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舞姫

大人気バレエ漫画『テレプシコーラ』第一部、ついに完結! 優雅で美しく見えるバレエの世界は、実はこんなにも厳しい。私はそのことを描きたいと思ったのです。 山岸凉子インタビュー

ここ数年、日本はバレエブームだと言われている。
世界の名だたるバレエ団が次々と来日して、チケットはほとんど完売。
初心者を対象にした美容のためのバレエ教室も大盛況。
そうして、今、大人気のバレエ漫画がある。
『テレプシコーラ』。作者は漫画界の巨匠・山岸凉子。
第一部が衝撃的なクライマックスを迎えたことによって、
さらに熱い注目を集めているこの作品にこめた想い、
その舞台裏について、山岸さんに語っていただいた。


山岸凉子さんの本


『舞姫テレプシコーラ1〜10 楽天オリジナル特典付コミックセット』
『舞姫テレプシコーラ1〜10 楽天オリジナル特典付コミックセット』
山岸凉子
メディアファクトリー
5,930円 (税込 6,227 円)



『舞姫テレプシコーラ(10)』
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山岸凉子
メディアファクトリー
620円 (税込 651 円)

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『パイド・パイパー』
『パイド・パイパー』
山岸凉子
メディアファクトリー
552円 (税込 580 円) 



『白眼子』
『白眼子』
山岸凉子
潮出版社
571円 (税込 600 円)



『ツタンカーメン』
『ツタンカーメン』
山岸凉子
潮出版社
571円 (税込 600 円)



『わたしの人形は良い人形』
『わたしの人形は良い人形』
山岸凉子
文藝春秋
619円 (税込 650 円)

プロフィール


山岸凉子さん(やまぎし りょうこ)
北海道生まれ。69年『レフトアンドライト』で漫画家デビュー。バレエ漫画『アラベスク』で人気爆発。神話や伝説をベースにした『妖精王』、聖徳太子を独自の解釈で描いた『日出処の天子』など常に少女マンガの新しい可能性を切り開いてきた。83年『日出処の天子』で第7回講談社漫画賞を受賞。現在、本の情報誌「ダ・ヴィンチ」誌上にてバレエ漫画『ヴィリ』を連載中。今年の夏には同誌にて『テレプシコーラ』第二部が再会予定。

インタビュー



構想20年!?
バレエの今を描く新しいバレエ漫画はこうして生まれた



 時はさかのぼって今から約20年前の1989年、熊川哲也がローザンヌ国際バレエコンクールで日本人初の金賞を受賞。16歳の天才ダンサーの出現は漫画界の天才・山岸凉子をも震撼させた。
「日本のバレエはここまで来たのか!」 いつか現代の日本を舞台にしたバレエ漫画を描いてみたい……『テレプシコーラ』の構想はこの時に生まれたのである。
「日本にはまず森下洋子さんという女性の天才がいて、熊川さんは現れるべくして現れた男性の天才。彼の登場が私をもう一度バレエの魅力に呼び戻してくれました」
 とにかく今のバレエを知りたい。バレエ熱が再燃した山岸さんは劇場に足を運び、バレエ教室や発表会にも顔を出すようになる。
「いくら資料を集めたとしても、その世界を肌身で感じて自分なりに理解できるようにならないと、作品を描くことは出来ません。ナント、私、40代後半でまたバレエを始めてしまったのです。といってもそれは作品の取材のためというより美容のため、上手に踊れるようになりたい一心で(笑)」 とはいえ自分でも習うようになると、教え方の進歩にまた感動させられたのだという。「昔は先生がとにかくお手本を見せるだけだったのが、今は“この指に力を入れるとうまく立てる”とかより具体的に解剖学的に教えるようになっていたんです」 こうして『テレプシコーラ』の物語のベースが固まっていった。「以前、私が描いた『アラベスク』はロシアが舞台。私も恐れを知らなかったので、ノンナのような天才の話を楽しく描けてしまったのでしょう(笑)。『テレプシコーラ』では天才の話を描こうとは思っていません。優雅で美しいイメージのバレエが実際はどれほど厳しい世界かを描きたいと思ったのです。連載が始まったのと私がバレエを再開したのがほぼ同時期だったので、描き始めた頃はバレエのハウ・トウものを描いているような感覚がありましたね」

 最新のバレエ・メソッドが折り込まれたリアルさの秘密は、いまだかつてない作者体験型同時進行バレエ漫画だから?
 発表会前の過酷なレッスンに小指の骨を折り、作者自身も満身創痍でペン入れしていたなんてことも(実話です)。
「さすがに途中で作品の主人公たちと自分とは切り離しましたが。なぜかっていうと、自分の才能は伸びないんですよ〜。いかん、このままではこの子たちまでいつまでも劣等生のままだと思って(苦笑)」
 バレエの今、バレエのリアルに迫る、新しいバレエ漫画はこうして誕生したのである。


第一部完結。この機会に、ぜひ作品世界に触れていただきたい


< あらすじ >
 主人公の六花(ゆき)は、姉の千花(ちか)と共に母親のバレエ教室でレッスンに励んでいる。プロを目指し、生活のすべてがバレエ中心の千花と違って、六花(ゆき)はただもう、バレエが好きで踊っている女の子。物語は六花(ゆき)の通う小学校に空美(くみ)が転校してくるところから始まる。六花(ゆき)は一見男の子みたいな空美の立ち方を見ただけで、彼女がバレエをやっていると気づく。

「アン・ドゥオールと言って、バレエのすべての基本になる立ち方なんです。上手な子ほど普段から脚の開いたこの立ち方を教え込まれているんです」と山岸さん。
 バレエを知る人ならではのこうした視点が作品の随所で光る。
 空美は、伝説のバレリーナと言われた叔母の須藤美智子に徹底的にワガノワ・メソッドをたたき込まれた少女だが、劣悪な家庭環境でレッスンもままならない。また、過酷なダイエットに追い詰められていくひとみや、上昇志向の強い茜(あかね)など、バレエと向き合うさまざまな少女たちの葛藤が描かれる。そして、彼女たちを指導する教師たちも含め、多彩なバレエ群像が描かれていく。「実際のバレエはヒエラルキーの頂点の人たちだけにスポットライトが当たる本当に厳しい世界ですが、漫画ではそれ以外の人たちにも目を向けて描いています。生徒をどう育てていくかというのは先生方にとっても難しい問題で、たとえ天才的な子といえども鼻をつぶさないように増長させないように伸ばしていくというのは大変なことなんです。さらに身長やスタイル、自分ではどうしようもない天性の体型的なことまでシビアに判断されてしまう。十代初めの少女たちにとってそれがどれほど過酷なことか!」

 とりわけ第一部の、衝撃的なクライマックスが読者の大きな反響を呼んだ。
「六花(ゆき)ちゃんは弱いように見えて、自分の感情を出せるから、逆の意味で強いのかもしれません。素のままで生きてる強さがあるんですね。千花ちゃんは弱さをを見せない分だけ出口がない。今の若い人たちもそれで苦しんでいる人が多いと思います」
 家族の期待という重圧。学校でのいじめやネットの掲示板の問題。さりげなく折り込まれた千花の背景にも、今を描こうとする作者の目配りがある。
「『アラベスク』の頃は私もバレエ至上主義、芸術至上主義で描いていました。けれどもそれが人間として一番大事なのかと言えば、実はそれだけではないのではと思い始めたのです」

 また、六花(ゆき)は踊るだけでなく、振付を考える楽しさに目覚めていく。バレエのテクニッだけでなくコリオグラファー(振付家)について描かれているのもこの作品の新しさだ。「コリオグラファーと言われても、バレエに詳しくない人はピンとこないかもしれませんね。今、まず名前があがるのがモーリス・ベジャール。作品の基礎にクラシックがあって、ストーリー性もある。他には、ほとんど映画監督に近いと思うマシュー・ボーンや、ジョン・ノイマイヤーなど、才能豊かなコリオグラファーたちが出てきています。ただ、日本には優秀なコリオグラファーがまだ少ないんです。……これ以上のことは第二部にも関わってくるので、まだ秘密というか言えないのです。ごめんなさい(笑)」

 現在本の情報誌『ダ・ヴィンチ』では短期集中連載『ヴィリ』を連載中。『ヴィリ』も『ジゼル』をモチーフにしたバレエものである。『テレプシコーラ』で山岸涼子はまたバレエ漫画の新しい地平を切り開いた。第二部の再開は夏頃を予定している。


【取材・文/瀧 晴巳】
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