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この世とは別の世界「穏」争いごとがないはずの世界で起こっていた驚愕の出来事とは? 第12回日本ホラー小説大賞を受賞した『夜市』で、世の読者好きをうならせた恒川光太郎、待望の初長篇は切なくも恐ろしいホラーファンタジーの傑作だ!

恒川光太郎さん
現世の地図には載っていない「穏」という場所で暮らす少年、賢也には秘密があった。「風わいわい」というもののけに取り憑かれていたのだ。しかし、忌み嫌われているはずの「風わいわい」はなぜか賢也に優しかった。親友もできて幸せな暮らしをつかみかけていた矢先、賢也はある事件に遭遇し、「穏」を出て行かなければならない事態に追い込まれる……。ぼくたちの生きる世界と、この世とは別の世界の二つの間で起こるスリリングな物語。恒川さんに沖縄での小説家の暮らしをうかがった。


恒川光太郎さんの本


『雷の季節の終わりに』
『雷の季節の終わりに』
恒川光太郎
角川書店
1,500円 (税込 1,575 円)


『夜市』
『夜市』
恒川光太郎
角川書店
514円 (税込 540 円)



恒川光太郎さんオススメDVD



『皇帝ペンギン』
『皇帝ペンギン』
妻が動物好きでいっしょによく動物のドキュメンタリーを見ます。最近見て、面白かった映画です。


『シロクマ物語』
『シロクマ物語』
白熊のドキュメンタリー映画です。撮影している途中でお母さん熊が殺されてしまうんですよ。残された小熊が撮影隊に近づいてきてエサをねだるんですが、撮影隊は干渉できないルールになっている。「エサやれよ!」と言いたくなるような、切ない葛藤がよかったですね。



恒川光太郎さんオススメCD



『Ashes Are Burning 燃ゆる灰』
『Ashes Are Burning 燃ゆる灰』
ルネッサンス
「70年代プログレッシブ・ロックの傑作です。とくにタイトル曲が人類世界遺産に指定しなくなるような、永遠に残ってほしい曲です」

プロフィール


恒川光太郎さん(つねかわ こうたろう)
1973年東京都生まれ。2005年「夜市」で第12回日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。短篇「風の古道」ともに単行本にまとめられた『夜市』はベストセラーに。同作は直木賞候補に挙げられた。『雷の季節の終わりに』は著者初の長篇小説となる。昨年、秋に発売以来、口コミでヒット中。

インタビュー


−−恒川さんの小説は独特の世界ですね。その秘密の一つにネーミングがあるんじゃないかと思います。今回の小説でも、「穏(オン)」という異世界の名前もそうですし、登場する登場人物や「風わいわい」というもののけの名前など、独特の雰囲気がありますね。


恒川さん 登場人物の名前をつけるのは苦手なんです。「風わいわい」みたいな、おばけの名前は一生懸命考えてつけますね。言葉の使い方をちょっと変えるだけでがらりと印象が変わったりするので。


−−小説をお書きになるとき、あるお話を途中まで書いて行き詰るとやめて、それがいくつか集まって一つの小説ができていく、とうかがいましたが。


恒川さん そうなんです。詰まるとすぐやめちゃうんですよ。ぐちゃぐちゃにして、もう一回、とやっていると、だんだん先に伸びていくようになるんです。


−−書いているときに思いつくこととか、ボツにしたりしているうちに思いついたことが重要なんですね。


恒川さん そうですね。最初は「この小説はこういう展開にしたい!」と思って、「これは外せないだろう」と書いていくんですが、書き直しを始めると、「これ全部いらないな」(笑)。常に迷いながら書いています。人の心って変わるんですよね。
 そのかわり、無駄なものがなくなって、最後までこぎつける頃にはすっきりしています。



恒川光太郎さん−−最後まで書き上げると、もやもやしたものが晴れてクリアになるって感じですか?

恒川さん そうですね。最後の最後までいけば気持ちいいですね。そこに行くまでは、とにかく削りまくるんですよね。そうすると、最後は「きれいになったな」と思います(笑)。


−−この小説はもともと長篇を書いてほしいという出版社からの依頼だったんですか?


恒川さん そうです。「長篇をお願いします」と言われたときは、今まで書いたことがないものを期日までに書けるだろうか? とプレッシャーを感じたんですけど、逆に言えば、何枚書いてもいいんだと思って気が楽になりました。
 実は小説って量を増やすっていうのは簡単なんですよ。主人公のエピソードをつけくわえたり、風景描写を増やしたりすれば簡単に枚数は増えていくんです。本当にいいものを書くならまた別でしょうが。今までよりも厚く、しかし無意味に太らないようにと気を配りました。
 この本は実際には、単行本になったこの量よりももっとたくさん書いています。完成形は470枚くらいなんですけど、編集者さんに「これで完成です!」って送ったときは570枚くらいありましたね。「削って下さい」って返信が来て「やっぱり!」と思いましたけど(笑)。



−−削ることによって、完成度が上がるということはありますよね。


恒川さん ありますね。読む分には、長々と書いてある太った文体の小説も著者の情念みたいなものが感じられて大好きなんですけど、自分で書くときには削ったほうが良くなるような気がしますね。


−−長篇と短篇、どちらのほうが書きやすいですか?


恒川さん 比べられないですね。本を作りやすいのは長篇だと思います。短篇だと、4つなら4つ、ぜんぜん違う設定で書かなきゃいけないですけど、長篇なら同じ登場人物でいけますからね。その代わり、長篇だと、これだけ長いものがまとまるかなっていうプレッシャーを感じますね。だから、どっちもどっちですね。


−−長篇小説の場合、執筆に長くかかりますよね。書き終えたとき、この「穏」という世界にサヨナラするのが寂しいと感じたりしましたか?

恒川さん ちょっと寂しかったですね。


−−たとえば、「穏」には闇の門番という印象的な登場人物がいて、亡霊やおばけを「穏」に入れないようにしているんですが、その門番の体験だけをお話しにしてもすごく面白そうですよね。


恒川さん あんまりすぐ使うと、ネタがないと思われそうだから(笑)、いつかこっそり使ってみたいですね。


−−ところで、恒川さんは東京の出身で沖縄に住んでいらっしゃいますよね。沖縄のどんなところが気に入っていますか?


恒川さん 沖縄はいいところですよ。海はきれいだし、人もいいし。沖縄の一番いいところは海が近いことですね。東京で海に行くっていったら一日がかりですけど、沖縄だったら朝起きて、9時くらいに海に出かけて、帰ってきても11時。それから、さあ、仕事をしようっていう生活ができるんです。


−−羨ましいですね。恒川さんは小説家専業ですが、専業小説家になって良かったことと悪かったことを教えてください。


恒川さん 悪いことは、友だちや周りの人たちはぼくが小説家専業だと認めてくれなくて、無職だと思っていることですね(笑)。友だちから電話がかかってきて「お前の本、本屋で見たぞ」って言ってくれるのは嬉しいんですが、「賞取ったんだよ〜」「すげえなあ、何してんの〜」「大変だよ、いま長篇書いてるんだよ」「へ〜いいなあ、無職かよ」「違うよ、締め切りだってちゃんとあるよ」「いいなあ仕事しないで」などと。
 でも、小説を書きたくて専業作家になったから、小説を書く時間があるというのは本当にすばらしいことだと思っています。それが良かったことですね。ときどき、書きたくなくなるときはつらいなと思いますけど(笑)。



−−沖縄に移住されて、こうして時々、東京に戻ってくるとどんな感じなんですか?

恒川さん 沖縄に住んでもう6年くらいになるんですが、初期の頃は東京に帰ってくるのは嫌でしたね。「俺は南の島で暮らしているんだぞ、どうだ!」などと皆に自慢し、人ごみの中では「人酔いして気持ち悪くなってきた。早く帰りたい」って思いました。沖縄に帰るとやしの木とか見て「よかった、帰ってきた」とほっとして。
 ところが、3年くらいたつと、また変わるのです。東京にくると「こちらには捨てがたいたのしさがあるな」って(笑)。秋の頃にくると、東京ってけっこうきれいなところだったな、と。故郷の空気は特別かもしれないですね。秋や冬の空気の甘さや冷たさに恍惚としたり。ビルを見上げて、「やっぱり東京はすごい!」と驚嘆したり。沖縄に戻ってくると、「東京行ってきたんだけどさー、やっぱり一番だよ。高層ビルって見たことないでしょ?」と自慢(笑)。
 そうすると、東京の人に会うときには「沖縄の海はいいよ」って自慢して、沖縄の人に会うと「本土で成功しなくちゃダメだよ。都会に出たほうがいいよ」って説教して、俺の属性は何なんだ、と(笑)。



恒川光太郎さん−−その感覚って、うがった見方かもしれないですけど、恒川さんがお書きになっている小説に微妙に反映されているような気もしますね。二つの世界のボーダーを超えて、出たり入ったり。


恒川さん そうですね。考えてみれば、どっちつかずの主人公が多いですね──そうだったのか(笑)。


−−沖縄の民俗関係の本もお読みになるんですか?


恒川さん 好きですね。近所の本屋さんに行ったら『琉球の死後の世界』(崎原恒新著・むぎ社)って本が平積みになっていて、ページをめくってみたら、これがすごく面白いんですよ。一冊の中に、沖縄の民間信仰が載っているんですけど、いつどこでどんな怪異が起こったかが克明に書いてあるんです。たとえば、「宜野湾市のナントカさんが昭和××年に、墓から蘇りました」とか。


−−モロに実話怪談ですね(笑)。


恒川さん そういうのが細かい章ごとにたくさん書いてあるんですよ。ヤギやアヒルがおばけになって出てきたとか、豚の幽霊とか(笑)。首里でみかんの木が祟ったとか。みかんの木から石が降ってくるらしいんですよね。そのあたりは明治の頃の話ですけど、どこかユーモラスでたのしいですね。住んでいても、沖縄は中国や東南アジア経由の怪談や民間信仰が路地裏でひっそりと生きているのをひしひしと感じます。


−−つい100年くらいまで、日本人も大真面目におばけを信じていたんでしょうね。

恒川さん 明治の怪異みたいなのを集めた本を読むと、東京もまったく同じですね。警察もちゃんと出て行って、新聞記事になってる。新聞が実話怪談を書きまくってますよ(笑)。


−−最後に、音楽や映画など小説以外に影響を受けたものを教えてください。


恒川さん 小説に影響しているかどうかはわかりませんが、音楽のジャケット・ワークが好きですね。とくにプログレッシブ・ロック系のアルバムジャケットってファンタジーっぽい変わったものがあって好きです。キャメルの『MOONMADNESS』のジャケットとか好きですね。
 音楽はヒップホップ以外は何でも聴きます。小説を書いているときにも、気分を盛り上げるために聴いています。
 『雷の季節の終わりに』はベートーベンなんかを聴いていたかな。図書館からCDを借りてきて、引っかかりのないものを流して聴いていますね。好きな音楽という意味ではピンク・フロイドとか、プログレ系が好きですね。
 映画は普通には見ているとは思うんですが、映画通というほどは見ていないですね。おすすめというわけじゃないんですが、ヘンな映画は記憶に残りますね。たとえば『不思議惑星キン・ザ・ザ』とか。



−−旧ソ連時代のカルト・ムービーですね。


恒川さん SF映画なんですけど、よその惑星の話で、キン・ザ・ザ語辞典が出てきて、キン・ザザ語でこれは何ていうんだ? みたいな。これは新しい! と思いましたね(笑)。


−−『不思議惑星キン・ザ・ザ』のどこかユーモラスでのんびりとした雰囲気は、恒川さんの小説ともどことなく通じるものがあるような気がします。今日はありがとうございました!



実は恒川さんへのインタビューは二度目。昨年、『雷の季節の終わりに』が刊行されて間もない頃にお話をうかがったときには、主に小説の内容について聞いたのだが、どうも質問が野暮だったような気がしてならなかった。そこで今回は恒川さんのパーソナリティに迫ってみた。恒川さんの小説から感じられるゆったりとしたリズムはご自身がまとっている雰囲気でもある。『夜市』と『雷の季節の終わりに』、まだお読みでない方はぜひお読みください。きっとハマりますよ!
【タカザワケンジ】


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