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北村薫のミステリ作家探訪 ウソつきは作家のはじまり…?


商品情報


『野性時代2月号』
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北村 薫私がホストを務めますミステリ作家探訪の鼎談。今日のテーマは、ウソ発見器。いまから五十年以上前、昭和25年7月の探偵作家クラブの会報を見ると、江戸川乱歩先生はじめ、大下宇陀児、木々高太郎、高木彬光、他27名で当時の国家地方警察本部の科学捜査研究所に出掛けて、ウソ発見器にかかったらしい。
そのときは残念ながら乱歩先生がかからなかったんで、今回はどなたがいいだろうと話していたら、前回のゲストの馳星周さんが、それなら北方さんが適任だと。俺が喜んで質問状を書くとおっしゃって(笑)。そんなわけで今日は、日本推理作家協会の前理事長でもいらっしゃいます北方謙三さんをお招きいたしました。そして、ウソ発見器の操作を、萩原伸咲さん、分析を今村義正さんにお願いしております。

プロフィール

■ホスト 北村 薫 (きたむら・かおる)
1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞受賞。その他の著書に『スキップ』『水に眠る』『街の灯』『覆面作家の夢の家』など。
■ゲスト 北方謙三 (きたかた・けんぞう)
1947年佐賀県生まれ。83年『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞を、『渇きの街』で日本推理作家協会賞を、91年『破軍の星』で柴田錬三郎賞を、04年『揚家将』で吉川英治文学賞を受賞。

インタビュー


ウソ発見器は江戸時代からあった?

北方さん ウソ発見器の正式名称はなんというのですか?

萩原さん ポリグラフといいます。

北村さん われわれは子供のころからウソ発見器という言葉を聞いてましたが、非常にイメージしやすく、分かりやすい。子供心にも面白いなと思ったものです。

今村さん そうは言っても厳密な意味で嘘を発見する機械というものはなくて、結局測ってるのは呼吸とか皮膚の電気抵抗だとか、脈拍、血圧なんですね。江戸時代の西鶴の小説にも、『白浪の打つ脈取坊』といって、銀泥棒の脈をとったら異常がなかったという話があるくらいで、そういうやり方は昔からあった。ポリグラフというのは最近の機械でそれを測定しているに過ぎないんです。

北村さん 江戸川乱歩にも、『心理試験』という作品がありますが。

今村さん 現代でも、電流で皮膚抵抗を測定しながら、同じような連想試験は行われています。つまり人間の生理的な面を測るのがポリグラフなんです。ポリというのはmany、グラフっていうのはto write、書くということ。それで、こういう実験を警察で行うようになった時に、この機械はあくまでも測定機械なんだと。用語はそういうふうに全部統一しましたので、いま警察でもウソ発見器という言葉は使われておりません。

北村さん なるほど。でも、日常ではウソ発見器のほうが通りがいいですよね。

北村さん はい。私もウソ発見器と聞いて、なんだか面白そうだなと思って、科捜研に入って昭和27年からこの研究を始め、警察に導入したわけです。探偵作家倶楽部の記録を見ますと、みなさん25年の訪問ということで、私が入所当時の課長連中の名前がずらっと出ていまして、非常に懐かしく感じましたけれども。
対談1
北村薫の隠された願望!?

――ではさっそくですが、お二人に実験していただきましょう。北方さんには馳星周さんが、北村さんには有栖川有栖さんが、質問状を寄せて下さいました。(質問は『野性時代』を参照)

北方さん 結構いろいろグルグル巻かれてるし……。

萩原さん 呼吸を二本取るんです。道具をつけますんで、万歳を。実際は検査者が質問するんですが、今回は私がキューを出しますから、質問を読み上げて下さい。

北方さん 馳の野郎、畜生(笑)

――北村さんは、いかがですか?

北村さん やっぱり嫌なもんですよね。私はじゃあ、全部いいえで答えましょう。

今村さん 実際には、必ずこう答えなさいという規制は一切ないんです。答えは自由ですし、嫌だったら、答えなくても結構です、と。(質問は『野性時代』を参照)

北村さん というわけで(笑)実際ウソ発見器にかかってみました。とりあえず、このグラフの分析はどんなものでしょう?

北方さん グラフを見ると方式が3つに分かれていていますが、これは3つのやり方で測ったんですね?

今村さん ええ。この真ん中の赤いやつ、これが精神検流計の記録ですね。皮膚に流れる電流を測っています。

北村さん この上下のグラフは何ですか?

今村さん はい。上が呼吸運動ですね。胸に巻きましたあれで、呼吸の動きを測っている。それから、下が脈拍なんです。

北村さん 私の場合、2箇所、非常に揺れている。ここの揺れた質問というのは何でしたっけ?

――9番。カッコよく撮ってくれるならテレビのCMに出てもよい。

北村さん いいえと答えたら揺れたと。

北方さん (笑)何で?

今村さん それから、あと13番ですね。

――消えてほしい評論家がいる。

北村さん いいえと答えたら……。

北方さん 揺れた(笑)。

北村さん 別に身に覚えはないんですが。これは特に嘘をついてるわけじゃなくても、エッ、こういうことを聞かれるのかという驚きでも揺れるという……。

北方さん 質問がショッキングでも反応するわけですね。

今村さん はい、反応します。今回測定したこの3つっていうのはどちらかというと、自律神経系に作用された変化なんですね。そういう、自分の意思で左右できないものを取り上げている。そういうわけですから、実際に嘘を発見するっていうことになりますと、この点だけは真偽のほどを見極めたいという質問をひとつ絞って、質問を組みたてていく。そうじゃないと、これが嘘ですよとはいえないんです。今の場合には用意されたものに適当に答えていただきましたので、ウソか本当かは分かりませんが、ただ、反応が出ているっていうのは何か精神的に考えたか、あるいはちょっと答えるのに迷ったかな、とかいう表れですね。

北村さん 答えがイエスかノーかで、人に評価されるんじゃないかと考えて、ちょっと動揺したりもするのかな。それでは北方さんの分析もお願いします……。

北方さん 一番最初がものすごい振れてるんですよ。
対談2
今村さん 最初は誰でも多かれ少なかれ緊張していますから、こう出てくるのは当然なんです。大体実際の検査では、3問から5問ぐらいは検査に慣れさせる質問をします。下の脈拍も、ほとんど変化してはいませんから、これは意識しなくてもいいと思います。そうしますと上と中間ですね。一応、この6番目でちょっと反応が出てるんで、ここらへんに何か……。それから、9番目にも複雑な動きがありますね。

北方さん 6番目はムカッとしたんだ。9番目は、こういうことも聞いてくるのかというね(笑)。

今村さん あとは慣れていらしたのか、非常に平坦になってきましたけれども。最後の20番目がちょっとありますね。

北方さん 飽きてきたんじゃないかな。というより、馳の質問を予測できるようになったんだよ。これが来るだろうな、あれが来るだろうな、と順番がちょっと変わったぐらいで、全部分かった。20番のそろそろ引退する潮時だと思いますか。これは分かんなかった(笑)。

北村さん お見通しだったんですね(笑)。

北方さん いやいや。馳の頭は単純だから。

発覚の恐怖と潔白の安心

今村さん 実際の犯罪事件では、順番も含め、質問表を全部見せます。被験者のなかには、嫌疑はかかっているけれど、犯人ではないっていう人も含まれる。だから、犯人だったらすぐに犯罪に関係してると分かり、無実の人だったら絶対にポイントが分からないような質問を作中に一つポツンと入れなきゃいけないんです。そして、質問表を見せる。犯人なら、この点で嘘をつかないとまずいなと思って、血圧がバーッと高くなってきますね。それから、ポイントを突くと、ポイントの後はほとんど変化がなくてずっと平らになってくる。一方、犯人ではない人は質問を見ても、嘘をつかなければばらない項目はない。これは安心だと、非常に落ち着くわけですね。

北村さん 心理試験だから、いきなり抜きうちで質問するのかと思っていましたけれど、実際は逆に先に問題を全部見せちゃう。そのほうがかえって効果的だというのは目から鱗という感じですね。
北方さん 要するに犯人にとっては核になるものがあり、その他の人にとっては何でもないっていう質問の作り方に一番ポイントがあるんですね。

北村さん よく犯罪小説なんかでも、本当に悪いことをしても全然悪いことだと考えない感情のない人間とかが出てきますが、そういうふうな人間だったら結果にも表れないんでしょうか。

今村さん そうでしょうね。この検査の理論は発覚の恐怖なんです。ですから、犯人は発覚の恐怖を高めるように、無罪の人は恐怖をなくすように仕向ける。

北村さん 犯人を検挙するためのウソを発見するんではなく、無罪の人の潔白を証明するんだ、ということにポイントを置きたい気もしますね。

今村さん 検査者は特にそういう立場を取らなきゃいけない。ところが刑事は、こいつは俺が命を懸けて追っかけてきた犯人だから、先生、やりこめてくれと来る。そう言われても、私にはこの人が犯人でなければいいな、という気持ちが常にあるんです。反応が出なければ、白。刑事とはそれでいつも喧嘩になるんですが、そうしたら、他から犯人が出たということもありました。

北方さん ポリグラフの結果というのは、実際に状況証拠になるんですか?

今村さん はい。適切な条件が整っている場合には証拠として採用できるという最高裁の判決があるんです。奈良県で、被験者の関わった事件を丹念に追った資料があるんですが、陽性判定(反応があった)で真犯人だったのは99.6%、陰性判定(反応がなかった)で無罪だったのは91.9%という結果が出ています。

北方さん かなりの確率で当たるっていうことですね。

今村さん ただ、非常に難しいのは、サリン事件で冤罪となった河野さんのようなケースですね。あの時の検査の結果は私も見ていますが、あれは判定不能なんです。そうしたら、マスコミがあいつは反応が出なかった、なんて図々しい奴だろうという捉え方をして、捜査のほうが逆にそれに囚われてしまう形になった。検査者には司法権がありませんから、判定以外に、これはウソをついているというようなことは言えないわけです。それを、検査者ではない人たちが解釈する怖さがあります。

北方さん 揺れた(笑)。

北村さん 別に身に覚えはないんですが。これは特に嘘をついてるわけじゃなくても、エッ、こういうことを聞かれるのかという驚きでも揺れるという……。

的確な質問作成には人間観察がミソ

北村さん 例えば「水滸伝」の登場人物で、黒旋風李逵(こくせんぷうりき)がかかったらどうだと思いますか。

北方さん あれは全然平静でしょ。ただやっぱりね、最終的にはその質問をする側の人間観察だと思うんです。相手がどういう生命観や人生観、価値観を持ってるかに基づいて、きちんと質問を作っていけば、反応するところは反応するわけですよね。ですから、ポリグラフ自体は単なる機械だけれども、人間観察をきちんとして質問を構成していくというところに、ミソがあるような気がしますね。

今村さん その通りです。今、コンピュータと連動させて、測定値から即座に数式的な結果を導いていこうという開発もされてはいるんですが、質問は相手を見ながらランダムに、ファジーに繰り出していくものだから、コンピュータだけでは必ずしも対応できない。

北村さん なるほど。以前、テレビのバラエティ番組でタレントをウソ発見器にかけるというショーをやっているのを見たんですけれ、虚像と実像はこんなにもかけ離れたものだったんですね。

萩原さん 10年ぐらい前、私が初めてテレビ出演を引き受けたときは、警察からも秘密兵器を暴露したとか言われて、苦情に近い状態だったんです。でもそのうちに、番組に紹介されたおかげで、被験者の拒否反応が少なくなったと。あんな機械なら大丈夫だっていうんで、ポリグラフに進んでかかる人が増えてきた。効果的に働いたもんだから、その後は落ち着きました。でも、アメリカあたりでは、今でも乱暴なんですよ。
取り調べの道具みたいに使ったり、企業でも、従業員の麻薬常習者とか同性愛を調べたり、横領の抑止力として使っていたりする。年に一度、ポリグラフで「会社の備品を持ち出していますか?」と聞く。そう決めておくと、ボールペンに至るまで物品の持ち出しがなくなって、大変な経費節減になるそうです。(続きは『野性時代』で)

この対談は、雑誌『野性時代2月号』(1/13発売)からの転載です。対談の続きやポリグラフ実験の<質問内容>などは、『野性時代2月号』でお楽しみください!

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