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脳を喜ばせたら、何かが起こる!脳科学者 茂木健一郎さんが解き明かす38万部のベストセラー 『脳を活かす勉強法 奇跡の強化学習』 と『すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト茂木健一郎さん

 自分のものでありながら謎だらけ……脳に対して、誰でもそうした思いを抱いているのではないでしょうか。“クオリア”(感覚の持つ質感)というキーワードを軸に、そんな脳と心のかかわりを研究する茂木健一郎さん。脳の面白さを独自の視点でわかりやすく綴った著書が人気を集めるだけでなく、文芸評論や美術評論、さらに現在、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のキャスターとしても活躍中の茂木さんに、最近作2冊、そしてご自身について伺いました。


茂木健一郎の本


『脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」』
『脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」』
1,155円(税込)

『すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト』
『すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト』
714円(税込)

『欲望する脳』
『欲望する脳』
735円(税込)

『プロフェッショナル仕事の流儀失敗の数だけ、人生は楽しい』
『プロフェッショナル仕事の流儀失敗の数だけ、人生は楽しい』
1,365円(税込)

『プロフェッショナル仕事の流儀人事を尽くして、鬼になる』
『プロフェッショナル仕事の流儀人事を尽くして、鬼になる』
1,365円(税込)

『思考の補助線』
『思考の補助線』
756円(税込)

『それでも脳はたくらむ』
『それでも脳はたくらむ』
735円(税込)

『脳と日本人』
『脳と日本人』
1,800円(税込)

『脳と仮想』
『脳と仮想』
460円(税込)

『科学のクオリア』
『科学のクオリア』
680円(税込)

プロフィール


茂木健一郎さん (もぎ けんいちろう)
脳科学者。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授、東京藝術大学非常勤講師。 1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院物理学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。2005年『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『脳内現象』(NHKブックス)、『意識とはなにか』(ちくま新書)、『感動する脳』(PHP研究所)、『脳と創造性』(PHPエディターズ・グループ)など多数。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008のアンバサダーも務める。

インタビュー


−−まず、すでに大ベストセラーになっている『脳を活かす勉強法』についてお聞かせ下さい。この本の中で、現在、脳科学者としてご活躍中の茂木さんが 「小学校から大学まで、入学当初は秀才とはほど遠い存在だった」と書かれていたのが意外でした。子供時代を振り返って、最初から「勉強ができる子」でなくてよかった…と感じることはありますか?


茂木さん 小学校に入った初日には、足をぶらぶらさせていたり、頬杖をついたりしていて先生から注意されたことがあります。最初から勉強ができる子どもというよりも、小学校の時は、いろんな遊び、クラブ活動などの経験を経ながら、その過程で培ったエネルギーを勉強に向けることができたのがよかったと思います。机に向かって行うことだけが勉強なのではなく、先生や同級生とのかかわりの中で、他者との関係において自分を磨いていくことが大切です。今の子どもたちは、テレビゲームで主に遊んでいます。テレビゲームを否定するつもりはありませんが、最初から与えられたルールの中ではなく、自分たちでルールをつくって遊ぶ工夫すること、このことがとても重要で、脳科学ではメタ認識といいます。最初から「勉強ができる子」として机にばかり向かっていたのではなく、山に蝶を探しに出かけてなかなか家に帰ってこなかったり、いろんなルールを子ども同士で創意工夫をしながら遊んだことが記憶に残っています。大人になってからも与えられたことをこなすだけではなく、新たなものを創造しようという意欲につながっていると思います。


茂木健一郎さん−−ご自身はご両親に「勉強しろ」といわれたことがないそうですが、子どもを持つ読者に対して、「勉強するのがうれしい」「うれしいから勉強する」サイクルを繰り返すような環境を作るためのアドバイスを頂けますか? またご自身の子育てのモットーは何でしょう?

茂木さん 私が具体的に行っているのは、『Nature』などの英文雑誌を家の中に置いたりしていることです。それに目を留めた子どもたちは「海水温が2度上昇したらサンゴ礁はこうなるんだってね」と英文が理解できているわけでもないと思うのですが言ってくるのです。親が「勉強しろ」と言っても、子どもは親の背中を見て育ちます。また、私自身、小学生の時、両親を通して昆虫の専門家にお会いすることがあり、以後の科学への興味につながりました。できるだけ早い時期に、専門家や本物といえる人に子どもを触れさせてあげることが大切です。また、できたときにすぐに「ほめる」ことも大切です。「勉強しろ」という強制ではなく、自然に子どものやる気を萌芽させ、その場で「ほめる」という行為を通して、子どもの「勉強が楽しい!」というサイクルが回っていくのです。子育てのモットーとしては、「子どものことを見てあげているよ」という、安全基地(セキュアベース)を築いてあげることを第一としています。この安全基地を子どもが感じられれば、何事にもチャレンジしていく気持ちを子どもが育んでいくことが可能となります。


−−「日本とアメリカの文明力は明治維新の時の日本とヨーロッパくらい差がついている。なぜなら学問に対する情熱というものの成り立ちが違うから」と述べられているのが印象的でした。ゆとり教育の影響で日本の子供の学力が低下しているといわれます。偏差値教育の弊害が叫ばれて改善を目指した結果、学力低下を招いたことで、教育の現場が大きく揺れ動いていますが、子どもたちが学問に情熱を持つために、何が一番必要なのでしょうか?

茂木さん 本物の学問に対する情熱をもつことが大切です。私は以前、日本の受験教育に否定的な考えをもっていましたが、今では日本の受験教育も本物の学問につながるための入り口だと考えるようになりました。その先にあるものを見なければならない。大学入試において、例えば物理という科目で考えた場合、その先には、相対性理論や量子力学などの深い学問の世界があります。偏差値教育が悪いというよりも、その先にある深遠な学問の世界を探求する楽しみを子どもたちに伝えることが大切です。私は小学生の時に、知り合いの人に「微分積分という学問があってね、微分積分を使えば壺の体積もわかるんだよ」と教えてもらい、高校で微分積分を勉強することが楽しみだった記憶があります。手元にある教科書に書かれていること以上の「知の喜び」「知への好奇心」をかき立ててあげることが大切です。また、子どもたちが学問に情熱をもつためには、私も含めた親世代の人たちが、勉強をやっていて楽しかった経験や気づきを、どれだけ子どもたちに伝えることができるかが大事だと思います。自分が楽しんだことがないのに子どもに楽しめ、と言うのでは説得力がありません。趣味の延長でもよいのです。「お父さん、お母さんは、何歳になっても学ぶことを楽しんでいるな」と、子どもに示してあげることが、子どもが学問に情熱をもつために今すぐできることではないのでしょうか?


−−毎朝、起きるとすぐにブログを執筆したり、2、3分の時間も無駄にせず、集中して何かをやられている茂木さんの日々を読ませて頂くと、脳の動きを止めずに、常にオンの状態にしておくことが、脳を鍛える鍵ではないかと感じました。

茂木さん オンの状態では、脳に負荷をかけることが大切です。ただこれもできないことをやるのではなく、少し無理めに負荷をかけて達成できた時に、「喜び」をもつことです。その「喜び」がドーパミンを放出させるわけです。また、小さなゴールを設定していくのも脳にはよいです。私がいつも行っているのは、論文の執筆などでも「何時までにこれをやる」と「自分と契約する」のです。もちろん「自分との契約」が果たせないときがあります。しかし、ここで落ち込んでしまっては次に進めなくなってしまいます。少し無理めの負荷をかけながらそれを達成する行為を繰り返すことが大事です。休むときは休む臨機応変さも大切です。私自身は、ずっとオンにしているわけではなく、親しい仕事仲間との飲み会なども大切にしてオンとオフの切り替えを行っています。その代わりタクシーに乗っているときなどは、瞬時にパソコンを開き、執筆作業やスケジュール管理を行うなど、オンとオフを常に一瞬で切り替えるようにしています。また、ネクタイは普段締めていませんが、正装が必要な会議に出席する時などは、ネクタイやワイシャツをカバンに入れ、服装を着替えることにより、オンとオフの切り替えを行っています。


茂木健一郎さん−−インターネットの魅力についても述べられていますが、インターネットでどこでも、誰でも大量の情報が得られる今、私たちの行動は自然と受動的になっているのでは…という不安にかられます。「学習というのは自分で発見するしかない」と述べられていますが、受身にならず、情報の洪水に溺れずに、常に発見できる自分でいるために大切なことは何でしょう?

茂木さん 自分自身の内面を見つめ、本当のことは自分の中にあると思うことです。インターネットは外からの情報ですが、自分の関心のあること、夢は何かと自分の内側と対話することで、情報の洪水に溺れずに、自分に必要な情報を取捨選択できるようになります。本にも書いていますが、今はインターネットで最新の論文もインターネットで読むことが可能です。ただ、ここで言っておきたいのは、取捨選択するという行為は受動的です。しかし、論文を読む行為は、自分でインターネットを検索して読むという能動的なものです。誰もが、自分と対話し、自分に何が必要かがわかれば、情報を能動的に活用できるようになります。現代は、インターネットであらゆる情報が入手できます。能動的な人にとっては、これ以上ない環境にあります。そのためにも、脳を喜ばせて、自分から学ぶ主体的な人になる必要があります。


−−『すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト』では、音楽を聴く時、脳で何が起こっているのか…というアプローチがとても新鮮でした。音楽についての「クオリア」を考える、というテーマは、以前から書きたいものだったのですか?また、なぜ芸術の中で「音楽」を選ばれたのでしょうか。

茂木さん 音楽は純粋な感情、質感、世界観といったもののクオリアを表現できるものです。最も生命に近いものというか。音楽の与える感情というのは非常に深いものです。以前から音楽に強い関心を持っていたので、ぜひ音楽について考えてみたいと思ったわけです。
僕は今では自分のロジックを組み立てることで素晴らしいことをやろうと思えていますけど、青春期には音楽家に嫉妬していました。「ああ、俺はなんで作曲をやらなかったんだろう」って。


−−私たちの脳に「音楽に耳をすます」ことが与えてくれる効果とは?

茂木さん 音楽に耳をすませるという脳の使い方、態度とは非常によいものなんです。全身全霊を傾けて一つのことに集中するということによって、脳の中にさまざまなリズムやハーモニーができて、それが脳の中に元々あるリズムやハーモニーと共鳴してさらに高いところへ連れて行ってくれるのです。本当にいい音楽に集中して耳をすますというのは、脳にとって最も質の高いエクササイズだといえます。


−−音楽に対する見方を変えてくれる1冊ですが、この本をどのように読んでもらいたいと?

茂木さん もちろん音楽を好きになってほしいというのはありますが、この本は実は生命哲学の本です。音楽を通して生命というものについて考える本なんです。だから、音楽を単に趣味としてとらえるのではなくて、自分の命を見つめ直して輝かせるための一つの入口としてこの本を読んでいただきたいなと思います。


−−ご自身は研究、講義、執筆、テレビ出演など、多忙を極めていらっしゃいますが、こうした日々を送られていることも「脳を喜ばせる」ことにつながりますか? 実際に「脳が活かされている」と感じる瞬間、それによって喜びを実感する瞬間は、多忙になるほど増えているのでしょうか?

茂木さん どんな仕事でも楽しんでやろうという覚悟があります。それは、「学ぶ」ということです。学生への授業、取材、TVなどの出演時にも必ず新しい発見があるように努力しています。一生、学びの修行をしているような気持ちです。そして新しい自分を発見できた時、脳が喜んでいる実感があります。脳は、自分が変われたと思うとき、喜び、成長しているといえます。


−−脳トレーニングの流行など、脳について大きなブームが起こっていますが、なぜ、ここ数年、人々は、脳に関心を持ち始めたのでしょうか?

茂木さん 時代が流動化し、現代はよい学校を卒業しても、一生通用できないことに気づき始めたからだと思います。脳の取り扱い説明書はないわけですから、脳の潜在的可能性を知り、自分を高めていく必要性を多くの人が感じ始めたからなのではないのでしょうか。


−−最後に、今後の取り組みについてお聞かせ下さい。「本はすべて英語で書こうと考えている」とお聞きしたのですが、その狙いとは?

茂木さん 最大のテーマはクオリアを解くことです。また、現代の日本の知識人はこぢんまりとまとまってしまっているように感じます。科学者を志望する学生も少なくなっています。日本語で書いて日本人に満足してもらうことも大切ですが、幅広くあらゆる人に発信できるように自分自身、より学んで高めていきたいという思いがあります。


−−日々「学ぶ」ことを大切に、脳を喜ばせていきたいですね。 本日はありがとうございました!


【インタビュー 宇田夏苗】







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