楽天ブックス 著者インタビュー

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直木賞受賞作品『花まんま』には大阪の下町を舞台にした不思議な物語が6編収録されている。科学や常識では割り切れないけれど、もしかしたらこういうこともあるかもしれない……そんなふうに思わせる怪異現象の数々と出会った人々は、その体験を通して何を見て、何を感じるのか。ちょっと怖くて、どこか切なく、温かい短編集だ。そんな『花まんま』を書いた朱川湊人さんとはどんな方なのか。少年時代から作家になるまでのお話をうかがった。

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朱川湊人さん『花まんま』『花まんま』
小さな妹がある日突然、誰かの生まれ変わりだと言い出したとしたら…。
540円(税込)
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プロフィール

朱川湊人さん (しゅかわ・みなと)
1963年大阪府生まれ。慶應義塾大学卒業。出版社勤務を経て、02年「フクロウ男」で第41回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。03年に「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した。『花まんま』で第133回直木賞を受賞。著書に『都市伝説セピア』『白い部屋で月の歌を』『さよならの空』『花まんま』『かたみ歌』がある。

インタビュー

−−直木賞受賞おめでとうございます! 今回の受賞で初めて朱川さんのことを知った方も多いと思うので、少年時代のお話から聞かせてください。
朱川さん足立区の怪獣博士といえばぼくのことです(笑)。ファンタジックなものが好きな子供で、子供向けの怪獣やら何やらの図鑑を片っ端から愛読しては、その世界に耽溺していましたね。子供はだいたい不思議なものが好きですけど、ぼくの場合はかなり深みに入っていたかもしれません(笑)。
−−その頃に読んで印象に残っている本はありますか。
朱川さん作者の方のお名前は忘れてしまったんですが『九尾の狐』ですね。中国から九尾の狐がやってきて、日本で殺生石になるまでの話ですけど、何度も何度も読み返していました。その頃からな神秘的なものが好きだったんですね。

 佐藤さとるさんのファンタジックな童話シリーズも好きでした。『おばあさんのひこうき』って知ってます? おばあちゃんが編んだ編み物がふわふわ飛び始めて、木枠につけたら飛行機になっちゃう。そういういかにも子供向けのお話も好きでしたね。
−−その後はやっぱり江戸川乱歩ですか?
朱川さん乱歩にかぶれたのは小学校5年生くらいだったと思います。家の近くに図書館ができて、乱歩とかホームズ、ルパンにはまったという感じですね。まさしく端から読むという感じでした。
−−中学・高校時代はどうでしたか?
朱川さん中学の前半までは、あんまり勉強は好きじゃなかったですね(笑)。ぼくは生まれが大阪なんですけど、東京に来たのが小学校上がる前なんですよ。東京に来たのも、両親が離婚したからで、父親に育てられたんです。上に男兄弟が2人いて、男ばっかり4人。今思えばむさい家だった(笑)。

 そんな環境で勉強なんかするわけがなく、まかりまちがっても、家で教科書開くことなんかない(笑)。それで、中学くらいまでは楽しいことばっかりやってたんですけど、あるきかっけがありまして、いきなり太宰にハマりまして。
−−乱歩から太宰治ですか。それはまた急展開ですね。
朱川さんホームズや乱歩の後は、ふつうミステリに行くじゃないですか。ところが、ぼくの場合はなぜかそこで不意に太宰に曲がっちゃったんですね。それで、ちょっとは頭を使うようになって、ものを考えるようになった。
−−小説を書きたいと思ったきかっけは何だったんですか?
朱川さん太宰って作家の特異性だと思うんですけど、読んでいるうちに、自分と太宰が重なってきちゃうんですよ。「俺、太宰だから」みたいな(笑)。それで、いつの間にか太宰のコピーみたいなものを書き始めたんですよ。中学生の時ですけど、それが今どこかから見つかって人が持っていたら、50万円払ってでも買い戻したい!(笑) そういう恥ずかしいものでしたね。ただ、その時に書くって面白いなって気づいたんです。

 高校3年生の時に、ある放送局の公募文芸賞に応募して佳作に入ったんですよ。賞金が10万円。その当時の18歳にとって10万円ってけっこう大きい額で、しかもそ自分が書いた小説でもらったんですから、すかさず「俺、やるじゃん」(笑)。その時に、将来は小説家になろうと思ったんです。

 だけど、大学では学費は親からもらいましたけど、それ以外のお金は自分でまかなう約束だったので、アルバイトばかり。だから大学時代はあんまり書いていなくて、社会人になってからまた書くようになったんです。
−−大学を出て出版社に就職されたんですよね?
朱川さん美術雑誌を作っている出版社だったんですが、美術界の偉い先生のところに取材でお話を聞きに行くんですよ。そうすると、名をなしてらっしゃる先生も、昔は貧乏で、一回どこかで踏ん切りをつけているんです。たとえば、美術の先生をやっていたんだけど、このままじゃダメだと思って、教師を辞めて作品を一心に描いていた……というような話を聞くと、ぼくはこのままでいいんだろうかと思うようになったんです。

このままじゃ作家になるのは難しそうだな……と思っていた時に、2年か3年、期間を区切って小説に専念してみようかと思ったんです。それで仕事を辞めたんですが、これじゃ食っていけそうにないということで、とりあえず結婚しようと(笑)。世の中、1人じゃ食えませんけど、なぜか2人なら食えるんですよ(笑)。そうしたら子供が生まれたんです。女房が公務員だったので、「どう? 仕事を辞めて子供を育てるのもいいけど、俺がうちにいて子供を育てるっていうのもありなんじゃないの?」と提案したら「それもそうだね」「ジョン・レノンみたいでかっこいいじゃない?」
−−たしかにかっこいいですね。
朱川さんいやいや、それは自分で言ってみただけ(笑)。子育て担当になったら楽かと思ったら、そんなことないんですよ。結局、小説書けるのって、子供が昼寝している2時間だけだったりして、こんなんじゃあ、働いているのと変わらん(笑)。でも、そのときの経験はすごく良かった。むしろ、女房には気の毒だったかなと思います。いちばんいいところを持っていってしまったような気がしてね。
−−朱川さんの作品に登場する子供たちはとても魅力的ですね。子育てをされたとうかがって、なんとなく納得できるような気がします。お子さんはお二人いらっしゃるんですよね。
朱川さん上が女の子で高校1年生、下が男の子で小学校6年です。子供と話していると、こっちも子供に戻りますね。いや、戻るっていうんじゃないですね。自分の中に子供の部分がちゃんと残っていて、子供と話すと、その部分が動くんですね。そうすると、大人になってピンとこなくなったことでもわかるんですよ。「今日、学校でこんなことがあったよ」って聞いていると、「そういえば、俺もそんなことあったよなあ」ってリアルに感じられるんです。懐かしいという気持ちじゃなくて、そのときに気持ちに戻っちゃうんですよね。
−−朱川さんは02年に「フクロウ男」でオール讀物新人賞を受賞されて、その後は「フクロウ男」も収められた短編集『都市伝説セピア』でデビューし、03年には「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞されていますね。デビュー当時はホラー小説の新旗手登場というイメージでした。
朱川さん正直言うと、ホラー小説を書きたいという気持ちは、あまりないんですよ。ホラーをつきつめていくと、マニアの世界になりますよね。マニアの世界の面白さも読者としては好きなんですが、書き手としては、ふだん本を読まない人でも楽しめる本を書きたいんです。

ぼくは、いまの若い人はむしろ本を読んでいると思うんですよ。読んでいないのはぼくの世代の40代の男性。読んでいたとしてもビジネス書や自己啓発書で、文芸書は読まない。自分と同世代の40代の男を文芸書売り場に呼べるような本にしたいんです。

物語ってもともとものすごく面白いものですよね。それに、極真空手の大山倍達氏がに吉川英治の『宮本武蔵』を終生の座右の書にしていたみたいに、人生に影響を与える力も大きいんです。時には、人生さえ変えてしまうんですよ。
−−直木賞受賞作の『花まんま』は朱川さんが幼少期をすごした大阪が舞台ですが、大阪へはどんな思い入れがあったのでしょうか。
朱川さん両親が離婚して東京に来たので、家の中で大阪に関する話題が一種タブーだった時代がありましてね。ちょうど大阪万博をやっていた頃なんですが、その話題を出すことさえもはばかられるくらい。

それで逆に僕の中で、大阪という場所がユートピアのようないいイメージで増幅されていったんだと思うんです。そこには優しかったお母ちゃんもいるし、みたいな。いつか帰る心の故郷みたいな印象を持っていたんですよ。もしかしたらそれは、どこにもない心の中の大阪なのかもしれないですけど。
−−『花まんま』に収められている作品には差別の問題が描かれている作品もありますね。「トカビの夜」は在日韓国朝鮮人の少年が登場し、「凍蝶」ははっきりとは書かれていませんが、部落差別を受ける少年が主人公です。
朱川さん「トカビの夜」に出てくるチュンジくんという男の子は、実際に、ぼくが住んでいたアパートの1階に住んでいた男の子の名前なんですよ。よくいっしょに遊んでいた在日の男の子でした。

「トカビの夜」が本の最初にくるって決まっていたので、最後は「トカビの夜」に対応するような話を書こうと思いまして、「トカビの夜」が差別する側から見た話なら、差別される側から見た話にしようと。さらに最後の1編は、差別された子が幸せになるような話になるといいなと思ったんですよね。

ただ、あえてはっきりとは書かなかったので、人によっては「凍蝶」の男の子がなぜ差別されているかわからないって人がいるんですよ。関西の人ならすぐにわかるんですけど。でも、わからないほうが幸せなのかなと思ったり……。

ただ、作品の中でも書いたように、差別する理由は何でもいいんですよ。人が人を差別するっていうことが現実にあるので、それをどうにかしたい。さっきも言ったように物語の力は強いですから、この話を読んで、もう差別はやめようって思ってくれたらラッキーだなあ、と思います。
−−『花まんま』の次の刊行予定を教えてください。
朱川さん新潮社から『かたみ歌』という短編集が出たばかりです。書いていた時期が『花まんま』と同じ時期だったこともあって、雰囲気が似ている作品が多いですね。『花まんま』は大阪ですが、こっちは東京の下町が舞台です。主人公はそれぞれ違いますが、古本屋の主人がすべての短編に共通して登場します。『花まんま』とは兄弟みたいな作品集ですね。
−−『花まんま』と『かたみ歌』、読み比べてみるのも面白そうですね。今日はどうもありがとうございました!
朱川さんの作品を読むと、おそらく、30代、40代なら「わかる」と感じるものがあるはずだ。朱川さんのデビュー作『都市伝説セピア』はとくに、その層の読者の熱い支持があったように思う。しかし『花まんま』『かたみ歌』といった近作は、もっと幅広い読者に受け入れられる間口の広さがある。老若男女、誰にでもおすすめできる作品だ。マニアックなこだわりを持っている一方で、それを普遍化して読者にふるまう料理の腕前がある──それが朱川さんの作品の魅力なのだろう。『花まんま』から入門した読者の方は、そのほかの朱川さんの作品もぜひ読んでみていただきたい【インタビュー タカザワケンジ】

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