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楽天ブックス 著者インタビュー

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ある日突然、最愛の妻レクシーを亡くしたポール。警察はりんごの木から落下したことによる「事故死」と断定するが、ポールは謎の多い妻の最期にどうしても納得することができない。唯一の目撃者は愛犬、ローレライ。愛する妻の死・・・その真相を知るために、言語学者の夫は「犬をしゃべらせる」ためのレッスンを始めるのだった・・・。愛する人を失ったとき、人はその悲劇をどのように受け容れていけばよいのだろうか。長編第一作目となる本作で、妻との幸せな日々をなぞりながら、ひとりの男性が、深い絶望から少しずつ歩き出していく姿を描いたキャロリン・パークハーストさん。ニューヨークタイムス紙のベストセラーリストに挙がるなど、全米で高い評価を受けた『バベルの犬』の著者である彼女に、作品のこと、そしてご自身について伺った。

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キャロリン・パークハーストさん『バベルの犬』『バベルの犬』
突然死亡した妻レクシー。唯一の目撃者は愛犬のローレライ。言語学者であるポールは、犬に言葉をしゃべらせることができれば、愛する妻の死の真相が分かるのではと考える…
1,890円(税込)
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プロフィール

キャロリン・パークハーストさん Carolyn Parkhurst
ウェスリアン大学卒業後、アメリカン大学創作文芸科で修士号を取得。雑誌や新聞に短編を寄稿し才能を認められ、本作が長編デビュー作となる。ワシントンD.C.で夫と息子と共に暮らす。

インタビュー

−−この作品が初の長編ということですが、小説家を目指したのはいつですか?
キャロリンさん私は幼い頃からいつも小説家になりたいと思っていました。初めてストーリーらしいものを書いたのは3歳の時で、「The Table Family」という題名でした。テーブルの家族が葉っぱの一家と一緒に暮らしていくというお話で、しかもテーブルの家族は車まで持っているという、かなり無理のある設定でした(笑)。
−−なんとも想像力に溢れたお話ですね。大学卒業後には、書店に勤められたそうですが。
キャロリンさん3年間書店員として過ごしたのですが、どんな本が書かれているのかを見るのが面白かったですね。また、消費者としての視点から、出版業界について学ぶことも出来ました。本に囲まれて過ごせる上に、社員割引で本を買うことも出来たのですから、小説家志望の私にはありがたい職場でした。
−−今回の小説では主人公のポールが、妻のレクシーがやりかけていた本棚の整理をする場面で、この夫婦の本棚に並んだ本の題名のリストが出てきます。読んでいた本の題名を挙げることで、彼らの人物像を浮かび上がらせていくというのは興味深いですね。
キャロリンさんこの小説を書いているとき、ポールとレクシーがどんな本を読んでいるのかと考えるのは私にとっての楽しみでもありました。誰かの家を訪れると、私の視線は必ず本棚にいってしまいます。本棚に並べられている本を眺めていると、その人がどんな人物なのか案外わかってしまうものです。
−−『バベルの犬』(原題『The Dogs of Babel』)という題名で、しかも犬が重要な役割を果たすストーリーですが、ご自身もやはり犬がお好きなのですか?
キャロリンさんもちろん、犬が大好きです。この小説を書いている間、我が家で暮らしていた犬のチェルシーが、私の創作意欲を大いにかきたててくれました。思うに、犬を飼ったことのある人なら、誰でも「犬たちは一体どんなことを考えているのだろう?」と考えたことがあるのではないでしょうか。チェルシーの心の中はどうなっているのか、という私自身の疑問が、この小説の構想に結びつきました。

人間とペットとの間には強い絆が生まれるものですが、その関係を深く掘り下げて考える機会はそれほど多くないように感じます。私は人間とペットとの関係を、この小説を通して、より深く考えてみたいと思いました。
−−妻を亡くしたポールは、愛犬のローレライから妻の死について聞き出そうと、犬に言葉を話させるためのレッスンを始めます。ご自身が愛犬のチェルシーにそうしたレッスンをされたことはありますか?
キャロリンさんポールのように、チェルシーをしゃべらせるためのレッスンはしませんでしたが、ある種の知能テストのようなことを試みたことはありました。そうやって犬と関わるのは楽しかったですね。ただ、小説を書くためのリサーチといいつつ、そんなことをしていると、あっという間に時間が経ってしまうので、「私は小説を書きたいのか?それとも犬の頭にタオルを乗せることを続けていたいのか?」と、いつも自問自答していたのですけれど(笑)。
−−ご自身もポールのように、犬と会話してみたいと?
キャロリンさんもし犬と会話することができたなら「この世界をどう感じているか?」、ということをまず聞いてみたいですね。どうやって時間を過ごしているのか、子ども時代のことを覚えているのか、なども訊ねてみたいことです。

私たちは他人の前では絶対にやらないようなことを、ペットの前では気にせずにやっていたりしますよね。犬たちからは、そんな人間たちをどう思うのかとぜひ教えてもらいたいのです。

残念なことに、この小説を書き上げる前に我が家のチェルシーは亡くなってしまいました。本当に悲しい出来事でしたが、彼を失う体験を経たことで、ローレライという犬を、ストーリーを進めるための可愛らしい道具ではなく、より真実味のあるキャラクターに作り上げることが出来のではないかと思うのです。
−−ポールの妻レクシーは、仮面舞踏会で身につけるような仮面を作るアーティストというユニークな設定で、重要な場面では仮面が印象的に使われていますね。
キャロリンさんこの小説を書くにあたって、レクシーがいかに想像力に溢れ、同時に衝動的な行動に走ってしまう女性であるかを表現するために、彼女にふさわしい仕事はないかと考えました。この点は、特に苦労したところでもあります。最初は万華鏡を作る人にしようかと考えたのですが、ある日、自宅の壁に掛かっていた仮面を見て、仮面作家というアイデアがひらめきました。それから実際に仮面を作っている人にインタビューする中で、デスマスクの注文を受けた女性の話を聞いた時、私の中のレクシーのイメージと、仮面作家という仕事がひとつに繋がったのです。

仮面というものはとても象徴的なものです。仮面が何を象徴しているのかということに私はずっと興味があって、実は自分でも仮面を集めているんですよ。
−−この小説を書き終えた翌日に、初めてのお子さんを出産されたそうですね。小説の中のレクシーは妊娠中に亡くなってしまいますが、ご自身の妊娠が、ストーリーを作り上げる中で何か影響を与えましたか?
キャロリンさん一番大きかったのは、締め切り日が明確になったことです。出産が迫っているのですから、それまでに書き終えなければなりませんでした。幸運なことに、出産のタイミングは本当に上手くいきました。とはいえ「よりによって小説を書いている最中に、妊娠、出産することはないのに!」といつも周りに言っていましたが(笑)。

今回のストーリーを発展させていく中で、妊娠が大きな影響を与えたことは確かです。私自身、初めての妊娠にとても興奮していました。一方で、初めて子どもを持つ前には誰もが感じるように、「自分は良い母親になれるのだろうか」と心配したり、「私は子どものために正しい選択をすることが出来るのだろうか?」と考えたりして、不安でたまらなくなることもありました。こうした私の中の葛藤が、レクシーという女性の心理に反映されていると思います。

私自身が抱えていた生まれた母になることへの不安と期待、という2つの対極的な気持ちが、鏡のような異なる視点となって、小説の中にあらわれているのかもしれません。
−−仮面にはじまり、ニューオリンズのお祭りの場面など、映像的な描写が印象に残ったのですが、すでに映画化が話もあるそうですね。
キャロリンさん「ハリーポッターとアズカバンの囚人」のプロデューサーであるデヴィッド・ヘイマン氏が加わり映画化の話が進んでいます。今は脚本家を探している段階ですが、スクリーンで自分の作品を観るのはとても楽しみなことです。しかし、やはり映画化は自分の手を離れたものだと思います。この小説がすばらしい映画になる方法も、逆につまらない作品になってしまう方法もたくさんあるはずですが、今は映画化に関わり、進めてくれている人たちを信じて、出来上がってくる作品に大いに期待しているところです。
−−この小説をどんな人に読んで欲しいですか?
キャロリンさんこの小説にはいろいろな要素が含まれています。ポールが妻の死について探るミステリー的な要素もありますし、ラブストーリーでもあります。さまざまな読者の方たちが、それぞれ異なった視点で、この小説を読んでくれるのはうれしいことです。愛の喪失という点に共感する人、犬との関わりにより興味を持ってくれる人、また、レクシーという女性の内面の葛藤に深く共感する人もいるでしょう。アメリカでの読者の反応を見て、非常に幅広い読者にこの小説が受け入れられたことに驚いています。日本でも幅広い読者の方々に読んでもらえたらうれしいですね。
−−次回作の構想をお聞かせください。
キャロリンさん『バベルの犬』とはかなり違ったものになると思います。登場人物も多く、より複雑なストーリーになるはずです。まだ詳しいことはお話できませんが、私が常に興味を持っている「テレビ」をモチーフにしたものを考えています。次回作には少しだけ日本を舞台にした場面が出てくる予定なんですよ。残念なことに、私は一度も日本を訪れたことがないのですが、出来るだけ日本を忠実に描きたいと思っています。
彼女が紡ぎ出す文章そのままに、温かな言葉でインタビューに答えてくれたパークハーストさん。愛するものを得ることと失うことは表裏一体であり、どこかでひとつに繋がっているのかもしれない、と気づかせてくれる『バベルの犬』。読み終えたとき、悲しみだけでもなく、喜びだけでもない、静かな涙が溢れ出てくる。言葉のひとつひとつがじんわりと心に刻まれていく、そんな読書の余韻と喜びを与えてくれる作品だ。【インタビュー 宇田夏苗】

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