楽天ブックス 著者インタビュー

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児童文学やヤングアダルト向けの小説で人気の森絵都さん。最新刊の『いつかパラソルの下で』は、これまでの読者がドキッとするような大胆な描写もある大人向けの長篇小説だ。主人公の「野々」は二十代のフリーター。父が亡くなり、愛人がいたことが発覚する。厳格だった父にどんな隠された秘密があったのか。野々は、自分と同じ根無し草のような生活を送る兄と、父譲りのまじめな妹とともに、父の足跡をたどりはじめる……。『いつかパラソルの下で』が書かれるまでを森さんにうかがった。

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森絵都さん『いつかパラソルの下で』『いつかパラソルの下で』
病的なまでに潔癖で、傍迷惑なほど厳格だった父。四十九日の法要が近づいたこ、私は父の生前の秘密を知ってしまう…
540円(税込)
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森絵都さんの本!

宇宙のみなしご『宇宙のみなしご』
DIVE!!(4)
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カラフル
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プロフィール

森絵都さん (もり・えと)
1968年東京都生まれ。91年、『リズム』で講談社児童文芸新人賞、椋鳩十児童文学賞をダブル受賞。『宇宙のみなしご』で野間文芸新人賞、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞を受賞、『カラフル』は映画化もされ、ベストセラーに。『永遠の出口』では読者層を広げ、2004年度本屋大賞第4位に輝く。ほかに『DIVE!!』『つきのふね』ほか著書多数。

インタビュー

−−書き下ろしということですが、いつ頃から取り組まれていたんですか?
森さん父親と母親をテーマにした小説を書きたいと思ったのはずいぶん前ですね。「DIVE」っていうシリーズを書いている頃からです。大人向けの小説を書く時には両親をテーマにして書きたいと思っていました。
−−森さんの小説の世界は、ディテールまで緻密に作られているという印象があります。設定を詰めていくのは時間がかかったのではないでしょうか。
森さん今回はとくに苦労しましたね。細かい部分がなかなか決まらず、自分の中で物語が動き出さなかったので。最初は主人公のキャラクターもまったく違っていて、一人娘の話だったんですよ(笑)。どうすればこの小説が動き出してくれるだろうって、書いては消して書いては消して。その期間が長かったです。
−−厳格な父親と3人の子供たちという設定になっていますが、森さんのご両親とダブっている部分はあるんですか?
森さんうちはぜんぜん厳格じゃなくて(笑)、どちらかというと野放し状態でした。父親のキャラクターはまったく違いますね。
−−では、両親と子供の関係をお書きになりたいという意図だったんでしょうか。
森さんそうですね。今まで十代の読者向けの作品を中心に書いてきて、そうすると、両親は「勉強しなさい」って言うだけとか、親としての部分しか顔を出さないんですよ。  本当は、父親は男であり、母親は女であるわけですけど、そういう性の部分には触れられなない。大人向けに書くんだったら、両親も両親である前に1人の男、1人の女であって、人としての性を抱えているんだという、これまで書けなかった部分を書こうと思いました。
−−物語開始早々、性の描写もあって、森さんの十代向けの小説の読者が読んだら、ちょっとびっくりするかもしれないですね。
森さん作家として、官能的な描写にも挑戦したかったんです(笑)。チャレンジしがいがあるというか。そのへんも遠慮なく思い切りやろうと思いました。
−−ところで、主人公の「野々」とお兄さんと妹の三兄弟はそれぞれ、厳格な父に育てられたがゆえに、少しいびつな性格に育ったと感じていますね。
森さん自分がこういう性格になったのは、父親がこうだったから、母親がこうだったからってよく言いますよね。40代、50代になってもそう思い続けている人ってあんがい多い。確かにそういう部分もあるんでしょうけど、そのこだわりをふりはらったほうが、この人は自由になれるんだろうなと思うことは多々ありますね。
−−『いつかパラソルの下で』を読んでいると、自分の両親のことは意外と知らないんじゃないか、とあらためて思いました。
森さんとくに異性としての部分には、なかなか目が行かないですよね。見えないし、見たくない。何か事件が起こらない限りは。何も起こらないほうがいいのかもしれませんけど。
−−亡くなった父に愛人が……という、いかにも身近にありそうな発端から、ぐいぐいと読者を引っ張っていく引きの強さ。こういう展開って、とくに意識はされずにこうなっちゃうものなんですか?
森さんそうだと思います。ちょっと引張りが弱いと、自分で書いていて飽きてきちゃうというか……、気持ちが落ち込んでくるんですね。書いていてどうしても筆が進まないと思うと、それはこっちの方向が面白くないんだろうと思うんです(笑)。  そこで、少し前に戻って、また新たに歩き出すんですが、それをやっているとものすごく時間がかかるのは確かですね。
−−『いつかパラソルの下で』が書き下ろしということにもその書き方に関係がありますか?
森さんそうですね。連載だと締め切りがあるし、一度書いたら後から元に戻れないということもあるし。短篇だったらともかく、長篇でそれをやるのは怖いんですよ。だから、今のところ、長篇を連載するというのは怖くてできないですね。
−−『いつかパラソルの下で』では、三兄弟が父親の足跡を追って、伊豆や佐渡へ行きます。美味しそうな食べ物も出てきますが、取材に行かれたんですか?
森さん佐渡には3回行きました。最初は遊びに行って、2回目は本格的に取材。3回目は方言を教わりに行きました。
−−佐渡とはご縁があったんですか?
森さん最初は友だちを訪ねて行ったんですが、行く前から佐渡を舞台に小説を書きたいなと思っていました。
−−なぜ佐渡で?
森さん島がいいな、と思ったんです。友だちもいるし(笑)。そしたら、友だちが「明日イカイカ祭りがあるから行かない?」って言われて。
−−イカイカ祭り! 小説のなかの重要な場面に登場しますね。
森さんイカイカ祭りに行って、その時に「これで書ける!」と思いました。
−−なるほど。イカイカ祭りの場面はとても臨場感がありました。 ところで、話は変わりますが、毎日、執筆する時間は決めているんですか?
森さん朝起きて、犬の散歩に行って、夕方の犬の散歩までの間が執筆時間ですね。だいたい10時か11時から夕方6時くらいまで。調子が悪くて書けない時でも、一応机に座るようにはしています。
−−児童文学、ヤングアダルト、大人向けとさまざまな読者向けの作品をお書きになっていますが、今後はどうなりそうですか?
森さんこれからもも1冊1冊、対象読者の年齢層がまちまちになっていくと思います。読者層を絞るのではなく、広げていきたいと思っています。子供向けも書きたいし、大人向けも書きたい。いずれはおじいちゃん、おばあちゃん向けもものも書きたいですね。
−−もともと児童文学をお書きになりたいと思われていたそうですが、大人向けの小説を書きたいと思われるようになったのはわりと最近ですか?
森さん22か23くらいで作家になったので、その当時は自分自身がまだ未熟だったせいもあって、自分と同じくらいかそれより下の世代に向けて書きたいという気持ちが強かったですね。  それが、だんだん自分も年をとって、自然と大人向けのものも書きたいと思うようになりました。作家として、子供向けのものだけを書き続けるというのも一つのスタンスではあるけれど、私はもっとほかの年代向けのものも書きたいなと思うようになりました。
−−いま取り組まれている作品は?
森さん「別冊文藝春秋」に短篇小説を連載しています。そのあとはまた書き下ろしを書く予定です。
−−ところで、最後にお聞きしたいんですが、森絵都さんてとても素敵なペンネームですが、何か由来があるんでしょうか?
森さん親戚のおばさんが考えてくれたんですよ。自分でも考えて、家族や友人も考えてくれたんですけど、自分では決められなくて。何かこう、いまひとつで。それで、最後には親戚のおばさんにまで相談して(笑)。そうしたら、そのおばさんが姓名判断が好きな方で、運勢のいい名前をいろいろ挙げてくれて、「ルカ」とかあったんですけど(笑)。「絵都」って不思議な字面じゃないですか。語感もいいから、これにしようって決めたんです。
−−一度見たら忘れられない、印象的な名前ですよね。今日はありがとうございました!
『いつかパラソルの下で』について「十代の読者が読んだらびっくりしちゃうんじゃないかと心配。中学生くらいだと、ちょっと早いかも」という理由で、オビに「18禁」と入れようかと思ったという森さん。ユーモアを交えながらテンポよくお話してくださり、まさに森さんの小説を読んでいるような楽しさだった。ところで、個人的には、『いつかパラソルの下で』は、これまで森作品に触れたことがない読者にこそおすすめしたい。とくに、20代〜30代のあなた! 「わかるわかる」とうなずきながら読めるはず。ぜひ!
【インタビュー タカザワケンジ】

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