楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

芥川賞作家は27歳という若さ。しかし、デビュー作の『銃』以来、人間の心の奥底にある衝動や、隠された悪意に目を向け、シリアスな作品を発表してきた。芥川賞を受賞した「土の中の子供」は中村さんのこれまでの作品の延長線上にありながらも、新たな一歩を踏み出したという印象のある秀作。幼児期に虐待を受けた過去を持つ青年が、やはり心に傷を持つ女性と出会うという物語。単行本化された『土の中の子供』には短篇「蜘蛛の声」も収録され、中村さんの世界を知るにはぴったりの1冊となっている。受賞間もない中村さんにお話をうかがった。

今週の本はこちら

中村文則さん『土の中の子供』『土の中の子供』
幼児期に虐待を受けた過去を持つ青年が、やはり心に傷を持つ女性と出会う…
380円(税込)
ご購入はコチラ

中村文則さんの本!

最後の命『最後の命』
悪と仮面のルール
悪と仮面のルール
掏摸
掏摸
直木賞・芥川賞
芥川・直木賞特集
中村文則さんの本をもっと探す!

プロフィール

中村文則さん (なかむら・ふみのり)
1977年愛知県生まれ。福島大学行政社会学部卒業。02年、偶然、銃を拾ったことから狂気の世界にさまよいこむ青年を主人公にした『銃』で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。同作は芥川賞候補にも挙げられる。2作目の『遮光』では、亡くなった恋人の指を遮光した瓶に入れて持ち歩く青年が主人公。04年『遮光』で第26回野間文芸新人賞を受賞。芥川賞候補作にもなった。05年「土の中の子供」で第133回芥川賞を受賞。

インタビュー

−−芥川賞受賞おめでとうございます! 受賞できそうな予感はありましたか?
中村さん取れると思ってませんでした。候補になるのが3回目だったので、取れないものだと思ってあまり意識しなくなってました。編集者に謝ることばかり考えてましたよ。「(賞が取れなくて)すみませんでした」って(笑)。
−−子供の頃から物語や小説は好きなほうでしたか?
中村さんとくに意識はしなかったですね。
−−子供の頃に好きだったことは何かありますか?
中村さん……何もしていませんでしたね。じっとしてました(笑)。じっとしている子供でした(笑)。
−−子供の頃に読んだ本で印象的なものはありますか?
中村さんいわゆる純文学の小説を読んだのは高校に入ってからなんですが、中学生の時に読んだ『ムレムの書』(B・フォーセット・N・ランダル 椋田直子訳)というファンタジー小説が印象に残ってますね。大人向けのヘビーなSF小説でした。今書いていることに直接影響してはいませんが、よく覚えていますね。
−−高校生の時に小説を読むようになったのは、何かきかっけがあったんですか?
中村さん暗かったんですよ。今でも暗いんですけど、あの頃はとくに、何を見ても反応しなかったんです。マンガを読んでも映画を見ても面白かったけど、自分の内面に関わるメディアに出会ったことがなかったので、一度小説を読んでみようかなと思ったんです。たぶん、自分でも何かを求めていたんじゃないかと思うんですよね。初めて手に取ったのが太宰治で、それから小説を読むようになりました。世の中にこんなものがあるのかって。
−−太宰は『人間失格』とか?
中村さんまさにそうです。王道中の王道ですね。高校時代は、太宰治をひたすら読んで、その後は坂口安吾や石川淳。無頼派の作家を読んでいましたね。外国のものを読むようになったのは大学に入ってからです。  大学に入ってからはドストエフスキーの『地下室の手記』が衝撃的でした。そのほか、サルトル、カミュ、ジッド……これもまた王道ですね(笑)。日本のものだと、安部公房さんや大江健三郎さんなどを読んでいました。
−−大学の卒論は犯罪者の心理をテーマにした「逸脱論」だったそうですね。
中村さん大学では逸脱論の授業はなかったんです。応用社会学科だったんですが、社会学を学ぶところで犯罪学という授業はありませんでした。卒論は自由にできるところを選んで完全に独学で書きました。もともと犯罪を犯してしまう人間の心理に興味があったんだと思います。
−−自分で小説を書いてみようと思ったのは。
中村さん大学3年から4年ごろです。卒論を書いていた頃とかぶりますね。
−−それまでは、小説を書きたいという気持ちはなかったんですか?
中村さん文章は書いていましたけど、小説ではなかったですね。日記の延長のようなものでした。一度小説に書いてみようかなと思ったのが大学3、4年頃ですね。それまでは、書くことよりも、とにかく本を読むのが好きでした。
−−最初に書いた小説はどんなものだったんですか?
中村さん目も当てられませんね(笑)、いま考えると。当時は真剣でしたけど。主人公がとどまり続けるみたいな、停滞しつづけるものを書いていましたね。100枚くらいのものでした。
−−誰かに読んでもらったんですか?
中村さん誰にも読ませてないです。完全に封印してあります(笑)。
−−『銃』が公募賞の「新潮新人賞」を受賞されたのがデビューのきっかけですが、応募されたきかっけは何かあったんですか?
中村さん大学を卒業して2年間、東京にいたんですけど、『銃』はその最後の2年目に書いた小説です。応募して実家に帰ったという感じですね。 『銃』はすごく悩んで書きました。アンドレ・ジッドの『背徳者』の序文に「私の意図はよく書くことと、自分の書いたものをはっきりさせることにある」とあって、たぶん、言葉の意味は完全にはわかっていなかったと思うんですけど、「これだ! 」と思ったんです。「そうだ、これなんだ」と思って書いたのが『銃』でしたね。とりあえず、書いて、送って、という感じですね。あそこで、作風が、がらっとではないですけど、煮詰まる感じで変わったのかなあ、と思います。
−−『遮光』は『銃』を書かれた後に着想された?
中村さんアイディアは『銃』を書く前からあったんです。虚言癖の男を書くというのが最初に思い浮かんだことでした。
−−『遮光』の主人公はウソばっかりついている男です。心がない、と周囲から言われるような男ですが、彼のような主人公を描こうと思った理由は?
中村さん人間対世界──大げさなことを言うようですけど(笑)──人間対世界があって、生きていくことってなかなか辛いものがあるじゃないですか。そういうときに、もちろん、それに立ち向かっていくことが美しい人間像なんですけど、ウソをついて、ウソを突き通すことで世界に立ち向かうということもあるんじゃないかと思ったんです。  恋人が死んだらそれを受け入れなければいけない。それは世界の成り立ちとして、人は死ぬということがあるんですけど、それ自体を否定しようとする。「いや、死んでないよ。どこかで生きてるし」と言い通す人間。そういう人間を描いてみたかったんですね。  人から見れば、「それはぜんぜん間違っているよ」ってことなんですけど、本人からすれば、「俺はそれでいいんだよ」ということで……。だから物語のタイトルも光を遮る、『遮光』なんです。
−−『銃』と『遮光』はコミュニケーションに問題がある主人公が銃や遮光した瓶にフェティッシュな感情を抱くという点で似ていますが、『土の中の子供』は違いますね。
中村さん『遮光』との間に、単行本の『土の中の子供』に収録されている短篇(「蜘蛛の声」)と長篇が一つあります。長篇の『悪意の手記』は8月に本になるんですが、本当はそっちが先に出るはずだったんです。  これまで、ハッピーエンドというか、未来に向かって終わる話は一つもなかったんで、「土の中の子供」が初めてですね。完全に前向きというわけではありませんが。
−−『土の中の子供』の主人公は幼児期に養父母から虐待を受けたという過去があります。「トラウマ」との格闘の物語としても読めますね。
中村さんトラウマという意識はなかったのですが、自分の中の混沌というか……。どの作品にも共通して、自分の中の鬱積があると思うんですよ。『銃』ではそれが銃だったし、『遮光』ではウソと瓶の中の恋人の指。「土の中の子供」では、土の中から外へ顔を出して生きていくんだ、というエネルギー。表現のやり方が変わってきたとは思います。
−−『土の中の子供』では、主人公が自身の抱える問題に対して立ち向かおうとする姿勢に共感を覚えました。こうしたテーマを小説で書こうと思った理由はありますか?
中村さんぼく自身が昔、小説に救われたことがありまして……。表面的には明るくしていたんですけど、高校のときにすごく鬱積しているものがずっとあったんですよ。小説と出会ったときに、その小説の中に描かれている問題が自分の問題とは違うにしろ、ここまで絶望的なものを完全に把握して提示する物語があるということと、こういうことをやっている人間がいる、もしくはかつていたんだ、ということに救われましたね。 もしもあのときに小説を読んでいなかったら自分はどうなっていただろう、というか、……「たられば」を言ってもしょうがないんですが、自分が作家になるというよりも、ぼくは本を読むことが好きで、しかもそれに救われたという思いがあるんです。だから自分も小説を書くんだと思います。
中村さんは、一見して明るい好青年という印象の方だった。シリアスなテーマを扱った作品とはイメージが結びつかない。「よく言われます(笑)。小説だとふだん出せないような内面的なものが、うわーっとぜんぶ出ちゃうんですよね。誰でもそうだと思うんですよ、内面まで降りていけば」。中村さんの作品は心の中の影の部分に光をあてている。一筋縄ではいなかい人間の内面に迫る小説を、これからも書き続けてほしいと思う。【インタビュー タカザワケンジ】 中村文則

このページの先頭へ