楽天ブックス 著者インタビュー

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日英の文化比較をテーマに、英語学習や女性の生き方など、幅広い著書がある作家のマークス寿子さん。その新刊は、ずばり『英語の王道』だ。英語を学ぶうえでの心構えから、具体的なイディオムまでをコンパクトに紹介。加熱する英語ブームのなかで、使える英語を身につけたい人すべてが忘れてはいけない学習の「王道」をわかりやすくまとめている。そんなマークスさんが指南する本当の英語学習とは?

プロフィール

マークス寿子さん (まーくす・としこ)
1936年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、東京都立大学法学部博士課程修了。76年 Lond Marks of Broughtonと結婚、男爵夫人の称号を得て、英国籍になる。 98年より秀明大学国際協力学部教授。主な著書に『大人の国イギリスと子供の国日本』(草思社)、『ひ弱な男とフワフワした女の国日本』(草思社)、『とんでもない母親と情けない男の国日本』(草思社)、『女の身勝手男の出番』(中公文庫)などがある。

インタビュー

−−まず『英語の王道』はどんな人に読んでもらいたい本ですが?
マークスさん英語の本は、いろんなところからたくさん出ていますよね。ただ、苦労しないでも寝ている間に英語がうまくなるとか、ラクをして英語を覚えようという本も少なくない。私の本はそれとは違って、英語を意志を持って勉強したい人に向けています。  最近は英会話ブームで、日本における英語の状況も大きく変わってきましたよね。まず何より、若い人たちの英語の発音がよくなって、物怖じせずに英語の挨拶などができるようになった。私たちの時代はそのまったく逆で、読むのはうまいけれど、発音がまったくダメという人がほとんどでした。  そうやって英語に近くなった一方で、日本人の英語は失ってしまったものも多いと思っています。その挨拶英語だけで終わってしまうと、社会に出てから自分の意見を英語で言おうとすると、何も出てこない。そういう人たちを目の当たりにして、どうしたら彼らに表現手段として英語を身につけてもらえるのかと考えたのがこの本ですね。
−−例文もたくさん紹介されていて、実用度の高い本に仕上がっていますね。
マークスさんポイントはいくつかあります。まず文法は要らないというのはウソだと私は思うんです。でも日本は受験英語で、絶対に使わないような文法まで覚えさせられます。ここで英語がイヤになってしまう人も多いですね。だから、どこまでが必要で、どこからが要らない文法なのかをまずはっきりさせたかった。  もうひとつは単語ではなくて、文章で英語を覚えてほしいということですね。これならとっさに出てきた英語でも、時制や人称などの間違いをしなくて済む。それから重要なのはイディオムです。いわゆる英語の言い回しですね。イギリスでも20年前にはあまりに口語的過ぎるということで、新聞や雑誌でさえイディオムはそれほど使われていなかった。でも時代は変わって、今ではさまざまな活字にもイディオムは一般的に登場します。イディオムが日本の英語教育に取り入れられるまでにはまだ時間はかかると思いますが、生きた英語を今読みたいという人には、とても大切なポイントになっている。そこでこの本では、たくさんのイディオムを例文とともに紹介しました。
−−この本は、読者にどんなふうに読んでもらいたいですか?
マークスさん暗記するものではないので、いつも携帯してもらう必要はないですね。ただし、最後に掲載したイディオムの項は、何かの折りに開いてもらえるとうれしいです。たとえば英語に、「私は冷たい足をしている」と直訳できるイディオムがあります。どういう意味かわかりますか? 「おじけづく」という意味なんですね。こうした言い回しをひとつでも多く知っておくと、新聞なり本なりがグンと読みやすくなるんです。 それからもうひとつ、イディオムには英語圏の人たちの発想法のようなものが詰まっているんですね。言葉だけでなく、その文化を知るためにもとても重要です。日本にも言い回しがたくさんありますね。たとえば「鳥肌が立つ」というような。外国人が日本語を勉強しようとするときは、こうした慣用句から覚えることも多いんです。もちろん、これだけ覚えればすべてがわかるというわけではありませんが、このイディオムを出発点に、英語のおもしろさを感じてほしいですね。
−−若い人にとって英語が身近になる一方で、どんな問題点を感じていますか?
マークスさん生きた英語というと、どうしても乱暴になってしまう。少し前なら自分を紹介するときに「My name is○○」と言っていたものが、今では「I'm○○」とだけ言う人も多いでしょう。もちろんこうした言い方をしたほうが相手と近くなれる場面もたくさんある。でも相手や場所によっては、もう少し丁寧な言葉を使ってもらいたい場面も同じくらいたくさんあるのです。  相手や自分の英語を日本語に訳してはいけないという考え方が一般的になったのも、こうした問題点を生んでいるひとつでしょうね。相手と場所によっては、自分の言葉、つまり日本語でじっくり考えなくてはいけないときもある。私ですか? むずかしいことはやはり日本語にして考えることもありますね。日本語で考えること、そして英語で考えることの両方を自分のなかで使い分けています。物を考えるときは、いつも頭のなかで、英語と日本語を行き来させるということが大切だと思います。
−−最近、マークスさんがもっとも強く感じている「日本人に足りないもの」とはなんですか?
マークスさん日本語だと思います。言葉だけでなく、自分の国の文化を知らない人が多すぎるんです。学生たちを見ていると、中国からの留学生のほうが、かえって日本の歴史や文化を知っていると思えるくらい。過去を知らないと、未来を考えられないという視点が、今の若い人には少なすぎるように思います。  海外で暮らしてみるとよくわかるんですが、尊敬される日本人というのは、日本のことをよく知っていて、そしてなおかつ道具としての英語を操れる人。英語はよくできても、日本語や日本のことを知らなければ意味がないんです。本当は英語はひとつの道具であって、その道具を手に入れたあと考えたり、学んだりすることのほうが実は重要なんです。それを忘れている人が多いですね。
−−最後に、この春新しく社会人や学生になる人たちへのメッセージをお願いします。
マークスさん私が、みなさんに興味を持っていただきたいのは、言葉以上に、その国の文化です。もちろん、自分の国、日本も含めてですね。それにはとにかく本を読んでほしい。何もむずかしい本じゃなくてもいいんです。たとえば、海外のミステリーはおすすめですね。いえいえ、英語で読んでくださいとはいいません。日本語に訳されたものでいいんです。いいミステリーにはその国の日常がたくさんつまっています。朝、どういうものを食べるのかということひとつから、その国の人たちの一般的な考え方まで。そうして、自分たちの国との違いもわかってくる。ここは一緒、ここは違うという感覚を持ったうえで英語を学ぶと、その勉強もずっと楽しくなると思いますよ。
マークス寿子 日本とイギリスを行き来しているマークス寿子さん。つぎにイギリスの家に戻るときは、頭の痛いご近所との折衝があるとか。「英語が話せるようになったらゴールと思っている人も多いでしょ。でも世界が広がると、それだけ人間関係も大変になるんですよね」。
英語ブームに踊らされ、まちがった「国際人」にならないためにおすすめの1冊。
(インタビュー 福光 恵)

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