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アニメやコミックスでも話題沸騰!日本ファンタジー屈指の名作
『精霊の守り人』波瀾万丈のシリーズ全10巻、堂々の完結!


 短槍使いのバルサは、腕のたつ30歳の女用心棒。精霊の卵を宿した皇子チャグムを母・二ノ妃から託され、父帝が差し向けた刺客や、異界の魔物から守り戦う……。この壮大なファンタジー連作の幕開けとなった1996年刊行の「精霊の守り人」から11年。物語は、バルサを主人公とする「守り人」シリーズと、皇子チャグムを主人公とする「旅人」シリーズに発展し、ついに、異世界(ナユグ)とこの世(サグ)の各国すべてを巻き込んだ「天と地の守り人」3冊で見事に合流、感動の完結を迎えました!
 小学生から大人まで、たくさんのファンに愛読され続けてきた名作ファンタジーですが、さらに、アニメ放映やマンガ連載もはじまり、そのどれもが高い評価を得ています。著者の上橋菜穂子さんは、大学で文化人類学を教える先生。アニメのこと、コミックスのこと、物語に込めた想いなど、たっぷりお話を伺いました。



シリーズセット


『守り人』上橋菜穂子の本(全8巻)
上橋菜穂子
偕成社
11,700円 (税込 12,285円)

『天と地の守り人(3点セット)』
上橋菜穂子
偕成社
4,500円 (税込 4,725円)

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上橋菜穂子さんの本


『精霊の守り人』
『精霊の守り人』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)

『精霊の守り人 文庫版』

『精霊の守り人 軽装版』


『闇の守り人』
『闇の守り人』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)

『闇の守り人 軽装版』


『夢の守り人』
『夢の守り人』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『虚空の旅人』
『虚空の旅人』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『神の守り人 来訪編』
『神の守り人 来訪編』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『神の守り人 帰還編』
『神の守り人 帰還編』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『蒼路の旅人』
『蒼路の旅人』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『天と地の守り人(第1部)』
『天と地の守り人(第1部)』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『天と地の守り人(第2部)』
『天と地の守り人(第2部)』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『天と地の守り人(第3部)』
『天と地の守り人(第3部)』
上橋菜穂子
偕成社
1,500円(税込:1,575円)


『狐笛のかなた』
『狐笛のかなた』
上橋菜穂子
理論社
1,500円(税込:1,575円)


『狐笛のかなた 文庫版』
『狐笛のかなた 文庫版』
上橋菜穂子
新潮社
590円(税込:620円)


『精霊の木』
『精霊の木』
上橋菜穂子
偕成社
1,200円(税込:1,260円)


『獣の奏者 1(闘蛇編)』
『獣の奏者 1(闘蛇編)』
上橋菜穂子
講談社
1,500円(税込:1,575円)


『獣の奏者 2(王獣編)』
『獣の奏者 2(王獣編)』
上橋菜穂子
講談社
1,600円(税込:1,680円)


『月の森に、カミよ眠れ』
『月の森に、カミよ眠れ』
上橋菜穂子
偕成社
700円(税込:735円)



上橋菜穂子さんのオススメCD


『CYCLE HIT 1991〜1997 Spitz Complete Single Collection』
『CYCLE HIT 1991〜1997 Spitz Complete Single Collection』
スピッツ


『CYCLE HIT 1997〜2005 Spitz Complete Single Collection』
『CYCLE HIT 1997〜2005 Spitz Complete Single Collection』
スピッツ



上橋菜穂子さんオススメDVD


『裸足の1500マイル』
出演: エヴァーリン・サンピ
監督: フィリップ・ノイス


プロフィール


上橋菜穂子さん (うえはし・なほこ)
1962年東京生れ。川村学園女子大学准教授。オーストラリアの先住民族アボリジニを研究中。著書は、『狐笛のかなた』(野間児童文芸賞)の他に、『月の森に、カミよ眠れ』(日本児童文学者協会新人賞)、『精霊の守り人』(野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞)、『闇の守り人』(日本児童文学者協会賞)、『夢の守り人』(路傍の石文学賞)、『神の守り人 来訪編・帰還編』(小学館児童出版文化賞)などがある。
偕成社:『守り人&旅人スペシャルページ』
ファンページ:『夢見る魂の語り部 上橋菜穂子FANサイト』『守り人の洞窟』

インタビュー


−−シリーズの完結とともに、アニメやコミックスもはじまって、どれも評判になっていますね。


上橋さん ありがとうございます。すごく幸福なメディアミックス展開になっているなぁと思います。自分の原作が別の形になる時には、きちんと見守って、責任を持ちたいので、できる限り関わろうと思っているのですが、たいへん幸福なことに、展開してくださる皆さんが、ものすごく丁寧に関わってくださっているんですね。お互いを尊敬しあいながら、動いていくことができるので、ありがたいと思っています。

 アニメについては、アニメーション制作がProduction I.Gで、神山健治さんが監督・脚本を担当してくださっています。ネットの評判とかも見たのですが、これまでの読者の方だけでなく、原作を知らない人たちの中にも、面白いと思ってくださっている方がおられるようで、あらためて、神山監督とスタッフの力がずば抜けているのだなと思いました。原作者としては、自作が別の作品として表現されたとき違和感があるはずなのに、なぜこんなに気にならないんだろうと、自分でも不思議だったんですけど、一番簡単な理由は、私が、このアニメが好きだからかも。いただいたDVDを仕事の合間に、繰り返し見るくらい好きなので、これは幸せだなぁと。
 
 コミックスは、藤原カムイさんが『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス刊)で3月から連載しています。アニメと表現方法が、またちがうんですよね。カムイさんは『雷火』の表紙を見たときも思ったのだけど、動きはもちろん、一枚の止め絵もたいへん魅力的な方で、マンガでないと描けないシーンや、カムイさんがアレンジしてくださっている部分もたくさんあって、それがまたおもしろいんですよ。

 マンガならではの表現、アニメならではの表現、小説ならではの表現、さらにラジオドラマにもなっているんですけど、それぞれの表現方法の違いがとても面白い。それぞれの製作の方々が、それぞれの手法で一番いい表現をしようと考えてくれているでしょう? アニメだとこういう風にするのか、マンガだとこういう風になるのね、と。そんなこと考えるのも、楽しくてしょうがないですね。


まるで「技の見せあい」みたいですね。


上橋さん そうそう! それぞれの達人が、それぞれの技を見せあっているような感じがしますよね。ありがたいことに、どのメディアでも、その道の一流の方が作ってくださっているので、これ以上幸福なことはないですね。


−−アニメがお好きだという話を、いろいろな記事で読んだりしていたのですが、やはりほんとにお好きなんですね。


上橋さん それが、テレビ番組での発言以来、勘違いされているんですが(笑)、アニメが大好きだったのは、大学院の頃くらいまでなんですよ。長いこと見ていない時期があるんです。『未来少年コナン』とか、『風の谷のナウシカ』も好きでしたし、『伝説巨人イデオン』『装甲騎兵ボトムズ』とかも好きでしたけど、大学院でフィールドワークを始めた頃から、まったく見なくなったんですよ。

 マンガも好きで漫画家になろうと思っていたぐらいだったんですけど、その時期、コミックスもあまり読まなくなりました。それより自分の作品にかける時間や、普通の映画を観る時間、本を読む時間、フィールドワークをする時間などが増えてしまったんですね。
 そんな状況の中で、私が近年、偶然目にして、「おおっ」と思ったのが『攻殻機動隊』だったんですね。テレビで『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を見て、凄いなと思って、その後、テレビ版『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を見始めた。これが神山監督の作品だったんですが、これにハマったんですよ。私が好きな人間性というか、神山監督の描く作品の方向性と私が好きな方向性が似ていた……というのでしょうか。

 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の草薙素子をモデルにバルサを書いたと思っている人がおられるようですが、それは全然違っていて、バルサはもう12年も前に生み出したものなんです。その頃には、私は、素子を知りませんでした(笑)


−−ですが、今回のアニメは神山監督が手がけている。シンクロする部分があったんですね。

上橋さん 偶然なんですけどね。だから、この話がきたときはビックリしたんです。神山さんだ!って思ったんです。世の中にはこういうことってあるんだなぁって。


−−しかも、ちょうどシリーズ10冊で完結というタイミングのアニメ化なんですね?


上橋さん それも偶然なんですよ。別に意図してやったわけじゃないんです。アニメというのはやはりものすごく時間がかかるもので、企画がはじまったのが、 3年前の11月。映画並みのクオリティーと、緻密な脚本を作って行くには、こんなに長い準備期間があってこそなんだなぁと実感しました。練り込みにすごい時間をかけて、皆さんの目に届くまでの仕事というのが長かったわけですよね。

 それに、「守り人・旅人」シリーズについては、完結編が出来上がるかどうかというのも怪しかったくらいで……。私は、物語を書くときの計画性があまりない人で、(物語が)やってきたら書くということを繰り返しているので……。決して計画して、この時期に完結した、ということではなかったんですよ。でも、ほんとに不思議なことに、タイミング良く、無事、完結できちゃったので……。


−−たしかに、『天と地の守り人』の1冊目を読んだ時には、これまでにない壮大な物語の広がり方に、「ほんとにこれ3冊で終わるのかしら」って、心配になりました。


上橋さん 思ったでしょう(笑)、風呂敷を広げるだけ広げて、まとまりそうにないエピソードばっかりでしたからね。ちゃんとまとまったのは奇跡だけれども、それが刊行されたのが今年の3月だったというのも、もっと奇跡かなぁという感じですね。


−−ドラマみたいですね。ほんとに奇跡のように見事に完結して、そのタイミングでアニメもはじまるという良い形になったんですね。


上橋さん 『精霊の守り人』というのは、もう12年も前に書いた作品なので、私にとってもすごく不思議なんです。出版されて11年たってから急に、いきなり激しく動き始めた感じがするので。それまでは、好きな人が大事にしてくれて、長く読み継がれて、口コミで広がっていくという本だったので、不思議な気がしますね。


−−何かが熟した、というのがあるのかもしれないですね。

上橋さん そうかもしれません。この10年間に、日本の児童文学をめぐる状況、ファンタジーをめぐる状況も大きく変わりましたしね。この本を最初に書いた頃は、まだこんなに長い作品を小学生が読むというイメージもなかったのに、この作品は、たくさんの小学生が読んでくださっている。
 文章の中で使っている漢字を、読みやすいようにひらがなにしたということもあると思います。それから、表紙などを描いてくださった二木真希子さんのイラスト。これがとても良かったんだなぁと思います。
 小学校でこの本と出会った人たちから、もう社会人になりましたっていうお手紙をいただいたりすると、私も年とったなぁってしみじみと思いますけど(笑)。そういう出会い方をしてなお、大人になってもシリーズの最後まで追いかけて読んでくださっているというのは、本当にうれしいことですね。


−−今回は、これまでの単行本だけでなく、軽装版、文庫版も発売されたんですね。


上橋さん ちょっと実験なんですけれども、本のサイズがちがうだけでなく、表記も変えているんですよ。漢字の量を増やしているんですね。大人の読者はひらがなが多いと読みづらいので、軽装版は読みやすいと思います。軽装版にはイラストが入っているので、ヤングアダルトの読者や、大人の方でも二木さんの絵がお好きだという人に、いい感じになっていると思います。文庫は絵が入っていなくて、完全に大人の表記にしてます。通勤途中でとか持ち歩いて手軽に読めるわけですね。
 三つの形にしてもらえるなんて幸せですよね。

 本の形や文字表記はちがっても、それぞれ物語の内容は変わってないわけです。それで私が知りたいと思っているのは、大人も物語を面白いと思ってくれるとしたら、ファンタジーというものには年齢に関わらず楽しんでもらえる力があるのかなぁということです。小さな子供でも、ひらがなが読めれば楽しめて、大人も同じように楽しめる。もともとこの本、かなり高い年齢層の方も読んでくださっていますので、おもしろいなと思っているんですけど。


−−ファンタジーと言うと、魔法とか龍だけだと思って敬遠している大人もいますが、そうではなくて、物語の魂をちゃんと読んでくれているファンがたくさんいるわけですね。


上橋さん もしかしたら、私が書いているものは、普通にイメージされるファンタジーではないのかもしれないと近頃なんとなく思っているんです。皆さんがファンタジーとおっしゃるので、たぶんファンタジーだろうと思ってきたんですが、そうでもない読み方もできるのかなと……。
 時代小説だと思って読んでいる人もいるようですし、ハードボイルドみたいだと思って読んでいる方もいらっしゃる。私の別の作品『獣の奏者』『狐笛のかなた』など、動物好きな方は、そちらのイメージで読んでいるようだし。

 ファンタジーに苦手感を持っている人たちの、苦手意識の源泉というのは、ふたつあるのじゃないかと思います。ひとつは設定についていくのがたいへんだということ。描かれている世界に馴染むまでがたいへんだという意識がある。「守り人」シリーズが、ファンタジーが苦手な人にもけっこう読まれているのは、カタカナ造語は多いですけど、時代劇やハードボイルドだと思って読めば読めるようなものだからかなぁと思うのです。


−−たぶん、日本文化というかアジア的なものや風景が描かれているから馴染みやすいのでしょうか。


上橋さん アジア人としてのノスタルジックなにおいがあるからでしょうか。風景にしろ文化的背景にしろ、私はそれを書きたかったし、書いてみたらそういう感じになった……。

 あともうひとつ、ファンタジーで苦手だと思われているものが、「都合がいい」ということじゃないかと思うんですね。
 魔法で解決してしまうのだったらなんでもアリだし、都合が良過ぎる。だからファンタジーは子供が読むもので、大人が読むには軽すぎる、ものたりない。そういう意識があるかもしれませんが、ほんとうに優れたファンタジーといわれている作品は、実はそうじゃないと思います。日本の作家の方々の作品でも、書かれているものをよく読んでいただくと、ご都合主義ではないものが支持されているのではないでしょうか。

 ただ、私の本の中でファンタジーだと思える部分があるとすれば、すべてがわかっている世界ではないということ。リアルな世界では、私たちが知っている日常世界ですべてが進んでいくわけですが、私にはなんとなく、この世には、私にはわかってないものがたくさんありそうな気がしているんです。その象徴として、異なる世界・異界、この物語の中では、ナユグなどという名前で書いていますが、そういうものと出会う瞬間というのがあって、その瞬間、こちらの世界が対象化される。それはもしかしたら、すごくファンタジーなのかもしれません。
 さらに、世界と人との関係を描きたい、とかね。そういうテーマはものすごくファンタジーっぽいかもしれませんね。人と人との関係だけでなく、世界と人との関係を描きたいんです。


−−そうですね。世界と自分がどう関わるのかとか、自分の抱いている理念や理想と世界をどう折り合いをつけていくのか、どう動かしていくのかとか。そういったことが、はっきり描かれてますね。


上橋さん 『精霊の守り人』一冊だけだと、その雰囲気はあまり出てこないですけれども、全10巻まで読んでいただくと、主人公たちの日常世界だけではなくて、主人公たちが出会っていくさまざまな異文化がでてくるんですよ。異なる文化の人たちがたくさん住んでいる世界なんですよね。
 それを一度、やってみたかったんですよ。意外とほかにないような気がして。
 主人公の日常生活がある社会については、細かく詳しく描かれていている物語は多いと思うのですけれども、異なる文化がさまざまにあって、多様な文化圏がパァーッと立ち上がって来る広い世界。「守り人」シリーズ全10巻には、その感じが出ているかなぁと思っています。


−−チャグムの居る新ヨゴ皇国だけでなく、バルサの故郷であるカンバル王国、海洋国家のサンガル王国、ロタ王国や、敵対する強大なタルシュ帝国など、多彩な国が描かれています。ほんとに、どこの国に住みたい? とか聞いてみたくなりますよね。


上橋さん いろんなファンの方々がそれをやってくれていて「私はサンガルで美味い魚料理を食べたいなぁ」とか、家を建てるならどこがいい、とか。すごいおもしろいですよね。


−−そういった、たくさんの異なる文化を描きたいというお気持ちは、研究なさっている学問やフィールドワークからでてきたものなのですか?


上橋さん そうかもしれません。文化人類学をやっているのが、自分にとっては自然なことなので、ひとつの文化しかない社会が想像できない。常に他文化ばかり頭にあるので、ついつい浮かんできてしまうのかも。
 私が研究していることのひとつに、エスニシティ研究があるんですが、「自分たち・我々」というのと「あいつら」という感覚がどういう風に立ち上がってくるのかをみていくと、とても興味深いです。他者にマイナスのイメージをつけて、それによって「自分たち」という同胞意識を際立たせる。ファンタジーの中でも、すごくそれが気になっていたんですね。異文化を持つ人々は、たいがい、あまり良い役では登場しないんです。それが、私にはちょっとイヤだったというのもあって、そうでないものを書いてみたかった。
 だから、敵である人々の生活も書いてみたくなっちゃったりする。それで、タルシュのことも書いてみたり、タルシュの植民地になった人たちの生活も書いたんです。


−−そのあたりがまた、物語の厚みというか、大人も楽しめる部分だったりするんですね。


上橋さん それが説明的になってしまうと、物語ではなくなってしまうので、自然に、肌感覚で読めるように書きたいと思っていました。食べ物描写に執着して書いているのも、それがあるんですよ。
食べ物が大好きっていうのもあるんですけど(笑)、子供の頃好きだった児童文学っていうと、まず食べ物が真っ先に浮かんでくるんです。どんな物語にも、ひとつずつありません? 『ナルニア国物語』だったら、タムナスさんちのお茶に呼ばれたいとか、『指輪物語』のホビット庄だったら、卵をいっぱい落としたハムエッグが食べたいとかね。『ツバメ号とアマゾン号』なら、スクランブル・エッグ。そういう食べ物の感覚というのは、文化人類学でも重要で、日本人である私にとっては、異文化の食べ物なんだけど、だから食べてみたいというのと、イギリス人である彼らにとっては、ごく自然の日常生活だということが、説明されなくても、スーッと体にはいってくるんですね。そうすると、彼らがアイツラじゃなくなるの。自分に近い、普通の人の感覚にスーッとなるんですよ。食べ物を通した日常化っていうのでしょうか……。
 肌感覚で近くなってくる感覚があるので、食べ物を書くことは、大切だなぁと思います。
 『天と地の守り人』の時には、バルサが大好きなヤギのチーズが、チャグムにとっては臭くて食べられないとか、卵かけごはんが食べたいチャグムくんとかね。そういうことって、実はそれだけで、文化の差がはっきり浮かび上がります。100の言葉で説明するよりも、そっちのほうがいいなと思うんですね。読んでいて楽しいしね。


−−そういったシーンや書かれている事柄には、いろいろな意味が込められている上に、素直に物語として描かれていると感じます。さらに、食べ物と同じように感じたのは、女の人の生活なんです。こんなにたくさんの女の人たちがいきいきと描かれているファンタジーというのは、いままで読んだことがないと思いますね。


上橋さん 私の「守り人」シリーズに登場する女性たちって、けっこうプロフェッショナル。それぞれの仕事人なんですね。生活者であってなにか仕事をしている人が多い。女医さんであったり、商売人のマーサさんであったり。あるいは、バルサももちろんそうなんですけどね。サンガルの女たちもいいですよね、集まってダンナをうまく操縦している、みたいな。
 思想的なものではなくて、生活の中で、こういう女の人だったらかっこいいなぁと思う人たちを書いているので、自然にそうなっているんだと思うんですけどね。


−−女性の中では、『神の守り人』に登場するロタ王国のシハナは、ほかの女性とはちがって、ちょっと逸脱してますね。


上橋さん なぜか、シハナはファンが多いんですよね。彼女は、彼女なりの、一本完結した筋が通っているものに従っているわけで、そういう意味では、かなりほかの女性とちがう、もうちょっとクールな感じがありますね。


−−その対極にあるのが、同じ『神の守り人』に登場するアスラだと思うんです。運命に翻弄されてしまう可憐な少女で……。


上橋さん アスラはまだ子供だということが大きいんだと思います。今、お話にでたほかの女性たちは、みんな大人なんですよ。シハナも、もういい歳の大人だし。少女でも、職業人として一本筋が通っている海賊の頭のセナも、自分の立場が出来上がっているから、翻弄されていては生きていけない。でも、アスラの場合は、やっぱりまだ子供なんですよね。
 チャグムもそうです。子供って、状況の中ですごく翻弄されることがあると思っています。それを守ってあげるのが大人の大切なつとめだし、大人とコミュニケーションしていく中で、生きる手段を学んでいくということが大切なことじゃないかと思っています。だから、アスラは、揺れているキャラなんです。


−−アスラは、まるで核のような驚異的な力を持ちながら、揺れる繊細な女の子なんですね。そういった、守られる子供、育つ子供が物語に登場してきますが、これまでのファンタジーでは、おおむね少年がだれかの手助けはあるにせよ、自分で育っていく成長譚であることが多かったと思うのです。ですけど、その子供を守って、一緒に居て、傷ついて、動いてくれる大人がいる。それが、しっかりと描かれているというのが、この作品の新しいところだなと思います。


上橋さん それはすごく書きたかったことなんですね。子供の成長譚を書くための都合のいい大人ではなく、大人というのがまずしっかり居て……そういうドラマを書きたかったんです。


−−大人の世界が、複雑な構造をもって子供たちの育つ日常の上にあるわけで、その中で子供たちは翻弄されているけれど、それぞれの要所で、しっかりした大人を見ることで、なんとか生きようという力になっていく。すごく勇気づけられるし、素晴らしいことだと思います。


上橋さん 子供はやっぱり大人の影響をすごく受けちゃうから、アスラなんかの場合は、そうでない大人に翻弄されているわけで………。
 でもそこに、バルサという大人がでてくると、必要なものを与えられるかなって。バルサは頭で考えたり、思想で行動するタイプではなくて、地に足がついている生活者として、転びそうになったり、ひっくりかえりそうになったら、パッと支えてあげられる人。先に体が動く、判断が早い人です。そういう人って、本当にかっこいいなって私は思うんです。バルサっていうのは、そういう女だなぁと思いますね。


−−そんなバルサを支える、タンダっていう理想の男性もでてきますね。


上橋さん どうも読者からは、タンダはヘタレだと思われているらしいんですが(笑)私にとってのタンダというのは、ヘタレではなくて、のんびりした人という感じなんですよ。あんまりものにこだわらない。いろんなことが在り得ると思っている人なんですね。呪術師とか研究者に向いていて、好奇心が強くて、ひとつの視点に囚われない男。だから、女性はこうでなければとか、男性はこうでなければというのもあまりない。村の日常生活からも完全にはずれちゃっている人なので、自分が料理を作っても、なんということもない。それこそ、ジェンダー観から離れちゃっている人ですよね。
 男の人からみると、そういう人はヘタレだのと言われてしまうんでしょうけど、ものごとにこだわらないおおらかな人だから、バルサはタンダといると気楽なんでしょうね。バルサも、ものすごくズレちゃっている人なので。ほかにも、いろんなタイプの男性が登場してますが……。


−−ほんとによりどりみどりですよね。読者としては、チャグムも育ってきたなぁっと感動したりして(笑)。


上橋さん そうですね〜。読者さんがそれぞれのキャラクターで遊んでくださっているっていうのは、それだけキャラにおもしろみがあってくれるのかと思って、うれしいですね。


−−そもそも、この壮大なお話を、なぜ、思いつかれたのでしょう。


上橋さん それこそ、知ってる人は何回も聞いている話になってしまうのですが、いいですか?
 レンタルビデオを見ていると、予告編がはいってますよね。なんの映画の予告編かも覚えてないのですが、バスが燃えていて、そこからおばちゃんが男の子の手を引いて降りてくる、ほんの一瞬なんですが、そんなシーンがあったんです。 なぜかその瞬間に、心に何か触れた感覚があって、「あ、これは書きたい、物語になる」って思った。強烈に、おばちゃんが書きたくなった。しかも、強いおばちゃんね。バルサは私の頭の中に生まれ出た瞬間に、もう槍を担いでいたんです。『精霊の守り人』ほど、安産だった話はないですね。ものすごいスピードでどんどん頭の中にストーリーが駆けめぐって、書けました。


−−そんな風にシーンが浮かんで、それが壮大な物語の大事な部分に当てはまる……ということは、よくあるのですか。


上橋さん そればっかり。たとえば、『日本霊異記』の中の一節で、ぼうぼうとした枯れ野をキツネが逃げてきて、それを男が猟師から助けてあげる……それを読んだ時に、『狐笛のかなた』の印象が浮かんでいるんです。ただし、かけてくるのはメスではなくてオス狐で、立っているのは女の子に変わるんですけどね、私の頭の中で。
 あるいは、突然、崖の上に女の人が立っていて、夜、竪琴を弾いていて、向こう側になにか巨大な獣がいる……というので、『獣の奏者』が浮かんでくるというように。ある日突然なにが起きたのかわからないんですけど、頭の中に、イメージが浮かんでくるんです。
 よく私が物語を書く時には、考えて書いているとか、思考して作りあげていると思っている方がいらっしゃるんですが、そうじゃないんですよね。私は、すごく感覚的に書く人。感覚から浮かんできて、会話が聞こえてきて、人がしゃべっていたり、動いてたりして、そうしてシーンが動いていく。そういう書き方をしているんですね。
それがね、決して順番で浮かんでこないんですけどね。


−−緻密なプロットがあって書いているとしか思えないのに! ほんとうにぜんぜんそうじゃないんですね。


上橋さん だから、書けなくなってしまったら、たいへんなことになるわけです。でも、出てきたときには、すごいうれしくなりますね。筆が走ってくれるというかね。実は、『蒼路の旅人』の前にも一作、『炎路の旅人』という話があるんですが、『天と地の守り人』にも関わる部分があって、出版されなかったんです。タルシュに支配されてしまった旧・ヨゴ皇国のお話ですが、4〜5年も前のことだから、変わってしまっている可能性もあるし、出せるかどうかわからないですけどね……。
 ほんとうに、『精霊の守り人』から10年、いずれは、帝にならざるをえない運命を背負ったチャグムの物語は、きれいに、ひとところに落ち着いたので、このあと動かすつもりはないんですけどね……。


−−それはぜひ、いつか読んでみたいですね……。アニメやコミックスなどもあわせて楽しみながら、待ちたいと思います。今日は、ほんとうにありがとうございました。




 『ナルニア国物語』『ゲド戦記』『指輪物語』を読んで育った私は、まちがいなく次の1冊に『精霊の守り人』シリーズを挙げます。アジアから生まれた極上のファンタジーとして、世界に誇れる物語です。子供時代に読みはじめた人は幸福です。大人になって読んだ私は、登場するバルサやタンダのように生きられたら……と思います。
 アニメを見て興味をもった人も、コミックスを読んで気になっている人も、ファンタジーは子供の読み物だろうと思っていた人も、ぜひ、この10冊を読んでください。アッという間にあなたも、この世界の住人になっていることでしょう。
【インタビュー 波多野絵理】


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