トップ > キャンペーン・特集 > CD > Artist Voice ― 菊地成孔 インタビュー

Artist Voice ―菊地成孔 インタビュー

2014/03/28掲載

「どんな音楽であっても戦争との距離感が測れる」
自ら立ち上げたTABOOより新作を発表

第1弾は
ぺぺのヴォーカルアルバム

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールの4枚目のオリジナル・アルバム『戦前と戦後』が完成した。新レーベル、TABOOからの第1弾リリースとなる本作は、“現代音楽、クラシック、ラテンなどをマッシュアップした、官能的で残酷な音楽”という従来のスタイルとは大きく異なり、11曲中10曲が歌モノ、しかも菊地自身がヴォーカルを取るという、異色作品となった。タイトル曲「戦前と戦後」、ドラマ『チェイス〜国税査察官〜』の主題歌として制作された「退行」のフル・ヴァージョンのほか、ディック・ミネが戦前に発表した「ただひととき」、薬師丸ひろ子が1984年の主演映画で歌った「Woman〜Wの悲劇より」、USのR&Bシンガー、フランク・オーシャンが昨年リリースした「Super Rich Kids」など、時代を超越したカヴァー曲を含む本作について、菊地自身に語ってもらった。

「やり過ぎたとも言えますが、
それくらいでちょうどいい」

――菊地さん自身が全編でメイン・ヴォーカルを取るアルバムであることに、まず驚きました。
 「ペペ・トルメント・アスカラールの活動は来年で10年目になるんですが、アルバムも4枚出してるし、ライヴの配信も含めると大変な数の音源が出ていて。我々のように変わったバンドだけではなく、4ピースのロック・バンドであっても10年目くらいになると壁にぶつかるんですよ。これは後付けですが、自分のレーベルからの第1弾ということもあるし、ここで新機軸が欲しかったんですよね。いままでやったことがないと言えば、エレクトリック楽器を使うとか、かつてのワールド・ミュージックのように世界中からいろんな歌手を集めて歌ってもらうなんてこともあるけど、それでは大した自己更新にならないな、と。そこで思いついたのが、ヴォーカル・アルバムにすることなんですよね。まさか自分が歌うとは思ってなかったですけど」

――バンドのコンセプト自体が変わりかねない変化だと思うのですが。
 「そうですね(笑)。自分が歌って、演奏がペペっていう極端なアルバムだから、ビックリする人もいると思います。ビックリさせるのが目的ではないんですけどね(笑)。自己更新をやり過ぎたとも言えますが、それくらいでちょうどいいんじゃないですか」

――『戦前と戦後』というタイトルは、2年くらい前にいきなり思いついたとか。
 「ヴォーカル・アルバムにすること以前にタイトルは決まってました。ペペ・トルメント・アスカラールの次のアルバムは『戦前と戦後』というタイトルで、そこには〈戦前と戦後〉という曲が入ってるんだっていう。“いまが戦前っぽいから”という理由はあまりにもシンプルヘッドなんですが――
僕は生まれがオリンピックの前年で、20歳のときはバブル全盛期だったんですね。これから西洋の仲間入りをして伸びていくんだという気風のなかで幼少期を過ごし、景気が狂い咲いたバブル期に成人したわけだから、“戦争なんて絶対にない”と思ってたんですよ。戦争の危機すらなく、ものすごい平和のなかで繁栄し続けるというイメージがあった。
 その後、歌舞伎町に移って、リトル・コリアに10年近くいますけど、まさか韓流ブームなんてものが来るとは夢にも思ってなかったし、ワールドカップのときに在日の人たちが街中で大騒ぎしたり、かと思えば竹島問題でガーンと下がったり、ヘイトスピーチがあったり、ダイナミックな動きがいろいろとあって。こんなにアジアの緊張感が高まることも、ぜんぜん想像してなかったですからね。元気な時代に生まれて、ちゃらい時代に遊んで、50になったら緊張感が出てきたっていう(笑)」

kikuchinaruyoshi
photo: ©kikuchinaruyoshi

 

――そういう時代背景も確実に影響してますよね。


自分がやってるバンドのなかでは
アキバとの親和性がいちばん高い

 「あとは“クール・ジャパン”と呼ばれるカルチャーですね。そのほとんどが“戦争が怖い、死にたくない”ということをマグマにしている表現だと思うんです。世界の危機を美少女が救う、というね(笑)。もうひとつのキモは、歴史がマッシュアップされていること。『スターウォーズ』は宇宙と古代がつながってるだけとも言えますが、日本のアニメはもっと複雑だし、時間軸がめちゃくちゃになってるんです。いま“クール・ジャパンとかアキバみたいな要素を1%も持ってない”という人はいないと思うんです。OMSB(SIMI LAB)だってゲームばっかりやってるし(笑)。僕自身はゲームをやらないし、アニメにもアイドルさんにも興味はないですが、それでもアキバ的なものは入ってしまってるんですよね、表現のなかに。自分の作品を評価する人のツイッターを見てると――ほとんど見ないんですけどね、実際は――もちろん“ロバート・グラスパーやフェラ・クティが好き”という人もいますが、かなりの確率で漫画やアニメを好んでいる人もいる。そういう人がDCPRG(デート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン)のライヴに来ると途中で帰っちゃったりするんだけど(笑)、ペペは聴くんですよ。考えてみると、ペペはタキシードを着てるし、ちょっとコスプレっぽいというか、自分がやってるバンドのなかではアキバとの親和性がいちばん高いかもしれないなと。今回、そこは強く意識してましたね」

――具体的にはどういう部分に反映されてるんでしょうか?
 「まずはさっき言った“時系列が狂ってる”ということです。どんな音楽であっても、戦争との距離感が測れますよね。ベトナム戦争とジミヘンが近いとか、フォークランド紛争とあるタイプのヘヴィ・メタルが近いとか。日本の戦後でいうと、ジャズが復興の音楽だった。進駐軍が持ってきたチョコレート、アメリカのドラマと同じで、すごくリッチな夢の世界であり、復興の道しるべでもあったという。ただ、戦前の日本にもジャズはあって、ディック・ミネはジャズ・ソングを歌ってたんですよね。このアルバムも、戦前の曲が入ることで相貌がガラッと変わるんです。フランク・オーシャン、〈Woman〜Wの悲劇より〉あたりは“菊地の手の内にあるカードだな”と思われるでしょうが、ディック・ミネの戦前歌謡、タイトル・チューンの〈戦前と戦後〉があることで時間軸がシャッフルされて、過去なのか未来なのかもわからなくなるっていう。つまりクール・ジャパンの超歴史状態ということですが、そういうことをいちばんやれるのは、僕が持っている駒のなかではやはりペペだろうな、と」

――アルバムの最初の曲が「退行」というのも、オタク・カルチャーにつきまとう成熟を拒否するような傾向と重なってるんでしょうか?
 「幼児退行はコントロールされるべき重要問題ですけど、それをマニフェストとして掲げてるわけではなくて。曲順において大事なのは、“最後は明るく歌う”ということでしょうね。震災から復興しようというリアルで地に足の着いた歌ではなく、ある意味、分裂している状態での元気な歌ですが。それは聴いてもらえれば伝わると思いますよ」

――なるほど。いずれにしても、日本の現状が強く出ているアルバムと言えそうですね。
 「そうですね。ペペは“映画志向+海外志向”というか、要するにエキゾチズムがあったんですよ。最初(『野生の思考』)は頭が熱帯に飛んでいて(笑)、『記憶喪失学』は映画館という母胎のイメージで、そのあとは『New York Hell Sonic Ballet』っていう。今回は“頭のなかで旅する”みたいなことではなくて、はっきりと日本、東京がターゲットになってます。歌詞のなかに“銀座、二重橋”といった地名が入ってるくらいですから。まあ、秋葉原も十分エキゾチックですけどね。僕はあんまり行ったことがないですが、メディアで見るだけでも、“外国みたいだな”と思いますから」


取材・文 森 朋之(CDJounal 2014年4月号より転載)
      関連 DISC      

マークをクリックすると収録曲が試聴できます。  


NEW

 戦前と戦後(CD+DVD)


2014年03月19日発売 試聴はこちら
購入はこちら

収録曲 1.退行[4:25]
2.Woman 〜映画“Wの悲劇"より[4:25]
3.ミケランジェロ
4.カラヴァッジョ[7:24]
5.エロス+虐殺[6:27]
6.I.C.I.C.[4:40]
7.大人の唄[5:47]
8.戦前と戦後[3:42]
9.ヴードゥー/フルーツ&シャークス[6:52]
10.スーパー・リッチ・キッズ[5:35]
11.たゞひとゝき(菊地成孔)/A列車で行こう(菊地成孔)/ヂサフィナード(菊地成孔)/てぃーんずぶるーす(菊地成孔)/たゞひとゝき(菊地成孔)[4:08]

おすすめキャンペーン・特集

このページの先頭へ