さん友達が、第二子がおなかにいる時に、長女がこれを読んで喜んでいたって言ってました。出産の絵本に、おとうさんがたくさんでてくるのもいいですね。最後も、優しいし。
−−そんな具合に、直接、作者の方とも繋がっているんですね。
伏見さんはい。翻訳の仕事をはじめたときに、特別なものがないと食べていけないんじゃない?といわれたので、それだったら、好きな作家にエクスクルーシブ(独占契約)を貰おうって思い立って。好きな作家のリストをダーッて書いて、フランスの出版社の人に「会わせて」って手紙を送ったら、全員に連絡をとってくれたんですね。それで、パリに行って、みんなに会ったんです。日本人が、遠くからわざわざ来てくれた……と思ったみたいで、全員が会ってくれて……。本当にみなさん、魅力的で、いい人たちでした。。
−−先方にしてみれば、日本のエージェントというか、作品を中継してくれる理解者でもあるわけですよね。その人が海を越えて会いに来てくれたとしたら、うれしいですね。本当に、すごく行動型の人なんですね。
安藤さんそう、ぼくにも会う前から、新刊とお手紙を送ってくれていて。たまたま、『はなくそ』っていう絵本を、ぼくがずっと読み聞かせの会で読んでいたんだけど、それに気がついて、メールをくれて会いに来てくれたんだよね。翻訳家のイメージがかわりましたね。もっと学究肌というか、閉じこもって勉強しているタイプの人たちだと思っていたけど。あ、伏見さんが、勉強してないってことじゃないよ(笑)。
−−アクティブなのは、営業の経験が大きいんでしょうか。好きなことだとできちゃうんでしょうか?
伏見さん特にはありませんが、しいて言えば、幼稚園のころ、父親が私を主人公にしたマンガみたいなもの描いてくれたことかな。私、よくイジメられていたので、いじめっ子を最後に私がやっつけるっていうような話をよく描いてくれたんです。
−−お父様は、マンガ家さんなんですか?
伏見さんいいえ、うち、ラーメン屋だったんです。お店の合間とか、夜、そこいらの紙に描いて……今では話は全部忘れちゃったけど(笑)、爽快な気持ちになったのは覚えてます。主人公の名前とかも覚えていますね。私の名前をひっくりかえして 「おさみみしふ」とか(笑)。
−−いいお話ですね。では、好きな絵本を見つける秘訣は?
伏見さんうーん、すごく面白い絵本はピンときますよね。作者が絶対に楽しんで作っているんだろうなっていうのが、わかります。 たとえば、この『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』なんかも大好きなんです。ふだんのハイネとは全然タッチが違うんです。会社でお疲れ気味の人なんかにも、ぜひ読んでもらいたいな。
−−翻訳では、どんなことを心がけて作業しているのですか?
伏見さん絵本の時にはできるだけ、シンプルで、音を良くしようと思っています。リズムがあって、わかりやすくて、理屈っぽくなくて、文字を読んで絵が浮かぶように。それと、ストーリーがいったりきたりしないように、最初から最後までターッと一本の線で行けるように、気をつけています。
−−お好きな絵本作家さんは? たくさんいらっしゃると思うんですが……
伏見さん特にはありませんが、しいて言えば、幼稚園のころ、父親が私を主人公にしたマンガみたいなもの描いてくれたことかな。私、よくイジメられていたので、いじめっ子を最後に私がやっつけるっていうような話をよく描いてくれたんです。
−−アクティブなのは、営業の経験が大きいんでしょうか。好きなことだとできちゃうんでしょうか?
伏見さん(ニッコリ相好をくずして)たくさんいます……。最近のおすすめは、さっきの『ローラ うまれてくるあなたへ』を描いたベネディクトの、ろばのキャラクターを主人公にしたシリーズもので『ろばのトコちゃんじてんしゃにのる』という絵本です。この、いいかげんなロバの顔がかわいいでしょ。横顔はまだ大丈夫なんだけど、すごくリアルなロバの場合と、うさぎ?って言われてしまいそうな顔もあったり。独特のマイペースさと、はじける色がたまらない。
安藤さんぼくは『バスの女運転手』って本が大好きで、うちに2冊もあるくらい。フランスの短編映画みたいなんだよ。
伏見さんこれ、最初から大笑いだったんですよ。「あいつは、ブスだ。おまけにくさい。なんたって鼻がデカすぎる」……あ、決まった!……って思って。「あいつ」っていうのは、バスのおばちゃん運転手で、女なのにヒゲがはえてて、タバコばっかり吸っているから、実は男なんじゃないかってうわさもある。小学生って、先生に「ブス」とか、途方もないアダナをつけるでしょう。そういう子が文章を書いたみたいな、楽しいものなんです。でも、どこかしんみりさせるところもあって。読み終わってから、著者の略歴を見たら、これまたすっごくおかしくて、16歳で学校をやめて、CDや果物を売って、おばけの出る城でガイドしたり、新聞記者や役者をやってたり。めちゃくちゃなんですよ。「絶対、好き」と思って、ホームページを見つけて、eメールを書いたんです。メールには、うちの犬が松の実を一袋ぬすんで食べたら、次の日、松の実そのままの真っ白い「蛆虫と宇宙って感じの」ウンチをしたって書いたら、「受け入れてあげます」って返事がきて、以来すごく仲良くなって(一同、大爆笑)。翌年、ブックフェアに一緒に行ったりしました。同い年の人だったんですけどね。
安藤さんぼくはロックを感じたね。
伏見さんこっちの絵本は、作者がだれだと思います?(と、一冊の絵本をだして)日本でも有名な絵本の人だけど、あてたらエライ!『あいにいくよ、ボノム』って絵本なんですが、作者は……ぞうのババールを描いた人なんですよ。ぜんぜんちがうタッチでしょ? このカッコいい墨と朱だけの、シックなのが、本来の彼のタッチなんです。この間メールで話したら、ババール以外は抽象画を描いていたそうです。『マルラゲットとオオカミ』という絵本も、いいんですよ。
−−もう、いつまでも聞いていたい気分ですが、最後になにか読者にメッセージをお願いします。
伏見さん絵本って、子供だけのものではなくて、ほんとに0歳から200歳まで、ずっと、楽しめるものだと思うんです。ただ、時々、必要以上にかわいらしいイメージで見られてしまったり、特殊なものだと思われてしまうことがあるのが、残念だなと思います。絵本売り場って、男性にはものすごく入りにくい雰囲気があるだろうし。もっともっと、いろんな人が自然に手にとって、見てもらう機会が増えればいいなと思います。
−−供に手渡す前に、自分も一回読んでみるといいかもしれませんね。今日は、楽しいお話をありがとうございました。

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