楽天ブックス 著者インタビュー

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47歳の柊子はバツイチの独身女性。別れた夫一家がイギリスに転勤するため、5歳のときから1度も会っていない娘の美羽を預かることに。娘に拒絶されたと感じている柊子と、母に捨てられたと思っている美羽。かみ合わない2人だったが、停電でストップしたエレベーターの中で、心と身体が入れ替わってしまう。47歳の心を持った女子高生と、17歳の心を持った女性翻訳家。2人の人生は? 恋の行方は? 突然起きた信じられない事態に遭遇し、揺れ動く2人の女性の心をきめ細やかに描く『今夜は心だけ抱いて』。著者の唯川さんに執筆にまつわるお話をうかがった。

プロフィール

唯川恵さんさん (ゆいかわ・けい)
1955年石川県金沢市生まれ。銀行勤務等を経て、84年『海色の午後』でコバルト・ノベル大賞を受賞し、作家デビュー。小説、エッセイが女性読者を中心に支持されている。『肩ごしの恋人』で、第126回直木賞を受賞。『愛がなくてははじまらない。』『不運な女神』『ため息の時間』『ベターハーフ』など著書多数。

インタビュー

−−母と娘の心と身体が入れ替わってしまうという大胆な設定の物語ですが、構想されたきかっけを教えてください。
唯川さん小説を書き始めたときに書いていたのが少女小説だったんですが、そういえば最近、女子高生を書いていないなと思ったんです。それに、もともと小説の中で女2人を戦わせるのが好きなんですが、同じような年代の女性同士が多かった。そこで今回は、かなり年の離れた女性たちを戦わせてみたいな、と思ったのがきっかけです。  入れ替わりものというのは昔からよくある設定で、決して新しいアイディアではないですが、年の差のある女性2人の心と身体が入れ替わることで、女の敵である「年齢」を書いてみたいという思いもありました。
−−親子とはいえ、娘が5歳のときに分かれて以来、音信普通。その2人が再会するというだけでも相当な心理的な壁があるのに、入れ替わってしまったことで、お互いが置かれている状況に向かい合わざるをえなくなります。
唯川さんただでさえ、娘は母親の気持ちはわかりませんよね。まだ生きたことがない母親の年代はわからない。母親のほうも、かつては娘と同じ年頃だったこともあるのに、いざ子供ができてみると、その子の気持ちがわからない。年代という溝をとっぱらって、母と娘が向き合うには? と思ったときに、入れ替わりという手があるなと思ったんです。
−−47歳になった美羽、17歳になった柊子。2人を書き終えて、いかがですか?
唯川さん47歳になった美羽がどんどん大人になっていきましたね。同時に、女の人って、どんな状況でも柔軟にしたたかに生きていくんだなあ、と思いました。
−−男だったら、入れ替わったというショックになじめないまま、世をはかなんでしまいそうです。
唯川さん男の人の強さって、俺は今ここにいる、ということだと思うんですよ。女の人は、どこにいても、私は私。そういう違いがあるような気がします。
−−47歳と17歳が、立場が入れ替わることで、それぞれの年代のよさ、大変さを見つけていく。47歳になってしまうほうがショックだと思いがちですけど、『今夜は心だけ抱いて』を読んでいると、47歳には47歳の良さがあるんだな、とも思いました。
唯川さん最初は私も、いきなり30年を抜かしちゃう美羽ってかわいそうだなと思ったんですけど、自分が17歳の頃を振り返ると、若いってことがしんどかったりするし、意外と美羽のほうがのんびりと生きていけるのかもと思いましたね。むしろ、17歳になってしまった柊子のほうが大変じゃないかな。気を緩めると、47歳だったときの自分と同じ生き方になってしまう。せっかく神様からもらった2度目の人生をどう生きるかを考えるのはたいへんですよね。
−−唯川さんご自身は、もう1度17歳になりたいと思いますか?
唯川さん若いお肌はほしいし、若い肉体もほしい(笑)。だけど、人生のやり直しはいらないです。絶世の美女に生まれ変わらせてくれるならいいけど、この小説の場合は親子だから、だいたい自分の行く末も見えるわけで。30年後はこんなのになってるだろうな、とか。それをやり直すのって、本当につらいと思う。
−−デビュー当時にお書きになっていた少女小説に登場する女子高生と、現代の女子高生では書いていてどんなところが違いましたか?
唯川さんまず、ファッションが違いますね。私のときはツッパリでした。長いスカートだったのに、いまはこーんな短いスカートになって。それに、何より大きいのは携帯電話の出現ですね。もちろん、インターネットなんていうのもなかったし。
−−『今夜は心だけ抱いて』のなかで、携帯電話は2人のアイデンティティを象徴するモノとして印象的に描かれていますね。
唯川さんほかに2人が交換する象徴的なものがなかったんです。携帯電話に関しては、以前から、恋愛の王道である行き違いが成立しなくなったといわれていて、影響の大きさを感じていましたが、今回、別の意味でその存在の大きさを感じました。
−−唯川さんといえば恋愛小説の名手として知られていますが、今回も入れ替わった2人がそれぞれ恋愛をしますね。2人の恋愛を書くうえで意識したことはありますか?
唯川さん連載していた「週刊朝日」が男性読者の割合が高いということもあって、ベッドシーンは必ず入れようと思いました。やっぱり、17歳になった柊子は、はしゃぐと思ったんです(笑)。若い肉体を持てば誰でも考えることは同じだと思うので。ハートは47歳だけど、肉体は処女なので、無理やりにされそうになったところでは、柊子に思いっきり怒らせた。そこのところは、ぜひ男性にも読んでほしいと思います。
−−これは男女の読者ともに感じることだと思うんですが、とにかく、次、どうなるんだろう? という気持ちで読み進めることができました。
唯川さん自分でも、着地をどうするんだろうと思いながら書いていたんです。結局、私の不安は、主人公2人の不安でもあったと思うんです。元に戻れるんだろうか、それともこのままなんだろうか。作者の不安が2人のところにも行って。そういう意味では、作者と主人公たちが一体化してしまった部分があります。
−−入れ替わりという設定も読者の好奇心を刺激すると思うんですが、お書きになっていていかがでしたか?
唯川さんこういう設定にしたおかげで、ウソがつきやすくなったかもしれないですね。親子が再会して葛藤しながら2人で生きていくというよりも、入れ替わって娘の生活をのぞき、母親の生活を知りというかたちにしたことで楽しんで書けたような気がします。
−−お互いの生活をのぞくということで、ユーモラスな場面もありますね。
唯川さんこれ、最初はユーモア小説にしようと思ったくらいなんですよ(笑)。でも、書いているとどうしてもウェットな部分が出てくるのでそうはならなかったんです。笑ってほしいとこともたくさん書いたつもりです。
−−47歳の美羽と張り合う30代の元モデルのミチルさんとか、脇の人物にもそれぞれ存在感がありましたね。
唯川さんミチルで思い出しましたけど、ある意味、これは男性にけんかを売っている小説でもあるんです(笑)。若いことがナンボのもの? 年とってどこが悪いのよ? って。やっぱり、男性読者を意識していたんですね。
−−話は変わりますが、1日をどのようにすごしていらっしゃいますか?
唯川さん3年前から軽井沢に引っ越したんですが、朝も早くて、夜も早いんですよ。しかも、ほとんど、犬が時間を決めています(笑)。1日4回くらい犬を連れて散歩するんですが、その合間を縫って書いています。だから、私の1日のスケジュールを決めるのは犬(笑)。あとはお天気ですね。
−−これからのご予定は?
唯川さん 3ヵ月後くらいにエッセー集が出る予定です。小説は秋に短編集が出ます。どちらもタイトルはこれから考えます。この小説のタイトルも、かなり頭を悩ませて決めたんですよ。
−−『今夜は心だけ抱いて』というタイトルは、読み終えてから見ると、あらためて味わいが増してきますね。読者それぞれに感じることがあるんじゃないでしょうか。今日はありがとうございました!

唯川さんもおっしゃっているように、心と身体が入れ替わる物語は小説でも映画でもいくつか前例がある。しかし、年代が違う女性が入れ替わることでそれぞれの年代の行き方をお互いの視点で体験し、さらに恋愛をするというこの小説は、唯川さんならではの世界。特殊な設定だからこそ、想像の翼を広げて読む楽しみがある。女性はもちろん、男性も楽しめる(そして勉強になる)ユニークな恋愛小説だ。
【タカザワケンジ】


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