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琉球王朝時代、男として生きる運命を背負わされた少女の運命とは…!?読み始めたら中毒になること必至!池上永一さんが描く、超ド級のエンターテイメント『テンペスト』 上:若夏(うりずん)の巻、下:花風(はなふう)の巻

幕末時代の琉球王朝。嵐の晩に生まれた真鶴(まづる)は失踪した兄の代わりに男装し、孫寧温(そん・ねいおん)として官吏登用試験に挑戦。見事、難関を突破する。だが、清国と薩摩藩に挟まれた王国の政治を司る彼女を待っていたのは、嫉妬と陰謀が渦巻く世界だった…。故郷沖縄の伝承と現代を融合させた物語で人気を集める池上永一さんの最新作『テンペスト』。池上作品ならではの濃度の高いキャラクター、栄光と転落の間を駆け抜ける、スピーディーかつ破天荒な展開で月刊「野性時代」連載中から話題沸騰!数多くの作家や書店関係者からも絶賛を浴びているこの作品について、池上さんに伺いました。


池上永一さんの本



見せ場満載、桁外れの面白さ!吹き荒れる嵐(テンペスト)に読み始めると止まらない、ノンストップ王朝ロマン
『テンペスト』上:若夏(うりずん)の巻
『テンペスト』上:若夏(うりずん)の巻
1,680円(税込)

『テンペスト』下:花風(はなふう)の巻

『テンペスト』下:花風(はなふう)の巻
1,680円(税込)

ゲリラ豪雨、石油高騰、CO2取引・・・まるで預言書?SFを現代小説に転換した傑作長編。
『シャングリ・ラ(上)』
『シャングリ・ラ(上)』
780円(税込)

『シャングリ・ラ(下)』
『シャングリ・ラ(下)』
780円(税込)

長生きに異常な執念を燃やす島のオバァ、フジ。97歳の生年祝い「風車祭」で巻き起こる混乱の渦
『風車祭(カジマヤー)』
『風車祭(カジマヤー)』
1,180 円(税込)

第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。神様のお告げでユタ(巫女)になれと命ぜられた綾乃(19歳)は・・・
『バガージマヌパナス〜わが島のはなし〜』
『バガージマヌパナス〜わが島のはなし〜』
590円(税込)

知られざる沖縄ワールドと自身の青春&日常をつづった破格エッセイ集
『やどかりとペットボトル』
『やどかりとペットボトル』
540円(税込)

豊かで美しい村の守り神である、帝国陸軍の九六式カノン砲「キャノン様」。だが、そこにはある秘密があった
『ぼくのキャノン』
『ぼくのキャノン』
690円(税込)

2000年の沖縄、米軍から返還された天久開放地の荒野に巨大な魔法陣が出現する
『レキオス』
『レキオス』
860円(税込)

産婆のオバァのまじないによって姿を消された息子。未婚の母・津奈美は命をかけて井戸に飛び込み、“陰”の世界へと向かう
『夏化粧』
『夏化粧』
690円(税込)

池上永一『風車祭』を漫画で読むなら!>>>


プロフィール


池上永一さん (イケガミ・エイイチ)
1970年、沖縄県那覇市生まれ、のち石垣島へ。早稲田大学在学中の1994年に『バガージマヌパナス』(文藝春秋)で第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。98年『風車祭(カジマヤー)』(文藝春秋)が直木賞候補に。その他の著作に『夏化粧』『ぼくのキャノン』(ともに文藝春秋)、『やどかりとペットボトル』(河出書房新社)、『レキオス』『あたしのマブイ見ませんでしたか』、『シャングリ・ラ』(以上すべて角川書店)などがある。

インタビュー


池上永一さん−−初の王朝ものですが、以前から、琉球王朝を舞台に書きたいと思われていたのですか?

池上さん いつか書ければいいなと思っていたぐらいです。琉球王朝を描くといっても、過去に王宮の人々を扱った作品がないので、どう書けばいいのかわからないという気持ちもありました。だからといって、誰も手をつけていないからやろうと思ったわけでもないですね。そもそも僕は第一線でバリバリ書いている作家でもなかったですし、隙間を見つけて書くのが楽しいタイプなので。


−−今やエンターテイメント小説のメインストリームに立っていらっしゃる感があるのですが…。

池上さん それが間違いで(笑)。でも、隙間の王朝文学っていうのもなんだか変じゃないですか。王宮で暮らしているのに日陰者で慎ましかったりしたら、「こんな首里城いやだ」って言われますよ(笑)。だから「美と教養の王国」のイメージは大事にしつつ、かなり派手に描いたつもりです。


−−そもそも琉球王朝に関する資料自体がとても少ないそうですね。

池上さん ほとんど資料といえるものがなくて、あっても門外不出だったりするんです。史実を調べようがないので、王宮の裏世界、御内原(ウーチバラ)の場面は、女同士の意地悪大会にしたり、自由に描きましたね。


−−女の嫉妬と欲望がうごめく御内原は、江戸の大奥に近いですね。女ならではの足の引っ張り合いが怖いと同時に痛快で、すっかりハマりました(笑)。

池上さん イメージとしてはウルトラ兄弟勢ぞろい、という感じで(笑)。あまりにいろんなことが起きるので、書いている最中、僕自身がハアハア言ってたぐらいです。


−−その息遣いが全編から伝わってくるというのか、キャラクターもエピソードも出し惜しみせず、読み手を面白がらせるためにとことん突き進む、という池上さんの姿勢をビシビシ感じました。

池上さん 3日3晩続く田舎の祝言みたいな世界ですからね。


池上永一さん−−主人公の真鶴(まづる)の設定が面白いですね。男装して宦官・孫寧温(そん・ねいおん)として王宮に入るわけですが、ある意味、閉ざされた世界で生来の知性だけでなく、美貌も際立っていくという…。

池上さん 本当は『バガージマヌパナス』の綾乃のような、だらしなくてふてぶてしくて、人を喰ったような女の子を描くのが好きなんです。ところが書き始めた瞬間から、真鶴は真面目ですごく頭のいい少女になっていた。これまでの作品の主人公はすべて女の子ですが、こういうタイプは初めてですね。女の子を主人公にするのは、何をするかわからないから、書いていて面白いんですよ。いったん動き始めたら、あとは「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授のように眺めながら、「試練を乗り越えて来い!」と思ったりしてね。


−−女優を演出する監督の視点に近いんですね。

池上さん そうかもしれませんね。そのキャラクターを輝かせるには何が必要かをまず考えるので。真鶴にしても、試練を乗り越えてこそ綺麗にみえると思ったので、次から次へと与えました。


−−真鶴の敵役、真牛(モウシ)=聞得大君(きこえおおきみ)の存在感、これもすごいですね。巫女として王宮支配を企みながら、想像を絶する転落人生にド肝を抜かれました。

池上さん 真牛が好きだっていう人が案外多いんですよ。彼女は落ちるほどに輝いて「このォ〜ッ」と睨みつけられる感じのキャラクターなんです。だから「いいねえ、その表情!」と思いながら、じゃあもっと落してみようかって(笑)。


−−どのキャラクターも一度読んだら夢に出て来そうなほどインパクトがあると同時に、それぞれに恋心を秘めていたり。人間臭い部分にも惹きつけられました。

池上さん 百鬼夜行ですよね。その中で、唯一まともな感性を持っているのが喜舎場朝薫(きしゃば・ちょうくん)。寧温のライバルで、彼女を秘かに想う人物ですが、彼が出てくると「どうやらこの作家はまじめに語る気があるらしい」…という指針にしてもらえるんじゃないかと。さもないと、破たんするまでキャラを投入するんじゃないかと誤解されそうな気がしたので(笑)。


−−各キャラクターの想いを伝える上で、沖縄に伝わる「琉歌」が効果的に使われていますね。

池上さん 王朝ものとしての様式を魅せる意味で使いました。映画や舞台なら豪華な衣装などで視覚的に伝えられるのですが、小説は文字でしか表現できないので。日本語とも違う、琉歌を目にした瞬間、雅さを感じてもらえればいいなと。


−−文字でしか表現できない、ということですが、池上さんの作品を読むと視覚的なイメージがどんどん湧いてくるんです。もともと漫画家を目指していらしたそうですが、小説を書く際、ビジュアルが先に浮かぶのでしょうか?

池上さん そうかもしれないですね。真鶴はなんとなく黒木メイサさんをイメージしていましたが、長野剛さんが描いた画を見て、こんな顔だったんだと思いましたね。長野さんが画を描きやすいように、キャラクターの身体的特徴を強めに書いたり、逆に長野さんが描いて下さった画に、キャラクターを合わせたりすることもあります。


−−ご自身のイメージを主張することはないのですか?

池上さん ないですね。読者は長野さんの画を見ながら読むわけだから、イメージが違っていたらおかしいじゃないですか。それに一度画を描いてもらうと、キャラクターを頭の中で動かしやすくなるんです。書いている間は必死で、面白くなればいいというのもあるし、エンターテイメントなのだから、読者が面白いと感じてくれるのが一番大事。そこで作家の想いを主張したり、書いても仕方ない。そんなのは読み飛ばされますよ(笑)。


池上永一さん−−とはいえ沖縄を舞台に書き続ける中で、ご自身の沖縄への思いや希望を作品に託していると解釈されることもあるのでは?

池上さん 僕はそれほど思想的なタイプじゃないですよ。むしろ、戦後の沖縄文学が苦手だったんです。被害者だから正義、みたいなところがね。子供の頃から反戦メッセージを伝えることの難しさも感じていて。高校時代に「人間の鎖になれ」と呼び出されて、手をつながされたことがあるんです。でも36度の炎天下で子どもが手なんかつないでいられない。鎖なんてとっくに切れているんです。楽しくないし、やるならもっと効果的にやるべきだと思った。ああいった形で反戦を訴えるのは小説の中でも無効だと感じていました。声高に反戦を訴えるのがものを考えていることだとか、そうじゃないと思う。第一、お金を出して買った小説が面白くなかったら、それこそ罪ですよ。


−−この作品は上下巻の長編にもかかわらず、続きを読みたくなったぐらいだったのですが、続編の予定はないのでしょうか?

池上さん 真鶴の物語はこれで終わりですが、同じ時代を舞台に、今度は市井の人々を書きたいと思っています。王宮人とは真逆の庶民、日銭を稼ぐだけで精いっぱいの人々の物語に興味がありますね。
この時代を選ぶのは、役人システムがきちんと機能しているのはこの時期だけで、それ以前になると、神話的な世界になってしまうんですね。その手の世界観も好きですが、下々の民を生き生きと描くには、王宮が王宮らしく存在している時代がいいので。


−−今後、描いてみたい主人公とは?

池上さん 一番書きたいのは「ルパン三世」の峰富士子みたいな人。邪気はあっても憎めない小悪魔というのか、美味しいところを全部かっさらっていくいような女性がいいですね。


−−なるほど。憎めないといえば、真鶴と心を通わせる王の側室、真美那(まみな)の天真爛漫ぶりも印象的でした。

池上さん 真美那のようなお嬢様キャラを登場させたのはこれが初めてで、『ガラスの仮面』の姫川亜弓をイメージしていたら、全然違うものになっていた。月影(千草)先生のような存在も必要かなと思ったのですが、十分でしたね(笑)。


−−マンガの世界をイメージして書かれることもあるんですね。

池上さん ありますね。大河ロマンといえば少女マンガですから。女性はマンガを通して、こういう物語を子供時代に体験しているんですよ。特に80年代に(少女漫画雑誌)「LaLa」で人気を集めた『あさきゆめみし』、『日出処の天子』といった作品を読んでいた人は、絶対に『テンペスト』の世界が好きだと思う。
王朝ものが自分に向いているかわからなかったのですが、書いてみたらすごく面白い。斬首とか鞭打ちなんて、現代劇ではありえない過激な世界を描くこともできる。執筆しながら「あー楽しい」と感じたので(笑)、また手を変えて書くつもりです。


−−池上さんが生み出す新たな物語を楽しみにしています!ありがとうございました。






激動期の琉球王朝の歴史に女たちの生きざま、秘めた想い、さまざまな栄枯盛衰とあまりの面白さにページをめくる手が止まらなくなりました。見たことのないご馳走を味わっているような至福の時間を与えてくれる物語は、一度手にしたらハマること間違いなし。小説の面白さがぎっしり詰まった池上ワールドにぜひ、ひたってみて下さい。
【インタビュー 宇田夏苗】






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