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千里の道も一歩から、と12名の師匠に弟子入りした模様をつづる体験エッセイ。月刊「生本-NAMABON-」にて2005年1年間にわたり連載された「千里の道の解放区(リトート)」をまとめた1冊について伺った

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経験『経験』
千里の道も一歩から、と12名の師匠に弟子入りした模様をつづる体験エッセイ。月刊「生本-NAMABON-」にて2005年1年間にわたり連載された「千里の道の解放区(リトート)」をまとめた1冊。
1,575円(税込)
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プロフィール

山咲千里さん (やまざき・せんり)
NHK朝の連続テレビ小説のヒロイン24代目として女優デビュー。女優が脚本を読む視点でと自らが書き溜めた本も91年「いつかジェラシー」(絶版)の小説を皮切りに「美肌」「恋水」(ともに講談社)など今作品で10冊に上る。愛と美について深く洞察する書き手としての顔をもつ。京都生まれ。 公式HP「HYPERLINK」 :http://www.yamazakisenri.com/ 

インタビュー

−−タイトル「経験」とは、意味深なネーミングですね。
山咲さん今回の「経験」という本は、40代の思い込みから脱出するために趣味探しをする「体験」本です。しかし、その「体験」は「修業」が熟したもの、つまり「経験」がしっくりくる、と思って決めました。
−−表紙の「着物姿とバイク」も斬新ですね。
山咲さん「走っている途中」を表現したかったんです。本来、着物姿は走ることには向いていない。でも走るためのマシン、バイクがあれば…。それがどこへ向かっているのかはわからないけれど、探し求めて走りつづける、そんなイメージです。  こだわりを強く持ちすぎると、解放されない。でも、大人こそ、「デキゴコロ」をもって解放感を感じよう、というメッセージでもあります。
編集王さん表紙撮影に登場したのは、イタリア製ドカティ(Ducati)のスーパーバイクの新モデルです。
−−「経験」は、これまでの山咲さんの作品とは、全く文体が違いますね。
山咲さんいつか私は「マンガで文章を書く」といったポップを表現したいと切望していました。また、それには「自分でツッコミをいれて、自分でボケる」という3人称の文体が適切だとすぐわかりました。今回は、著者ザッキーと編集王の「ボケとツッコミ」で書けて、嬉しかったですね。 実は、昔からマンガが好きで、しゃべり言葉も影響を受けました。「天才バカボン」「あしたのジョー」など…。その記憶をひもといて、予定調和的な文をやめ意外性の楽しさをお届けしたのです
編集王さん前からずっと山咲さんと一緒にお仕事をしたくて、今回の「経験」の元になった「生本」の連載をお願いしたんです。 最初の原稿を拝見したときは、少なからず驚きました。でも、社内の女性に読んでもらったら「面白い!」って評判がすこぶる良い。そこで山咲さんの望むスタイルで進行することになったんですよ。僕も、編集王という名のキャラクターとして登場することになってしまいましたが…(笑)
−−そう
◆ザッキー=著者: 無趣味な40代を嘆き、修業を通して豊かな人生を模索しようとしている。しっかりモノの振りをした、ズッコケものである。

◆編集王=ザッキーに原稿を書かせるプロの編集者。γGTP値の数値の限界値で酒を飲む楽天家。

◆今回の師匠=ザッキー1日修業の師匠である。


と、登場人物の設定がありますよね。このエッセイには。この段階ですでに「むむ?これは、ただモノではない」、という雰囲気が漂っています。今までと違う文体での執筆は、楽しめましたか?
山咲さん毎回、〆切が漬け物石のようにずっしりとのしかかって人相が変わりましたヨ!? 文体を変えるということは、会話のカギ括弧をいつはずしたらいいか、とか、説明部分と感想のバランスはどうしよう、などと、試行錯誤の連続でした。本文では12種類の「修業」を書いていますが、「13番目のウラ修業」として「経験、という本を書く」が含まれているんです。これが1番の苦行だったかもしれません。
−−その苦労も、本が完成したことで報われましたね。
山咲さんそうですね。私にとっては記念すべき10冊目の本ですし。43歳にして、10冊目にして、ついに書けた、やりたかったことが初めてできた、という達成感の大きい本になりました。
−−これまで、趣味と呼べるものはなかったのでしょうか?
山咲さん車の運転、は趣味にあたると思います。これまでに乗り回してきた車は14台に上るほどです。
実は、私の車の師匠は、こもだきよしさん(モータージャーナリスト)なんです。 こもださんの話で忘れられないのが「いい車の条件」。
『踏んだら止まる、ブレーキがきちんとかかるのが、いい車なんだ』 これは、とっても深い言葉だと思いましたね。
「立ち止まることを知らない人間は、事故る」「止まることが大事」なのだと。 でもこの言葉を聞いて私は車は趣味にできないと思っちゃいました。都内って走る直線道路がなくて、止まることばかりに気を取られる(笑)。
−−普段から移動に車を運転されているのですか?
山咲さんいいえ。最近は「原稿を書くには、車は似合わない」と思うようになりまして。電車やバスです。この本を書くために、いろいろな空間を体験しましたね。 都バスに乗ると、「窓開け換気野郎」になっちゃうし(笑)。ほら、バスって車内が混んでいても、一番上の小窓を開けると空気がよどんでいるのを防げるでしょ。だから率先して窓を開ける係になってました。
−−テーマに「40を越えての趣味探し」を選んだ理由とは?
山咲さん「人に感動を与える立場にある仕事を選んだ以上、それには、私自身が感動を積んでいたいのです。ところが、40歳を過ぎてしまえば、感動は2度目3度目の「体験」も珍しくなくなってくる。これは表現者にとって一番避けたい「心の麻痺」であり、同時に挑戦が求められていると気づいたのです。そしてその挑戦とは仕事ではなく、私生活で発見されることが幸せな出会いであると思い本のテーマを「趣味探し」としました。趣味とは「心を無にする」時間で、それこそ感動体験だと思います。私は、16歳から芸能界に入ったので、時間の流れや、立場の特異性をやりくりするので手一杯でした。趣味どころではなかったんですね。40歳を越えた今はじめて、趣味の世界を広げてみたい、新しい感動を味わってみたい、と思う余裕ができました。
そもそも、趣味がある人って魅力的だし、話題も豊富ですよね。たとえ始まりが仕事のつきあいでも、趣味が同じだったら人と人は、すぐに意気投合することもある。そんな形での憧れもありました。
−−7年前にご結婚されてからの著書に「仕事ぬきの感動」について書かれてますよね。

◆「22枚の女の切り札」(P.260-261)引用
【ストレス社会の切り札】夫に教えられた遊びの精神

夫の仕事はグラフィック・デザインをコンピュータで処理する。絵画を鑑賞するのも仕事の一環であることは当然なのだろうと思っていた。わたしにしても絵画の構図や人物の表情や仕草を、知らないうちに何かのアイディアに活かそうと着眼意識が働いてしまっていたはず。 それは遊びが何かの役に立つことを暗に期待しながらの時間の過ごし方だった。

山咲さん夫からは「職業を離れた遊び感覚」を教えられました。単に楽しむ素直さこそ大人には必要だと。 それが趣味の世界で広げられたら、ということにつながっていったのかもしれませんね。
−−12種類の趣味探しのための「修業」は、どんなカテゴリに分類できますか?
編集王さん最初は「資格系」「趣味と実益」「美の追求」なんて分けていましたが、途中から「千里さんのアンテナにひっかかるものならナンデモ」になってきましたね。それがまたこの本の味になってるんですが。たとえば、なぜ「『宮殿のトイレを探せ』の修業」、なんていうものがあるのか? これは、千里さんの「インテリアの追究」の延長にあるんです。
山咲さん最近では、トイレ「サティス」は「新幹線のデザイン美」以来の21世紀の最高のカタチのひとつであると個人的ではありますが認識しました。
私は、男の子に「山咲さん、結婚相手にはどんな女性を選べばいい?」って聞かれたら、「おうちに遊びに行ってトイレがキレイに掃除されてるコなら間違いないわ」と言ってます。それくらいに「トイレ」とは美しさが求められる空間になっていくと感じています。
−−「これは激しすぎやしないか」ベスト3、といえば何でしょう?
山咲さんフラメンコでは、倒れそうになりました。いえ、フラメンコを練習していて倒れた人っていうのは、まだいないそうですが。
優雅に踊っているように見えても、水面下では足をばたつかせている白鳥のように、大変な体力が必要なんですね。それと、独自のリズム。通しで4時間踊っても、まだ、リズムの「13拍目が次の1拍目」という世界がわからなくて、イヤな汗がでました。すべての修業において、「練習や下調べなし」でいくことにしていたのですが…。このまっさらの状態で、師匠からその世界を教えてもらう、というルールを設けました。すると、これまでの既成概念がガラガラと崩れていくんです。見るのと、やるのでは大きく違う。1度、壊れるんです。壊れた後、それを文字に書いていく…。
−−今までの著作とは全く異なる、体験エッセイですからね。「〆切が漬け物石のように」という言葉がとてもリアルです。そのほかに大変だったのは?
山咲さんDJでは、酸欠になりました。 「おしゃれ天国」という都内で1700人が集まるクラブイベントでDJをやることになり。これはなんと無謀にも3日前から特訓することになりまして。クラブで踊るのは好きでした。「踊る阿呆」と「見る阿呆」はやってきましたが、「回す阿呆」になるのは、全く違ったものでした。 DJのテイ・トウワさんからは「DJってのは、好きな曲を相手に差し出すことなんだよ」と教わりましたが、このとき知ったのは「場を読む」ってこと。
「上手にやりたい」「楽しませなければ」って、肩に力が入っていても始まらないのDJは。どうしたら、みんなが楽しめるか、DJとはそういう場が作れれば、それだけでいいんだとわかったんです。
−−「『おしゃれ天国でDJプレイ』の修業」は、読んでいても「大変そうな感じ」がビンビン伝わってきました。その分、千里さんの感動も深くて、非常に読みごたえのある章だと思います。(一同、大きくうなずく) もうひとつ、修業をあげるとしたら?
山咲さんフレグランス修業では、脳みそバーン!でした。
香りは目に見えないですよね。だからこそ言葉に書き表すのに最適な題材だと思っていたんです。でも実際、香りの調合の現場に行ったら、香りに酔ってしまって。
もともと、人間の嗅覚でかぎ分けられる種類は限られているんですよね。でも、その場では、窓をも締め切った空間に、恐ろしくたくさんの香りが、なんと2000種類も! 最初に覚えたはずの香りが、もう、思い出せなくなるんです。香りが自分の中にたまって、耳から流れ出す感じ…
−−山咲さんには、香水をモチーフにした小説「恋水」という小説もあります。フレグランスは得意分野の延長かと思いましたが、意外です。
山咲さん職業として香水の調合を行うには、特殊な才能が必要なのだと、気づかされました。師匠に、頭が下がりました。
−−これまでの著作と、本作「経験」の大きな違いって何でしょう? 最近では、「総合的女性美UPシリーズ」として3部作「22枚の女の切り札」「だから私は太らない」「美肌」が、女性からの支持を集めていますが。
山咲さんこの3冊で伝えたいことは、自分がすでに身につけてきたことなんです。自分に実績のあるジャンルですね。女優という仕事を通して、美を要求される場にいて、身につけてきたことをまとめたわけですから。一方、今回の「経験」は、私は全くの素人の立場から、師匠に教わりに行きます。今まで体験してこなかったことに対して「うまくやろう」と思う自分との戦いがあります。もちろん上手にできるわけもなく、恥らいやつらさも感じます。 でも、「よくある感動に麻痺していた自分」ではなくなったんです。各界の師匠の元で修業しながら、自らが動くことで、人から新鮮な感動を手に入れることができたんですね。
−−最後に。「趣味」の世界がもつ魅力って何でしょう?
山咲さん日本人の性格として、何でも「まじめに頑張る」ことがあげられますよね。それは美点ではありますが、「気楽」を得られる人間の方が、これからの時代は強いのではと思うのです。「まじめ」とは反対だけど、不真面目でもないのが「気楽」。これは、趣味の世界を持っている人だけがたどり着ける境地ではないかと思うのです。「趣味」とは五感をフルにいかした、ニュートラルな人にしかできないもの。極めるのではなく、広がっていくもの…もちろん、子どもだったら、無心に楽しむ、気楽に取り組むことができたのでしょうが、大人になるにつれてそれができなくなっていきますよね。
「『大人の中にある子どもの心』は、趣味の世界にある」と感じています。そもそも趣味って、それでお金を儲けようとかセレブになろうとか、そういう下心は違う軸を持っています。他者が評価するのではなく、自分の中を豊かにすること。自分にとっては何が趣味と言えるのか… 私はこれからも、本当の豊さを知りたい。真実って何?と探し続けたい。そのために、感動を得られる経験を積み重ねて行きたいと思っています。
−−新たな世界を経験して、今後の著作や活動にいっそう広がりが出そうですね。今日はありがとうございました。

最近は電車やバスも利用するという山咲さん。インタビュー当日は、人混みで目立たないよう、ファッションは控えめでしたが、その肌の美しさ、目からこぼれる意志の強さが印象的でした。それにしても、インパクトのあるユニークな言葉使いには脱帽! その魅力は本文で堪能してください。ページを開けば、新しい山咲千里の魅力に開眼するに違いありません。 これまで、とてもまじめに仕事でベストを尽くしてきた人だからこそ、次は「答えのない無の世界」で「気楽」の境地を求めたいのだ、と深く納得できました。 【インタビュー はにわきみこ】


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