楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

人生が甘いお菓子だけではないと知っている、20代か、もしかすると30代にも見える女性が、ジーンズのウエストに手をかけ、うつむいた瞬間を切り取った表紙。『ジーンズをはいた女神たち』の中には、あなたの知っている誰か、もしくは自分と同じような何かを抱えた11人の女性たちが、登場する。小学校4年生から母たちの世代まで、さまざまな年代と境遇の女性たちを、繊細な言葉とバラエティに富んだ手法で描いた、凪沢了さんの珠玉の短篇小説集だ。

今週の本はこちら

『ジーンズをはいた女神たち』『ジーンズをはいた女神たち』
年齢も境遇も異なる11人の女性たちを描いた12章の短篇小説集
1,470 円(税込)
ご購入はコチラ
凪沢了さんの本をもっと探す!

凪沢さんオススメのCD

『イメージズ』『イメージズ』

プロフィール

凪沢 了さん (なぎさわ・りょう)
1961年 長野県生まれ。80年代半ばより、出版社などで、編集業務に携わる。本書は『あとん』2004年12月創刊号から、2005年11月号までの12回の連載をまとめた、第一創作集。

インタビュー

−−11人の女性が登場しますが、たぶんほとんどの読者は、その中の誰かに、ピーンと、自分と同じような感情を投影できるようになっているんだなぁと思いました。
凪沢さんそれは、うれしいことです。読んだ感想を言ってくれる人のなかで、特に女性なんですが、好きな一編がさまざま違うんですね。いろいろな人が、それぞれになにかを感じてくれるようであれば、それが1番うれしいことです。
−−普段は心の奥に蓋をしてしまっている、孤独や恋愛、人との距離感などが、ズキンと響いたり、ジワリと伝わってくる作品ばかりですね。核になるキーワードのようなものがあって、それを膨らませていったのでしょうか。これはぜったい男の人にはわからないだろうというような言葉もあって、凪沢さんが男性だと知って驚きました……。
凪沢さんそういった言葉って、おそらくこれまでの人生のなかで、ぼくがよく言われているんでしょうね、きっと(笑)。この本に収録した短編は、『あとん』という雑誌に毎月1本、12回連載したものですが、どの話も、書き終わるまではまったくストーリーが見えていなくて、四苦八苦しました。  書き出しの1行と、こんなことを抱いている女性だというのは漠然とあるんですが、でも、プロット(物語の流れ)をきちんと考えてから書くというやり方はしなかった。ストーリーは一応用意はするんですが、実際には、書き出すと変わってしまったりするので、それは、筆の流れにまかせました。
−−クッキリとした、ひとりの女性像があるんですか。
凪沢さん作家の中には、映像が見えてくる、あるいは映像に影響されるという人もいるけれど、ぼくにはそういうことはないんです。あるとすれば絵画。たとえば1枚の絵のようなものが浮かんできたということはありました。
−−もうひとつ、気になったのは、女性の名前です。作品のタイトルが、主人公の女性の名前になっているんですね。このネーミングですが、名前とシチュエーションのふたつが合わさって、まるであの人みたいだ、とか、世代を感じさせられたり、象徴的なものにも思えてきたり。
凪沢さん名前で気を使ったのは、周囲に特定できないように、ということでしたね。いない名前、もしくは、あまりにもよくある名前で、誰かわからない、そういう名前にしました。よく聞かれますが、モデルがいるわけではなくて、誰でもないんです。そうですね……、名前と書き出しは書いていく上で、けっこう重要だったかな。
−−とくに、お好きな作品はありますか?
凪沢さんたぶん短編として一番バランスが良いのは、「カヲル」だと思います。 (★阿佐ケ谷で夫婦ふたりで暮らす「カヲル」。些細ではあるが、しかしある予兆を感じさせる出来事にあうことで、二人は互いに小さな秘密を胸に秘めてしまう……。)  このカヲルが書けたのは、その前の「カノ」という小学生の女の子の一編が書けたからであって、内容的な繋がりはなくても、それぞれの作品の連なりや流れで、全体ができたということでしょうか。

(★家族の問題、級友たちとの関係に心を痛めながらも、まだ恋愛には至らないほのかな気持ちを同級生の少年に抱く少女「カノ」)

 「ユウコ」だけは2度登場するんですが、1回書いたあと、しばらくして、やはりあのままでは終わらないような気がして。それだけにしておこうかとも思いましたが、続編の「ユウコ、ふたたび」を書きました。

(★ある男性に向けて、恋に悩む心の内を、静かに手紙にしたためる「ユウコ」。終わった恋を想いながら、孤独と向き合いひとり生きるユウコのその後が描かれた「ユウコ、ふたたび」)
−−彼の思いがけない一言から恋の終わりを悟る「エツコ」や、”おまえの足の小指のぷくっと膨らんでいるところが好きだ”と言うタッくんと暮らした「トモヨ」……。そんな、女性たちの表情までもが見えてくるような細やかな描写が、心に沁みてきたし、共感もできました。それに、小学校4年生から母親の年代までと、登場する女性たちにも幅がありますね。
凪沢さん昔読んだ太宰治の短編集に『女性』という本があって、「女生徒」なんかも入っているんですが、全編女性の語り口だけで書かれたものなんです。そういったものも少しは頭にありましたね。  それから、『地下鉄のザジ』という小説を書いたレイモン・クノーというフランス人がいて、この人は優秀な編集者でもあるんですが、彼の『文体練習』(1996年 朝日出版社)という本には、さまざまな文体レッスンがでてくるんです。その発想も頭にあって、当初は、女性という共通のくくりはあるにしても、小説のスタイルは見本帳のように、12回、全部変えてやってみようと思っていました。女性の1人称の語り、男性の地の文からはじまるもの、戯曲みたいな構造のもの、手紙だけで語られるものとか。そういう形のバリエーションで、女性を描いていこうというのが当初の目論見だったんですが……。
−−普通の作家だと、ついミッチリと書いてしまうようなところをあえて描かず、その女性の人生の裏側を感じさせるという印象も受けましたね。  トリミングというのでしょうか、長い人生の中の、ある部分を、ひとつのシーンとして選ぶセンスも感じました。そのシーンが、心に残るんですね。
凪沢さんたとえば、ある登場人物を動かそうとした時、現実的な動きを具体的に描くのではなくて、その先の自分が書きたい1行に向かって動かしているというところがぼくにはあります。  なんというか、小説って、読者がみんな、ストーリーを読みたくて読んでいるものなのだろうかという疑問があって、筋がどうであっても、心に刻まれる1行に出会えれば「しめたもんだ!」というものだと思うんです。これだけストーリーが溢れている時代、物語の作成ソフトまであるんですから。もちろん書いたら、たくさんの人に、広く読んでもらいたいとは思います。でもそれよりも、読んでくれた一人の人の、心にささる深さ・深度のほうをとりたい。その深さの総量が、本を出すことの意味だと思っているんです。1回が20枚弱の原稿ですが、深く残ることを描こうと思っていました。
−−心に残る共感を抱く要素のひとつに、登場する土地もありますね。さまざまな場所が登場しますが。
凪沢さん小説を構想するときには、まずその舞台となる場所が重要だった。たとえば、中央線沿線か、東横線かとか。結果的には自分の土地勘のある場所がほとんどですね。はっきり、どことは書いていなくても、そういった土地を思い浮かべていました。自分も引っ越しが多かったせいか、読みかえしてみると、部屋を探すとか、そういう話が多かった(笑)。
−−でもたしかに、人生の中で、生き方が変わるポイントとしては、引っ越しってありますよ。恋人と別れたら、引っ越しするとか(笑)。
凪沢さん引っ越し、重要ですよね(笑)。書く前は気がつかなかったのですが、そういう人生の転換点というか、生き方のバリエーションは、現代においては女性のほうが男性よりたくさんあるような気がします。
−−本のタイトルも印象的ですが、ジーンズは飾りたてるわけではなく、自分の素肌の感覚に近いものです。女性が着替える時って、自分なりの戦闘準備だったり、なにかを脱ぎ捨てる意識があったりします。作品の中でも服装はけっこう重要な要素ですよね。
凪沢さんそう、最初は、全部に服装のことを書こうと思ってたんですが、飽きてきちゃって(笑)。書きながら思ったことは、当たり前ですが、普通の、どこにでもいる女性でも、ひとりひとりをみていけば、もちろん同じ人はいないし、どの人もそれぞれ特異なところがある。そしてみんな貴重ななにかを持っているんだということ。女神たちといってしまうのは、一種ズルイかもしれないけれど、ぼくたち男にしてみれば、降参……かなわない、というところでしょうか。
−−今後は、どんなところに書いていかれるのですか?
凪沢さん同志と『ふぉとん』という季刊の綜合文芸誌を作っています。今年の1月に創刊したものですが、7月発売号には、120枚ぐらいの作品を掲載する予定です。それは「私」という1人称で書いたしがない男性の話で、男の子がんばれ……というものなんですけど。
−−男性視点の作品も読んでみたいですね。これからも胸に残る作品を書き続けてください。今日は、ありがとうございました。

このページの先頭へ