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Artist Voice ― 大江千里

2015/3/9掲載

最新作『Collective Scribble』発売、大江千里インタビュー

2012年、ジャズ・ピアニスト大江千里として再デビューしてから3年。アルバムとしては3作目。初のトリオ編成でレコーディングされた最新作『Collective Scribble』は、一方で“静かな攻めの姿勢”を感じさせる一枚でもある。“一筆書き”を意味するという“Scribble”を配したタイトル通り、作品そのものはコンパクト。が、その削ぎ落とされた簡素さからは、“ジャズの定石”から自身にしかできない表現へと踏み出そうとする、ピアニスト / コンポーザーとしての決意がうかがえもする。移住して8年目。現在も居を構えるニューヨークで、メール・インタビューに応じてくれた。






自分のマーケットを作って勝負

――新作はコンパクトである一方、実験的な演奏、大胆な曲調が目立ちますね。
大江「NYのジャズ界は、そのレベルの高さゆえに、ほとんど満員電車状態です。オールド・スクールが素晴らしいミュージシャンぞろいなのはもちろん、ロバート・グラスパー(僕の音大の先輩です)のポリリズムな世界も非常にポピュラーで、こちらも満杯。僕は音大を卒業して間もないですが、すでに今年55歳。人生あと何年あるかわからない、そう考えて選択したのが“小さくても自分のマーケットを作って勝負する”ことでした。前回ビッグバンドだったのに対して、今回はトリオ。しかもNYでは珍しいドラムレス編成を選んだのも“人がやらないことをやる”という狙いから。ジャズだからソロをやるとか、そういう固定概念も全部覆しています」  

――ドラムレスにすることに、不安はありませんでしたか?  
大江「ありました。ドラムがいれば一応わかりやすい形にはなりますから(笑)。1枚目2枚目は黒人ドラマーを起用して、そこだけは貫いていた部分があったので、今回一気に鎧を脱いだというか、むき身になった感じですね。ただ、あえてドラムレスにすることでスペースが生まれ、曲を引き立てる演出がしやすくなるのでは、という意識もありました」  

――今回サックスを選んだ理由を教えてください。音色がクラリネットのように聞こえる曲があり、ガーシュウィンの小品のような印象を受けました。  
大江「今年の秋以降に控えているもう1枚も含めて、今後リリースするアルバムは“Senri Oe Jazz Songbook”的な色彩が強くなります。今回組んだヤシーン(・ボラレス)はソプラノ・メイン。場合によってはクラリネットに聞こえるような曲もほしかったので、そういうオーダーもしました。ガーシュウィン的であり、(ホーギー・)カーマイケル的であり、ラヴェルやシェーンベルク的な要素もある。でも、僕がやると結局口ずさめる系になるんですよね。僕自身、中学時代、ブラスバンドでサックスとクラリネットをやっていたこともあり、なじみのある楽器でもあります。トリルなど素敵な奏法がいっぱいあって大好きなんです。雄弁な楽器でもあって、ヴォーカリーズする時、シンガーはサックスを一番コピーするんですよね」  

――「Autumn Confidential」でのヤシーンさんとの会話的なやりとり、素晴らしいですよね。彼の“歌いすぎない”ところに、むしろ歌心を感じました。  
大江「これは何度もやり直した、難しかった曲です。曲の1コーラスは短いけれどダルセーニョしてAのテーマに戻るので、どうしても滞空時間が長い。そのままやると若干くどさが残るんです。なので、アレンジに時間がかかりました。そうだ、レコーディング2日目にヤシーンからの提案で、もう1回録音し直したんですよ。コントラバスのジム(・ロバートソン)は“やったことはやったこと”とのほほんとしているんですが、ヤシーンは“さらによくなる”と譲らなかったですね。その際、“歌いすぎない”ことには、もっとも留意しました。手癖のフレーズで空間を埋めてしまうと、“なまむぎなまごめなまたまご”みたいに聞こえちゃう曲なので(笑)」  

――「Scribble」では、抑制の効いたベースが印象的です。ジムさんと共演するうえでの、ピアニストとしての醍醐味を挙げるとすると。  
大江「ジムのベースには、作曲家でもある僕の演奏を、温かく見守ってくれているところがあります。ずっと年下なのに、人間的にも僕のことを守ってくれている。あまり性格的に前へ出るタイプではないので、たまに狂ったように弾きまくることがあると、僕としても非常にうれしいんです」  

自分の“日本語性”との折り合い    

――DVDに収録されたインタビュー映像で“HAIKU”を引き合いに出していらっしゃいましたが、あえて今回キーワードにした理由をうかがえますか。ファースト・アルバムに寄せた解説で「葛藤があった」とおっしゃっていた、ご自身が持つ“日本語性”と、折り合いがついてきた、ということでしょうか。  
大江「たまたま今日、神野美伽さんの通訳でマンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルのお宅にお邪魔したんですが、神野さんのリズムの取り方について “1、3でとったらこの国(アメリカ)ではあり得ない”的なことをジャニスも言っていました。だから、“俳句”と言っても、ダウンビートだとアメリカでは通用しない。英語をしゃべるときもそうなんですが、アメリカ文化の背景を理解したうえで、あえて日本人らしい個性を発揮して笑いを取る、みたいな感覚が必要になります。アメリカ人っぽい発音をすると、かえって意地悪されて“Excuse me? ”なんて聞き返されることもあるので、大事なのは場の空気をつかむことだと思うんですよね。そういう兼ね合いは、やはり8年住んでだんだん見えてきた部分でもあります。  
 一方、俳句って “5・7・5”じゃないですか。ジャズをやっていて、5拍子や7拍子を怖がったり畏怖の念にかられたりする人がいるんですが、僕は歌いながらピアノを弾く商売を長いことやっていたので、“5・7・5”に歌詞をのせて演奏できちゃうんです。“あなたから・愛されたいと・言われても / あなたのことは・愛したくない”みたいに(笑)。ここに別の拍子や符割りを持ち込んで、フレーズを当て込んでいく。千手観音奏法ですね。和音階がペンタトニックに近いとか、そういう単純な観点だけで“和”に持っていきたいというのではなくて、タイム感、空間の縦刻みを、いくつ同時に並列させていけるか。そういった意味合いでの“日本語性”であり、俳句的な発想の活かし方を考えています」  

――「Autumn Confidential」や「Wonder」、最後の「Sketch」などに、コンポーザー大江千里の新たな魅力を感じています。シンガー・ソングライター時代は歌詞にひそんでいた“不穏さ”が、ジャズを書く際の不協和音の扱いへとシフトしたかのような(笑)。  
大江「当たっているんじゃないですか(笑)。シンガー・ソングライター時代は“清廉潔白”なイメージを持たれがちでしたけど、僕本来のアートな部分をジャズだと全開にできるので、今、そこは楽です(笑)。本当に“美しい”と思えるところに行けるので、妙な気遣いやストレスが一切ないのかもしれません」  

――ジャズ・ミュージシャンとして、ピアニストとアレンジャー、コンポーザーという3つの柱がありますが、今後10年、3つをどういった配分でこなしていこうとお考えですか? あとレコーディングしていない時期、ピアノはどれくらい弾いていますか?  
大江「ピアノは多いときは一日中弾いています。少ないときは2時間くらい。自分で決めた練習内容がいくつかのパッケージになっていて、全身コースはけっこう時間がかかるけど(笑)、足つぼマッサージ・コースなら2時間弱という感じですね。  
 今後10年を考えると、今挙がった3つに自分のレーベル経営が加わるので、4分割ですね(笑)。今20歳ならもっと欲があったのでしょうけれど、若い世代が出てくるきっかけづくりにも力を注ぎたいので、あまりギラギラとアクロバティックなピアノ弾きにはならないんじゃないかな」

取材・文 真保みゆき CDジャーナル3月号掲載

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NEW Collective Scribble


2015年02月14日 試聴はこちら
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収録曲
[Disc1]

<収録内容>
01. Fried Green Tomato
02. Autumn Confidential
03. E Love
04. Scribble
05. David
06. Book Him
07. Wonder
08. Winter
09. Cue Kiss
10. Dr. Dan's Cure
11. 秋唄 *セルフカバー
12. Sketch

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