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10歳のバスチアンが出会った想像の神秘あふれる世界<ファンタージエン>。沈みかけていたその国を救うには、人間界から子どもを連れてくるほかなかった……。映画にもなったファンタジーの金字塔、『はてしない物語』を生み出した作家・ミヒャエル・エンデの遺志を継ぎ、ドイツの作家たちが<ファンタージエン>を舞台に、再び「想像することの大切さ」を伝える物語を紡ぎ始めた。そのシリーズの第1弾、『秘密の図書館』の作者、ラルフ・イーザウさんが語るエンデとの出会い、そして、この作品への想いとは?

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ラルフ・イーザウさん『ファンタージエン〜秘密の図書館』『ファンタージエン〜秘密の図書館』
「ネシャン・サーガ」でおなじみのラルフ・イーザウが紡ぐ、ファンタージエンの新たなる物語。
1,890 円(税込)
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プロフィール

ラルフ・イーザウさん (Ralf Isau)
1956年ベルリン生まれ。コンピュータ・プログラミングの仕事のかたわら、娘に贈るために物語を書き始め、’93年、作品がミヒャエル・エンデの目にとまり作家デビュー。ファンタジーの伝統とコンピューターゲームの興奮を持ち合わせる独特の作風が高く評価され、’97年には『盗まれた記憶の博物館』で、ドイツ児童書界でもっとも権威のあるブックステフーダー賞を受賞。著書に『ネシャン・サーガ』『盗まれた記憶の博物館』(ともにあすなろ書房)、『暁の円卓』(長崎出版)などがある。

インタビュー

−−「ミヒャエル・エンデに次ぐドイツ・ファンタジーの旗手」と言われているイーザウさんですが、作家としてデビューすることになったのも、エンデとの出会いがきっかけだったそうですね。
イーザウさん初めてエンデに会ったのは、1992年に彼の朗読会に参加したときのことです。そこで彼と親しく話をする機会に恵まれ、自分の作品を贈ったことから、作家の道を歩むようになりました。「エンデに次ぐ……」とは自分の口からはとても言えませんが(笑)、子どもの頃から彼の作品は愛読書でしたから、彼の思想や作品に大きく影響を受けているのは間違いありません。
−−有名な作家に自分の作品をみてもらうには、かなりの勇気が必要だったのではないですか?
イーザウさん確かにその通りです(笑)。ドイツでは朗読会がよく開かれていて、作家たちは気軽に読者と話をしたりするのですが、エンデは文学界のスターでしたから、300人ほど集まった朗読会の後には、たくさんのファンから声をかけられていました。でも、彼はスター的なそぶりをまったくせずに、1人ひとりの質問に丁寧に答えてくれたのです。エンデは本当に心の開かれた人で、誰にでもそんな風に接していました。その時に渡した作品を気に入ってくれて、自分の本を担当するロマン・ホッケ氏のいる出版社を紹介してくれました。<ファンタージエン>シリーズは、そのホッケ氏の企画だったこともあり、ぜひ参加したいと思ったのです。
−−『秘密の図書館』では、『はてしない物語』の中で、主人公のバスチアンに「はてしない物語」を渡した古本屋の老主人、カール・コンラート・コレアンダーの少年時代が描かれています。まさしく、『はてしない物語』の前史というべきものですね。
イーザウさんそうですね。この作品は<ファンタージエン>シリーズの1巻目ですが、ドイツではすでにシリーズとして、6人の作家による6作品が出版されています。私のように前史的なものを書いた人もいれば、<ファンタージエン>の世界の1部分に焦点を当てた物語を書いた作家もいて、同じ作品をモチーフにしながらも、全く異なる世界が生まれているのが面白いですね。今後はドイツだけでなく、世界中の作家たちに参加してもらい、子どもはもちろん、大人にも楽しんでもらえる12から24作品のシリーズにする予定だそうです。
−−6人の作家が競作するにあたり、作家同士のやりとりはあったのでしょうか?
イーザウさん作家同士、お互いに面識があったわけではなく、ホッケ氏からは、「子ども時代に読んだ『はてしない物語』を思い出しながら、自分自身の<ファンタージエン>を作り出して欲しい」と言われました。ただ、シリーズを成り立たせる上で必要な決まりごととして、「<ファンタージエン>についてどれだけのことを知っているか」というタイトルの100ページものリストを渡されました。こうした形での創作は初めてだったので、自分への挑戦ではありましたが、不安は感じませんでした。25年ほど前に、『はてしない物語』を初めて読んだときから、<ファンタージエン>は大好きな世界だったので、自分の言葉でその世界を広げていけるのが、何よりも楽しかったのです。
−−イーザウさんが最初に物語を書き始めた理由が「娘さんを喜ばせるためだった」というのがユニークですね。
イーザウさん当時はコンピューター会社でシステムエンジニアとして勤めていたのですが、娘のミリアムを喜ばせたくて、1988年から物語の構想を始めました。思うに、筋肉にしても、左腕ばかり使っていたら、右腕は細ってしまうわけで、人間としてのバランスを取る上で、コンピューターの仕事と、作家としての活動が影響し合うことが必要だったのでしょう。ところが、いったん書き始めたらどんどん長くなって、娘の誕生日までにはとても完成させられなくなってしまったのです。そこで急遽『竜のゲルトルート』というお話を完成させました。ミリアムはとても喜んでくれて、自分の本棚の一番目のつくところに私の本を飾ってくれました。結局、長くなってしまった最初の構想は、1600ページの『ネシャン・サーガ』になったわけですが(笑)。
−−最初の構想から長編が生まれたというのは驚きですが、作品のアイデアはどのようなところから得るのでしょう?
イーザウさん
子どもの頃から空想する癖があって、これは自分ではコントロールできないことなのです。小学校に入ったばかりの6歳のとき、初めてもらった通信簿には、先生から「ラルフ坊やは絵の領域において、実に想像力に富んだ作品を描く」と記されたのを覚えています(笑)。たとえば、テレビで交通渋滞のニュースを見ていたとします。渋滞のことを、ドイツ語でシュランゲというのですが、この言葉にはヘビという意味もあるので、次第に渋滞がヘビに見えてくる。冬の光景だとすると、雪の中に暮しているヘビは寒いから毛皮が必要だな……と思うと、今度は白熊のイメージが沸いてきて、すると毛皮を着た白熊と雪の中のヘビの構想が出来てしまうといった風に、目にした何かからパッと映像が浮かんでくるような感覚を得ることはよくありますね。『盗まれた記憶の博物館』も、博物館を訪れた時、古い像を見て「これが動いたらどうなるだろう?」と考えているうちにイメージが出来た作品です。
−−日本でも人気を集めている『暁の円卓』シリーズでは、日本を舞台に描かれていますね。
イーザウさん20世紀全体を外観できる物語を書いてみたいと思っていながら、霧がかかったような漠然としたイメージしかなかったとき、日本で起きた地下鉄サリン事件のニュースを目にしました。すると、新しい世界を作るという名の下に古い世界を破壊してしまう、そういう行動に進む集団を軸にするアイデアが一気に浮かんだのです。
−−――「ファンタジー作家」と言われるイーザウさんですが、作品を拝見すると、SFから歴史小説的な要素まであって、ひとつのジャンルには、けっしてはまり切らないような気がしますが……。
イーザウさんたとえば『ネシャン・サーガ』の3巻目などは、完全なファンタジーですが、私の作品の中には、時にミステリー的な要素があったり、歴史小説的な内容だったりします。ですから、なかなか自分の作品の全体像を掴んでもらえていない気がしているのも事実ですね。英語の「ファンタジー」という言葉には、広い意味で暴力的なものも含まれているので、私自身は「ファンタジー作家」というよりも、ファンタジックな物語、幻想文学を書いているという意識があります。実は最近、「ファンタゴン:Phantagon」という造語を思いついたので、ぜひこの言葉を広めたいと思っているのです(笑)。この言葉の意味はファンタジックな多面体=さまざまな文学形式やジャンルの複合体を読者が見出すことのできる小説、ということです。意味も発音記号も複数形も考えてありますから、いつでも百科事典や辞書にこの言葉を提供できますよ(笑)。
−−では、これからは、イーザウさんの作品を「ファンタゴン」と呼ぶことにしましょうか(笑)。エンデが『はてしない物語』を書いてから20余年が経つ中で、私たちを取り巻く環境は大きく変化し続けています。そうした中で、ファンタジックな物語が私たちに与えてくれるものは何でしょう?
イーザウさん空想することは、自分を取り巻いている世界の外側に飛び出すために必要なことですが、ファンタジックな物語は、人間に空想の機会を与えることができます。ただ、忘れてはならないのは、私たちが生きている現実の中にも、驚くべき不思議がたくさんあるということです。私はそのことについても描いていきたいと、いつも思っています。 現代社会に生きていると、どうしても数値で判断できる価値に頼ったり、経済的な効果や利潤ばかり追ってしまいます。でも、「私はあなたを愛しています」という気持ちは、数値では絶対に表せないでしょう。数値で定義できるものだけが現実ではなく、自然科学では解き明かせないものがあるのです。ファンタジックな物語に役割があるとすれば、そうした数値化、物質化できないものの大切さを問いかけることではないでしょうか。この世界にはいろんな文化や考えかたに満ち溢れています。けれど、そうした事実におびえずに、すべての人に自分の目を開いて、しっかりと世界を見て欲しいのです。『秘密の図書館』を通して、自分だけの<ファンタージエン>への扉を見つけて、新しい世界に飛び込んでいってもらえたらうれしいですね。
−−イーザウさんのそうした想いがラストで一気に伝わってきて、大人の心にもズシリと響きました。今日は本当にありがとうございました。
最初の読者になってくれた娘のミリアムさんの近況をたずねると、「最近、母親になったばかり」と目を細めながら、孫のオリビアちゃんの写真を取り出したイーザウさん。実はオリビアちゃんのために絵本を書いたところ、「出版担当に『こんなに長い絵本はみたことがないよ」と言われてしまった(笑)」とか。『秘密の図書館』と同時に長編2冊を書き終えるなど、もの静かな眼差しの奥には、はてしない想像と創造の世界が広がっているようだ。真っ白なキャンバスに好きな絵を描き、物語を綴ることこそ人生!といわんばかりの自由と勇気がいっぱいの『秘密の図書館』に足を踏み入れて、自分だけのイマジネーションの旅をぜひ楽しんでみて欲しい。【インタビュー:宇田夏苗】

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