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『100回泣くこと』の作家・中村航さんのやさしさと勇気を与えてくれるストーリーと宮尾和孝さんのあたたかなイラストが織り成すまったくあたらしい絵本 『星空放送局』

 ベストセラー小説『100回泣くこと』をはじめ、シンプルな言葉で綴られる等身大の主人公たちの想い、前向きにさせてくれる読後感で、男女問わず圧倒的な支持を得ている中村航さん。そして中村さんの著書といえば、従来の文芸書のイメージを大きく変えた宮尾和孝さんのイラストを思い浮かべる人も多いのでは?このたび、中村さんと宮尾さんが、「少しずつ創っていった」という初めての絵本を出版。手紙、月、星をモチーフに、「何かを届けること」を描いた3つのショートストーリーが最後にひとつになる、絵本の枠を越えた素敵な1冊です。中村さん、宮尾さんそれぞれの魅力が詰まったこの絵本、さらにお2人の関わりについて、ざっくばらんに語って頂きました。


中村航さんの本


『星空放送局』
『星空放送局』
1,365円(税込)

『100回泣くこと』
『100回泣くこと』
480円(税込)

『リレキショ』
『リレキショ』
515円(税込)

『絶対、最強の恋のうた』
『絶対、最強の恋のうた』
1,365円(税込)

『夏休み』
『夏休み』
515円(税込)

『ぐるぐるまわるすべり台』
『ぐるぐるまわるすべり台』
500円(税込)

『あなたがここにいて欲しい』
『あなたがここにいて欲しい』
1,470円(税込)


中村航さん&宮尾和孝さんオススメCD


GOING UNDER GROUNDの最新作ジャケットのイラストは宮尾和孝さんです!

『おやすみモンスター』
『おやすみモンスター』
3,045円(税込)

『さかさまワールド』
『さかさまワールド』
1,050円(税込)

『ベスト・オブ・ゴーイング アンダー グラウンド ウィズ・ユー』
『ベスト・オブ・ゴーイング アンダー グラウンド ウィズ・ユー』
3,045円(税込)



プロフィール


中村航さん (なかむら こう)
1969年、岐阜県生まれ。2002年『リレキショ』(河出書房新社)で文藝賞を受賞し作家デビュー。03年に『夏休み』(河出書房新社)が芥川賞候補となり、その翌年『ぐるぐるまわるすべり台』(文藝春秋)で野間文芸新人賞を受賞。05年に発表した『100回泣くこと』(小学館)はロングセラーに。その他の著書に『絶対、最強恋のうた』(小学館)、『あなたがここにいて欲しい』(祥伝社)がある。『100回泣くこと』(小学館)の文庫版が11月6日に刊行された。
中村航公式サイト http://www.nakamurakou.com/

中村航さん 宮尾和孝さん宮尾和孝さん (みやお かずたか)
1978年、東京都生まれ。20歳の頃にGOING UNDER GROUND のジャケットイラストを描いたことをきっかけにイラストレーターとして活動を開始。最新アルバム 『おやすみモンスター』をはじめ、同バンドのジャケットを数多く担当。2003年には大阪で個展を開催。中村航の7作品全てのカバーイラストを手がける。
宮尾和孝「空色トロイメン」 http://www.miyaozora.com/frameover.html

インタビュー


−−「出さない手紙」「カラスは月へ」、表題作の「星空放送局」の3話で構成されているこの『星空放送局』は、絵本といっても文芸書並みのボリュームで、従来のイメージとだいぶ違いますね。


中村さん 絵本、としているのは他に呼び方がないからというのもあるんです。小説絵本と呼ぼうかとも考えましたが、わかりにくいですし、ショートストーリーとも違う。だから絵本でいいと思いますね。


中村航さん−−この本の企画自体は、かなり前から中村さんの頭の中にあったそうですね?

中村さん 宮尾君と仕事をし始めた頃から考えていました。きっかけは単純で、彼の魅力あふれる絵を、みんなに見せたかったんですよ。彼の描いたスケッチとか、表紙のための準備として描いたものを見て、すごく見せたいなと感じて、それも自分のテクストと一緒に見せたかった。文章に挿絵として絵を描いてもらうんじゃなくて、何かの実況やDJのしゃべり、手紙などのような独立した文章と一緒に、絵が流れていく感じでやりたかったんです。第1話と第3話はそのスタイルになっていますね。全体に、絵に文章を織り込む、というイメージです。文字って、記号なのかもしれないけど、本当は絵の一種だと思うんです。


−−そもそもお2人が一緒に仕事をするようになったきっかけとは?

中村さん  デビュー作の『リレキショ』を出すとき、出版社の方から紹介してもらったのが始まりです。ちょうどその頃、宮尾君が描いたGOING UNDER GROUNDのCDジャケットのイラストが渋谷の街中にバーンと飾られていて、それがすごく良くて、もちろん音楽も良くてね。「この人に頼んでみよう」と思いました。ただ彼が、主人公を描くらしい、という話を伝え聞いて、「無理じゃないかな」とも思ったんですよ(笑)。特に文芸書の場合は、表紙に人が出てくることってあまりないじゃないですか。でも、宮尾君が描いてきた絵を見て、驚いたんです。「おお!これは確かに主人公の半沢良君だ」、と。

宮尾さん それは良かったです(笑)。

中村さん  半年後に『夏休み』を出す時は、僕からオファーして、今に至ります。以来、友だち付き合いをしているんだけど、後で気付いたのは、そもそも宮尾君自身が半沢良君っぽかった。優しい自由人というか(笑)。僕らはまあ、たまに良い話もするけと、そうじゃない話もする。僕しか知らない宮尾君の話もあるし、その逆もある。とても人には言えないこともある。ありすぎる。自分が今、何を言っているのか分からない(笑)。

宮尾さん 男子的な話題ということですね(笑)。中村さんとはもともと住んでいたところも近くて、その後、引越してからもまたお互いに近かったんです。

中村さん  最初に絵本の話をしたのは、初めて会ってから間もない頃、やきとん屋だったよね?

宮尾さん そうですね。やきとん屋で会ったのが、この絵本の決起集会(笑)。

中村さん  その時、彼の家に初めて行って、いろいろな絵を見せてもらいました。

宮尾さん あんまり絵はなかったんですけどね。

中村さん  まあ、宮尾君はあまり絵を描かないんだけど(笑)。

宮尾さん ストックの無いイラストレーターなので(笑)。


−−宮尾さんが絵を描き始めたのはいつですか?

宮尾さん もともとGOING UNDER GROUNDのドラマーの河野(丈洋)君が中学の同級生で、彼らがインディーズでCDを出す時、イラストを描かないかと言われて。でもどうしようかと思ったんです。僕は河野君に誘われて中学1年の時、美術部に入ったものの、すぐ退部してしまったので。


左側:宮尾和孝さん 右側:中村航さん−−ずっと絵を描いてきたわけではないと?

宮尾さん 中3の時に美術部に復帰したのですが、高校では美術部ではないですし、小中学校の頃の美術歴にしがみついている感じで(笑)。

中村さん  でも、中学生の時に描いた桜の木の絵が、ブラジルで賞を獲ったんですよね。

宮尾さん 僕自身は知らなくて、先生が申し込んでいたんですよ。

中村さん  まあ、彼の高校から20歳ぐらいまでの話はあまり聞かないほうがいいです。言えないことが多すぎる(笑)。ただね、今の宮尾君は結構絵が上手だよねー(笑)。

宮尾さん 意外とそんな風によく言われます(笑)。ただ、いってみれば独学なので、本当に出版社の方にご迷惑をおかけしたり、お世話になっていると思いますね。


−−通常、画材は何を使っているのですか?

宮尾さん ほぼ水彩です。今回の「カラスは月へ」は最初、カラーで描いていたのが、ウサギとカラスをモノクロで描こうと決めてから、しっくりいきました。最終的には墨汁で描きましたね。普段、使っているのは水彩絵の具と色鉛筆です。今、使っている色鉛筆は、18歳の時、どういうわけか親かが誕生日に贈ってくれたものなんです。色鉛筆を使うようになったのは、そのおかげです。

中村さん なんだかいい話だなあ。言えないことばかりじゃなくて良かった(笑)。


−−宮尾さんは中村さんの全作品のイラストを手がけられていますが、中村さんとの仕事はご自身の中でどのようなものですか?

宮尾さん うーん、続けて描かせて頂いていることも関係していると思いますが、ストレスとかプレッシャーみたいなものがあります。一番時間がかかっているかもしれないです。


−−中村さんから「こうして欲しい」と希望を伝えることはあるのでしょうか?

中村さん もちろん話はしますが、でも宮尾君は本当に魂を削りながらやっていて、最後にドーンと出してくる感じなので、ダメとはいえない。そんなオーラを感じます(笑)。

宮尾さん 中村さんと初めて会ったのは、GOING UNDER GROUNDのライブの時ですが、小説家!という言葉のイメージで、かなり緊張したんです。がっかりさせたらどうしようかと(笑)。


宮尾和孝さん−−なぜがっかりされると思ったのですか?

宮尾さん 僕はいわゆる、本を読まない若者なのですが、『リレキショ』を始めて読ませて頂いた時、すごく面白かったんですよ。仕事で関わるものが面白いということは、そうそうないじゃないですか。その小説を書いている方だし、僕が芸術家みたいな人物だと期待していたらどうしよう……などといろいろ考えたんですよ。

中村さん そんなことは全く期待していなかった(笑)。実は僕にとって、宮尾君はすごくいい読者なんです。イラストをお願いするときは、第1号の読者になってもらうことも多いし。僕は普段本を読まない人にこそ、自分の本を読んで欲しいと思っていて、いわゆる本読みではない人に向けて書いている部分があるんです。宮尾君は本読みタイプではないから、彼が面白いと言ってくれるのって、嬉しいし、力になります。宮尾ラブだな(笑)。

宮尾さん お世辞ではなくて、本当に作品が面白いと思うし、この人はどういうつもりで書いているのかというのが理解できる分、中村さんの小説のイラストを描くのはストレスなんですよ。そう言うと悪く聞こえるかもしれませんが、スポーツを見る時もストレスというか、緊張感があるから楽しいわけで、人生にそうしたストレスがあるのは悪くないないと思いますね。


−−ひとつ気になったのが、第3話の「星空放送局」の中に登場する「カラスは月へ」という歌です。コード進行まで記されているのですが、実際に存在する曲なのですか?そうだとしたら、ぜひ聴いてみたいです。

中村さん 絵本の中に3曲入っていますが、全てちゃんと曲として存在しています。ただ歌って欲しいと言われると困ってしまう(笑)。本当のことをいえば、「カラスは月へ」はバンドをやっていた時に作った曲です。絵本に載せる曲、実は2曲ボツにしているんですよ。宮尾君とも話し合いながら。巷の小説でね、歌詞だけ書いてあるのはね、インチキだと思いますよ(笑)。


−−絵本のために2曲ボツにした、というのはすごいですね(笑)。

中村さん 曲のストックがあるんです(笑)。GOINGにはストックが無いって河野君に聞いたけど、僕にはある。ただ正確に言うと、ストックしか無い(笑)。


−−もうひとつ、カバー裏のイラストに奥付、さらにプロフィールのお2人の写真まで、遊び心が溢れていることに驚きました。

中村さん この本ができるまでに、最初にテクストを固めてから3年ぐらいかかっています。一時はもうできないんじゃないかと思ったこともありましたけど、最後は長いトンネルを抜けるような感じに完成した。さらっと読めるかもしれないけれど、すみずみまで、じっくり創った、渾身の作です。

宮尾さん 最初は「ライフワーク的に描いてよ」という中村さんの言葉に甘えていたのですが、僕の場合、もともと絵が固まっていたわけではないので、時間をおくと絵が変わってしまうんですね。それに気づいて、最終的には今年に入ってから、全部描きなおしました。


−−中村さんの作品を読むと、泣く場面ではないのに、日常の描写にグッときて、涙がこぼれる瞬間がよくあります。宮尾さんの絵が重なったこの1冊を読んでも、それは同じだと感じました。

中村さん 絵本といっても、僕としてはこれまでの小説作品と同じつもりで書いてます。小さい子向きの絵本ではないけど、絵がある分、読みやすいと感じる人もいるかもしれない。もしかしたら読者にとっては、これが本を読む入口になるかもしれない。またこういう絵本を創ってみたいよね。

宮尾さん はい。僕も初心を忘れずにやっていきたいです(笑)。

中村さん 本ってね、ずっとあるものだと思っている人が多いけれど、今のように新刊が毎月たくさん出る状況だと、手に入れるべき時に手に入れないと店頭からはなくなってしまう。そういう意味で、ネット書店は、古い本が買えていいのだけど。自分にあったもの、好きだと感じたものは、素早く手に入れてほしいな。あと、こういう企画はある程度成功しないと、次が出せないんですよ(笑)。


−−今後もお2人の最強のコラボレーションに期待しています。今日はありがとうございました!



『リレキショ』は、「大切なのは意思と勇気。」という印象的な一文で始まりますが、実際にお会いしてみると、中村さん自身がその一文を体現している人物のように感じられました。優しいだけでなく、勇気をわかせてくれる中村さんの文章と、あたたかいのに一度目にしたら忘れられない個性を持った宮尾さんの絵が一緒になると、どんな世界が生まれるのか…楽しみにせずにはいられません。
【インタビュー 宇田夏苗】


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