楽天ブックス 著者インタビュー

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ベストセラーになった『命』四部作をはじめ、次々に話題作を世に送り出している柳美里さん。最新長編小説『雨と夢のあとに』は、そんな柳さんが書いた初めての怪談だ。雨は12歳の少女。カメラマンの父・朝晴と二人暮らし。海外ロケに出かけた父が消息を絶ってから2週間、ようやく帰ってきた父と雨の周辺で奇妙なことが起こり始める……。放映中の同名テレビドラマの原作でもあり、奥田美和子が歌う同名主題歌は柳さんが作詞を手がけた。しかし、流行のメディアミックスというよりは、柳さんの紡ぎだした物語のエッセンスがさまざまな形をとって波紋を広げているように見える。それほどに『雨と夢のあとに』の読後感は深く、濃い。柳美里さんに作品が書かれた背景をうかがった。

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柳美里さん『雨と夢のあとに』『雨と夢のあとに』
蝶の撮影旅行に出かけたきり、2週間も音信不通だった父が帰ってきた。ひとりで留守番をしていた12歳の少女は喜ぶ。しかし、帰国した父は、いつもと様子が違っていた。少女の身に降りかかった、甘美で残酷な“孤独”の日々。柳美里初の怪談。
580円(税込)
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プロフィール

柳美里さん (ゆう・みり)
1968年、神奈川県生まれ。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇集団「青春五月党」を結成。93年、『魚の祭』で、第37回岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。94年、初の小説作品「石に泳ぐ魚」を「新潮」に発表する。『フルハウス』で第18回野間文芸新人賞・第24回泉鏡花文学賞、「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞するなど受賞多数。主な作品に『ゴールドラッシュ』『命』『魂』『生』『声』『8月の果て』などがある。
★柳美里 オフィシャルサイト : http://www.yu-miri.com/

インタビュー

−−『雨と夢のあとに』の物語を思いつかれたきっかけから聞かせてください。
柳さん怪談を書きたいと思ったんです。本を読み始めた小学生の頃、怪談ばかり読んでたんですよ。うちは、おこづかいナシ、必要なものは買うから言いなさいっていう方針だったんで、好きに使えるのは年に一度のお年玉だけだったんです。で、お年玉をもらうと、本屋に直行しました。エドガー・アラン・ポーの『黒猫』『アッシャー家の崩壊』、上田秋成の『雨月物語』などは大好きで、くりかえし読みました。私にとって怪談は物語世界への入り口だったんですね。
−−その怪談を今お書きになった理由はありますか?
柳さん5年前に、東由多加という伴侶をガンで亡くしたんです。闘病中、私が「死なないで」と泣くたびに、彼は「絶対に死なない。俺があなたを残して死ぬはずないじゃない」と言ってくれました。それは、慰めよりもっと強い、約束の言葉だったんです。

この5年間、東由多加はその約束を守ってくれています。

『雨と夢のあとに』に、少女が七夕の短冊に「いつまでもお父さんと一緒に暮らせますように」と書いて、父親が「ずっといっしょにいるよ」と答える場面があります。それは、東由多加と死に別れ、魂だけになった東に寄り添って生きてきた、この5年間の実感でもあるんです。
−−柳さんの作品には私小説的なものもありますが、故人となってしまった東由多加さんとの出会いを「怪談」というかたちでお書きになった理由は?
柳さん目に見えるものは在る、目に見えないものは無い、という考え方に異を唱えたかったんです。聖書にも、「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです」(新共同訳〈コリントの信徒への手紙二/4章18節〉とありますが、怪談というのは、目に見えないものを中心に置いた物語だと思うんです。恐怖、不安、嫉妬、憎悪など負の感情を主軸にする怪談が多いですが、私は、愛を中心にした怪談を書きたかった。

また、目に見えないものの存在ということに関して言えば、私の公式サイト 《La Valse de Miri》 の「サイトオープンにあたって」というページに詳しい経緯は書いてあるんですが、「らばるす」さんというハンドルネームの読者が自殺してしまったんです。私は、生前のらばるすさんとはおつきあいがなかったんですが、死後、弟さんから手紙が届いたことがきっかけで、山口県萩市にある彼の家を訪ねて、お母さんと弟さんから生前のお話をうかがい、お墓参りをしました。その時に、彼がコントラバス奏者だったこと、高いところが好きで、よく観覧車に乗っていたことなどを知り、それは、『雨と夢のあとに』の父親像に生かしています。生かしたかったんです、らばるすさんを……。
−−「サイトオープンにあたって」を読むとネットを通じた不思議な縁のようなものを感じます。「La Valse de Miri」という柳さんの公式サイトは掲示板やチャットルームもあってかなり充実していますね。
柳さんネットの世界に入って2年になりますが、最初の半年は完全にネット中毒でしたね。毎日、夜の10時頃から新聞配達のバイクの音が聞こえる時間までチャットをやってました。ネットの人間関係というのも奇妙なものですよね。年齢も性別も職業も住んでる場所も、全ての属性を剥ぎ取られた、ある意味、霊魂のような相手といきなり、死のうと思ってる、とか深刻な話をしたりするわけですからね。長時間チャットルームに居ると、生死の境を越えて、死者がチャットに参加してるんじゃないかと思う時もあります。その、居るけれど居ない、居ないけれど居る、という感じを描いたのが、『雨と夢のあとに』なんです。
−−公式サイトを拝見して、小説やエッセイで垣間見る柳さんの世界とはまた別の一面を見られたような気がします。ところで『雨と夢のあとに』の主人公・雨は12歳ですが、これは微妙な年頃ですね。
柳さん子供時代からは追放されたけれど、女という性にはまだ属せない、最も揺れる年齢だと思うんです。『雨と夢のあとに』のもうひとつの軸は“揺れ”です。思春期の少女の“揺れ”、異国の地で命を落としても尚、ひとり娘を心配する余りこの世に留まろうとする父親の魂の“揺れ”、自ら命を絶ちながら思いを消すことができない隣の女の情念の“揺れ”――、物語の軸自体を常に揺らしていたかったんです。
−−12歳の生活のディテールが細かく書き込まれていますが、これは取材をなさったのですか?
柳さん現在する特定の人物をモデルにしたわけではありませんが、書きはじめる前に取材はしました。父子家庭の編集者のお宅に丸一日お邪魔して、12歳の少女と父親の会話を聞きました。少女の会話の生理的なリズムを自分の体に取り入れたかったんです。
−−会話の中で、丁寧語が入ったり、くだけた調子になったり、えっ?と思う古い言葉が出てきたり、とてもリズミカルに感じました。
柳さん37歳の私から見た12歳の少女にはしたくなかったんです。取材はしましたが、見たもの、聞いたものを単なる情報として書いたのでは小説にならない。少女を私の内に取り入れるのと同時に、過去に遡って12歳の私を連れてくる必要があった。

あとは、深夜から明け方にかけてのチャット大会ですね。10代から20代前半の子が多かったんですよ。彼らと喫茶店かどこかで面と向かって話すとなると、「うわっ若いなっ」「うわっおばさんだっ」ってお互いの年齢を意識しちゃうけど、見えないわけですからね、知らず知らずのうちに同化しちゃって、私、影響受けやすいんですよ(笑)
−−『雨と夢のあとに』は怪談ですが、怖ろしいだけでなく、一方で温かいユーモアも感じました。ユーモラスな場面というのはやはり楽しんで書いていらっしゃいますか?
柳さん楽しかったですね。父親と娘のやりとりは特に。思わず笑ってしまうんだけど、笑った後によけい悲しくなるような笑いを描きたかったんです。

それは、やっぱり、東由多加との最後の日々なんですよ。

ベッドの傍らで私が泣いていると、東が「泣くのは体にいいんだってさ」と言うんですよ、ガンの転移で出なくなった声を振り絞って。「あんたは泣かないね」って言ったら、「俺まで泣いてどうするの」って笑うんです。亡くなってみると、泣いたことよりも、笑ったことの方が悲しい……。
−−以前の柳さんの小説は、読んでいる間中、嵐の中に翻弄されるような感じがありましたが、『雨と夢のあとに』は、晴れた日もあれば雨の日もあって、嵐にもなる。そんな印象を持ちました。
柳さん私、息子が転んだりすると、思わず、「痛いの痛いの飛んでいけ!」って決まり文句を言っちゃうんですよ。で、やっぱり決まり文句じゃ、痛いのなんて飛んでかないわけですよ。だから、「痛いの痛いの飛んでいけー! パタパタパタパタ……あぁ、飛んでった……ほらっ、ママの顔のまわりをパタパタまわってる……パタパタパタッパタパタパタパタッ……あっカモメさんが迎えにきたっ!連れてっちゃうんだ!オーイ!オーイ!痛いのさぁん!待ってぇぇぇぇ……わっわわっ!ママにも羽根が生えました……さあ!飛ぶぞぉ! いっちにのさんっ!」って感じで、身振り手振りを交えながら即興で物語を拵えるんです。はたから見たら、イッチャッテルんじゃないかって思われるほどマジに(笑)。でも、その物語が面白ければ、泣き止んでくれるんですよ。すりむいた膝から血が流れていても、一瞬、痛みを忘れさせることができるんです。

何を面白いと思うかは、人それぞれ異なるでしょうが、自分に触れるものがあった時ですよね。痛みや苦しみや哀しみや淋しさに囚われている人が、一瞬でもそれを忘れられる、そういう物語も書きたい、と思います。
−−楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
柳美里 柳美里さんと怪談、と聞いて意外の感があったが、読んでみれば、それはまぎれもなく柳さんの世界。しかも、怖くて切ないだけでなく、ユーモアのある優しい物語だった。お会いした柳さんも、ネットでの体験などをユーモラスに語ってくださった。「生きているうちに書ききれないほど書きたいことがある」という柳さんが、目下構想しているのは『雨月物語』のような連作怪談だという。鶴首して待ちたい。【インタビュー タカザワケンジ】

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