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Web2.0時代のビジネス −衆知のチカラがビジネスを、社会を変える 伊地知晋一氏インタビュー

伊地知晋一氏
ネット業界に旋風を巻き起こし続ける伊地知晋一氏が、本を出版した。その名も『CGMマーケティング 消費者集合体を味方にする技術』。今話題のCGM (*1)を使ったビジネス成功のためのノウハウがぎっしり満載の1冊だ。
10年以上にわたってCGMと格闘してきた伊地知氏の、経験と実践の末にたどりついた結論とは? CGMの行き着く先とは? そしてCGMで寄せ集められる衆知のチカラ、その可能性についてお話を伺った。
(*1)Consumer Generated Media:消費者が生成するメディア/個人の意見や思い、体験などをWeb上で発信してコンテンツを生成していくメディアの総称


伊地知晋一さんの本


『CGMマーケティング』
『CGMマーケティング』
伊地知晋一
ソフトバンククリエイティブ
1,800円 (税込 1,890 円)



伊地知晋一さんおすすめDVD


シザーハンズ
『シザーハンズ』
出演: ジョニー・デップ
監督:ティム・バートン



チャーリーとチョコレート工場
『チャーリーとチョコレート工場』
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監督:ティム・バートン


伊地知晋一さんオススメのCD


夕風ブレンド
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プロフィール


伊地知晋一さん(いじち しんいち)
1996年シノックス株式会社の取締役として創業から参加。イーメールを大量配信するソフトウェアを開発し、Eメールマーケティングの啓蒙活動とシステムの販売を行う。2000年プロジー株式会社にて、営業部長としてPC向けソフトウェアの開発と販売を手がける。2002年にプロジーグループがライブドア(当時オンザエッジ)へ買収されたのを機にライブドアグループへ合流、ISP事業を任される。2003年11月、ISPであったライブドアをポータルサイト事業へ転換する。同時に本体の社名がエッジからライブドアへ変更。その後約2年半で50以上のネットサービスを立ち上げる。現在ライブドア顧問兼、2006年に立ち上げた(株)ゼロスタートコミュニケーションズの専務取締役。

インタビュー


−−この本は、去年の夏から秋にかけて、ITmedia(IT総合情報ポータルサイト)に連載されて大好評だったものを本にまとめられたそうですね。

伊地知氏 以前ITmediaの岡田さんからインタビューを受けたんです。そのときにCGMの話をしたんですが、その考え方が面白いということで、連載のオファーがありました。全部で10回の連載だったんですが、5回目くらいのときにソフトバンククリエイティブさんから、本にまとめてみないかと声がかかりました。

伊地知晋一氏−−今まさに脚光を浴びているCGMですが、伊地知さんとCGMのかかわりはもうかなり長いんですか?

伊地知氏 私はライブドアのポータルサイト事業を手掛けたんですが、それが始まったときからユーザー投稿型のサービスというものを意識していて、それをできるだけ多くしていこうと考えてました。そのときはまだCGMという言葉はなくて、後から出てきたんですけどね。それからかれこれ3年近く、ユーザーが投稿したものをどうお金に換えていけるか、CGMを利用したビジネスはどうあるべきかを考えてきました。

−−内容はほぼ同じとはいえ、ネットへの連載と本とではやはり違うと思うのですが、何か気を遣われたことなどありますか?

伊地知氏 ネットで連載していたときは、読者ターゲットがITの基礎知識を持っている人だったので、だいぶ端折って書いていたんですよ。でもこの本はもっと広い層の人に読んでいただきたかったので、できるだけ分かりやすいように注釈を付けたり、事例やサンプルを多くするように心掛けました。CGMっていうのは、ITリテラシーが高いとか低いとか関係なく、誰もがかかわってくることなんです。IT企業であれ、その他の業界の企業であれ、みんなに関係してくる現象なんです。だからたくさんの人に読んでもらえるといいですね。

−−この本を出すことによって、伊地知さんの手の内を明かすことにもなると思うのですが、その辺りはどうお考えですか。

伊地知氏 確かにこの本を出したことで、私の戦略を公開したのも同然ですよね。でもそういうことはあんまり気にしていないですね。よくノウハウ本とかハウツー本とかあるじゃないですか。お金持ちになれる本とか。でもあれを読んで本当にお金持ちになった人って、ほとんどいないと思うんですよ。読むのは簡単だけど、真似するのは難しい。
それから技術やノウハウは日々進歩していますので、現時点で持っているノウハウを明かしたとしても、自分自身がさらに進歩していれば問題ないと思っています。

−−ノウハウだけでは成功しないということですね。

伊地知氏 CGMでビジネスを成功させるには確かに理屈も大切なんですが、職人の勘みたいなところもあるんですよ。だからそう簡単に真似できることではないんですよ。雰囲気というか、なんかきそうだなという予感みたいな……。ビジネスは最初のひところがしが大変なんです。ライブドアも今でこそブログがどんどん増えてますけど、放っておいても増えていくというところにまでもっていくのが、すごく大変なんですよね。

−−巷ではWeb2.0(*2)という概念が飛び交っている中で、著書の中に「Web0.0」という言葉が出てきますよね。あれは伊地知さんの造語なんですか?
(*2)次世代のWebのあり方に向けての一過程。発信者側からの一方的な情報提供や限られた範囲でのサービス提供(Web1.0の考え方)ではなく、ユーザーが直接参加したり、さまざまなコンテンツを複合的に利用できるWeb環境を指す。

伊地知氏 そうなんです。私は結構造語をつくったり流行らせたりするのが好きで、今回の本にも「Web0.0」以外に「1.0型メディア」とか「コンテンツのマッシュアップ」とか、いくつか造語を載せているんですよ。
自分がつくった造語をみんなが何気なく使っているのを聞くと嬉しいんです。1番古い造語は、「Eメールマーケティング」。あれは私が初めて発言したかどうかは定かではありませんが、流行らせることにはかなり貢献したと思います。

伊地知晋一氏−−えっ、そうなんですか? マーケティング用語というかビジネス用語としてすっかり浸透してましたよね。

伊地知氏 私が使い始めて大分経ったときに、知人から「EMMって知ってます?」って聞かれたんです。「いや、知らない」って答えたら、「Eメールマーケティングの略なんですよ」って(笑)。いやぁ、定着したなって思いましたね。

−−Web1.0から始まって今Web2.0にきてますよね。さらにWeb3.0とか4.0とかになるというのが自然だと思うのですが、あえて「Web0.0」としたのはなぜですか?

伊地知氏 Web2.0っていうのは定義に過ぎないんですけど、あいまいながらも定義をしてくれたこと自体が素晴らしかったと思うんです。定義されたことによって、それを土台に思考を組み立てやすくなりますからね。とはいえ2.0にしても、3.0にしても、あいまいさは残りますよね。でも0.0だけは基準は明確だと思うんですよ。原点ですから。最初にどう考えていたかという出発点がWeb 0.0なので、いい加減じゃない。だから目指すところはWeb0.0なんですね。

−−本の中にも書かれていましたが、企業がCGMを上手に利用してビジネスを成功させている事例が、少しずつ増えているとのことですね。

伊地知氏 CGMを利用するのとしないのとでは、事業の結果に大きな違いが出てくると思いますね。というのは、企業のお仕着せの宣伝文句よりも、ユーザーの声のほうが信じられるようになってきているからなんです。ユーザーの視点の方がリアリティがあるんですよ。ユーザーの声っていうのは、良い話ばかりではなくて、悪い話も含まれてますよね。でも例え悪口があったとしても、全体を見渡して良しととらえられれば、ユーザーはそれを選ぶんです。

−−悪口を書かれるなんてとんでもないと考えている企業が圧倒的なのではないですか?

伊地知氏 まだまだそういう企業が多いですね。きっとユーザーを信じきっていないんでしょうね。それと、これまで悪口を言われたことがないので、怒られたことのない子どものようになっているんだと思いますよ。少しも汚されたくないというような、おかしな気の遣い方をしていますよね。それは勘違いもいいところで、ちょっとくらい文句を言われても、セールスには何も影響しないんですよ。

−−ところで伊地知さんは、どのようなきっかけでネット業界に入られたのですか?

伊地知氏 もともとパソコンが好きだったんです。社会人になってしばらくしてインターネットがでてきたんですが、これはビジネスになりそうだなと思いましたね。当時、仲間内では、これからはインターネットの時代だ、どうやって儲けようか、などと話をしてました。誰も具体的なアイデアは持ってなかったんですけどね(笑)。でも、会社に行かなくても仕事ができるようになるとか、誰もが世界に向けてビジネスができるようになるとか、みんなで夢を語り合っていたんですよ。なんとなくいいことありそうだなという予感はありましたね。

−−夢いっぱいだったんですね。

伊地知氏 ネット業界に入ってくる人って、楽観的な人が多いと思うんです。私がこの業界に入ったときは、ホームページをひとつつくって50万円だったんです。それ以外に仕事はありませんでしたね。日本のサイトがまだ100個くらいしかなくて、しかもそれが1冊の本になっている。Yahooなんて必要ないんですよ。そんな中に、夢を見て入ってくるんですから、楽観的じゃないとムリですよ。それから10年、つくづく変わったなって思いますね。六本木のビルに入るなんて、誰も考えてなかったと思いますよ。

−−そういう意味ではこの10年は、伊地知さんにとって相当濃い10年だったのではないですか?

伊地知氏 この10年は、私がインターネットに出会ったころに最初に描いた夢、つまりWeb0.0の世界に向けてちょっとずつ動いてきたなっていう感覚ですね。日々の仕事の中では気付かないんですけど、ふと振り返ると、随分進んできたなと感じますね。

−−ネット以外の世界で仕事をしようと思われたことはないんですか?

伊地知氏 ありますよ。実際にこれまでネット以外で企業を立ち上げてますし。今も残っているものがいくつかありますよ。

伊地知晋一氏−−そんなにたくさん起業した経験がおありなんですか?

伊地知氏 うまくいったものも、つぶれちゃったのもありますけどね。もう10年以上前から起業はしてました。起業というのはロジックなんですよ。何かこう、一回転してチャリンとお金が出てくる仕組みを、どんなに小さくても見付けたら、あとはそれを大きくするだけじゃないですか。つまり、仕組みの世界なんです。感覚的にはネットで新しいサービスを考えるのと同じなんです。

−−伊地知さんの手にかかると、いかにも簡単に聞こえますね。

伊地知氏 今はそうでもないんですけど、10年くらい前は若い人が起業することってあまりなかったじゃないですか。その頃はまだ若くて割と生意気だったんで、こうやったら儲かるんじゃないかということを年配の人に話したんです。そしたら、そんなのうまくいくワケがないと、頭ごなしに言われたんですよ。それが悔しくて、彼らを納得させるには自分が成功してみせるしかないと思って…。それで頑張って起業しました。

−−これまでさまざまなことを手掛けてこられたと思いますが、これからやりたいこと、目指していきたい夢のようなものはありますか。


伊地知氏 やはりCGMをもっと追及していきたいですね。本のあとがきにも書いたんですけど、CGMで政治を動かしてみたいと思います。民主党から昨年の6月に、インターネットによる選挙運動に関する公職選挙法案が提出されたんです。それが実現すると、政治家のみなさんがブログを書くようになるでしょうし、そうなればCGMとどう向き合うかというのが政局を左右するくらい重要なことになってくるでしょう。CGMというとしっくりこないかもしれませんが、実は市民一人ひとりの声、つまり民意なんです。かつては民意をデモ行進で訴えてましたが、今はネットで「炎上」(*3)という形で現れるんです。つまり根本的にはCGMが市民運動であったり、デモクラシーであったりすると思うんです。CGMが政治を変え、社会を変えるくらいの仕組みをつくりたいと思いますね。それがネットによる豊かな社会のあり方なのかなと思います。
(*3)ブログやSNSの日記などに、批判的な意見が殺到する状況

−−政治に民意を反映するというのは、これまでさんざん言われながらも、なかなか実現できていないですよね。

伊地知氏 ネットユーザーを味方にして選挙運動ができたら、かなりな勢力になると思うんです。そこまで政治に関われるようになれば、ネット業界にとってもいいことですよね。ネットを仕事にしてそれで生きていこうという人にとって、ネットで社会をよくしよう、変えていこうと思うのは自然なことだと思いますよ。そういうところで貢献していきたいなと思いますね。

−−CGMにはそのチカラがあるということですね。本日はどうもありがとうございました。



ネットを通じて障害者雇用を実践したり、地方からの情報発信を後押しするなど、社会のいたるところでCGM的発想でムーブメントを起こそうとしている伊地知氏。ネットのチカラ、衆知のチカラの凄さを、強く印象付けられました。ネットを通して誰もが社会とかかわりを持ち、時代を動かせる時代は、もうすぐそこまで来ています。
【インタビュー 島津淳子】

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