楽天ブックス 著者インタビュー

  • バックナンバー
  • 最新号

綿矢りささん『勝手にふるえてろ』イチ彼とニ彼。二人の男子の間で揺れ動く26歳女子の“恋愛”小説
妄想以上恋愛未満、この恋の行方は?

良香は中学のときからずっとイチ彼に片思いをし続けている。しかし、会社の飲み会で知り合ったニ彼から好意を寄せられ、タイプではないのにデートを重ねる。好きなのはイチ、たぶん結婚するのはニ。初めて経験する恋愛の渦中で、彼女が出した結論は? 前作から3年ぶりの新作を発表した綿矢さんに作品作りの舞台裏を伺いました。 

プロフィール

綿矢りささん (わたや・りさ)
1984年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2001年、高校在学中に「インストール」で第38回文藝賞を受賞し作家デビュー。04年、「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を史上最年少の19歳で受賞。そのほかの著書に『夢を与える』がある。

インタビュー

26才、恋愛と結婚の間で

−−綿矢さんは楽天ブックス初登場なんですね。
綿矢さんおじゃまします(笑)。
−−前作の『夢を与える』から3年ぶりの新刊です。今回も少し時間が空きましたね。
綿矢さん一応、毎日机に向かって書いてはいたんです。信じてもらえないかもしれないけど(笑)。書きかけては育たずという感じでした。少し直せば育つかな、と思ってやってみてもどうしても無理だったり、逆に、「こんなんあかんやろ」と思っていたものがすんなりかたちになったり。いままでもそうですけど、書いてみないとわからないんです。
−−小説を最後まで完成させるのは難しいですか?
綿矢さん難しいですね。こういうものを書きたいと思っても、それにぜんぜん近づけなかったりとか。
−−ふだんの生活のなかでも「これって小説になるかな?」と考えたりしているんですか。
綿矢さんよく思いますね
−−たとえば小さな疑問とか?
綿矢さん小さな疑問とか、あるできごとに対して、人がどんな行動を取るかとかですね。自分自身の行動も含めて。
−−『勝手にふるえてろ』の場合、とっかかりになったのはどんなことだったんですか?
綿矢さん恋愛と結婚をどうするか、ですね。結婚は現実的で、恋愛はロマンチック。その相反する二つをどう合わせられるかです。
−−綿矢さん自身が主人公と同じ26歳ということも関係していますか?
綿矢さんそうですね。気になる年頃っていうか(笑)。
−−26歳って中途半端ですよね。会社では新人とはいえないけど、一人前とはいうにはちょっと頼りない。結婚もまだ現実的に考えられない人のほうが多いかも。
綿矢さんふわふわしてますね。25〜26歳って、待合室でこのまま呼ばれるのを待つか、病院から出るか、どっちつかず。どうすればいちばんいいのか、周りの出方をうかがっているみたいな。

綿矢さん


恋愛より日常寄り?

−−主人公の良香はふつうの人以上に感じているし、考えているタイプ。それがウザくもあるけれど、かわいいところでもある。綿矢さんは主人公に対してどう思ってますか。
綿矢さん 私のホンネにけっこう近いモノローグだと思います。ただ、書いてると、文章自体が違うところに連れて行ってくれるというか、深く考えさせてくれますね。彼女は中学生の頃からずっと好きな人が変わっていないから、その点でどこかしら中学の時点で止まっている部分がある。それは書いてみないと思いつかなかったですね。
−−これまでの綿矢さんの作品はどれも恋愛を周到に迂回してきたと思います。恋愛不全感みたいなものが綿矢さんの世界にあったと思うんですが、今回はかなり恋愛に接近したというか、恋愛に正面から取り組んでますね。
綿矢さんそれでもまだなんかちょっと寸止めというか(笑)。ちょっとずつ、ちょっとずつ……。これが限界かもしれないですけど(笑)。恋愛じゃないのかもしれないですね、書きたいことが。日常生活に寄ってしまうタイプかもしれないです。
−−良香は中学時代からずっとイチのことを片思いしているわけですけど、十年以上会っていないのに「好きだ」と妄想し続けている。「それって恋愛なのか?」って感じですけど。
綿矢さん恋愛って二人でするものですけど、彼女は一人でしがちなところがあって。そういう性格だからそういうことになってしまうんでしょうね。
−−良香の中学時代のエピソードで「視野見」という言葉が出てきますね。視界の端っこで好きな異性を見ていること。身に覚えがある人は多いと思うけど、初めて名付けられたように思います。今回、考えたんですか?
綿矢さん別に名付ける必要はないんでしょうけど、言葉にするなら「視野見」かな、と。無意識でやっていることでも、説明しようとするとぜんぶ文章にしなきゃいけないから、そこは小説を書いていて面白いところですね。心の中で起こっていることでも、言葉にしようとすると「けっこう、いろいろ考えてんねんなあ」って気づきますね。


集団のなかの孤独

−−『勝手にふるえてろ』を「恋愛小説」と言っていいのか躊躇してしまうのは、冒頭でいきなり進化とか本能の話から入るんですよね(笑)。人間には恋愛という感情があるけど、それは必要なのかどうか。恋愛に対する疑いの書なんじゃないかと。
綿矢さん ニと主人公はある意味では二人とも動物っぽいけど、恋というところではぜんぜん動物的ではない。そこが、書いていても不思議な感じでしたね。動物のほうがスマートにできることが、人間は脳みそが邪魔してるのかなあ、と思いました。
−−人間の脳みそが邪魔していることがあるって、なんとなくいまの情報化社会みたいなものと関連づけて考えられるかもしれないですね。
綿矢さん私自身もいまの世の中に生きている一人だし、影響も受けていると思います。そんなに奇抜な生き方をしているわけではないので(笑)。
−−良香の青くささ、中学生のままで大きくなったような、未熟さに共感する人も多いような気がします。綿矢さんの小説では、主人公ははぐれものへまなざしを向けている。肩入れといってもいいかもしれないけど。
綿矢さん集団にいても、その他大勢の人たちもいろいろ考えているだろうし、真ん中にいる人たちでも、別の場所で疎外感を感じていたりすると思うんです。今回の主人公も、内面は偏っていたり奇抜に感じられるところもあるかもしれないけど、実際はちゃんと会社に通って、その他大勢のなかでいろいろ考えているんですよね。
−−一見ふつうの人っぽく見えるけど、内面的には疎外感を感じているかも知れないというキャラクターなんですね。
綿矢さんそうですね。私の小説に出てくる人たちよりももっとはぐれている人たちはいっぱいいると思うので。
−−なるほど。はぐれている人ははぐれてるっていうポジションがあるけど、集団のなかにいるのに心の中でだけちょっと違うことを考えているほうがより孤独かもしれない。良香とニとの関係がすれちがいになってしまうのも、ニには良香の内面がわからないから。でも、この作品では、良香にはそれが不満だけど、わからなくていいじゃない? っていうのが作者の立場ですよね。
綿矢さんそうですね。いろいろと考えてしまうタイプなら、「勝手に考えとけ」っていう(笑)。
−−そう思うようになったのはいつごろからですか?
綿矢さん二十代になってからだと思いますね。十代のときとかは「自分のことも完璧にわかってもらって、相手のことも理解する“恋愛”ってすごいな」と思っていたんですけど、最近、そういうのは無理なんじゃないかと思って(笑)。細かいことにこだわりすぎるほうがよくないんじゃないかと思うようになりました。


綿矢さん


イチとニ、どちらを選ぶ?

−−女子トイレの「音姫」が出てきますが、これまであまり書かれたことがないなって思いました。
綿矢さん 子供の頃にはなくて、途中から出てきてあたりまえのように浸透しているものって、すごく気になるんですね。創生期を見ているという感じで(笑)。
−−創生期(笑)。男子の知らない世界で面白かったです。しかし男子としてショックだったのは、やっぱり「ニはスープ系の体臭、飛行機で出される油の浮いたコンソメスープと同じにおいがする」という描写です(笑)。
綿矢さん衝撃的ですよね、あんなふうに思われていたら。
−−綿矢さん、ふだんからそうは思っていないですよね(笑)。
綿矢さんそうですねー(笑)。考えてないと思います。でも、スープ系の人はときどきいますよね、男女関係なく。自分がどう思われているかは棚に上げてますけど(笑)。
−−悪態を書いても笑えるところがこの小説のいいところですよね。イチに再会しようと思ったきかっけが、布団が燃えて死にそうになったという、笑えるような笑えないような微妙なエピソードも良かった。
綿矢さん日常、生きているなかで思うことだったり、ありえることですよね。そういうエピソードは書いていて楽しいです。特別な場面よりも
−−イチは良香に似て繊細で考えすぎそうなタイプ。一方、ニは無神経なところもあるけど、いいやつですよね。
綿矢さんニはおたく系の考え過ぎちゃう子にはある意味でぴったりかな、と思いますね。あまりにも線が細い二人だとどんどん神経質になっていってしまうから。タイプじゃないかもしれないけど、つきあうならニのほうがいいかもしれない。
−−綿矢さんはどっちがタイプですか?
綿矢さんイチですね。
−−即答ですね(笑)。
綿矢さんニも嫌いじゃないけど、イチみたいな人がいいんですよね。いままで恋愛って、ちょっと危ない野性的な魅力のある人とするもので、結婚は線が細くて堅実な真面目な人ってイメージでしたけど、いまは逆に、結婚はガツガツ行く出世しそうな人とがよくて、堅実で真面目な人はむしろ恋愛向きかも。
−−ああ、そうですか(笑)。三人はそれぞれ微妙にかぶっていますね。良香とイチが似ているところもあれば、良香とニが似ているところもある。良香が人を好きになるときに分裂したパーソナリティがあって。ウラを考えて読んだほうが面白いのかなと思ったりしました。作者としても。すべては書かない、あえて書かないこともあるんじゃないですか。
綿矢さん作者の意図を見せてもしょうがないかな、とは思いますね。私にはもともと作者の意図というものがそんなにないし。読者を導くという感じじゃない小説のほうが、私も読んでいて好きですし。いい言い方をすればそうですけど、ホンネでは「こんなんできたけど、どう思う?」みたいな感じですね。むしろ、読者の人たちに聞いてみたいくらいです。
−−とくに『勝手にふるえてろ』は読み終わったあとに、感想を言い合うと面白そうです。その人の恋愛観、異性観が出そうで(笑)。
綿矢さんそうしてもらえると嬉しいですね。いつも周りに感想を聞くんですけど、それぞれ読み方が人によっても違うから。
−−次の作品は、これからですか?
綿矢さんこれからです。今度こそなるべく早く書きたいと思います(笑)。

(後記)
前作の『夢を与える』のときに某誌でインタビューさせて以来3年ぶりにお会いした綿矢さんは、実に楽しそうに『勝手にふるえてろ』について話してくれた。実際、この小説はとても楽しい。良香本人にとっては深刻な悩みなのかもしれないが、それも含めてやっぱり笑える。恋愛がうまく行っている人、いない人、あるいは、恋愛しなくては、とプレッシャーを感じている人、そして、恋愛って何? と思っているすべての人におすすめしたい一冊だ。(タカザワケンジ)

この本を立ち読み

勝手にふるえてろ 綿矢りさ

不器用さがたまらなくユーモラス
26歳ってこんな感じだったかも!
【1】26歳のOL、処女でヲタクな主人公。頭でっかちな26歳の独り相撲な恋愛模様。決着はどうなる?!
【2】イチ彼、ニ彼、どっちもアリかも…。読後、ジョシ仲間で「どっちがタイプか」のガールズトークが弾みそう。
【3】青春はすぎたけど成熟まであと少し。26歳の焦燥感がリアルで、読書中、一人で赤面&悶絶しました

ご購入はコチラ

レビューを立ち読み

  • ★久しぶりの綿谷さん。「夢をあたえる」であれ、思春期か?とちょっと作風が不安定でしたが、今回は、そうそうやっぱり綿谷さんってこうゆう感じだよね。って思いました。このひねくれ具合というか・・・笑 大好きですね。

もっとレビューを読む!>>

このページの先頭へ