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食べる、着る、そして愛しあうこと……女性が元気になるためのエッセンスに満ちた筒井ともみさんの4冊、『続・食べる女』、『着る女』『うつくしい私のからだ』、『おいしい庭』

筒井ともみさん
  『失楽園』『阿修羅のごとく』などの映画、TVドラマの脚本家としてだけでなく、食をモチーフに、愛おしくてセクシーな女性たちの日常をリアルに描いた短編集『食べる女』やエッセイ、小説でも活躍中の筒井ともみさん。今年の入ってからは『続・食べる女』、自身と着ることの関わりを綴った『着る女』、集英社「MAQUIA」誌上で人気のエッセイ『うつくしい私のからだ』、光文社「小説宝石」に連載中の『おいしい庭』をまとめるなど、出版が続いています。自他共に認める“食いしん坊”で、現在、『食べる女』の映画化に向けて準備中だという筒井さんが語る、心と体に気持ちのいい生き方とは……。


筒井ともみさんの作品


『続・食べる女』
『続・食べる女』
筒井ともみ
アクセスパブリッシング
1,470円(税込)


『着る女』
『着る女』
筒井ともみ
マガジンハウス
1,575円(税込)


『うつくしい私のからだ』
『うつくしい私のからだ』
筒井ともみ
集英社
1,575円(税込)


『おいしい庭』
『おいしい庭』
筒井ともみ
光文社
1,470円(税込)


『食べる女』
『食べる女』
筒井ともみ
新潮社
500円(税込)


『食べる女』
『食べる女』
筒井ともみ
アクセスパブリッシング
1,470円(税込)


『舌の記憶』
『舌の記憶』
筒井ともみ
スイッチ・パブリッシング
1,890円(税込)




筒井ともみさんのオススメCD


『トム・ウェイツ』


プロフィール


筒井ともみさん (つつい ともみ)
1948年東京生まれ。成城大学卒業後、スタジオミュージシャン(ヴァイオリン)を経て脚本家、作家に。主なTVドラマに『家族ゲーム』『センセイの鞄』他。96年に『小石川の家』『響子』で第14回向田邦子賞受賞。映画は故松田優作主演の『それから』をはじめ、『失楽園』『阿修羅のごとく』(日本アカデミー賞最優秀脚本賞)、『嗤う伊右衛門』『海猫』など。ミュージカル『DORA-100万回生きた猫』などの舞台作品も手がける。小説『月影の市』(新潮社)、『女優』(文藝春秋)、『舌の記憶』(スイッチパブリッシング)、『食べる女』(新潮社文庫)他、著書も多数。現在、東京藝術大学大学院映像研究科にて脚本ゼミ担当している。
公式HP: 女たちのカルチェラタン (解放区)http://homepage2.nifty.com/tsutsuizutsu/

インタビュー


−−今年に入ってから衣、食、体に関する4冊の本を出版されましたが、まず、続編を出された短編集『食べる女』について、この本を書こうと思ったきっかけを教えて下さい。


筒井さん 最初は編集者の人から、お洒落なレストランを舞台にした男女のラブアフェアみたいなものを書いて欲しいって言われたのね。でも、私、そういうのが一番嫌いで、「田舎の人から見た東京みたいでそんなの嫌だ。もっと実直な食べものが出てくるラブストーリーで、タイトルもズバッと『食べる女』がいいと思う」って言ったら、「そっちのほうが面白い」ということになって。


筒井ともみさん−−主人公の女性たちは上等なフレンチを楽しむ一方で、一人で鍋をつついているなど、一つひとつの短編から、食事、恋愛、生きることを楽しむ女性たちの日常が生々しく伝わってきました。

筒井さん 私が作る料理もそうだけど、いってみれば、所帯くさくない家庭料理っていうのかな。そんなストーリーにしたら面白いと思ったので。


−−ご自身も食べるのが大好きで、小学生の頃、「一食たりと、まずいものは食べない」と決めたそうですね。

筒井さん  毎回、おいしいものを食べようとは思わないけれど、まずいものは口に入れたくない。小さい頃から食が細くて、「そんなに食べられないんだから、おいしいものじゃなくっちゃ」と思っていたから。といっても、素朴なものが好きなんですけどね。


−−『続・食べる女』にも、美味しそうな匂いが漂ってきそうな食べ物がたくさん登場しますが、ご自身も土鍋でご飯を炊き、鰹節で出しを取ったり、週5日は料理をされているとか?

筒井さん  そうですね。よく「料理が気分転換になる」っていうけれど、私はもともと料理が好きだから、気分転換ではないですね。食事は11時半ぐらいに朝昼兼用の1回と、6時ぐらいにとる夕食の1日2回ですが、それぞれ4〜6品、簡単なものを作って、箸置きをきちんと使って頂きます。不器用で、食器や小道具の収納が上手くできないので物は増えていくけれど、料理は手際がいいんですよ(笑)。幼稚園の頃から、母に抱き上げてもらって、お米の水の量をはかったりしてましたから。


−−料理を作って人をもてなすのもお好きですか?

筒井さん  特に好きなわけではないけれど、家にはなんとなく人がやって来るから。特に若い女たちにご飯を作って食べさせますね。若い女こそ身体が大事で、これから生きてくためにしっかり食べないとね。


−−『続・食べる女』には、ギネスビールと生牡蠣の組み合わせや、お揚げと水菜だけのシンプル鍋など、これまで知らなかった食べ方や料理が出てきて、思わず試してみたくなりました。

筒井さん  ギネスと牡蠣の組み合わせは5、6年前にイギリスを旅した時、カンタベリーの食いしん坊たちから教えてもらったのですが、目からウロコでしょ。お鍋についは、お味噌汁もそうだけど、私自身が具沢山はあまり好きじゃないですね。


筒井ともみさん−−短編を書く際、ご自身の体験を基にしたり、モデルを置くことはありますか?

筒井さん モデルはいなくて、自分の中にあるものや、知り合いが口にした一言をちょっとずつ拡大して書いたりします。「セックスが終わっても、帰らない男は気持ちが悪い」という台詞が出てくるところがあるけど、それはある友人の一言がモチーフですね。いろいろな会話を蓄積して、そこから作り出す感じです。


−−先ほどの、生牡蠣とギネスが出てくる短編の主人公は、精神的なショックから、嫌いだった生牡蠣が好きになりますが、同じような経験はありますか?

筒井さん  小さい頃、自宅で年老いたチャボを飼っていたのだけど、ある日、学校から戻ったらいなくなっていて、夕食の鍋の中に出てきたのね。食べたらゴムみたいに硬かった。でも、その時から、鶏肉が本当に好きになりました。普通は逆なんでしょうけど(笑)。ジビエ(野禽獣)の専門店で働いている人からも、似たような話をよく聞くんです。強烈な体験をして、好きになったって。ちゃんと生きていた物を食べる感覚かな……何なんでしょうね。


−−筒井さんの作品では男性がよく料理をする気がしますが、意識して書かれているのですか?

筒井さん  無意識ですね。料理をする男性に囲まれて育ったわけでもないし。ただ、現在、付き合っている人は、レストランで食べたものを大抵、再現できるのね。これはすごいこと。料理が作れる男性はいい。でも、料理にかぎらず、お互いになんでも出来たほうがいいんです。


−−最近、レシピ本がブームですが、筒井さんの小説やエッセイを読んで、料理はレシピではなく、母親や家庭を通して身体に染み込んだ、“記憶”なのだとつくづく感じました。

筒井さん  今、書店に行くと、レシピ本が平積みになってるでしょ?あれが若い女たちから料理力を奪っていると思う。たとえば、じゃがいも、キャベツ、その他の旬の野菜や食材を使って、それぞれ4、5品作れれば40種類ぐらいになるし、それだけあれば十分でしょう。料理というのは、繰り返しが大事。同じものを毎年、繰り返し作る。そうすることで、自分らしい味が生まれてくるし、素材と仲良くなれば、レシピを知らなくても、応用なんていくらでもできるようになるから。


筒井ともみさん−−『続 食べる女』には、恋愛同様、一人で食べる時間を大切にする女性たちが出てきます。彼女たちの姿に、孤独と自由が共存するような、爽快さを感じずにはいられなかったのですが……。

筒井さん  淋しさは女の人を本当にきれいにするから。これは私の考えだけど、光源氏が千年の時を超え、女性たちのカリスマであり続けるのは、愛を届けたのではなくて、淋しさをばらまいたから思うんです。愛されるのが一番だけど、寂しい時が人をきれいにするから、恐れることはないと思いますね。

向田邦子脚本を原作にして書いてきた中で、私が教えられた最大のことは、「女は箸置きひとつで身綺麗になる」ということなんだけど、本当にそう思うのね。1人で食べる時でも、1つでも好きな器があれば、たとえスーパーのお惣菜であっても気分は変わるでしょ。私の母はとても静かな人で、子供の頃からほとんど何も言われたことがなかったけれど、一度だけ、「女の人は、お風呂でザバーってお湯を浴びちゃだめよ」って言われたことがあるんです。お風呂でお湯をかける姿でも、自分で自分自身が美しく見える輪郭をイメージするのが、きれいになる方法なのね。箸置きを使うとか、お湯の浴び方とか、そんなことなら、今日からでもできるじゃない。


−−『着る女』では、赤ちゃんの頃のオシメの記憶に始まり、6、70年代という日本のファッションの黎明期を過ごしたご自身のファッションについての記憶を綴られていますね。

筒井さん  ファッションが好きなんですよ。今でも若いデザイナーたちと次々知り合って。山本耀司さんの服は、デビューした当時から着ているけど、最初に買ったVネックのセーターを着たら、なんて着やすいんだろうって感じて。あとはコム・デ・ギャルソンの川久保玲さんと三宅一生さんのもの。彼らの服は私にとっての戦闘服で、励ましてもくれたし、誰の前に出ても恥ずかしくない自分でいさせてくれた。仕事着で、おしゃれ着で、すごく楽。だからバーゲンでは絶対に買わない(笑)。


−−『食べる女』、『着る女』をはじめ、筒井さんが描く世界からは、心地よいと思えるものを、自分の五感でしっかり判断することの大切さが伝わってくる気がします。

筒井さん  洋服でも、恋愛相手にしても、セックスにしても、自分がどういうものを望むか、というのは自分がどんな世界を望むかということでしょう。それがわかるようになるには、自分自身の細胞や感覚が生き生きとしていないといけない。そのために、まず、ちゃんとしたものを食べないとね。


−−食べること、着ることと同様、書くことに対する欲求もやはり強いですか?

筒井さん  書いている時に、食べているのと同じ快感はないですよ(笑)。もともとジャーナリストになりたくて、脚本家になったのはなりゆきだし。私は本当に物欲がなくて、自宅も借りているし、車も宝石も興味がない。デザイナーの服を着ているけれど、ブランドだから好きというのとちょっと違う。何もしないのが好きなので、今だって、1年のうち100日ぐらいはボーっとしてる。遺産でも転がり込んだら、一切何もやらないと思うしね。転がり込んでくるはずないけど。

以前、映画で松田優作さんと仕事をした時、「心と体の声に耳をかたむけて、自分の歩幅で歩いていれば、絶対大丈夫」って言われたのだけど、これ、優作さんらしくて、すごくいい言葉だと思う。
私は何もしなくてもちゃんと暮らしていけるけど、書くことに対するささやかなプライドと自由だけは捨てたくない。あとはなくしても平気(笑)。


−−今日は本当にありがとうございました。





『続・食べる女』に登場する女たちはあくまでも等身大。にもかかわらず、その食べ方、生き方からは、なんともいえない清々しさとはかなさが漂います。森田芳光、蜷川幸雄など数々の映画監督や演出家から、「食べることを通して女性の魅力を描かせたら、右に出るものがいない」と絶大な信頼を集める筒井さんが描く食べ物は、シンプルなのに、どれも本当に美味しそう。力が抜けているのに、ピリッとスパイスのきいた大人の女になるためのヒント、ぜひこの4冊から見つけてみて下さい。
【宇田夏苗】


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