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「“知的遊戯”を楽しんで」 貴志祐介さん 本格ミステリー『狐火の家』を語る

貴志祐介さん
 韓国でも映画化されたモダンホラーの金字塔『黒い家』や、『青の炎』『硝子のハンマー』など幅広い作風で知られる貴志祐介さんの、中編4作を収めた密室ものの本格ミステリー『狐火の家』が3月に発売されました。貴志さんに最新作への思いをうかがいました。


貴志祐介さんの本


『狐火の家』
『狐火の家』
1,575円(税込)

『新世界より(上)』
『新世界より(上)』
1,995円(税込)

『新世界より(下)』
『新世界より(下)』
1,995円(税込)

『硝子のハンマー』
『硝子のハンマー』
780円(税込)

『クリムゾンの迷宮』
『クリムゾンの迷宮』
1,155円(税込)

『青の炎』
『青の炎』
700円(税込)

『天使の囀り』
『天使の囀り』
820円(税込)

『黒い家』
『黒い家』
700円(税込)

プロフィール


貴志祐介さん (きし ゆうすけ)
1959年生まれ。京都大学経済学部卒業。96年、『十三番目の人格−ISOLA』(角川書店)で第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作、翌年『黒い家』(角川書店)で第4回同賞大賞を受賞し、ベストセラーとなる。05年、『硝子のハンマー』(角川書店)で日本推理作家協会賞受賞。ほかに『青の炎』(角川書店)『新世界より』(講談社)などがある。

インタビュー


貴志祐介さん−−主人公の青砥と榎本は、以前の作品『硝子のハンマー』にも登場しましたね。


貴志さん 『狐火の家』は『硝子のハンマー』のシリーズという位置付けです。『硝子のハンマー』は長編で、主人公の二人は、密室もののための登場人物でした。その後、いろいろ書くうちにトリックそのものを味わってほしい場合は「短編がいいのでは」と思うようになりました。しかし、人物像や背景を書き込むと、純粋な短編では難しい。で、書いているうちに100枚前後がちょうどいいと考え、このような形になりました。ただ、枚数の割には手間がかかっています。同じ分量の長編を書くのに比べて、労力は何倍もかかっていて、本格ミステリーという「知的遊戯」のフィールドにおいては自信作です。


−−主人公二人の軽妙なやりとりが魅力的です。

貴志さん 現代の密室を描こうと思ったとき、今までの探偵ものとアプローチを変えたかったんです。例えば泥棒の身体能力。最近の泥棒は、私たちが想像もしない困難な場所でも侵入します。だから密室の場合もまず、それらを検討しないと推理は成立しないと考えました。そうすると、一人は「防犯の専門家かなぁ」と。もう一人の青砥の弁護士という設定は、事件に直結しやすいという点からです。加えて、ミステリーの黄金パターンとしてシャーロック・ホームズがいればワトソンがいます。そのワトソン役で、ほとんど真説と思われる別解から、ちょっと考えたら違うだろうという別解まで、そういうものを提示してくれる、ちょっと天然ボケの入ったキャラクターがほしかったんです。


貴志祐介さん−−「密室」というミステリーの「原点」に挑む理由は。

貴志さん 本格ミステリーを書きたかったんです。本格ミステリーとは謎を中心とした物語。謎というのはどういう形で提示されるかというと、不可能犯罪です。そして不可能犯罪で一番分かりやすいものが密室です。最初から密室にこだわっているわけではありませんが、「入れ替わり」や「アリバイ崩し」などに比べて分かりやすいんですね。複雑なトリックがあっても、最終的に密室という箱に「入れるか入れないか」「出られるか出られないか」という点に収れんしていく。単純な形で読者に謎を提示できる。謎自体は単純だけれども、調べていくと複雑だという構造ですね。


−−これまでの作品では、加害者の心理を多く描かれてきましたが。

貴志さん そもそも小説を書くスタンスが逆なんです。例えば『青の炎』は「倒叙物」といって、加害者の側から事件を追っていくものです。なぜそうしたかというと、殺人事件があったとして、そこで一番、心の中で葛藤があってドラマが起きるのは、加害者であり、被害者です。被害者が主人公だとすぐ死んでしまいますが、加害者というのは見破られて捕まると、ある意味で人生が終わってしまう。必死さが違う。だからドラマ性、物語を描こうと思うと「倒叙物」になります。しかし、本格ミステリーがほかのあらゆる小説と比較して際立って違うのはベクトル、つまり現在から過去に向かってさかのぼっていくことと、人間ドラマを排除したところに存在する「知的遊戯」という点です。まして「狐火の家」はそのために設定した枚数で書かれているのですから、ドラマ性や物語は背景に退いて、あくまで「知的遊戯」として楽しんでもらいたいと思います。


貴志祐介さん−−どのトリックもたいへん巧妙ですね。

貴志さん 私の場合、まず原理から考えます。「こういう原理で人を殺せるのではないか、密室を構成できるのではないか」と。それを現実の世界に落とし込む。そうすると、「被害者はこういう人物で加害者はこういう人物で」と決まっていきますよね。その後、そこで事件が起こったと知ったとき、主人公たちは「どういう推理をするだろうか」と別解を考えていくんです。別解を考えるのはとても楽しいですね。というのは、メーントリックは厳然としてあり、そこから出発してるわけですから。いろんな書き方があると思ういますが、例えば不可能状況だけ作って、説得力のある解を作るのはかなり苦しいと思います。でもメーンの解が既にあると、他の解はリラックスして作れます。その安心感から、いい別解が生まれることもあります。


−−読者に一言お願いします。

貴志さん 今までの本に比べると比較的薄いのですが、内容はびっしり詰まっています。ミステリーが好きな方、特に昔の本格ミステリーの、非常にクラシックなフェアプレーの、そういった作品の興奮をもう一度味わいたい方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。






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