楽天ブックス 著者インタビュー

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山おくのしずかな森で遊んでいるねずみのポヤップとりすのリーナ。力いっぱいブランコをこいでいるうちに空に舞い上がり、わたり鳥の背中に乗って南の島へ……。人気の絵本・クラフト作家、たちもとみちこさんの最新作は、そんな楽しさいっぱいのシーンではじまる旅えほん『ポヤップとリーナ 沖縄へいく』。首里城や海のお祭り“ハーリー”見物など、美しい島での人々の暮らし、動物たちの息づかいが旅のワクワクした気持ちとともに伝わってくる1冊です。この絵本を描くために、初めて沖縄を旅したというたちもとさんに旅の思い出、そして色鮮やかな絵とあたたかな物語を生み出すまでを伺いました。

プロフィール

たちもとみちこ(立本倫子)さん 
1976年金沢生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、制作会社で3年間、映像制作に携わる。2002年、子供のマルチメディアを企画・制作するレーベル“コロボックル”(colobockle)を立ち上げ、2004年には東京・中目黒にギャラリーショップをオープン。 グラフィックデザイン、イラストレーションを中心に絵本作家、クラフト作家としてさまざまな分野で活躍しながら、ジャンルやアイテムを問わないユニークな作品を次々に発表している。主な絵本に『アニーのちいさな汽車』,『じっくりおまめさん』(学習研究社)、『はだかの王様』,『てぶくろ』(ブロンズ新社)、『ニノのまち』,『トムのおもちゃ箱』(ピエ・ブックス)など。
コロボックルホームページ:http://www.colobockle.jp/

インタビュー

−−この絵本を描くにあたり、初めて訪れた沖縄の印象はいかがでしたか?
たちもとさんこれまで沖縄に行く機会がなかったのですごく楽しみにしていたのですが、飛行機の窓から島が見えてきた時、その海の色にびっくりしました。エメラルドグリーンの海と空が入りまじる様子が、まるで天国のようにきれいだったんです。この絵本のはじまりで、ポヤップとリーナが沖縄の島を初めて目にする場面は、まさに私が空から見た風景を描いたものなんです。
−−真っ白な砂浜にパイナップル畑、そして海の中まで、この絵本の中には沖縄の魅力がぎっしり詰まっていますが、どのように取材したのですか?
たちもとさん沖縄に詳しい編集担当の方が上手くスケジュールを組んでくれて、本島と石垣島、竹富島、そして西表島に行きました。ジャングルに入ったり、崖をよじ登ったり。もともとインドア派の私にとっては普段しないことばかりでハードでしたが、とても楽しかったですね。たとえば、ポヤップとリーナがジャングルを探検する場面がありますが、私もエコツアーに参加して、1人乗りのカヤックを漕ぎながらジャングルに入ったんですよ。同じグループに新婚旅行中のご夫婦がいたのですが、見るからに立派な筋肉がついていて、カヤックを漕ぐのがとても速かった。私はグイグイ進んでいってしまう彼らについて行くのに精一杯で、マングローブの木をゆっくり眺める余裕はありませんでしたけれど(笑)。
−−沖縄の様子が生き生きと描かれている中でも、沖縄料理が並ぶ場面はどれも美味しそうで、思わず見入ってしまいました(笑)。
たちもとさん沖縄料理を食べたのは初めてでしたが、味が薄めでとても好きになりました。絵本の中の食べものといえば、子供の頃、『ちびくろさんぼ』を読んだ時、最後に出てくるホットケーキが本当に美味しそうに見えたのを覚えています。でも、大人になって読み返してみると、あれほど美味しそうに見えたホットケーキが、実はシンプルな線だけで描かれていたりするんです。子供というのは絵本を広げながら、自分なりに想像をふくらませるのだと思います。この絵本では子供たちに沖縄のことを知ってもらい、想像をふくらませて島の空気を感じて欲しかったので、食べもののシーンは大いに楽しめるように描きました。
−−実際に絵を描く時には、スケッチや写真を基にしたのですか?
たちもとさんスケッチはしないんです。写真を撮ることはありますが、アルバムに入れる時に見る程度で、基本的には頭の中に残っているイメージを基に想像で描きます。今回はストーリーを先に考えて、それに合う絵を描いていくという感じで、2、3ヶ月ぐらいで描き上げました。
−−“旅えほん”ということですが、旅のガイドに留まらず、植物と動物が共に生きていることや、自然を守ることの大切さがストーリーにさりげなく盛り込まれていますね
たちもとさんそうしたメッセージ的な要素は、最初からテーマとしてあったわけではなかったのですが、沖縄の人たちと触れ合う中で、それぞれの島の特色や、人々の暮らしのエピソードを具体的に取り入れたほうがいいのではないかと思うようになりました。実際に沖縄を旅したことで、この絵本の意図や構成が見えてきたんです。たとえば、ジャングルのエコツアーに参加した時にインストラクターの方に伺った話は、ポヤップとリーナにカンムリワシがイリオモテヤマネコについて語る場面として描きました。

−−ストーリーを組み立てる上で苦労したことはありますか?
たちもとさん地名などの現実的な要素も入れながら、ポヤップとリーナが冒険していく姿を合わせて組み立てたので、旅のガイドとして事実に間違いがないかということには気をつけましたね。絵を描く上では、自分自身の心に残っている鮮明な風景を伝えるにはどう表現したらいいかと考えました。特に旅のはじまりの場面は、私自身が感じた雲や空の色を伝えたくて、最後の最後まで手を加えたところです。
−−ポヤップとリーナが沖縄を後にするラストには、夏休みの終わりのような、なんともいえない淋しさが残ります。
たちもとさん沖縄にいると、時間の流れがまったく違うんです。私も東京に戻る時には、「明日からまた現実が始まってしまう、仕事の電話がかかってきてしまう……」と淋しい気持ちになりましたから(笑)。
−−この絵本にかぎらず、たちもとさんの作品は色づかい、絵のタッチが非常に個性的ですが、どのような手法で描いているのですか?
たちもとさんアクリルやパステルといったいろいろな画材を組み合わせて、それをコンピューターでスキャンして重ね合わせたり、トーンを変えたり、彩度を変えながら新たなイメージを作っていきます。アクリルやパステルといったよく知られた画材も、コンピューター上で混合させると、違う発色や味わいになるんです。そのせいなのか、「何で描いているのか」とよく聞かれますね。  でも、実は以前はデジタルがあまり好きじゃなかったんですよ。手描きの風合いが好きだったので「コンピューターなんて」と思っていました。大学卒業後、制作会社に入り、そこでコンピューターでアニメーションを作るようになったことで、手描きとはまた違う味わいに面白さを感じ始めました。それが絵本を描く上での基になっています。
−−絵本作家として、また“コロボックル”として、絵本やコーヒーのTVCM「じっくりおまめさん」などのキャラクターデザイン、さらにギャラリーショップと多岐にわたる活動をされていますが、もともと絵本作家になりたかったのですか?
たちもとさん小さい頃から「絵本作家になりたい」と思っていました。絵を描くこと、お話をつくることがとにかく好きだったんです。絵本作家になりたいと思ったのは、自分が描いたものをみせるたび、幼稚園の先生や隣に住んでいたお姉さんにほめられたりした影響かもしれません。
−−家の中に絵本がたくさんある環境だったのですか?
たちもとさんごく普通の家で、そんなにたくさんの絵本があるわけではありませんでした。でもその中に、アメリカやドイツの絵本を集めた“世界の絵本シリーズ”というのがあって、『ボタンくんとスナップくん』『王様の好きなピックル・パイ』『空飛ぶホッケースティック』といった、タイトルだけでもかなりユニークな絵本ばかりだったんです。いわゆる有名な作品ではありませんが、このシリーズが大好きで、今でも大切に持っています。  絵本作家になったきっかけは、大学でデザインを学んだ後、制作会社に3年勤めている間に、自分で描いた作品をホームページで発表し始めたところ、お仕事の話を頂くようになったことからですね。
−−絵本やクラフトを通して伝えたいことは何でしょう?
たちもとさん私が子供の頃は自然環境も良くて、いろいろな想像をふくらませることができました。母が町の工作教室やプラネタリウムなどに連れていってくれたことも、子供時代の楽しい思い出です。そうした経験を通して私が何かを発見したように、子供たちが持っている力や個性を引き出すことのできる、真剣に子供に向き合った絵本やクラフトを作っていきたいと思っています。また子供にかぎらず、大人の中に潜んでいる子供心をくすぐるものも作りたいですね。
−−さて、ポヤップとリーナの次の旅の目的地は?
たちもとさん次は京都を旅します。以前、大阪に住んでいた時に何度か行きましたが、ゆっくり歩いてみるとまた違う魅力がありますね。9月12日から25日までは京都の書店、恵文社の一乗寺店内のギャラリーでの個展もする予定です。今回の沖縄でもストーリーは架空ですが、登場する場所はすべて実際にある場所なんです。沖縄に行ったことのある人が「ここはあの時に歩いた場所だな」と旅を懐かしんだり、行ったことがない人にも「こんなところに行ってみたいな」と感じてもらえるような、旅えほんのシリーズをつくっていきたいと思っています。

  人間味のある、どことなくユーモラスな動物たちが登場するたちもとさんの絵本。「電車の中で座っている人を眺めていると、動物に見えてくるんです。あの人はクマ、あの人はカバ、ワニとか(笑)」と語るたちもとさんが描く世界は、日常から飛び出していく遊び心にあふれています。沖縄の美しい風景が次々と現れる旅の絵本をめくるうちに子供だけでなく、大人の心もいつのまにか南の島を旅していることでしょう。
【インタビュー 宇田夏苗】


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