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他人事ではない現代日本の問題を水島ディレクターが語る話題のドキュメンタリー番組を深く読む『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』

 2007年度新語・流行語大賞のトップテンのひとつに選ばれた【ネットカフェ難民】。この単語が表す正しい“意味”を、我々は理解しているだろうか。ネットカフェで寝泊まりし、ワンコールワーカーと呼ばれる携帯電話のメール一本で日雇い派遣労働に従事する人々の問題を“ネットカフェ難民”という言葉で最初に報道したのは、日本テレビのNNNドキュメント(http://www.ntv.co.jp/document/)「ネットカフェ難民〜漂流する貧困者たち」(2007年1月28日放送 水島宏明ディレクター)だった。その後、ニュースやその他のテレビ局でもこの問題を取り上げ、政府も調査や対策に動き出したが、反面、あまりにもショッキングな内容に「ほんとのことなの?」「本人の問題じゃないの?」と突き放す反応もあった。だが、実はそこには、現在の日本が抱える、「貧困」「虐待」「就労」などの、さまざまな問題が淀んでいる。
日本テレビは、報道番組の中だけでは伝えきれない取材の“真実”や“裏側”、報道の“その後”を、血の通ったドキュメントとして書籍にまとめた「日テレノンフェクション」シリーズを立ち上げ、その一冊目として『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』を発売した。貴重な情報がまとめられた本書は、読むと、ただショッキングだっただけの内容が、他人事ではない身近な問題として胸に迫ってくる。著者の水島宏明ディレクターにお話を聞いた。



水島宏明さんの本


『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』
『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』
1,000円(税込)

『母さんが死んだ しあわせ幻想の時代に』
『母さんが死んだ しあわせ幻想の時代に』
1,890円(税込)


もやい・湯浅誠さんの本


『貧困襲来』
『貧困襲来』
1,575円(税込)

『働けません。「働けません。」6つの“奥の手”』
『働けません。「働けません。」6つの“奥の手”』
1,260円(税込)

『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル あなたにもできる!』
『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル あなたにもできる!』
1,260円(税込)


その他関連本


『生きさせろ! 難民化する若者たち』
『生きさせろ! 難民化する若者たち』
1,365円(税込)

『ワーキングプア 日本を蝕む病』
『ワーキングプア 日本を蝕む病』
1,260円(税込)


プロフィール


水島宏明さん (みずしま ひろあき)
1957年 北海道生まれ。東京大学法学部卒。札幌テレビを経て、日本テレビ放送網に入社。現在、「NNNドキュメント」チーフディレクターとしてドキュメンタリーを制作する一方、解説委員として「ズームイン!SUPER」の新聞解説コーナーなどに出演している。

■関連リンク
NPO自立生活サポートセンター・もやい:http://www.moyai.net/
首都圏青年ユニオン:http://www.seinen-u.org/
派遣ユニオン:http://www.zenkoku-u.jp/hakenunion/hakenunion-top.html

インタビュー


水島宏明さん−−「ネットカフェ難民」という言葉は知っていましたが、ここまでの状況だということを、拝読して初めて理解しました。本書の冒頭にも書かれていますが、水島さんが「ネットカフェ難民」と名付けた経緯を教えてください。


水島さん 私はニュースの特派員として、10年近く海外赴任を続けてきました。主にヨーロッパに駐在し、戦争の取材を通じて、ユーゴやルワンダの内戦などの、難民キャンプや家族がバラバラにされるような現場を見てきました。特派員として、そういった悲劇を伝えることを重要なテーマのひとつとしてきました。
日本に戻ってきて、ドキュメンタリーのセクションに配属されたのですが、そこで貧困の問題を取り上げようとした時に「ネットカフェがすごいことになっている」と聞きました。自分自身が入ってみたら、確かに、低賃金で働く人がアパートの家賃を払えず追い出されたとか、多重債務者になって家を追われ、ネットカフェで生活しているという実態があったんです。しかもそこには、単なる貧しさだけではなく、周囲と寸断された孤独、明日の見えないその日暮らしの心の有り様といいますか、明日はともかく一週間後、一カ月後の自分のことなんかまったくわからない、といった精神状態の人たちがいて。これは、かつて自分が取材した難民キャンプと似ている。そう、感じたんです。
この人たちをどう表現すればいいのか。いろいろ悩みましたが、やはり“難民”という言葉でしか表せないと思いました。「ネットカフェ」という新しい時代のツールと、貧困に追い立てられた人々が、ネットで仕事探しをしながらより孤立した状況になっている、そのギャップを「ネットカフェ難民」という言葉で、強烈に印象づけられるのではないかと考えて、報道番組のタイトルにしました。


−−難民キャンプの現場を見ていらしたことから、原因はぜんぜん異なりますが、人間としてギリギリの状況に、否応なしに追い込まれている人々が重なったわけですね。たしかに、いろいろな問題が複雑に淀んでいるように感じます。

水島さん 海外の難民キャンプは、戦争といった物理的な状況があるのですが、現代日本の問題は、経済状況、就労、教育、家庭の問題などのいろいろな貧困にかかわる問題が折り重なっているのだと思いますね。
 

−−格差社会の問題など、数字や統計から分析する本もありましたけど、この『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』は、取材された人々の姿が浮かんでくる、血の通ったドキュメンタリーだと思いました。テレビ番組の取材には、ご苦労や多大な時間がかかったと思いますが……。

水島さん     ディレクターの仕事というのは、テレビ番組を作ることですから、取材に応じてくれる当事者を探すことが最初にでてきます。そういう人を見つけるために、およそ一カ月、まずネットカフェに張り込んで、その後も、取材を重ねるために継続して通いました。結局二カ月以上、週に何日もネットカフェやハンバーガーショップに通って、宿泊しながら見つけた人に話を聞いたり、彼らの生活を撮影したりということをしました。
そこで知り合った、本の中にも登場するシュウジくんやヒトミさん、ジュンさんたちとは、番組でインタビューを撮らせてもらった後も「どうしてる?」といったやりとりが続いています。本にも書きましたが、シュウジくんは、その後、長野の工場に仕事をしにいくのですが、すぐに「え?」というようなことがあって戻ってきたり。 そういった単なるテレビのドキュメンタリーでは伝えきれない“裏側”や“その後”を見ていくと、瞬間的にはネットカフェ難民として生活している彼らの生活が、そこから抜け出そうとしても抜けられない、極めて不安定な構造の中にあるという現実が見えてくるんです。家を追われると住所がないので、就職できない。日銭を稼ぐための日雇い仕事は低賃金で、そういう生活は出費も多くなる。寮付きの派遣の仕事をしようにも、結局、期限が限られている上、保証もない。しかも、先方都合で簡単に解約されてしまったり。
彼らとやりとりするうち、「なるほど、これは抜けようがない」ということを実感したわけです。
彼らがほんとうに崖っぷちの状態の時には、支援団体を紹介するといったこともやったものですから、それを通して、自分自身も社会の構図を勉強させてもらっているようなものですね。
ネットカフェに泊まると身体的にはキツイですが、いろいろ見えてくるものがありました。深夜のバーガーショップなんかにも、ネットカフェと同じように、大きなバッグを持って寝ている常連の人たちがいたりするし。


−−日本の社会構造の変質が、いろいろ見えてきたわけですね……。それで、この問題は継続して取り上げていかれるのですか?

水島さん     そうですね。取材を続けて、4月か5月には「ネットカフェ難民」の第三弾を放送する予定です。彼らを支援する行動、たとえば非正規雇用の人たちの労働組合や、ホームレス支援活動をやっている人たちが互いに連絡を取り合いながら、個別のケースに対応しているのも取材しています。1月11日には、たくさんの問題があった日雇い派遣の大手グッドウィルに業務停止命令がだされましたが、そういったことも取材しています。


−−本の中には、それらの支援活動もかなり具体的に紹介されていますね。そういった支援団体とつながれるかどうかというのも、抜け出したい人にとっては大きなちがいだと思いました。

水島さん     「NPO自立生活サポートセンター・もやい」を核にして、「首都圏青年ユニオン」や、「派遣ユニオン」などの支援団体がつながって、「もやい」代表の湯浅さんを核に、有機的に連絡をとりあって活動しています。


−−メディアで報道されることがきっかけとなって、互いに手をさしのべる活動につながったり、政府の調査や対策になったように感じました。やはり言葉として「ネットカフェ難民」と、はっきり発信されたことでインパクトがあったんでしょうね。

水島さん     そう思います。おそらくちがう言葉であれば、これほど注目されたり、厚労省が動いたりすることはなかったのではないかと思います。この言葉で、ネットカフェにいる貧しい人々に対する認識ができて、政府も対策を迫られているわけです。また、知り合いからも「息子が日雇い派遣で仕事をしているけど、将来が心配だ」なんていう話がでるようになって、おそらく、いろいろな人が身近な問題として感じるようになったと思います。


水島宏明さん−−本の中には、「もやい」の湯浅さんの著書『貧困襲来』に述べられている貧困に陥る原因の「五重の排除」が紹介されていますね。教育のことや家庭の問題など、誰でもひとつやふたつは自分も近い状態なんじゃないかと思いあたって、身につまされます……。子どもたちの教育格差なども、ある意味、教育の貧困ではないかと思えてきて、現在の自分たちに関わってくる多くの問題が、ここに集約されているとまで思いました。

水島さん タイトルにも、あえて「貧困ニッポン」という言葉を使っています。よくよく社会を見渡すと、「貧困」という言葉でとらえ直すと本質がはっきり見えてくることがたくさんあることに気がつくと思うんですよ。
たとえば、都内の足立区で、教師が学力テストの不正をやった問題がありましたが、あれも「貧困」という言葉で見直すと、原因は学校や地域や家族だけではなくて、世代で引き継がれていく「貧困」が根底にあるのではないかと。ただ「足立区でヘンなことが起きている」というだけではなくて、自分たち全体の、次の世代の日本人がどこにいくのか、どうあろうとしているのか、そんなことが見通せるようになるのではないか、と思います。給食費滞納や年金問題などにも、同じような背景があると思いますね。
ヨーロッパ、たとえばイギリスなどでは、どこかで餓死事件や、無理心中、介護疲れなどの事件があると、貧困の問題として語られ、テレビでも与党・野党の論客が議論します。しかしどうも、日本では、なかなかそういう形にならない。本質的な議論につながらないで、終わってしまう傾向があるな、というのも問題ですね。


−−テレビ番組もそうですが、新聞などでも、解決方法を検証するような論説がなかなか表にでてきませんね。感想を言い合って、感情的なところで終わってしまう。国民性の問題なんでしょうか?

水島さん    国民性というよりは、ヨーロッパと決定的に異なる点は、信頼できる知識人層がいないことだと思います。戦後なんかには、日本にもいたんでしょうけどね。
マスコミの問題もありますが、たとえば、ドイツにいた時に、ネオナチの暴力事件に対して、教育界の人々が立ち上がって学校でキャンペーンをやったり、テレビで訴えたり、当時の大臣たちが先頭に立って、鎮魂のデモをやったりしていました。東京でいえば銀座みたいなところで、静かにデモ行進をして、市民も静かに参加する。そういった知的なつながりがあって、人間にとってなにが一番大事なことか、共有しあえる土壌があったんです。でも、日本ではそうはならない。ネットカフェ難民の問題も「自己責任でしょ」なんて言われてしまう。

人間が人間らしくある、その基本が家族であったり、教育であったりすると思いますが、それらが変化している上に、さらに大きな要素として、働く場・働き方の急変が問題としてあると思います。その恐ろしさは、ネットカフェ難民を取材してはじめてわかったことですが、くっきり現れているのが“日雇い派遣”という形ですね。みんなが単なるコマとして、日々異なる、単純な肉体労働を、何年も繰り返し、結果、賃金もあがらなければ、スキルアップにもつながらない。ただ疲弊していくだけ……。これは何につながるのだろう、と。
たしかに、彼らとちょっと話をしただけでは、社会性が乏しいように思える人もいたりするんですが、そうなってしまったのは「自己責任」ではなく、背景に、蓄積された社会構造の問題や、働き方の問題があるわけです。我々など、就職してから会社や組織の中で働きながら学んだこともたくさんあるわけで、そういった社会人になっていく経験を欠如してしまった、それゆえのどうしようもなさ、救いようのなさがある。ほんとうに、なんとかしないといけないものだと思います。


−−社会的な親がいない状態なんですね。ヨーロッパの知識人層のかわりに、昔の日本では、ご近所のコミュニティなどがあって、ある種の社会的な親がわりをつとめていたようにも思いますが。

水島さん あまり単純化できないかもしれませんが、地方の商店街がシャッター通りになっているなんていうことも関係しているのかもしれませんね。会社じゃなくても近所の床屋で修行するとか。そういった地域の産業や就労がなくなってしまって、完全にシステマチックな、マニュアルだけのコンビニやファーストフードばかりが増えて、失われたものも多いのかもしれません。


水島宏明さん−−そんな中で、前述の支援活動など、建て直す動きが見えているようにも思いますが。どうでしょうか、これからの日本は。

水島さん    難しい状況だとは思います。動きが見えてきたといっても、「抵抗」でしかないので……。日本という国は、戦後直後をのぞいて、貧困の問題に対して、政治や政府が熱心でない時代がずっと続いてきたんですよ。少子化問題にしても、児童手当を増やそうというような発想しかない。イギリスのように、ニート対策や就労支援、義務教育の延長など、いろいろな対策をやろうという複合的な動きにはならないんです。実は、教育と雇用、そして家庭の問題というのはつながっているわけですが、全体を考えず、もっと近視眼的な、道徳教育が足りないからだ、などといった表面的な議論にしかならないんです。
せめて、政府や行政がおかしなことをやろうとした時に「それはちがう」と声をあげて抵抗する、まだそういった段階ですね。


−−日本人は、同質じゃないとイヤだといった感覚があって、「格差」があるということを認識するまでにも時間がかかりました。ましてや貧困があり、それが「自己責任」ではないということを、社会全体が認識するにはまだまだ時間がかかりそうです。取材を通して、新たに見えてきた問題などはありますか?

水島さん    いくつもありますが、たとえば、支えるシステムがないということがありますね。本にも登場するヒトミさんの場合、家族からの虐待や長いネットカフェ生活で、精神的な状態もよくない時があるんです。そういった人をどこにつれていけばいいのか。生活保護を受ける流れまではなんとかできても、受けたらそれで大丈夫、じゃなくて、誰かが見ていてあげないと危ない。病院にしても、虐待関係をケアできる専門病院がどれだけあるかというと、まだまだ少ない。通院したとしても、薬を処方されるだけ。定期的に通っていても、その間に状態が悪くなるとどうしようもない。かといって、虐待されていた親元には帰れない……。本人は自立したいし、就労意欲があっても、危ない状態を支えてくれるシステムや場所がない。
戦後すぐの失業者が多かった時代には、ケースワーカーなども、現場力があったというか、ほんとうの意味でのケースワークをしていたんでしょうけど、いまは、個別に対応できないし余力もないんでしょう。現場の第一線でやっている人たちの中には、そういった現状に気がついている人もいますが、政府全体は、生活保護そのものをどうすべきかという問題の入り口で止まってしまっています。一人一人、個別のケースをどう支えていくか、助けていくかということを考えていくと、いろいろなものが欠けていると思います。
国からはまだ、具体的な対策がでてきませんが、東京都などは、4月以降の予算で、就労支援や職業訓練、生活建て直しの資金援助などを打ち出してます。対症療法としては、今、できるベストな方法かもしれません。
労働環境に関しても、厚労省は研究会を設けて、派遣制度について今後も検討していくといっています。
まだまだたくさんの問題はあるとは思いますが、今後もしっかりと、考え続けていかないといけないことだと思いますね。対症療法ではなく、根本的な貧困対策こそが、求められています。


−−根本的な解決につながるよう、ぜひ、今後とも継続して報道してください。本日は、ありがとうございました。





【インタビュー 波多野絵理】








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