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愛娘を亡くした中学教師が犯人に自ら下した裁きの結末は?第6回本屋大賞受賞作!『告白』

「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」。中学の終業式のホームルームで、女性教師は生徒たちに愛娘の死の真相を話し始める。そして、事件に関わった人々によってその後の物語が語られていく。処女作にして本屋大賞を受賞した湊かなえさんに作家になるまでの歩みを聞いた。


湊かなえさんの本はこちら

祝★本屋大賞受賞!さらりと描かれる教室風景、読み進むうちに背筋がゾワリ・・・
『告白』
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高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。『告白』に続く衝撃作。
『少女』

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2009年本屋大賞受賞作品はこちら!

本屋大賞2位受賞!「のぼうさま」と呼ばれる殿様、由来はなんと「デクノボウ」
『のぼうの城』和田竜
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本屋大賞3位受賞!忘れるな。ここはスパイ養成学校だ。柳広司の最高傑作!
『ジョーカー・ゲーム』柳広司
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本屋大賞4位受賞!琉球王朝が舞台のめくるめく王朝浪漫!
『テンペスト 上(若夏(うりずん)の巻)』池上永一
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本屋大賞5位受賞!高校ボクシング部を舞台に描かれる蒼い傑作青春小説
『ボックス!』百田尚樹
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2009年本屋大賞特集!
全書店員が選んだ いちばん!売りたい本

湊かなえ特集
湊かなえ特集


プロフィール


湊かなえさん (みなとかなえ)
1973年広島県生まれ。武庫川女子大学家政学部卒。2005年、第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選、07年、第35回創作ラジオドラマ大賞受賞。同じ年、第29回小説推理新人賞を「聖職者」で受賞。08年、「聖職者」を第一章に、その後の顛末までを描いた長篇小説『告白』を刊行。同作が2008年週刊文春ミステリーベスト10第1位、第6回本屋大賞を受賞する。そのほかの著書に『少女』(早川書房)がある。

インタビュー


★『告白』ができるまで

湊かなえさん−−本屋大賞受賞、おめでとうございます!

湊さん ありがとうございます。


−−受賞作の『告白』は湊さんの一冊目の長篇小説ですが、第29回小説推理新人賞を受賞した「聖職者」の「つづき」を書いたことによってできたそうですね。つまり、最初から長篇を書こうと思っていたわけではなかったとか。

湊さん 「聖職者」を書いた時点では、つづきを書くということはまったく考えていませんでした。でも、「聖職者」を書くときに、全登場人物の履歴書というか、この人はどんな家族構成でどんな性格で、ということは考えてあったので、その人たちの視点に移って書けることが楽しくて。つづきを書くことで、この世界をもっと広げていけそうで嬉しかったですね。


−−『告白』は全6章で構成されていますが、それぞれ語り手がいて一人称で心のうちを語っていきます。当然、それぞれの意見が対立することもあるわけですが、どの登場人物に肩入れすることなく、絶妙な距離感だと思いました。

湊さん 書いているときは、語り手になりきっていました。語り手はどの人も自分が大好きで、自分のことを語ることに一生懸命で、ときには自己陶酔的だったり。でも、ほかの章を書くときには、一切ほかの人物に同情しないと決めていました。それと、誰か一人、思い入れのある人物を作らないようにしました。思い入れのある人がいると、ほかの章でもその人に同情的になってしまって、その人にいいように展開していってしまいそうになるんですよ。そうすると全体の構造が偏ってしまうので。書いているときはその人が大好き、でも、ほかの章に移ると突き放す、ということの繰り返しでした。


−−なりきって書くことで発見はありましたか?

湊さん 境界線ギリギリに立つ感覚とか、一線を超える瞬間ってどうなんだろう? とか、自分はそうは考えないけど、この立場ならこう考える人もいるかもしれない、これもありえるかな……と、いろいろな角度から考えながら書いていたので、物事の見方は一つじゃないし、自分が常識的だと思っていたこともそうじゃないかもしれないなあ、と思いました。悪気なく言った言葉でも、後が怖いかも……とか(笑)。


−−相手の心のなかまではわからない。『告白』を読んでいるとそんな怖さを感じますね。作者である湊さんも同じようにお感じになっているのは面白いですね。小説ならではの楽しみというか。

湊さん ウソ話の楽しみ、ですね。


−−語り手のなかには中学生や、中学生の子供がいるお母さんがいますが、ご自身と遠い年齢や性別でも、すんなりとなりきって書けるものなんですか?

湊さん 書いているときには、テレビを見ていても、この番組を中学生が見たらどう思うだろう? とか、そのお母さんだったらどんな意見を持つだろう、とか、よく考えていました。ファーストフード店に行って、中学生の会話に耳をすませたりとか(笑)。


−−「聖職者」はどのくらいの期間で書いたんですか?

湊さん 二週間くらいでしたね。


−−ほかの章もそれくらいの早いペースで書けたんですか?

湊さん この気持ちがあんまり長く続くと、精神的にもよくなさそうなので(笑)、集中力が続くうちに、一気に書きました。


−−物語は愛娘を失った女性教師が担任している生徒のなかに殺人犯がいると語る衝撃的な幕開けから、その関係者が悲劇的な状況に陥っていくさまが登場人物それぞれの視点から描かれていきます。自業自得とはいえ、彼らの転落は劇的かつ悲惨ですね。

湊さん 途中で落ち着く先があると物語が終わってしまいますよね。そうすると、はじめに描こうとしていた本質的なものがぜんぶ飛んでしまうので、そうならないように気をつけました。現実にこういうことがあったら救いも何もないと思いますけど、小説のなかでは極端に書かれることで何か見えてくるものがあるんじゃないかと思います。書いていて心苦しいところもあったんですけど(笑)。


−−第一章の「聖職者」は女性教師が生徒に語りかけるという形式ですが、マジメな語り口のなかにもユーモアがにじむ独特の文体ですね。

湊さん 第一章については、先生が中学生に語りかけるという設定なので、中学生が飽きずに聞けるように笑いを取るところも入れました。あまりガチガチに言ったら心を閉ざすだろうし、ふざけて機嫌をとるようなことをしたらあきれて聞く耳持たないかな、と思って。目の前に中学生がいたら、ということを想像して、どのタイミングで笑わせるかを考えました。


湊かなえさん−−なるほど。中学生に先生が話を聞かせる、という設定のなかからああいうユーモアが出てきたんですね。でも、それだけではなく、たとえば、先生の話の中に出てくる「世直しやんちゃ先生」というネーミングが笑っていいものかどうかという微妙なところもあって(笑)。あそこは、笑っていいところなんですか?

湊さん 笑っていただけたら、と思います(笑)。「やんちゃ」ってよく使われる言葉じゃないですか。もともとは「あばれはっちゃく」みたいなイタズラ好きの少年のイメージなんでしょうけど、いまはけっこうヒドイことでも「やんちゃ」って表現されますよね。「昔、やんちゃして」とか言うと、やったことに対して、言葉の重みがまったく変わってしまいますよね。やんちゃの使い方を間違っちゃいませんか? という、やんちゃを揶揄する気持ちがちょっとありました(笑)。


−−ユーモアは湊さんの小説の隠し味になっていますよね。広島県因島のご出身だそうですが、関西文化圏らしいツッコミ文化の影響なのかな、と思いましたけど。

湊さん それはあるかもしれませんね(笑)。


★空想好きだった少女時代

−−作家デビューされるまでのお話もうかがいたいんですが、子供の頃から本はよく読まれていたんですか?

湊さん 特別に本好きということもなく、田舎でのんびりとすごしていました。ただ、空想をするのが好きで、母と買い物に出かけて「ここに座って待っていなさい」と言われると1時間でもそこにいられる子供で(笑)、同じ場所にずっといることが苦ではなかったです。ぼんやりといろいろ考えているうちに、あっという間に時間が経ってしまうという感じでしたね。


−−目の前のことから空想を広げていたんですか? それとも、ファンタジーのような別世界のことを空想していたんですか?

湊さん 目の前のことから、でしたね。ここで知り合いに会ったら、どんなことを話すのかな、とか。


−−『告白』には人間の心理がリアルに描かれていますが、人間関係を観察したりしていたんですか?

湊さん 実際の人間関係を観察するというよりは、空想のなかでお話を考えるほうが好きでした。好きなテレビドラマが終わると勝手にそのつづきを考えたり。自分もドラマのなかに登場人物として参加していたりとか(笑)。


−−好きだったドラマや映画はありますか?

湊さん 大映ドラマがすごく好きで、よく見ていました。


−−『スチュワーデス物語』とか?

湊さん そうです。『スクール・ウォーズ』とか(笑)。


−−なるほど。シリアスな物語でありながら語り口にユーモアが感じられる湊さんの作風のルーツはなんだろう? と考えていたんですが、大映ドラマがお好きだったと聞いて、ちょっとだけわかったような気がします(笑)。二十代では海外青年協力隊に参加して海外へ行かれたそうですね。どんなことをされていたんですか?

湊さん トンガの女子校で家庭科の先生をしていました。教えていたのは、主に栄養指導です。短大で家政学を専攻していたので。


−−それまではお勤めされていたんですよね。

湊さん 会社を辞めて行きました。やりたいと思ったら、すぐに行動を起こすほうなんです。もともと田舎育ちで、島を出て旅行一つ行くのも大変だと思っていたのが、実際に出てみれば意外と簡単だということがわかって、それからは外に外にと(笑)。


−−その後、ご結婚されて淡路島にお住まいになってから、脚本賞に応募されたり、小説をお書きになるようになったんですね。

湊さん 結婚して時間に余裕ができたことと、30歳になったときに、自分の人生を振り返って、もう一つくらいかたちに残るものを作ったりできないかなあ、と思ったんです。何かできるだろう、と思ったときに、近所に習い事ができるような場所もなかったのと、パソコンが家にあったので何か書いてみようかと思ったのがきっかけです。


−−そのときに書いてみようと思ったのはフィクションだったんですか?

湊さん はい。ウソ話が好きなので(笑)。


−−最初に書いたのはどんなお話だったんですか?  テレビドラマやラジオドラマのシナリオ公募賞で入選したり、受賞されていますよね。

湊さん シナリオはサスペンスではなかったですね。ヒューマンドラマ、というか……。ちょっとジャンル分けしづらいようなお話でした。


−−ミステリ小説を書いてみようと思ったのは?

湊さん シナリオもそうなんですが、まず、自分が書けると思っていなかったし、自分でこれだと決めるほどの得意ジャンルもなかったので、いろんなジャンルに一つずつ挑戦してみようと思いました。小説でいちばん最初に書いたのが青春小説で、二作目が『告白』の第一章にあたる「聖職者」です。


−−最初に書いた小説はどうされたんですか?

湊さん 太宰治賞に応募しました。二次選考までいって落ちちゃいましたけど(笑)。


★『告白』『少女』、次作は『贖罪』

−−『告白』に続いて第二作目の長篇小説『少女』がすでに刊行されていますが、二作目もミステリですね。

湊さん 『告白』を読んだ読者の方たちが読みたいのは、きっとミステリだろう、と思ったのと、ジャンルの模索中に、せっかくミステリというジャンルから出させてもらったので、また書いてみようと思いました。しかもミステリの幅は広いので、そのなかでどんなことができるか考えてみようと思いました。


湊かなえさん−−『少女』は心温まるヒューマンな部分もありますが、同時に現実の厳しさみたいなものがありますよね。

湊さん 町を歩いていて、ときどきふと、いま、自分が発作か何かが起きてパタンと倒れたら、そこのバス停のベンチに座っている女子高生たちは助けてくれるだろうか? と想像してみるんですけど、意外と、「あー、あの人苦しんでる」って、指さされて笑われるだけで助けてくれなさそう、って思うんです。私たちが思っているほど彼女たちは親切じゃないかも知れない(笑)。『少女』はそういう話を書いてみたいと思ったのがきっかけでした。それに、私の高校時代はケータイとかパソコンがない高校時代だったので、あったら便利で楽しそうだけど、なかったから守られていたところもあるのかなあ、と思っていました。ケータイとかパソコンが自分の高校時代にあったら、どんな息苦しさがあったのかなあ、と想像するところからお話を考え始めました。


−−今回、本屋大賞を受賞されましたけど、読者の反響はいかがでしたか?

湊さん 『告白』は、あまり愉快な話ではないので、こんなにたくさんの方に読んでもらえるとは思っていませんでした。こういうお話が好きな方だけが読んでくれればいいと思ったんですが、多くの方に手にとっていただいているのは嬉しいです。
 読者の受け取り方も本当にさまざまで、フィクションを楽しむという方もいれば、現実にあったことのように受け止めて真剣に考えて下さる方もいて。意見を言ってもらえたり、問題提起をしてもらえたり、本を閉じた後にも心に残るような読み方をしてくださっているのはありがたいなと思います。「一冊の本からこんなにもたくさんのことを感じたり考えたりするんだな」ということを発見しました。本ってすごいなあ、と思います。


−−いま、執筆している作品を教えて下さい。

湊さん 「ミステリーズ!」(東京創元社)に3月号から「Nのために」という長篇小説を連載しています。それと、同じ東京創元社から6月に書き下ろしで『贖罪』という長篇小説を出す予定です。償うって具体的にはどういうことをすればいいんだろう? というお話です。


−−楽しみです。今日はありがとうございました!


1行目から物語に引き込まれ、気がつくと最後の1行。ストーリーテリングの巧みさと、驚くべき展開に驚かされた。しかも、この『告白』が作者にとって一作目と知って二度驚き、さらに作者の湊さんとお会いして、ご本人のやわらかい雰囲気が『告白』のビターな世界とかけ離れていることに三度驚いた。『告白』『少女』をまだお読みでない方は、読んでからもう一度インタビューを読んでみて下さい。
【タカザワケンジ】





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