私の本棚 又吉直樹さん 自分の人生を見つめ直す―

又吉直樹、かく語る

コルバトントリ
コルバトントリ
著者/山下澄人
出版社:文藝春秋

人間失格
人間失格
著者/太宰治
出版社:岩波書店

無人島で読みたい本というテーマについて

--「無人島で読みたい本」という選書テーマについてお聞かせください。

又吉さん無人島にいくというのは、誰もいないわけですから自分の時間がたくさんあると思います。で、たぶん自分の人生をゆっくり考える機会だと思うのでそういう時間をもてたとしたらということでこのテーマを選びました。
仕事をしているようでしていなかった時期が10代の終わり20代後半まで続いていたんですけど、その頃は死ぬほど本を読めていました。最近仕事をしているので昔ほど読む時間はありません。そんなとき状況にあるからこそゆっくり読める時間を、まあ向き合いたい本ということですかね。

--読む時間が少なくなったとはいえ、読書好きとして広く名を知られている又吉さん。日々どのような本をいつお読みになっているでしょうか。

又吉さん忙しいとは言いつつも、今でもお店で見て本を購入していますよ。最近は24時間営業の書店もありますしね。読む場所は家だったり喫茶店だったり、その時読みたい本によっても変わりますね。書評などで読む場合もあるんですけど基本的には面白いと思った本の書評しかやりません。なので仕事で本を読むということはなく、自分が「本当に面白い」と思う本を読めていると思います。

又吉直樹さん

飽くことのない、太宰治作品

--最近気になっている作家さんはいますか。

又吉さん山下澄人さんです。芥川賞候補にもなった「コルバトントリ」が面白かったです。それから今にはじまったことではないのですが、やはり太宰治は何度読んでも面白い、読むたびに変わっていくところが気になってしかたがありません。「人間失格」を14歳ではじめて読んだんですが、33歳で読み返してやっぱりおもろいなと思うんですけど、その「面白いな」という感じかたが全然違う。こんなすごい小説だったんだと。14歳の時は、物語の深刻さに共感と驚きを覚え、そこが、すごい小説やなと印象だったんです。だけど、今読むとほんまに伝えたかった、太宰がこの小説で伝えたかったことは14歳の時に感じたものとはたぶん違ったんだなと感じるんです。

僕の個人的な読み方ですが、あれは僕がだめですという小説ではないんです。人それぞれの「悩み」というものはあるんですね。だけどひとえに「悩み」といっても世界の基本からして尊い悩みとしょうもない悩みとされるものがきっとあるんです。世界の定理からすればくだらなくても、当事者として痛み深い悩みってあるじゃないですか。それをどうすんねんって話だと思うんです。そういうところに踏み込んでいくという面、僕はすごいストレートにすごい小説やなと思うんです。だけど、大人になってからの「人間失格」への感想ってみんな中学生の時に読んだよね、みたいな昔の小説みたいになっていて。

--さしずめ、「教科書小説」的な位置付けでしょうか。

又吉さんそんな感じですね。で、自分が感覚おかしいのかなと思って、毎年年明け一発目に「人間失格」を読み続けてきたんですけど、一向に飽きないんですよ。感じかたも毎年少しずつ変わっていきます。それで思ったんです。みんなたぶん14歳の時の印象のままなんだって。でも、14歳の時の自分と大人になった時の自分ってかわっているじゃないですか。その「かわった自分」が読むことなく、14歳時の印象だけをもっているから昔よんだ小説、という位置づけになってしまうのだと。最近になって、中学生が理解するにはかなり難しい小説なんじゃないかなとすごく思います。表面的にはこの作品って僕はダメです、人が怖いです、まさに「人間失格」ですという描かれ方していますよね。だけど逆に、他人の手記でオレは最高にモテてかっこいい、毎日が楽しいみたいなことを書いているほうが読んでられないと思うんです。自分の声を人に届かせるにはどうすればいいのか、というところから主人公の性格が計算されている、テーマを一番伝えるために考え抜かれた文章で表現されているなという。最近読んでいるとそういう風に読めてきました。この小説のテーマっていうのは「自分」の悩み、悩んだらあかんのっていうところにあるのではないかと。そういうところが計算されて技術的に書かれている。感情が突っ走っているのではなく、しかけとかトリックとかを駆使して。そういう側面がわかってくると、決して描かれていることを鵜呑みにしてはいけないなと、そういうことが見えてきますね。

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楽天ブックスにて7月30日発売予定

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