楽天ブックス 著者インタビュー

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死傷者600人以上の大惨事となった、今年4月の福知山線脱線事故。この夏、事故当時にも数多くのテレビにもコメンテーターとして登場していた鉄道アナリストの川島令三さんが本を書いた。その名も「なぜ福知山線事故は起こったのか」。「全国鉄道事情大研究」などのご当地鉄道シリーズでも知られる川島さんが、鉄道についての膨大な知識と、綿密な考察によってたぐりよせた事故原因とは?

プロフィール

川島令三さん (かわしま・れいぞう)
1950年、兵庫県生まれ。鉄道アナリスト、早稲田大学非常勤講師。1986年に刊行された最初の著書「東京圏通勤電車事情大研究」は大きな反響を呼び、本の中で提案されたアイデアで、すでに実現されているものがいくつかある。

インタビュー

−−鉄道関係の多くの著書がある川島さんですが、こうしてひとつの鉄道事故について1冊の検証本を書かれるのは初めてだそうですね。
川島さんこの本の話があったとき、最初は正直言って迷いました。なんといってもあれだけ多くの方が亡くなられたわけですし。ただ、あのときは私も多くのテレビ特番などに出演したんですが、事故原因についてのマスコミのミスリードが一人歩きして、一瞬のうちに世間に広がっていってしまうのを目の当たりにしたんですね。私自身も、テレビの中では多くのことを説明できませんでしたし、これはどこかで一度、きっちりと語り直す必要があるのではないかと思ったんです。
−−ご出身が尼崎で、現場にもかなり精通なさっていたとか。
川島さん地理も頭の中にしっかりと入っているので、目をつぶっていても光景がわかる路線でもありましたね。私にとって福知山線はそんな縁の深い鉄道でもあった。そういう思いもあって、事故直後から一気に書き上げたのが、この本です。
−−専門家の目から見た、一番大きなミスリードはなんですか?
川島さんたとえば今でも多くの人は、「ATSが旧型だったから事故が起きた」と考えていると思います。まずこれもミスリードですね。今回、本を書くに当たって、私もATSの仕様書などをひっくり返してあらためて勉強しましたが、ATSが旧型だろうが、新型だろうが、安全対策は同じようにできたはずなんです。要は安全対策をしていなかったことが問題だった。それがいつのまにか、ATSの古さが原因だったように話が一人歩きしていってしまった。もうひとつは「過密ダイヤ」を原因とする声ですね。これも首都圏のJRなどと比べても、福知山線は決して本数が多い線ではない。だからこそ120キロの最高速度をラッシュ時でもだせるんですよね。過密ダイヤだと前を走る電車に邪魔されて、せいぜい80キロくらいしかだせません。
−−たしかに軽量化した台車の問題など、あまり知られていない原因がまだたくさんあることに驚きました。
川島さん鉄道は経験工学とでもいうのかな。事故が起きると、それが二度と繰り返されないように対策が施される。それでもまた鉄道事故が起きてしまうのは、想定外のことが起こるからなんです。だからこそ原因究明は重要ですね。運転手の心理状態など、ほかにもさまざまな原因があったかもしれません。でも今回はそうした心理的な話はすべて排除して、「電車の専門家」の見解に終始するように心がけました。そのような人の心の問題は、私ではなくてその道の専門家にやってもらおうと。また、この事故は事故調査委員会から9月に中間発表がなされました。しかしハード的な事故原因についてはまったく発表されませんでした。110キロ程度のスピードで、あのようなことが起こるとは思えない委員が多いと漏れ聞こえてきます。そのため、その要因がなにか、もっと時間をかれたいというのが本音のようです。この本ではその要因を推定であっても追及しました。
−−そうしたスタンスは、これまでの川島さんの鉄道本にも共通する部分ですね。
川島さんたしかにノスタルジーで鉄道を語ることは少ないですね。今度、寝台特急の本を出す予定ですが、寝台特急とはいえノスタルジーとしてとらえずに、どこまでも「使える鉄道」としての部分を紹介したいと思っています。どんなに味のある寝台特急だったとしても、乗り心地や使い勝手がよくなくてはいけない。そうそう、あまりにも乗っていて居心地がよくない寝台特急は、そのときはA個室寝台でしたが、それでも我慢できずに途中で降りてしまったこともありましたね。予定といえば、福知山線の事故の以前から、国鉄民営化の総括を書いてみようというプランがあったんです。今回もJRの体質がいろいろと取りざたされていますが、今、郵政でも話題になっている「民営化」がJRに何をもたらしたのか。そんな検証を鉄道の専門家の目線でできればと思っています。
−−ちなみに「鉄道アナリスト」というご職業の場合、電車に乗っている時間をどのように過ごしていらっしゃるのでしょうか?
川島さんたしかにプライベートで乗っているときも、いろんなものに目が行ってしまいます。窓の外にしても、中にしてもですよね。うたた寝? そういえばあまりしない。とくに長距離の場合、一番前の車両で運転席ごしにメモを取りながらレールを見ていることも多いですね。最近は鉄道ファンに混じって、メモの代わりにビデオを回すことも多くなりました。そうそう、気になるといえば、テレビドラマなどに鉄道が出てきたとき。画面に出ている車両と、走行する音がだいたい合ってなかったりします。電車が走っているスピードと、音が違っていることも多い。職業柄、そんなチェックをしてしまうクセがあって、家族にはうるさがられているんですが。
小さなミスリードが一人歩きして、ひとつの事実として伝播してしまう。鉄道の専門家の自己検証は、そんなメディアの危うさにも警鐘を鳴らします。鉄道ファンの人にも、そうでない人にも。多数の犠牲者を出してしまった事故の記憶を風化させないためにも、今こそ読んでおきたい一冊です。【インタビュー 福光 恵】

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