楽天ブックス 著者インタビュー

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『MISSING』で2000年度『このミス』第10位に選ばれ、その後も話題作を発表し続けている本多さん。今度の新作は2冊に分断された恋愛小説。なぜ2冊なのか、なぜ恋愛小説なのか。この純愛物語流行りの世の中で、「純愛物語、どうですか?」「いや、オレはいいよ」という人たちに向けて書いたと語る本多さん。ファンも、いままでちょっと敬遠していた人も、柔らかな口調で繊細な恋愛を語る本多さんの世界をお楽しみください。

今週の本はこちら

本多孝好さん『真夜中の五分前(side-A)『真夜中の五分前(side-A)』
少し遅れた時計を好んで使った恋人が、六年前に死んだ。いま、小さな広告代理店に勤める僕の時間は、あの日からずっと五分ズレたままだ。そんな僕の前に突然現れた、一卵性双生児のかすみ…
420円(税込)
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本多孝好さん『真夜中の五分前(side-B)『真夜中の五分前(side-B)』
かすみとの偶然の出会いは、過去の恋に縛られていた僕の人生を大きく動かした。あれから二年、転職した僕の前にひとりの男が訪ねてきた…
380円(税込)
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本多孝好さんの本!

Story Seller『Story Seller』
正義のミカタ I’m a loser
正義のミカタ I’m a loser
at Home
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Will
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プロフィール

本多孝好さん (ほんだ・たかよし)
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業。94年『眠りの海』」で第16回小説推理新人賞を受賞。99年、受賞作に4編の短編を加えた『MISSING』でデビュー。2000年『このミス』でも高い評価を受けた。著書に『Alone together』『Fine days』などがある。

インタビュー

−−今回の本は恋愛小説なんですね。
本多さん恋愛小説を書きたいと思ったのは、前作の『FINE DAYS』という短編集を書き終えたころです。それは恋愛をテーマにした短編集なんですけれど、それぞれ、ミステリーだったり、ファンタジーだったり、いろんなテイストを加えていったんですね。一つの共通する匂いがある恋愛小説集であっても、ストーリーとしてはびっくり箱みたいに何が出てくるかわからないというような短編集を作りたかった。それを書き終えたあと、今度はもっとストレートに恋愛というものを中心に据えて、長い枠で書いてみたいなという気持ちを抱いたんです。
−−い枠でまとまったもの、ということですが、2分冊されているんですね。この趣向は、書いている最初からお持ちだったのですか?
本多さん物語を書いている途中で、これは分断がある物語になるなとは思っていました。それで、2分冊という形で提示したいと思ったんですけど、読者の方にとっては負担になることですし、出版社さんや編集の方とご相談だなと。心配しましたが、割とあっさりと、「これは2分冊の本ですね」とご理解いただいたので、嬉しかったですね。作者の意図が自己満足じゃなくて、ちゃんと伝わったんだなと。
−−仕掛けというか分断された物語だという構想自体を持っていらしたんですね。
本多さん小説を書く時はいつもそうなんですけど、まず、ひとつのシーンが浮かぶんです。それは映像的なシーンというより絵画的なシーンです。そのシーンを文章にして描き、その前後に物語を足していく。僕の場合は、いつもそういう書き方なんです。今回浮かんできたシーンというのが、Side-Aのラストシーンだったんです。

で、これはそこまで持ってくるだけの話ではない。それだけだったら通常の恋愛小説であって、それは僕が書きたい恋愛小説ではない。かといってここからはじまる物語とも違う。それを書きたいわけでもない。僕が書きたいのは、一つのところに収まったはずの恋愛感情が、揺れて、崩れていく物語。さらにその崩れたものをもう一度作り直し、立て直す物語として終結させたいなと思ったんです。それをやろうと思うと、この分断は僕にとっては必然でした。

ただ、一つの恋愛を成立させ、成立したものが崩れるまでは書けるだろうなという実感はあったんですが、そのあとを書けるだろうかというのは、やってみないとわからないことでした。
−−確かにそういう風にうかがうと、とてもよくわかりますね。完成していかがでしたか?
本多さんホッとしました。今までは、短編をメインで書いてきたのですが、ずっと書いていっても、物語として落着しない場合もあるんですよ。短編ですから、落着しなくてもその50枚なり60枚なりが発表できないだけで終わるんですけど、今回は、300枚、400枚と書き進めていったので、これが落着しなかったらキツイな、と思いました。物語として完成できた時には、本当にホッとしました。
−−そうですね、いままでもコンスタントに1年に1冊ずつ出版されていますが、仕事の配分的にはいかがでしたか?
本多さん僕の場合、たとえば、時間を決めて原稿に向かい、1日のノルマが何枚、という書き方はしていないんです。取り合えず原稿に向かってみて、乗ればそのまま書き進め、乗らなければ今日は書かない、というような、何て言うか、結構、いい加減な書き方をしてます。乗ったときには、つまづくまで、休憩なしでずっと書いている。そういう時は寝ようと思っても、神経が張っていてうまく眠れないし、食事を取ることも面倒になってしまう。そのやり方は長編でも短編でもあまり変わらないんです。だから、短編の時はまだいいんですけれど、長編になると体力的にはキツくなってきますね。何ヶ月も生活が滅茶苦茶になったりする場合がありますから。
−−そうすると、ある意味、身も心も渾身の力作という?
本多さんそうですね(笑)。そういう意味でもそうですし、自分の中には、デビュー作から自分なりに伸ばしてきたベクトルを『FINE DAYS』の時にやりきってしまったというある程度の達成感があったので、今度は、それとはちょっと違う立ち位置で書いてみようという思いがあったんです。それも含めて、成立させることができるかどうか不安がありましたから、これができたときには、まだ大丈夫、というか、まだ書けるんだっていう、変な自信を持てましたね。
−−いい展開というか、次のステージに立ったということなんですね。ですが、ファンの人たちが好きなテイストは今回もいっぱい散りばめられていますね。
本多さんそうですね。どうしようもなく変わらないところというのは、やはりかなり強くあると思うし、それを好んでくれている人には、「大丈夫、今まで通り」っていうところでもあります。今までのものを好んでいない、こういう匂いはキライって思ってる人に対しては、「今回はちょっと変えてみたつもりなんだけど、どう?」というところもちょっと主張したいなと思ってます。
−−それはどのへんですか?
本多さん一番わかりやすいのは主人公像です。今までのぼくの主人公は、圧倒的に閉鎖された環境の中で、閉鎖した心境で暮らしている人たちで、そこでの迷いを、閉じた環境の中で自分の中だけで解決していくスタイルの物語が多かったんです。今回の主人公は、年齢を上げて、会社・社会という中に放り込むことによって、否応なく、開いた環境の中に身を置かなければいけない存在として書きました。そこで変わってきた匂いというのが、かなりあると思います。
−−たしかに、会社での場面とか人とのやりとりなど、たくさんの要素が入ってきていますね。意識していろんな場面やシーンを作ったり、そういった環境の準備とかをされたのですか?
本多さん会社員だから、イヤなヤツだろうとなんだろうと、つきあわなくてはならない時はつきあわないといけないですね。でも、あまり計算して、ということではなくて、ナチュラルなままに主人公を動かしていったら、そういう人物像が配置されたという感じですね。
−−その主人公ですが、続けざまに愛を見失っているというか、探しているように感じられるのですが、そのことに対してどのようなメッセージを込められたのですか?
本多さん 今回さまざまなインタビューで、今の「いわゆる純愛物語が好まれる風潮の中で書いた小説ですか?」という問われ方をしたんですけど、そういう風潮に乗れない自分がいるんですよね。「これが純愛物語です、どうでしょう」というのに対して、手を出せない自分がいる。批判ではなくて、作られた風潮に対して乗れないという意味と、「純愛です、きっとあなたも感動します」と言われても、たぶん感動しないだろうなって思ってしまう自分がいる。アンチテーゼというつもりはないんですけど、そういう人たちって、結構いるような気がするんですよ。「純愛物語、どうですか?」「いや、オレはいいよ」っていう。だったらむしろ、そういう人たちに向けて、恋愛小説を書いてみたかったっていうことがあるんです。
−−それは確かに感じられますね。インタビューの最初に「ストレートな恋愛」が書きたかったとおっしゃってましたけど、ストレートというよりは、非常に深く屈折していて、乾いている。恋愛のアイデンティティを探しているようでもあり、自分がわかるようなわからないような、今の人たちが抱えているようなことがたくさん込められている。それは、風潮に乗れない人だけでなく、乗っている人にも届くのでしょうか。
本多さん乗れない人に対して、「それじゃ、こういう恋愛小説はどうですか?」という提示の仕方はできるんですけど、乗っている人に対して、「これも、恋愛小説だから読んで」という提示の仕方は難しいですね。「こんなの恋愛小説じゃない」って、たぶん言われるでしょうし。ですから、そういう人たちには、「こういう恋愛小説だってあっていいと思うんですけど、どうでしょう?」という提示の仕方になると思います。
−−私はこちらの方が、とても深い恋愛小説だと思いますけど…。
本多さん僕にとってもこちらの方がストレートな恋愛小説、なんですけどね(笑)。
−−気になったのが、セックスレスなのですが、現代的な問題でもあり、愛を確かめるために書かれている部分もあって、よく分かる部分とツライ部分があると思うんですけど。
本多さん小説の中でセックスを扱うのはとても危険なことだという意識があります。個人的な体験としては非日常なのに、小説の中に書くと別に非日常というほど非日常でもない。作家が思い入れたほどには、読者は反応しないんじゃないかという気がします。僕自身がそうなんですね。小説の中でのセックス描写というものに対して、深く反応できないというか、あまり何かを汲み取ろうとしない傾向があるんです。ただ、現実の恋愛関係においては、頭で考える部分と肉体で反応する部分の両方があると思うんです。単純に肉体的な感覚のみが正解であるというようなあり方に、僕は立てないんですよ。

かといって、頭の中の観念でしか成立しないという恋愛も、どこかおかしいと思う。どちらもおろそかにはしたくないという気がしています。ですから、セックスレスについても、気持ちの方でこれだけの距離を取っているんだから、肉体もこれだけの距離を取らないといけないだろうという、僕自身のある種の倫理観というか、道徳というか、そういうものが投影されているかもしれません。だから、今回の小説では、感情とパラレルな意味でのセックスレスということになると思います。
−−双子のモチーフが面白かったのですが、着想はどこから得られたのですか?
本多さん恋愛小説を書く時に、「恋愛関係の小説」を書くつもりはありませんでした。むしろ、主人公の中にある、「恋愛感情」を中心に書きたかったので、言わば恋愛においてタブーなところに触れさせたかったんです。

つまり、恋人に対して、「お前、オレのこと本当に好きなの?」っていう問いかけの意味のなさ、「愛ってなんだろう?」って考えることの意味のなさ。そこを主人公にちゃんと考えさせたかった。それは、純文学的なアプローチを取ろうとすれば、今までにも例はあるだろうし、やり方は他にもあるだろうと思うんですけれど、そうではなくてエンターテインメント的な手法でやろうと思った時に、「さてどうしてくれよう」と。主人公の内心の迷いを書くだけではエンターテインメントにならないですから。

それを、はっきり読者にわかる形で提示したかったので、自分が愛していると思う人とほとんど相似形のもう一人を設定したんです。この人が好きだと思う。では、なぜ、相似形のこっちではダメなのか。この人が好きだと思う、「好き」って何なんだ。それをわかりやすい形で提示したかったので、双子というモチーフを出したんです。
−−「好き」ってどういうことだろうと、普段でも考えてしまいますが、こういう形で示されると、とてもよく悩めます(笑)。その、目的にあわせて組み立てていく手法はたいへん鮮やかですね。
本多さんほめていただいておいて何なんですけど、これって、聞かれたから、そう思い当たって答えているっていう、そういう順番なんですよ(笑)。

書いてる時には、「何が書きたいのだろう」と自分でも考えながら書いているって言うとすごく無責任なんですけど、書き上がったところで、「あ、こういう話を書きたかったんだ」と思い、客観的に読んでくださった方に聞かれることによって、「たぶん、こういうことなんだろうな」と思いながら答えている、という感じで。そういう組み立てが「上手い、ヘタ」ということでいったら、たぶん僕はすごくヘタな書き手なのだと自分では思っています。
−−これからも長い物語は書いていかれるのですか?
本多さん短編だからこそできることもあり、逆に長編だからこそできることも当然あり。これを短編で書けと言われたら、それは僕には無理ですから。その時の欲求によって、短編と長編を使い分けながら書いていきたいって思ってます。
−−では、最後にメッセージをお願いします
本多さんようやく書き上がりました。2分冊にしたのは、その形のほうがいいと思ったわけですが、それも含めてこちらのわがままだと思っています。けれど、それくらい強い思い入れと自負をもって出す本ですので、一回だけ付き合ってみてください。よろしくお願いします。
−−本日はありがとうございました。
流麗に単語を操りながらも、繊細に、時に真摯にこちらの質問に答えてくださった本多さん。純愛物語がはやる風潮の中で、「いや、オレはいいよ」っていう人たちに読んでもらいたい恋愛小説といいながら、こんなにディテールの細やかな恋愛の描写は、恋愛小説好きな人にとってもたまらないのではないかと思う。どちらにせよ、一回だけでも、読んでほしい作品だ。

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