楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

派手な殺人事件ばかりがミステリだと思ったら大間違い。心がほんのり温まるミステリもある……。『十八の夏』で第55回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞している光原百合さんは、日常の中のささいな謎をめぐるミステリの名手。2年半ぶりのミステリの単行本となる新刊『最後の願い』では、劇団を旗揚げするために東奔西走する役者兼演出家を探偵役に、個性的な登場人物が生き生きと描かれている。それぞれの短篇の中で起こる奇妙なできごとの真相は?果たして劇団は無事結成されるのか?最後の1ページまで予断を許さない面白さだ。

今週の本はこちら

光原百合さん『最後の願い』『最後の願い』
日常に潜む謎の奥にある人間ドラマを、優しい眼で描く青春ミステリー
680円(税込)
ご購入はコチラ

光原百合さんの本!

扉守 潮ノ道の旅人『扉守 潮ノ道の旅人』
イオニアの風
イオニアの風
木洩れ日はいのちのしずく 詩集
木洩れ日はいのちのしずく 詩集
光原百合さんの本をもっと探す!

プロフィール

光原百合さん (みつはら・ゆり)
1964年広島県生まれ。大阪大学大学院修了。詩集や絵本、童話を執筆するかたわら、98年に初のミステリ作品『時計を忘れて森へいこう』(東京創元社)を上梓。2002年、「十八の夏」で第55回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞(『十八の夏』双葉社文庫に収録)。そのほかの主な著書にミステリ連作集『遠い約束』(創元推理文庫)、掌編小説集『星月夜の夢がたり』(文藝春秋)ほかがある。

インタビュー

−−最後の願い』は、自分たちの劇団を旗揚げしようとする二人の男性が、自分たちの劇団に参加して欲しい人材をスカウトしていきます。そこで事件が起きていくわけですが、お芝居はもともとお好きなのですか?
光原さんここ4年くらい、小劇場系でものすごく好きな劇団がいくつかできてしまいまして、お芝居を見に通っているうちに、こういう人たちが登場するミステリを書きたいなあ、と思うようになったのが執筆のきっかけですね。  劇団ものの小説って、これまでもいろいろな方が魅力的な作品をお書きになっているので、「私に今更何が書けるかしら」というためらいはあったんですが、劇団ができるまでを描いた小説はあまり例がないんじゃないかと思い、踏み切りました。
−−短編を1つ読み終えるごとに劇団の仲間が一人増えている。そんな構成が楽しいですね。 素でできた小説だったんだなあ、と気づきました。
光原さんもともと「仲間が集まってくる」話が好きなんです。NHKの『新八犬伝』っていう人形劇がありましたよね。あんなふうにだんだんと仲間が増えてくる話にわくわくします。『最後の願い』も書き終わってから、日常の謎のミステリと、劇団ものと、仲間が集まってくる話という3つの要
−−『十八の夏』に収録されている短編小説「兄貴の純情」にも役者志望の「兄貴」が登場しますね。
光原さん実は、『最後の願い』の中に、「兄貴」の名前もちらっと登場します。どこに登場するかはぜひ読んで探していただきたいんですが(笑)。光原作品をよくご存知の方にはわかってもらえるんじゃないかと思って、ちょっと遊んでしまいました(笑)。『十八の夏』の「あとがき」で挙げた劇団のお名前は、今回の「あとがき」でも書かせていただいてます。そのうちの一つの劇団のお芝居を一昨日、東京で見たところなんですね(注:インタビューは東京で行われました)。
−−ミステリというと、殺人事件が起こるのがお約束です。ところが、光原さんの作品は他人にとってはささやかでも当人にとっては深刻な「謎」が解けることで、登場人物が幸せになるミステリですね。
光原さん謎が解けることで誰かの人生が救われるミステリが私の理想なんです。影響を受けた作家はたくさんいますが、根っこのところにあるのはチェスタトンの「ブラウン神父」シリーズです。ブラウン神父は事件を解決することで罪人を裁くのではなく、関わった人たちの人生を救う。初めて読んだのは大学時代ですが、ミステリってこういうふうにも書けるんだと思いました。チェスタトンからは大きな影響を受けましたね。
−−ストーリーやキャラクターなどは固めてから書いていますか?
光原さん短篇1話1話は固まっていないと書きだせないんですが、作品集全体の構成は書きながら考えています。『最後の願い』も、途中でいったいどうなることかと思いました(笑)。劇団ができるまでにいろいろな人が登場するというところだけは考えていましたけど。
−−『最後の願い』の登場人物は、それぞれに個性的で生き生きしていますね。なかでも、探偵役を務める「度会(わたらい)」は多面的で、不思議な魅力を持っています。
光原さんこれ、言っちゃっていいのかな? 「度会」と「風見」については、実はかなりはっきり当て書きしました。好きな劇団の役者さんに演じてもらうとしたら、と考えながら書いた部分があって。劇団の話なので、実際の劇団そのままと思われたら困るんですが、あの役者に演じてもらったらハマるなあと考えながら書いたのは確かです。
−−『最後の願い』はミステリであると同時に、演劇がモティーフになっているということもあって、一種の役者論として読む楽しさもありました。他人を演じるという俳優の不思議さを感じました。演じることを通して謎を解いていくというところがユニークですね。
光原さん私が好きな劇団は小さい劇団なので、打ち上げでいっしょに飲んだり、お話をうかがう機会も多いんです。そういう時に、役者としての心構えや体験談を根ほり葉ほり聞いて(笑)、それが小説に生きていると思います。劇場に足を運んだことがない方にも、お芝居って面白そうだなと思ってもらえたら嬉しいです。
−−『最後の願い』には個性的なキャラクターがたくさん出てきます。このあとのお話も読みたくなりますね。
光原さん最初は、探偵役の度会、風見のキャラクターだけが通して出てくれば十分かなと思っていたんですが、出てきたキャラクターが黙っているようなキャラクターじゃないんですよね(笑)。何か言いたがるんです。何か言わせないと不自然なくらいアクの強いキャラクターばかりなので、続編を書く時には集団探偵になっちゃうのかなと、ちょっと不安なんですけど(笑)。
−−それはそれで面白そうですけど(笑)。ところで、光原さんのこれまでのミステリ作品というと『時計を忘れて森へいこう』(東京創元社)、『遠い約束』(創元推理文庫)、『十八の夏』(双葉社文庫)。ほかの作家の方と比べると寡作ですが、やはり大学で先生をされているから執筆時間がとれないという事情があるのでしょうか?
光原さん大学教員はふつうのフルタイムのお仕事よりは時間的に融通が利くんですが、それでも最近は忙しくなってきて、執筆時間がなかなか取れないのは事実ですね。毎日こつこつ書くのが一番いいとはわかっているんですが、集中しないと書けないところもあって、土日にまとめて書いています。
−−大学ではどんなことを教えていらしゃるんですか?
光原さんもともと専攻が英文学なので、英語を教えています。そのほかに、文芸創作のゼミを持っています。うちの学部は卒業論文として小説を提出できるようになっているんですが、ちょうどこの春に第一期生が小説を提出したところなんです。1年かけて作品を練り上げていく過程で、容赦なく批評もしましたが、それぞれに面白いものができました。1人、本格ミステリを書いてきた生徒がいるんです。それで、さんざん、これは伏線が甘い! とか動機が弱い! などと批評して。楽しかったですよ(笑)。
−−なるほど、さすがにミステリには厳しい(笑)。では、光原さんの今後のお仕事の予定を教えてください。
光原さん書き下ろしをお約束してずーっとそのままになっている本がありまして、今年はそれを書く予定です。かなり進んではいて、あと1作書けば本になる連作集と、半分強くらい書いてそのままになっている初の長編があります。ミステリではなく、2冊続けてファンタジーになると思います。
−−そちらも楽しみです。今日はありがとうございました!
作品数こそ少ないが熱烈なファンから支持されている光原百合さん。単行本にする時には文章を見直して細かい部分に手を入れるというこだわりが「光原ワールド」を支えているのだろう。『最後の願い』はミステリとしての面白さのみならず、上質な人間ドラマとしての読み応えも十分。光原作品に触れたことのない読者にもぜひおすすめしたい作品だ。【インタビュー タカザワケンジ】

このページの先頭へ