楽天ブックス 著者インタビュー

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大手運送会社の営業部次長の吉野は、異彩を放つ仕事ぶりから「鬼だるま」と呼ばれるやり手の営業マンだった。しかし、周囲との軋轢をものともしない吉野の強引なやり方に、組織は「管理職失格」の烙印を押す。新規事業部に異動した吉野を待っていたのは、年間4億という途方もないノルマと、やはり左遷されてきた若い社員だけ。しかし、吉野は物流会社のノウハウを生かし、巨大市場を掘り起こすアイディアを思いつく……。『再生巨流』は、デビュー作『Cの福音』をはじめとする犯罪小説、国際謀略小説で知られる楡周平さんの痛快なビジネス小説。不景気が底を打ったと言われながら、いまだ本格的な復活には至らない日本経済には何が足りないのか? 実現可能なアイディアが詰め込まれた『再生巨流』に作者が込めた思いを聞いた。

プロフィール

楡周平 さん (にれ・しゅうへい)
1957年生まれ。米国系企業に勤務中の1996年に書いた『Cの福音』(宝島社)が30万部を超えるベストセラーとなり、作家業に専念する。『Cの福音』の主人公である悪のヒーロー・朝倉恭介シリーズは6冊あり、どれもベストセラー入りしている。『クーデター』『猛禽の宴』『ガリバー・パニック』『フェイク』『無限連鎖』など著書多数。

インタビュー

−−『再生巨流』には運送業界と通信販売業界の内幕、町の電気屋さんの活性化についての新しいアイディアなど、さまざまな要素が詰め込まれています。作品を構想されたきっかけを教えてください。
楡さん一昨年、家電製品を一新したんです。大手量販店からプラズマテレビを買ったんですが、商品が届いて設置されたのが夜中の11時。しかも配達に来た人が「使い方はマニュアルを読めばわかりますから」と言ってさっさと帰っちゃったんです。マニュアルを読めって言われたって、いまのマニュアルって分厚いじゃないですか。それをいちいち操作のたびに見なくちゃならないなんて、とげんなりしたんです。その時に、もしも近所の電気屋さんからこれだけ買っていたら、手取り足取り教えてくれただろうなという思いに駆られましてね。
−−町の電気屋さんだったら、きめ細やかな対応をしてくれそうですね。
楡さんでも、町の電気屋さんは量販店に押されて青息吐息でしょう。では、彼らに復活のチャンスはないんだろうか。このまま町の電気屋さんがなくなるってことは、最終的には僕ら消費者が困るということでもある。彼らを活性化させるビジネスが何かないだろうかと考えていた時に、目についたのが「アスクル」などに代表される文具通販の仕組みだったんです。
−−『再生巨流』で文具通販のシステムが細かく紹介されていますが、実によくできたビジネスモデルですね。
楡さん文具通販は代理店制をとっているんですが、代理店に支払われる報酬が受注一件あたりいくらではなくて、売り上げの何パーセント。ここがミソですね。お客さんからの注文は直接通販会社に行くし、荷物もそのままお 客さんのと ころに届く。  つまり、代理店は顧客からお金さえ順調に支払われていれば、手間いらずで売り上げの何パーセントかが確実に入ってくる。代理店の役割は顧客の開拓と、顧客の債権管理と与信管理なんです。  だったら、この仕組みを使って家電店を代理店にしたらもっとすごいことができるんじゃないか。いま文具通販が扱っているのはオフィスサプライがほとんど。それ を一般コンシューマー向けのアイテムまで広げて、一気に家電店を通じて流す。しかも家電店は配達のためのクルマを持っているから、それを使えば物流経費も安く済む。いいことづくめなんです。
−−なるほど。『再生巨流』で描かれているビジネスモデルは町の電気屋さんの再生から思いつかれたアイディアだったんですね。
楡さんお客さんのオーダーがあれば、すぐに近所の家電店が商品の設置に来てくれて、使い方も教えてくれる。何かクレームがあったらそのお店に言えばいい。顔が見える商売だから、一般消費者は安心して買い物ができる。廃れつつあると言われている町の家電店が復活して、大きなビジネスチャンスを作る。そういうことがありえるんじゃないかと思ってこの小説を書きました。
−−楡さんといえば、朝倉恭介シリーズなどの国際謀略小説が人気を博していますが、『巨流再生』はビジネス小説ですね。
楡さんぼくはジャンルにこだわっているつもりはないんですよ。面白いと思ったものを書きたいだけです。謀略ものを書いていた時には、たまたまそういうアイディアをいくつか思いついたから書いていただけなんです。  ただ、従来のビジネス小説とは違うものを書きたいという気持ちはありました。ビジネス小説というと、実際にあったことを元に、その中での人間模様を描くものが多かったと思うんです。でも、ぼくは今まで誰も思いつかなかったようなことを書きたかった。この小説はこれから実現可能なことを書いた小説です。いわば、ぼくのビジネス企画書。私から読者であるビジネスマンの方々へのプレゼンなんです。
−−確かに、現実と照らし合わせても説得力のある小説ですね。
楡さんさまざまな分析の結果、これなら実現可能だろうという結論を得て書きましたから。
−−ご自身が外資系企業で、物流のお仕事に関わられていたそうですね。
楡さん日本では物流は注目されづらい世界ですが、それだけに知られていない面白いネタがたくさんあるんですよ。日本企業の特徴なんですが、めぼしい人材はみんな営業に行ってしまう。後方支援部隊は軽んじられる傾向があるんです。  ところが、外資企業に行くとまったく違うんですよ。「Distribution Empire」という言葉がありまして、訳せば「物流帝国」。この言葉は何を意味しているかというと、企業の中で物流部門が強い力を持っているということなんです。発言力もあるし、予算も使う。物流はものすごく大切なんだという考え方が発達しています。物流を無視してかかると、会社全体から見てもオペレーションが非効率なものになってしまいますからね。  近年、日本でもこういう部分が改善される傾向にありまして、「セブン・イレブン」は「集中出店形式」を取っています。エリアの中で何軒かまとまらないと出店させない。そうしないと配達効率が悪いからです。そういうことがやっと考えられるようになってきました。
−−『巨流再生』を読んでいると、物流について知らなかったことが書かれていて目からウロコが落ちる思いでした。物流を制するものがビジネスを制するんじゃないかと感じましたね。大手運輸会社が舞台ですが、取材はされたんですか?
楡さん運輸会社に関しては、大手の運輸会社を退職された方に相談しました。こういうアイディアはどうだろう? とお話したら、「そうか、その手があったか!」とおっしゃっていましたね。
−−それだけリアリティがあるということですね。ところで、『巨流再生』は「週刊新潮」に連載されていましたが、全体の構想がかっちりとできてから書き始められたんですか?
楡さん全体の構想はありましたが、正直にいうと、ここまで大きな展開になるとは思わずに書きはじめました(笑)。
−−読んでいて、ビジネスのアイディアが次々に登場するので、書かれている間に 思いつかれたものもあったのではないかと感じたんです。
楡さんぼくも吉野君や蓬莱君たち、登場人物といっしょになって考えながら書いていた部分があるんですよ。これまで僕が書いてきた小説は、どちらかというと頭の中で完成図ができあがっていて、それを追って書いていた。それが、今回はどういうわけか、俺が吉野だったらこう考える、蓬莱だったらどう考えるだろうか、あるいは藍子ちゃんだったら……とどんどん広がっていったんですよ。よく作家の諸先輩方が「物語のなかで登場人物たちが動きはじめる」とおっしゃいますが、こういうことなのか! と初めてわかったような気がします。
−−それは読んでいても伝わってきました。立ちはだかる障害をどう乗り越えるか、主人公たちが知恵を絞って立ち向かっていく姿がリアルに感じました。読者も主人公の吉野たちといっしょに問題を乗り越えようと考えるんじゃないでしょうか。
楡さん読者の方から連載中から反響をいただいたもの、そういうことなのかもしれませんね。
−−考えるということで印象的なのが、作中に登場する「脳みそに錐を刺して、血が噴き出るまで考えろ!」という言葉です。楡さんのほかの小説でも読んだ記憶があるんですが、この表現は楡さんのオリジナルですか?
楡さん務めていた頃に、会社の偉い人から言われた言葉です。マーケティングのセクションにいたんですが、デジタル製品の研究開発とマーケティングをまとめる仕事をしていたんですね。そのときに営業とケンカになりまして、売り言葉に買い言葉で「だったら営業に出たるわい」って、一年もいませんでしたけど営業に出たことがあるんですよ。  そのときに、偉い人から「お前何やってるんだ」って聞かれて、これこれこういう経緯で営業に出てますって言ったら、「楽しいか」って聞かれたんですよ。  一日何十件も客先を回って商談をして注文を取ってくるわけですから、仕事としてやりがいがある。汗かいて帰ってくれば充実感もあるから「楽しいです」って答えたら怒られましてね。「お前にそんなことをさせるために会社は高い給料を払っているわけじゃない。もっとでっかい、何十億、何百億っていう市場を立ち上げることを会社はお前に期待しているんだ」。で、そのときに出た言葉が「脳みそに錐を刺して、血が噴き出るまで考えろ!」という言葉だったんです。
−−『再生巨流』はまさに巨大な市場を立ち上げる物語です。世のビジネスマンにとって大いに刺激になると思います。今日はありがとうございました!
楡さんのお話をうかがっていると元気が出てくる。スペースの都合で掲載できないのが残念だが、お話は日本企業の人材の問題点、大企業に蓄積されたノウハウの凄さなど多岐に渡った。『再生巨流』は、小説の中で実現可能なビジネスモデルを提案していることで話題となっているが、さまざまなビジネスのヒントが惜しげもなくちりばめられている。まさしくビジネスマン必読の書である。【インタビュー タカザワケンジ】

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