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デビュー作『となり町戦争』から4作目となる短篇集『鼓笛隊の襲来』を。

三崎亜紀さん

を発表した三崎亜記さん。「小説では作家の匂いを出したくない」と語る作家が作品について語った。

 戦後最大規模の鼓笛隊の上陸に、日本中は騒然。鼓笛隊の経路に住む人々はあわてて逃げ出す。しかし、園子の家では50年前の襲来を経験している姑が「騒ぐことはない」と落ち着いているのたが……。表題作の「鼓笛隊の襲来」ほか9篇を収録。奇想とリアリティが同居する「三崎亜記ワールド」はこの作品集でも冴え渡る。三崎さんの「小説作法」を聞いた。


三崎亜紀さんの本


『鼓笛隊の襲来』
『鼓笛隊の襲来』
1,470円(税込)

『となり町戦争』
『となり町戦争』
500円(税込)
※小説すばる新人賞!映画化及び、舞台化もされました。

『失われた町』
『失われた町』
1,680円(税込)

『バスジャック』
『バスジャック』
1,365円(税込)


三崎亜紀さんのオススメDVD


『ロスト・イン・トランスレーション』
『ロスト・イン・トランスレーション』
3,990円 (税込)
※見慣れた東京の風景が少し異世界に、少し新鮮に見えてきます


三崎亜紀さんのオススメCD


※原稿を書く時は、村松さんの20年前のCDを繰り返し聴いています。

『テレビ東京系アニメーション「スケッチブック〜full color's〜」オリジナルサウンドトラック サウンドスケッチブック』
『テレビ東京系アニメーション「スケッチブック〜full color's〜」オリジナルサウンドトラック サウンドスケッチブック』
3,045円(税込)

『オーガニック・スタイル 村松健 森と海のあいだ』
『オーガニック・スタイル 村松健 森と海のあいだ』
3,200円(税込)



プロフィール


三崎亜紀さん (みさき あき)
1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。『となり町戦争』で第17回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。となり町との見えない戦争に参加することになった主人公の奇妙な日々を描いた同作は話題を呼び、ベストセラーに。そのほかの著書に中短篇集『バスジャック』、長篇小説『失われた町』がある。

インタビュー


★長篇、短篇、プロット作りを平行して


−−小説誌の「小説宝石」に連載されていたんですね。

三崎さん 不定期ですが連載していました。1篇書き下ろしが入っています。


−−連載を始めるにあたって考えていたことはありますか?

三崎さん 最初に書いた短篇は今回、収録されていないんです。ちょっと毛色の違うものを書いたので。前回の短篇集(『バスジャック』)では収録した小説の長さがバラバラだったので、今回は30枚程度のものをきっちり集めて、と思いました。


三崎亜紀さん−−前作の『失われた町』は長篇でしたが、短篇と平行して書かれていたということですか?

三崎さん そうですね。私の場合は、午前はこっち、午後はあっち、と切り換えて書くことが多いですね。三日続けて同じものを書いて、三日続けて別のものを、というときもありますけど。細かく言うと、パソコンに短篇と長篇、とりかかっているものを立ち上げておいて、「浮かんだ」と思ったらファイルを切り換えて書くというやり方です。いまは長篇と短篇とプロット作り、3つ平行してやっていますね。


−−面白いやり方ですね。そういうやり方をされている作家さんは珍しいんじゃないでしょうか。
 『鼓笛隊の襲来』についてうかがいたいんですが、今回も一篇一篇、アイディアがあって楽しませてもらいました。以前インタビューさせていただいたとき、アイディアは引き出しの中にたくさんあるとおっしゃっていましたね。

三崎さん アイディア自体はたくさんあるんですが、そのアイディアを自分たちの等身大の日常の中で転がしていって、かつ、いまの時代に書くべきものを一つは背景の中に描きながら、小説に落とし込んでいく。10個あるアイディアのうち、1個が表に出てきたという感じですね。


★埋められない隔たりをテーマに

−−作品の中からいくつか具体的にお話をうかがいたいんですが、まず表題作の「鼓笛隊の襲来」から。まるで台風が来るように鼓笛隊が「上陸」してくるお話です。このアイディアはどこから?

三崎さん 意識の中では大きな台風が来たり、アメリカでハリケーンの被害があったことが関係しているんでしょうね。意識の上のレベルでは、自分たち人間が自然とうまく関わりを持てなくなったことで、かえって被害が生じることがあるんじゃないか、と感じるようになったことですね。その二つを組み合わせて、かつ、教訓的なものじゃないものにしたい。それは何だろう? と考えたときに、鼓笛隊が出てきたんです。


−−三崎さんの小説を読んでいると、かわいいものがよく出てきますね。この鼓笛隊も、かわいいものの一つだと思うんですが。

三崎さん 怖がっているもの、不安に思っているものの実態が、実はそうでもないということはよくあるような気がします。影におびえているというか。鼓笛隊も、鼓笛隊についての知識がなければ、こんなふうに恐れおののく存在に見えるのかもしれないな、という思いはありますね。


−−三崎さんの小説は、ふだん僕らが見過ごしてしまっているようなことを、奇抜な設定を使って、あらためて認識させてくれるようなところがあると思います。三崎さん自身も生活の中で感じてらっしゃることから発想されているんですか?

三崎さん そうですね。違和感を感じて生きている部分はありますね。


−−「彼女の痕跡展」は記憶の不確かさにまつわる物語です。『バスジャック』に収録されている「二人の記憶」も恋人同士の「記憶のすれ違い」とでも呼びたくなる物語でした。三崎さんにとって、記憶もまた、疑わしいものとして、気になる対象なのでしょうか。

三崎さん 実際、政治の世界でも「記憶にございません」という言葉がまかり通っていますけど(笑)、本当に記憶がないのかもしれないな、と思うこともあるんです。同じ事実に直面しても、その場にいた人によって記憶が違うということはあるんじゃないかと思います。
 同じ映画を見ていても、その人が歩んできた人生によって、感動するところや疑問に思うところがまるで違う。それは記憶の問題というよりも、その人が背負ってきた人生によって、感じ方が違うわけで、この隔たりは埋めることができないな、と思うんです。


★読者がどう受け取るかはわからない

−−「象さんすべり台のある街」は奇抜な設定でありながら、なぜかノスタルジックな雰囲気があり、切ないですね。象さんのすべり台が、本物の象であるということが当たり前の世界ですね。

三崎さん 小説の世界では、隣の部屋でライオンが料理をしているということも、前提としてはあっていいんじゃないかな、と思うんです。何の説明もなく。


−−小説ならではの可能性の一つですよね。小説を書き始められた頃からそう考えていたんですか?

三崎さん そうですね。あまりくどくど説明したくない、ということはありますね。ただ、読者が私の小説をどう受け取っているかはまったく意識していません。それは傲慢な意味で言っているわけではなくて、読者がどういう結末を望もうと、こうならざるをえない、こうしか書けないということです。
 『バスジャック』のときに読者にアンケートをとって、気に入った作品を選んでもらったんですが、こちらが予想していた読者のベスト3と、読者が選んだベスト3がまったく違ったんですよ。じゃあ、それで書き方が変わるかというと、そういうことじゃないな、とは思いましたね。


−−「突起型選択装置(ボタン)」は、ボタンがあったら押したくなる、という本能的な欲求をあますところなく描いて、「ボタン小説」というジャンルがあったら一等賞なんじゃないかと思いますけど(笑)。

三崎さん 破滅衝動って、クルマを運転しているときでもあるんですよ。ふっとハンドルを切りたくなる瞬間が。でも、絶対にしませんけど(笑)。そういう感覚は誰の中にもあるのかな、と。


★「三崎亜記」という作家をプロデュース

三崎亜紀さん−−三崎さんは一人称でお書きになる場合、男性、女性、どちらでも苦もなく書いていらっしゃる感じですね。

三崎さん 今回に関しては、9篇あるなかで、男性、女性のバランスを取ろうとは意識していましたね。男性4篇、女性5篇になりましたが、毎回、それまでの数を数えて「次は女性で書こう」と思いながら書いていました。たしか、1篇、男性と女性を入れ替えた話がありました。


−−それはなぜですか?

三崎さん 作家の匂いを出したくないということだと思いますね。三崎亜記という作家を知らない読者がこの短篇集を読んで、この作家は男か女か、結婚しているかしていないかがわからないくらい、匂いをしないようにしたいと思いましたね。


−−三崎さんが自分自身でいちばん近いと感じる主人公は誰ですか?

三崎さん 男だからなあ……。「突起型選択装置(ボタン)」の主人公かな。


−−「作家の匂いを出したくない」とおっしゃいましたが、三崎さんご自身の心の中に「目立ちたい」という気持ちはないんでしょうか?

三崎さん 目立ちたいということと、自分の内面を見せることとは違うと思うんです。たとえば、自分が好きな曲を小説の中で登場させるというのは、自分の中ではタブーです。出すとしても、わからないようにしか出さないですね。


−−それは三崎さんの作家としての美学ですか?

三崎さん 美学じゃないですけど(笑)、私の中での決まり事ですね。


−−「三崎亜記」というペンネームそのものが男性か女性かはっきりとはしていないですね。実人生と作家の「三崎亜記」は別の存在ですか?

三崎さん 「三崎亜記」という作家をプロデュースしているという感覚はありますね。「三崎亜記はこれはやらないでしょ」とか「三崎亜記的にこれはない」って感じで編集者と打ち合わせをすることはありますよ(笑)。


−−そのほうがラクなんですか?

三崎さん そうですね……。せっかく「三崎亜記的ワールド」的なものがあると、みなさんにおっしゃっていただけるので、それを自分から捨て去ることもないだろう、と思っているだけですけどね。


−−「三崎亜記的ワールド」がこれからどんな展開を見せていくのか、ますます楽しみです。今日はありがとうございました。


三崎さんにインタビューするのは二度目。前回は『バスジャック』のときだった。今回お話をうかがって、あらためて三崎さんの描く世界が、僕らの生きる世界と薄皮一枚隔てた別の世界であることを実感した。三崎さんの小説を楽しんだ後に、この世界を見る眼は、ほんの少し違っているはずだ。
【タカザワケンジ】





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