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「今の時代を生きていて、しんどくない人はいない」石田衣良さんココロに沁みこむ短編集『再生』

現代感覚の妙手として知られ、繊細な文章で巧みに時代を切り取る石田衣良さん。新刊『再生』(角川書店)は、最愛の人との別れや子どもの病、失業といったさまざまな悲しみを抱えた主人公たちが『再生』していく様子を、みずみずしく描いた短編集です。石田さんに話を聞きました。


石田衣良さんの本はこちら

名作『約束』に連なる感動の短編集。疲れたココロに染み込みます
『再生』
『再生』
1,575円(税込)

人生の半分が終わってしまった。それも、いいほうの半分が・・・
『フォーティ〜翼ふたたび〜』
『フォーティ〜翼ふたたび〜』
660円(税込)

大学の準ミスと付き合っている太一の前に、突然現れた奔放な女性・美丘
『美丘』
『美丘』
540円(税込)

17歳も年下の彼にこんなにも惹かれてゆく、版画家の咲世子・・・
『眠れぬ真珠』
『眠れぬ真珠』
540円(税込)

池袋は安全で清潔なネバーランドってわけじゃない。IWGシリーズ第6弾
『灰色のピーターパン〜池袋ウエストゲートパーク6〜』
『灰色のピーターパン〜池袋ウエストゲートパーク6〜』
570円(税込)

親友を失った少年、リストラにあった父・・・痛みから立ち上がる人々を描いた短編集
『約束』
『約束』
500円(税込)


プロフィール


石田衣良さん (いしだ・いら)
1960年、東京生まれ。97年『池袋ウエストゲートパーク』でオール読物推理小説新人賞を受賞しデビュー。03年『4TEEN』(新潮社)で第129回直木賞を受賞。06年『眠れぬ真珠』(新潮社)で第13回島清恋愛文学賞受賞。近著に『夜の桃』(新潮社) 『シューカツ!』(文芸春秋) などがある。

インタビュー


石田衣良さん−−今の時代に『再生』という主題を設定した理由は。

石田さん 前回の短編集「約束」(角川書店)を執筆後、時代がもう一段厳しくなったというのを感じていたんですよね。だから、もう一度なんとか今の時代観であったり、この冷たい風に逆らってと言うのかな、それをなんとかしのいで立ち上がれる話を書きたいなというのはありましたね。それで最初、何も考えずに書いたのが表題作の『再生』だったんです。この流れで、再生していく人を主人公に書いていこうという感じになりました。


−−地方や郊外を舞台にした作品が目立ちます。

石田さん これ(本作)は今、目の前の社会で起きていることを書いて、その上で何か希望が生まれるといいなという話なので、やはりリアリズムになりますよね。例えば、青山であったり六本木ヒルズのような世界ではないんですよね。それこそ(収録作品の一つ)『東京地理試験』のゴミ収集車の話のように、地に足のついた人の生活を書いていく。その上であきらめない強さみたいなのが出れば、というのはありました。


−−「東京地理試験」は都会的なイメージの強い石田さんの作品の中では、かなり際立った存在です。

石田さん そうですね。あれはほとんど100パーセント実話なので。実は六本木ヒルズに出版社との打ち合わせか打ち上げに行く途中に、タクシーの運転手さんが15分くらいで、さっと話したことがあの話の骨子なんですよ。話を聞いて「それは面白い。それ書いていいですか?」と聞いて「いいですよ、いいですよ」という感じです。


石田衣良さん−−実話の素材感の分だけ、文章が心に響きます。例えば収録短編の一つ『出発』の「いつから誰もが気安く夢を質問しあうようになったのだろうか」など。

石田さん 子どもたちを見ていると、大人が子どもに会うたびに必ず「将来、何をやるんだ? 夢は何だ?」と聞くんですよ。そういう大人に限って「将来、どうやって金もうけをするのか」くらいしか関心がないんですよね。逆に子どもから「あなたの夢は何ですか?」と聞かれたら、大人だってみんな追い詰められると思いますよ。(夢は)本当はもっと胸に秘めて、5年とか10年とかたって、ある日、うまくいったにしろいかないにしろ、ごく親しいひとにぽろっと言うものだと思います。


−−同時期に毎日新聞の日曜くらぶで連載されていた『チッチと子』同様、この作品でも子どもに気づかされる大人が描かれています。

石田さん やっぱり自分の生活が出ているんでしょうね。子どもって面倒ですが、救われますよね。そういう存在感がありますよ、励ましてくれるというか。うちの上の子なんて10歳の男の子ですが、ゲームをやりながら、ずっと「死ね」とか「こいつゲロだぁ」とか言ってるんですけど、そんなことでいやされたりしますね(笑)。


−−生活感という点では、食べ物の描写も魅力の一つです。

石田さん 食べ物を書くのは楽しいですね。小説の中で、実はメーンストーリーではない部分、例えば主人公が来ている服だったり、食べ物だったり音楽だったり、そういう小道具を自分の好きなように書くのが作家のお楽しみなんですよね。その部分で作家の腕ってすごく出るんですよ。ある瞬間、食べ物を見て「あ、これ本当にうまそうだな」というのを書く人って、やっぱりすごくうまい人なので。その世界の一つの統一したトーンを出せるかどうかって、作家の持っているセンスが大きいんじゃないですかね。(料理をするのは)好きですよ。手軽なものをぱっと作るという。うちで一番うけるのは、単品の炒め物ですね。キャベツ炒めとかモヤシ炒めとか、あの手のものです。


石田衣良さん−−約2年間、雑誌で連載されていました。連載中にも、ずいぶん世相が変わりました。収録短編の一つ『火を熾す』に代表される雇用問題は、特に。

石田さん 変わりましたね。もうギリギリですからね。(雇用の問題については)やむを得ないところがありますよね。要は、経済って山があって谷があるものですから、どうしても落ち込むことがある。それが今回ものすごく激しかった。それに関しては台風や雪崩に怒ったりするのと一緒なので、もうどうしようもないですよね。なんとか自分の身を守るしかない。自暴自棄にならずに生きていくしかない。そう考えると、これを書いているちょうど真ん中くらいのところで、金融危機が来たというのは象徴的でしたね。


−−収録短編の一つ『四月の送別会』は広告代理店の新入社員が主人公です。石田さん自身も広告代理店で働いていた経験があると聞きましたが。

石田さん あのへんは実話ですね。(作中、主人公が教育を受ける)先輩も実際にいましたね。「もう辞めるから」と言って、昼間外回りに行くと2、3件目ですぐに喫茶店に入って、ずっと資格の勉強をしていて。「ああ世の中広いよな、いろんな人いるな」と思いました(笑)。多分、勘違いしているんですよ。人生って、ずっとコツコツがんばっていかなければならないものだと思っているでしょ? でも実際はそうではなくて、本当に仕事をしなくちゃいけないときって、恋愛と一緒で人生に3回くらいしかないんですよ。ただ、そのときにはがんばらないといけないんで、そのときのために本当は余力をとっておけばいいんですよね。3回に1回でもいいかな。一つ当たれば、もう大丈夫ですから。


インタビュー中、石田さんの娘さんが描いたイラスト−−今日は(インタビュー日は)4月1日です。各地で入社式が行われています。

石田さん みんながんばりすぎだと思います。(雇用に関する)一連の話を書いたときは、リストラの話が多かったのと、あと出版各社の人と会うと、自律神経失調症の人が多かったんですよ。話を聞くと、みんなまじめでがんばりすぎで、そこまで自分を追い詰めなくてもいいのにと思いました。そうじゃなくても(新入社員は)ずっと神経張りっぱなしで、どうしたらいいんだろうっておどおどしているのに、その上にさらに自分で自分を責めたりすると、ものすごくつらいことになります。長い人生ですから最初の1カ月、3カ月くらいは大丈夫なんですよね、棒に振っても。「のんびり自分のペースで働き始めればいいよ」と(新入社員には)言いたいですよね。


−−読者に一言。

石田さん 今の時代を生きていて、しんどくない人はいないと思います。でも、そういうときこそ本でも読んで、ちょっとのんびりしてもらいたいですね。この本はみんなへのエールがたくさん詰まってますから、うんとしんどいときは「まあ、もっと大変なやつはいるからな」と、この本を読んで思ってもらいたいですね。




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