著者インタビュー 最新号 バックナンバー

祝!本屋大賞受賞『一瞬の風になれ』作者・佐藤多佳子さんが語る爽やかな陸上部の若者たちの青春群像

佐藤多佳子さん

スタートからゴールまでの一瞬、爽やかな風になる……。スポーツをやったことのない人でも、一緒に走った気分になれる陸上競技400Mリレー。この爽やかな青春スポーツ小説を渾身の筆致で描いた佐藤多佳子さんの 『一瞬の風になれ』が、本屋大賞を受賞しました。主人公の新二や、天才の連と一緒に、あなたも力いっぱい、走ってみませんか?



本屋大賞受賞の本


『一瞬の風になれ 全3巻セット』
佐藤多佳子
講談社
4,300円(税込:4,515円)

『一瞬の風になれ(第1部)イチニツイテ』
『一瞬の風になれ(第1部)イチニツイテ』
佐藤多佳子
講談社
1,400円(税込:1,470円)

『一瞬の風になれ(第2部)ヨウイ』
『一瞬の風になれ(第2部)ヨウイ』
佐藤多佳子
講談社
1,400円(税込:1,470円)

『一瞬の風になれ(第3部)ドン』
『一瞬の風になれ(第3部)ドン』
佐藤多佳子
講談社
1,500円(税込:1,575円)


佐藤多佳子さんの本


『しゃべれどもしゃべれども』
『しゃべれどもしゃべれども』
佐藤多佳子
新潮社
590円(税込:620円)

『黄色い目の魚(さかな)』
『黄色い目の魚(さかな)』
佐藤多佳子
新潮社
629円(税込:660円)

『スローモーション』
『スローモーション』
佐藤多佳子
ジャイブ
540円(税込:567円)

『神様がくれた指』
『神様がくれた指』
佐藤多佳子
新潮社
819円(税込:860円)

『サマータイム』
『サマータイム』
佐藤多佳子
新潮社
400円(税込:420円)

『ハンサム・ガール』
『ハンサム・ガール』
佐藤多佳子/伊藤重夫
理論社
600円(税込:630円)

『イグアナくんのおじゃまな毎日』
『イグアナくんのおじゃまな毎日』
佐藤多佳子/はらだたけひで
偕成社
1,200円(税込:1,260円)

『おかわりいらない?』
『おかわりいらない?』
佐藤多佳子/山口みねやす
講談社
951円(税込:999円)

『九月の雨   四季のピアニストたち下』
佐藤多佳子/毬月絵美
偕成社
1,200円(税込:1,260円)


佐藤多佳子さんのオススメDVD


『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』
『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』
監督: ラッセ・ハルストレム
出演: アントン・グランセリウス/アンキ・リデンー

『リオ・ブラボー』
監督: ハワード・ホークス
出演: ジョン・ウェイン[主演]


佐藤多佳子さんのオススメCD


『奥田民生』


プロフィール


佐藤多佳子さん佐藤 多佳子さん(さとう・たかこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業。児童文学作家、童話作家。1989年『サマータイム』にて月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。1998年、『イグアナくんのおじゃまな毎日』で、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞受賞。『ハンサム・ガール』で、第41回産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞受賞。
ホームページ『佐藤多佳子の連絡板』:http://www009.upp.so-net.ne.jp/umigarasu-to/

インタビュー

本屋大賞受賞風景
−−本屋大賞、受賞おめでとうございます!


佐藤さん ありがとうございます。

 選考委員の先生方に選考していただく賞もうれしいものですけれど、本屋大賞は、たくさんの書店員さんたちの投票という形で選んでいただいたものです。単純に、率直に、うれしい気持ちでいっぱいです。
 前作の『黄色い目の魚』が出版された時に、宣伝担当の方が、書店員さんたちのコメントをいっぱい集めてパネルを作ってくれたんです。いただいたメッセージには、熱い思いの伝わってくる、うれしい言葉がたくさんあって、今でもずっと大事に持っています。
 今回この本が完成してからも、書店さんから「新刊を待ってました」という熱い反応をいただいて……。しかもまだ、一巻が出たばかりで、そんなにメディアにも取り上げられていないし、書評もでていないのに、特設コーナーを作ってくれたり、プッシュしてくれたり。おかげでこれだけの部数が出たのだと思います。
 ほんとうに、ありがたいなと思います。すごくうれしいことです。


本屋大賞受賞風景販売の現場にいる書店員は、お客様の反応もリアルにわかっていると思います。お客様が待っていた本をきちんと届ける、お客様に読んで欲しい本をオススメする。この相乗効果で、佐藤氏さんの本を応援する広がりになっていったのでしょうね。


佐藤さん そうですね、こちらは小説を書き上げるところまでしかできないですが、その先の、読者まで届けてもらうところで、ほんとうに、いろんな方にお世話になっているということを、今回すごく実感しました。


−−とくに、この『一瞬の風になれ』は直木賞にノミネートされ、その後、吉川英治文学賞を受賞、続けて本屋大賞受賞と、たくさんの人に支持された作品ですね。


佐藤さん 自分は、あんまり賞にこだわりがないほうだと思うんです。書きたいものを書いて、それが評価され、結果として賞をいただけるのは、光栄でうれしいことですが、この本に関しては、かつてないほど多くの読者の方に、手にとっていただけたし、いろんな反響がありました。読者の声のひとつひとつを受け取りましたので、それだけで十分というくらい、うれしかったんですね。
 ですので、直木賞の該当作なしも、さほどがっかりしませんでした。私の小説はこれで4冊目なのですが、毎回なにかの賞にノミネートはされるけれど受賞はありませんでした。子供の本では賞をいただいたことがあるのですけど、小説は若干ちがうのかな、と思ってきました。賞をもらうような、小説書きの王道とは、少しずれたようなところにいるのかもしれないという気持ちも持っていましたので、受賞は、かえってびっくりしました。
 あぁ、そうか。これでもいいんだ……と。うれしい選評もいろいろいただきまして、こういう形で評価してもらえることもあるんだ、と思いました。


本屋大賞受賞風景−−早くから読者の方の反響がたくさんあった、ということですが、私のまわりでも、本好きな人が早くから書名をあげていました。「ぜひ読んだほうがいいよ」とか「青春を思い出すね」などと言ってまして、みんな「スポーツはやらないけれど、おもしろかった」と言う。そういう意味でも、幅広く人に受け入れられる本なんだなと思っていたのですが……。

佐藤さん それが、この本を出す前には予期しなかったことで、スポーツの好きな人は、おもしろいかもしれないけれど、スポーツに興味のない人には、用のない本なんじゃないかと思ってたんです。ある特定の人にだけ向かって投げたボールかな……と思っていたのですが、それでも書きたかったので書いちゃったんですけど、これでよかったのかな……という気持ちはずっと持っていたんです。
 とくにスポーツが好きではない、自分でもやらない、見たりもしない人でも、「良かったよ、おもしろかったよ」と言っていただけたのが、意外でうれしかったことですね。


−−私も、読ませていただくまで、陸上競技そのものを意識して見たことはなかったのですが、楽しめました。佐藤さんはなぜ、陸上をテーマとして選ばれたのでしょうか。


佐藤さん 自分では、スポーツそのものは、そんなにやらないのですが、もともと見るのはすごく好きだったんですね。試合を見に行ったりもします。それと、マンガが好きなんですが、スポーツマンガを中学生ぐらいからずっと読んできたので、スポーツをモチーフに作品を書いてみたいという思いはずっと持っていたんです。
 では、自分が書くとしたら何をやるか……ということを考えました。最初に、リレーがおもしろいなと思ったんですね。見る競技としては、サッカーも好きなんですけど、サッカーだと試合中、フィールドの中に同時に22人が動くわけなんですよ。これを文章だけで書いていくのはかなりたいへん。人間の書き分けも、それだけの数しないといけません。そういう意味では、リレーは4人。しかも、一人一人、走る時はひとりなんですね。それを繋いでいくものなので、場面的にも、あるいは人物の書き分けというか、書き込みですかね、そういうことでも、バランスがいい。文字で書くフィクションには向いているかもしれないなと思いました。それで、リレーをモチーフにしようと、取材をはじめたんですけど……。
 本にも書きましたが、リレーには400Mリレー(4継)と1600Mリレー(マイル)があります。人に「リレー」といった時に、パッと思い浮かべるのは、たぶん400Mのほうではないかと思います。スピーディですし。それで、短距離のほうでやろうとおもったんですが……。ところが、実際に取材をしてみると、短距離ランナーというのは、リレーはすごく燃えるんですけどね……、大事にしてますけど、でも一番の目標は100M。100Mでどれだけ早く走れるかというのを目指す。短距離をやるショートスプリンターはそういうものなんだ、と思いまして……。それじゃ、個人種目もちゃんと書かないと、陸上を書いたことにならない。
 なので、100Mも200Mも書かないといけなくなって。陸上には、いろんな競技がありますからね。それで、どんどん盛り沢山になっていってしまったのです。


−−駅伝もドラマがありますが、メインの競技は400Mリレーなんですね。


佐藤さん 駅伝も考えたんですよ。繋いでいく競技でもあり、箱根(注*毎年、大学駅伝が行われる)は、やはり好きで、毎年見ていますから。でもやはり、私にとっては、短距離のほうが魅力的だったんです。


−−たしかに、全力を尽くして走る一瞬の中に、さまざまなドラマが凝縮しているというのが読むと伝わってきます。佐藤さんご自身も走られたりするのですか?


佐藤さん いえいえ、全力疾走なんかしたら、体がガタガタになります(笑)。


−−それなのに、これだけのリアリティにはビックリします。読んでいると、こっちも一緒に走っているような気分になって、すごい描写だなと思います。バスケットマンガ『スラムダンク』の試合シーンのように、一緒に汗をかいてしまいますね。

佐藤さん (笑)疲れますよね。


−−ああ、そうすると、ブログのユーザーというほどよい距離感がよかったのかもしれませんね。間近に周囲にいて「今日はなに?」とか期待されると……。


佐藤さん プレッシャーに潰されて死んでしまいます(笑)。


−−スポーツマンガがお好きだというのがありましたが、どんな作品を読まれてきたのですか?


佐藤さん いろいろありますが……。中学生ぐらいの時には水島新司さんが流行ってました。クラスメートはみんな『ドカベン』を読んでたような時代だったんですね。私は、『野球狂の詩』が好きでした。あとは普通に『タッチ』とか、『スラムダンク』なんかも好きですね。作品を書く時に参考にしたのが、小林まことさんの『柔道部物語』です。柔道の部活に、それまでぜんぜん柔道をやったことがないけれども才能のある子がはいってきて、最終的に全国とるまでの話なんですけど、ほんとに部活の話だけで三年間を描いていくんですね。ほかの要素は、ほとんどないんです。チョロッと恋愛的な要素は入ってますけど。部の先輩・後輩、ライバルとの関係、練習、試合……それだけで、すっごいおもしろい! スポーツものを書くなら、こういうものをやりたいなって思っていました。なるべくドラマはスポーツシーンの中でだけ作って。外で広げていくことはいくらでもできるわけですよ、家庭であるとか、恋愛であるとか、事件がおきるとか……。でもそういうものは極力省いて、なるべくスポーツシーンの中だけでドラマを作る。はたして文字でやれるのかということで。どうなっちゃうんだろうと思いながら書いていたのですけど、でもやってみたかったので、「チャレンジ」という感じで書きました。


−−しかも、書き下ろしですよね。完成するまでにどのくらいの時間がかかったのですか?


佐藤さん (笑)4年かかっているんです。私は書くのが遅いので、とくに珍らしいことではないんですけど、それにしてもちょっと長かったですね。


−−最初からこのボリュームで構成されていたのですか?

佐藤さん いえいえ、そんなことはないです。一冊のつもりで書き出したんですけど、さっき言ったように、書きたいことがどんどん増えちゃったので。その段階でシェイプアップして、構図を考えるよりも、書きたいことは全部書いてしまえ、と。全部書いて、最後まで書いて、それから必要ないところを削っていこうと思ったのですが、書きあがってしまうと、どこを削ろうかと……。それで出版社の方とお話をして、まぁいいんじゃないかと。全部本にしちゃおう、ということで、三冊になりました。


−−削るところがないというのは、よくわかります。主人公が成長していく過程が、全部詰まっているからですね。主人公の成長ものでもありながら、魅力的な脇役を配することで見事な青春群像ものにもなっています。登場人物たちは、どういう配置にしようとか、こういうキャラがいいなといった思い入れはあるのですか?


佐藤さん 主人公クラスはまったくの創作なんですけど、もうちょっと脇役になると、実際の取材先にいた部員さんをモデルにさせてもらった子もいます。エピソードもいろいろな人からもらったり、けっこう使わせてもらいましたね。
 取材では、印象的な少年たちに会いました。たとえば、作品の中で一番モデルにしたのは、守谷さんですね。彼はそっくりな人がいたんです。非常に硬派な、いまどき珍しい先輩です。主人公の新二が『バンプ・オブ・チキン』を聴いているのも、取材先のコーチに聞きました。いまどきの高校生がカラオケで歌ったりする好きな音楽はどんなのかなって。曲はいろいろ聴いて自分で選んだんですけど。


−−しかし、新二は、いまどきいないような素直な子ですよね。奥手だし……。


佐藤さん 陸上をやっている人って、まじめで素直な人が多いですよ。地味な競技ですし、ものすごくストイックな練習をしますので、かなり自律心(注*自分を律する心)というか、そういう芯がないと続かないところがあります。たしかに、いまどき?っていうような、すごく素直で、率直。直接、話をしてもひねくれたところのない子が多いです。なにか聞いても、パッと喜んで答えてくれる。逆にびっくりして、ああ、こういう子たちがまだいるんだ、みたいに感じました。なので、新二はこれでいいんじゃないかな、みたいに思います。


−−楽天ブックスのスタッフの間では、あなた、新二派? 連派?なんていう話題もでてくるいほど、キャラクター人気も高いです。


佐藤さん ちなみに、どちらが人気ありましたか?


−−……私は連派なんですけど、まわりからはいろいろな名前があがってきて……。


佐藤さん 私が聞いた範囲では、根岸が一番人気でしたね(笑)。


−−なるほど! ネギ(根岸のアダナ)ですか。いい役ですよね。最後に泣かせるし、わかる気がします!(★ぜひ、お読みください!)。


佐藤さん そう、ダークホースです。いい役まわりですよね。


−−そんな具合に、キャラクターひとりとっても、すごく現実感がある。けれど、どこか理想の人みたいにも書かれているんですよね。実際、書きたかったスポーツ物を書きあげられて、お気持ち的にはいかがでしたか?


佐藤さん すごい楽しかったですね。やっぱり好きだなぁと改めて実感しました。スポーツが好きな人って、ユニフォームとかスパイクとか、そういうものを見たりカタログを調べているだけでも楽しいんですね。シューズのことを調べているだけでも、たっぷり堪能しました。
 試合もよく見ましたしね。作品の完成までに時間がかかってしまったので、作品にも登場する『関東大会』は、結局、4年間、観戦しました。毎回、会場がちがうので、関東をグルッと回りましたね。たまたまですけど、遠いところばっかり行っていました。
 陸上をやってる人たちは「もっと自分たちの競技がメジャーになって欲しい」という気持ちがあるみたいです。ですので、ちょっとでもそんな役にたてればうれしいな、ということもあります。


本屋大賞受賞風景−−前回の本屋大賞受賞作の『東京タワー』もそうでしたが、受賞すると、メディア展開など、いろいろなことが動きはじめると思います。ドラマや映画、マンガ化などのお話は?


佐藤さん マンガ化は決まっているんですよ。講談社の『マガジンSPECIAL』で、安田剛士さんというマンガ家さんが、5月ぐらいから連載してくださることになっています。映画に関しても、いくつかオファーをいただいていまして、検討中ということで……。


−−ぜひ、映像で見たいですね。ゴールを走りぬけるところとか、バトンワークのパスとか。


佐藤さん 「スピード」って見てわかってしまうので、物理的にゴマカシがきかないそうですね。だから、映像で作るのは、けっこうむずかしいかな……と言われてます。役者さんも、ある程度早く走れる人で、しかも演技ができるという制約がありますから。どんなアプローチになるんでしょうね。


−−今後も、スポーツをテーマに作品を書かれるのですか? 今後の作品の構想はいかがですか?


佐藤さん そうですね、具体的にまだ予定はないですけど、スポーツものはまたやりたいですね。楽しかったので。
 今後の作品としては、子供の本に戻りまして、ファンタジーのシリーズものを書くと思います。それと平行して10代向けの短編小説も書いてみようと思っています。


−−新二たちの大学生活など、続編も読みたいですね。


佐藤さん そうですね。それはもし書けたら、書きたいなという気持ちもあります。ただ、走るシーンは書き切ってしまったような気がします。これ以上、レースシーンは書けないかな……。いや、でもまたちがってくるんでしょうね、ランクがあがると。そういったあたりを、また取材していきたいと思います。


−−最後に、メッセージをお願いいたします。


佐藤さん 私もがんばりますので、これからもよろしくお願いいたします!


−−ありがとうございました。


受賞、おめでとうございます! 青春とスポーツという組み合わせは、ある意味、王道です。その輝きに勝るものは、そうそうありません。読む時には、もったいないけれど、あえて、一緒にぐいぐい走った気になれる3冊一気読みをオススメします。スポーツが苦手な人だって、熱くなります。しかも、本を読むだけなので、ぜんぜん汗くさくならないし(笑)。3冊目の裏表紙が次第に近づいてくるのが、残念でもあり、爽快でもあり。あなたも一瞬の、爽やかな風を感じることでしょう。
【インタビュー 波多野絵理】


最新号 バックナンバー

このページの先頭へ