楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

1円で企業できるようになった昨今、会社設立を夢見る人も少なくないだろう。だが、それは大きな賭け。サラリーマンの安定を捨てきれず夢に踏み切れない人も多いはず。ところがその両方を手に入れた人がいる。大手商社の社員というポジションを離れることなく、企業内ベンチャー0号として飲食店経営に着手した遠山正道さんが、その軌跡を綴ったのが『スープで、いきます −商社マンがSoup Stock Tokyoを作る−』。新しいワーキングスタイルのパイオニアに、夢の追いかけ方をうかがった

今週の本はこちら

遠山正道さん『スープで、いきます』『スープで、いきます』
三菱商事で初となった「社内ベンチャー企業」の、苦悩と感動、たまに涙の物語
1,260円(税込)
ご購入はコチラ

プロフィール

遠山正道さん (とおやま・まさみち)
1962年生まれ。東京都出身。慶応大学卒。1985年三菱商事入社。日本ケンタッキー・フライド・チキンへの出向を経て2000年、コーポレートベンチャーとして株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長就任。「スープ ストック トーキョー」「トーキョー・ルー」などの飲食店の企画・経営を手掛ける。アーティストとしても東京、NYで個展を開催し活躍中。5月には個人事業として表参道ヒルズにてオリジナルネクタイショップ「giraffe」をオープン予定。

インタビュー

−−上梓されました『スープで、いきます』大変、興味深く読ませていただきました。一風変わったタイトルからも想像がつきましたが、注目の社内ベンチャーの立ち上げにまつわる“HOW TO”的な本ではないんですね?
遠山さんはい。仕事で講演を頼まれることもよくありますが、私には人様になにか指南するなどということはできないんですね。ただ、これまで何をどうしてきたか、自分の実体験に基づく話ならできます。よかったことも、大変だったことも、みんな見せることで、読者のみなさんに何かお役に立てることがあれば、という考えです。本の形になっても、そのスタンスは変わりません。
−−なるほど。それで読み物としても楽しめるというわけですね。とはいえ、企業を考えている人はもちろん、仕事をしていく上で役に立つアイディアやヒントも満載でした。特に、他に類を見ない物語形式の企画書「スープのある1日」をそのまま載せていらしたのが印象的でした。これはどうしてでしょう?
遠山さん企画書を書いた当時は、これまでに例のないことをスタートするに当たって、どんな案であるか多くの人に具体的にわかってもらえるように一生懸命でした。結果として、今振り返ってみても、わかりやすいものに仕上っていると思います。これを説明するには、やっぱり現物を見ていただくのが1番いいと考えたからです。
−−「スープの店があったら、こんな生活シーンが生まれる」という未来のストーリーを過去形で書かれたということですが…。
遠山さん企画が実現した結果を、振り返ってみた形にしたのです。そのほうがより具体的にイメージしやすいと思ったので。こうしたことで、自分の中でも目標がよりはっきりしました。
−−その未来が現実になった今、実際に振り返ってみていかがですか?
遠山さん最初は、少ない予算をアイディアやセンスでカバーする「低投資・高感度」というキーワードをもとにやるつもりでした。しかし、人間の基本である「食」を扱う以上、妥協はするまいと決めたので、実際にはかなりの投資が必要でしたし、想像していたよりずっと大変でした。ただ、目標はしっかり見えていました。そして、そこへ到達する道はひとつではないし、最短距離である必要もないと思えたことでなんとかやってこられたのだと思います。苦労はありましたが、現在はイメージにかなり近いところにいると感じています。
−−ところで、そもそも、社内初の企業内ベンチャーを立ち上げることになったきっかけは何でしたか?
遠山さん入社してある程度の時間が経ち、中堅の働き盛りと呼ばれる30代に入ったころ、自分の仕事に何か釈然としないものを感じたんです。そして、このまま夢も持たず、何も成し遂げないでただのサラリーマンとして人生を送ったらきっといつか後悔すると思ったんです。しかし、三菱商事という大会社の社員であるというメリットもまた自分の切り札であるとも思いました。ですから、その両方を生かせる道はないかと模索したわけです。
−−とはいえ、前例のないことですし、相当なエネルギーが必要だったでしょう?
遠山さんええ、その突破口となったのは、仕事とはまったく別のことでした。それはアートワークです。当時、抽象画を描いたタイルを組み合わせて作品作りをしていたのですが、その個展を開く決心をしたのです。たくさんの方の協力を得て、その個展を成功させたことで、本当に多くのこと学びましたし、その後の私を動かすエネルギーの元となりました。
−−本の中でも「仕事は、1人では何もできません」と言っておられますよね。
遠山さん本当に「人」には恵まれていると思います。スマイルズでも、若い人材がますます力を発揮してくれるようになってきました。ただ最近ね、ちょっと自分自身の「突き抜け度」が足りないかな、と思ってるんですよ。だから新しいことを……たとえば「いくじきゅうか」を取る、なんていうのもいいなと考えてます。
−−育児休暇…ですか? お子さんはもう小学生でしたよね?
遠山さん「育児」じゃなくて「育自」なんて言ってます。自分を育てるための休みをね。いろいろなものを吸収したいと思っても、アウトプットしないとインプットできないじゃないですか。ほら、息だって吐かないと吸えないでしょ? だから、いつもとまったく違うことをやってみることも必要かな、と。
−−なるほど、リフレッシュしてまた次の夢に向かうわけですね。では、今後はどんなことに挑戦するのかお聞かせください。
遠山さん今度はね、ネクタイを手掛けようと思っているんです。実は、これはスープストックを始める前から持っていたアイディアなんですよ。サラリーマンはスーツ姿のことが多いので、あまり主張する部分がないじゃないですか。だから、せめてネクタイくらいは自分らしさを出せるものを、と考えました。世の中がカジュアル化している今、ネクタイだけは古めかしいシルクのものばかり。なんか違うと思うんですよね。だから、扱うのは今のところコットンのものだけ。コンセプトはサラリーマン一揆(笑)、でも本気です。
−−もしかして、今日のネクタイも……!?
遠山さんええ、そうです。明るくて、いいでしょ? こういうところから、世の中の“体温”がちょっと上がればいいな、と願って。まずは5月に表参道ヒルズの片隅からはじめます。ネクタイ事業は現在のスマイルズでは経済合理性も優先順位もやるべきではない。なので、最初は個人でやるんです。うまく成り立てばスマイルズに関連を持たせたい。スープは主に女性の生活価値の拡充を、ネクタイは主に男性の生活価値の拡充になります。ネクタイはサイズがないでしょ? だからターゲットが広くとれるので、ネット販売も同時に始めます。そして、全世界向け「世界一キュートなネクタイブランド」にしたいと思っています。どこか外国の空港なんかでうちのネクタイをしている人に会えたら…もう抱きしめたくなるくらいうれしくなっちゃいますよね!
−−きっと、そうですね! ぜひ、知らない誰かを抱きしめられる日まで(笑)がんばってください。いつも新しい夢を追いかけている遠山さんに、今日はたくさんの元気をいただきました。本当にどうもありがとうございました。

コーポレートベンチャーをはじめ、数々の「前例のない」トライアルを見事に成し遂げてきた遠山さん。バリバリのスゴ腕といったオーラを漂わせた人物が現れるかと思いきや、さにあらず。人懐っこい笑顔が印象的なまったくの自然体の人であった。いや、むしろ、この柔軟な姿勢が可能性を広げ、この気負わない雰囲気がたくさんの人を惹きつけてきたのだろう。そんな人となりが漂ってくるソフトな文体は、ビジネス書とは一線を画した読みやすさ。起業などを考えていない人にも、人生をより充実させるためのパワーをもらう1冊として、ぜひ楽しんでいただきたい。
【インタビュー 長 晃枝】


このページの先頭へ