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15万部のベストセラー新書!悩む人こそ「悩みぬいて強くなる」『悩む力』

人は誰でも、生きているとさまざまな悩みに直面します。政治学者である姜尚中さんが、人生のさまざまな悩みについて読み解く新書『悩む力』は、人が人生で抱くいくつもの悩みを、夏目漱石の作品や、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの人生と重ね合わせながら解説してくれる人生の指南書です。しかも、ただ読み解くだけではありません。悩んでいることが、決して無駄ではなく、それこそが生きる力につながるのだということを、ご自身の経験も重ねて語った、悩む勇気がでてくる本なのです!


姜尚中さんの本


『悩む力』
『悩む力』
714円(税込)

『ニッポン・サバイバル 不確かな時代を生き抜く10のヒント』
『ニッポン・サバイバル〜不確かな時代を生き抜く10のヒント〜』
735円(税込)

『姜尚中の青春読書ノート』
『姜尚中の青春読書ノート』
735円(税込)

『在日』
『在日』
500円(税込)

『挑発する知 愛国とナショナリズムを問う』
『挑発する知〜愛国とナショナリズムを問う〜』
姜尚中/宮台真司
819円(税込)

『ナショナリズムの克服』
『ナショナリズムの克服』
姜尚中/森巣博
735円(税込)



夏目漱石の本


Nintendo DS 『DS文学全集』
Nintendo DS 『DS文学全集』
2,800円 (税込)

『それから改版』
『それから(改版)』
420円(税込)

『こころ』(まんがで読破)
『こころ』(まんがで読破)
580円(税込)

『明暗』(まんがで読破)
『明暗』(まんがで読破)
580円(税込)


プロフィール


姜尚中さん (カン サンジュン)
1950年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士修了。東京大学大学院情報学環教授。専攻は、政治学・政治思想史。討論番組『朝まで生テレビ!』など、数多くのテレビ番組にも出演し、揺るぎない論調で有名。著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ』『ナショナリズム』『東北アジア共同の家をめざして』『日朝関係の克服』『在日』『姜尚中の政治学入門』『愛国の作法』『ニッポン・サバイバル』ほか。共著に『ナショナリズムの克服』『デモクラシーの冒険』ほか。

インタビュー


−−姜尚中さんが「悩み」をテーマにされたのは、どうしてでしょうか。

姜さん 最近は、悩んでいても相談できない人がけっこう多いのではないでしょうか。なかなか他人には言えないでしょうし、できるかぎり明るく振る舞わないといけない。そうでないと過剰に心配されたり、逆にKY(空気読めない)と言われてしまったり……。親に相談できる人はまだ幸せです。話を聞いてくれる友人や恋人がいれば、それは非常に幸せな例ですね。相談できる人は少ないでしょう。だから本などに、そういう情報を求めたりする場合があるのかもしれません。


姜尚中さん−−姜さんの場合は、それを夏目漱石の作品や、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの人生に見いだされたわけですね。それにしても漱石を絡めた構成はどこから着想されたのですか。

姜さん もともと漱石が好きだったのです。ぼくは熊本の出身で、自分の身の回りに漱石の歴史的な足跡がいろいろありました。ぼくの高校が旧制中学の時代に、漱石が英語を教えていたなどの繋がりもあって、漱石の愛読者だったんです。

その漱石は、一時期、神経衰弱を患っています。ところが自分も、漱石と同じように、やや軽いうつになってしまったんです。それは40代の終わりでした。その年代というのは、多くの人が人生について悩む時期です。自分の将来のことを考えると暗い気持ちになるし、30代と比べると気力も体力も衰えてくる。更年期障害もあったのでしょう、病院に行くほどではなかったのですが、そのとき、自分はなぜ悩むのか、悩みと深く向きあうことになったのです。それで漱石を読み返してみたのですが、読み返しながら自分なりに考え続け、考えぬいて、そうしたらある時、ふいに悩みを突きぬけられたんですね。突きぬけてみると、悩みのネガティブな部分だけでなく、別な側面……「悩まない人は、本当の意味での自分の力というものが、湧いてこないのではないか」ということが見えてきたのです。


−−その経験が、この本のテーマである「悩みぬいて強くなる」、つまり「私たちが悩んでいることこそが、逆に生きる力になる」ということにつながるわけですね。

姜さん 悩みには答えがあるものもありますが、たいていは回答がない。回答がないものは考えられないし、悩まないほうがいいと思う。しかし多くの場合、どうしたって悩んでしまう状態に戻ってしまう。それで、なんとか悩まないよう抑制したり、できるだけ悩みがない世界を作ろうと考えます。しかしそれはむしろ、逆なのではないか。 苦しみだけのようにみえるけれど、「生きる」ことに関して考えると、「悩むこと」は大きな充実感につながっているんです。「悩みのない世界こそが幸せだ」と、単純には考えられません。大切なのは、徹底して、悩みの海を泳ぎきってみることです。だって我々は、悩みと無縁で生きることはできないし、結局、自分の人生は自分の力で泳いでいかなければいけないものだから。


−−自力で泳いでいく「たくましさ」が、現代の私たちには欠けているのでしょうか。

姜さん 今の時代は、先行きが見えないので不安なのだと思います。それに、ぼくもそうでしたが、悩みを持つと他の人が幸せに見えてしまう。「なぜあの人たちは幸せそうなのに、どうして私だけが」と。でもそれは、ぼくにいわせると悩む力に気づいていないだけなんですね。悩む力を持つことに、自分の生きる意味がある。それが、人生の核心につながると思うのです。生きる意味、働く意味、それから他人を好きになる意味……。人間はどうしたって意味を求めます。実はこの「意味」というのは、悩みの種でもあります。だから意味のない人生は、悩まない。つまり一番不幸なのは、悩みのない事なんです。精神医学でもよく言われていますが、一番不幸なのは悩まない人なんですよ。


−−悩みがないことは、一見幸せそうに見えますが、実は一番不幸なことなんですか。

姜さん 人の一生は、ただ幸せになるために生きているのではないでしょう。人は、自分が生きている意味を見いだすために生きていると思うのです。ただ、それには必ず悩みがつきまとう。なので、悩みから目を背けないで、自分の悩む力を信じる。そうすると、ただ単に幸福か不幸かという瞬間風速的なものではなくて、悩む力から生まれる生きる意味が見えてくる。これが大切なことなんです。ぼくは、あと2年ぐらいで還暦ですが、今は以前と比べると、悩んで良かったと思っています。ほんとうに、悩んで良かった。悩んだことで、ただ薄っぺらい幸せであれば良いということではなく、生まれてきて良かったと言えるようになりました。悩みは性別階層を問わず、みんな持っているものだから、それぞれが悩む力を信じて、悩みきってみると、以外とワイルドになれるんじゃないでしょうか。それこそ、力を秘めた横着者に……。映画『イージー・ライダー』の主題歌「Bone to be wild」の“ワイルド”はそれこそ横着になる、という意味ですよ(笑)。


−−本書の締めくくりもそのようにまとめられていますね。姜さんにそう言っていただけると、今悩んでいる最中の人も心強いと思います。悩むことは決してムダではないと、救われる気がします。それにしても「序章「いまを生きる」悩み」からはじまり、終章の「老いて「最強」たれ」まで、各章どれも読みごたえがありました。

姜さん 悩みにはさまざまなものがありますからね。愛や死、生きること、働くこと、自分とはなんなのか。家族のことや、青春の悩みもありますね。『悩む力』では、それらのテーマを一章ごとに取り上げ、ひとつを一カ月ぐらいかけて掘り下げていきました。だから完成するまで、一年ぐらいかかっています。


姜尚中さん−−引用されている漱石の作品も理解を深める助けになります。文学というのは読んで楽しむこともできますが、まさに自分の血肉にする、こういった読み方もできるものなんですね。中でも、漱石は学生時代に読むことが多いだけに「青春」の章があるのは興味深いです。

姜さん 学生時代はいろいろな思いが凝縮している時代ですからね。ぼくもよく思い出すのは、その時代のことですよ。


−−姜さんにとっての青春というのは、何歳ぐらいまでなのですか?

姜さん 青春? 死ぬまでですよ(笑)。ただ今のぼくの青春は、それはやっぱり子供時代の青春とはちがいますね。年齢を重ねると「青春を青春する」ことができるようになるから。自分をもう一回、自分として突き放して見ることができる。そういう点では、年をとることも決して悪いことではないと思いますね。たしかに若い時には、青春を青春するなんてことは考えなかったし、ただ無邪気に泣いたり笑ったりしていたものですが。でも年をとるとそれだけじゃないですからね。漱石の作品には、夫婦の問題や、お金の問題も登場します。


−−経済的な悩みは生活の中でも比重が大きい問題ですね。漱石の作品に書かれているとは、若い頃にはわからなかったことです。

姜さん そうだと思いますよ。漱石の作品は、一見すると波瀾万丈な物語があるようには見えないし、大人になって読むと、またちがった読み方ができるものです。結局我々は、アバンチュールを望みながらも、実は結構平凡な日常を生きていて、平凡な日常を探求していくと、実はすごいことが見えてくるんです。つまり、漱石というのは「日常世界の探検家」なのだと思いますね。そういうことは、若い頃にはなかなかわからないでしょう。学生時代は、極端なものに憧れたり、もうちょっとドラマチックな出来事に惹かれる。けれども、そういったことは、年齢や経験とともに変わってくるから。

男女のことについても若い頃にはわからなかったことがたくさんあります。漱石という人は、奥さんとの関係が複雑だったんですよ。妻である鏡子さんは漱石を愛しているけれど、漱石の愛し方は鏡子さんの気持ちに対応するような純愛ではなかった。しかも、漱石のヒロインは、ほとんどが鏡子さんとは、似ても似つかないタイプだから。彼女にとっては、つらかったことでしょうね。でもね、書簡を読んだり、漱石が亡くなる前後の様子を知ると、二人の間にも夫婦としての確かな愛情があったことがわかります。

愛情というのは、それこそ口づけして愛を確かめあうということだけではなく、さまざまな形に変わると思うんですね。少なくとも漱石は、そういう人だった。不倫や三角関係を書いてはいても、現実では、夏目鏡子以外の女性との実際の関係はなかったんです。だから、漱石が亡くなった時の彼女の落胆ぶりはすごかったし、亡くなってからも、漱石に対する愛情は消えなかったんでしょう。

年をとって、いくつまで生きられるかわからないけれど、夫婦二人でなんとはなしに公園をゆったり散歩できたとすれば、それはとても良いことじゃないでしょうか。ヨーロッパなどでよく見かける光景ですが、そういう老夫婦を見ると、ものすごく気持ちが爽やかになりますね。いろいろなことがあって悩んだ時期もあったとしても、いつかは二人、手を取り合って散歩する……漱石と鏡子さんの関係は、それに近いイメージがあります。長く連れ添って、60歳ぐらいになると愛の形も変化する。そういうことも書きたかったことのひとつです。それで、第七章の「「変わらぬ愛」はあるか」という章を書いています。


−−最初におっしゃっていた悩みを突きぬける……ということが、わかるような気がします。姜さんにとって漱石の作品が人生の糧となったように、悩める私たちにとってこの本が、貴重な人生の糧となると思います。本当にありがとうございました。






(インタビュー 波多野絵理)





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