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Artist Voice ―KIRINJI

2015/12/3掲載

ユニークな試み




昨年、新編成になって初めてのアルバム『11』を発表したKIRINJI。堀込高樹(ヴォーカル、ギター他)を中心に、田村玄一(ペダル・スティール、バンジョー他)、楠均(ドラム他)、千ヶ崎学(ベース他)、コトリンゴ(ピアノ、ヴォーカル他)、弓木英梨乃(ギター、ヴァイオリン他)といった腕利きミュージシャンが集結。ライヴを重ねてバンド・サウンドに磨きをかけるなかで、KIRINJIらしいユニークな新作がリリースされた。その名も『EXTRA 11』は、6月23、24日に六本木・ビルボードライブ東京で行なわれたライヴ音源に、ダビングやエフェクトを加えて再構築したもの。なぜ、ライヴ盤ではなかったのか、そのあたりの事情を堀込はこんなふうに説明する。




■堀込「ライヴ・アルバムにはあまり興味がないんです。どうしても音質の面で不満が残ってしまう。とくにビルボードのライヴはアコースティック楽器を中心にしたアレンジにしようと思っていたので、なおさら気になってしまって。だったら、ドラムとパーカッション、ピアノはライヴのトラックを残して、後の楽器は録音し直して新しい作品として出したほうがいいんじゃないかと思ったんです」

まず、ライヴのアレンジに関しては「とにかくオリジナルと違うということを意識して」堀込が考え、リハーサルでメンバーとアイディアを交換した。

■堀込「アコースティックな編成で演奏してみて、あまり変わらないような感じだと楽器を変えてみたり、演奏する人を変えてみたりする。そうやっているうちにだんだん原曲から離れていって面白いものができてくる、という作業でした」


■田村「曲は頭に入ってるだけに構成が変わると大変なんですよ。同じ楽器を使っているとオリジナルのフレーズをまるまる弾いてしまうんで、楽器を変えたほうが良かったですね」


■千ヶ崎「ベースは多少無理があってもウッド・ベースでいくことに決めたんです。そうすると自然とフレーズが変わってくる。ただベースはドラムはある程度一体になっているべきだから、ライヴのテイクを残したドラムとどう絡んでいくかは高樹さんと録りながら話しましたね」

ライヴのグルーヴを残しながら、スタジオで曲に新しい表情を与える。そんなユニークな作業を通じて、もうひとつの(エクストラな)『11』が作り上げられていった。どの曲も趣向が凝らされているが、なかでも大きく印象を変えたのが、田村のペダル・スティールが活躍する「ONNA DARAKE!」だ。


■堀込「家で弾き語りでやっていたら、“これ、マイナー(・コード)をメジャーにしようかな”と思いついて。そしたらカントリー・スウィングみたいになったんです」


■田村「“こういう音にしたい”って高樹君からもらった資料が細野(晴臣)さんの〈Pom Pom 蒸気〉だったので喜んでやりました(笑)。ああいうリズムで、ああいうスティールを弾いてみたかったんですよね」


■千ヶ崎「ライヴでは〈ジャメヴ デジャヴ〉を弓で弾きたいと思っていたんですけど、なんかもう一歩だったんです。音量とかグルーヴが前に出て行く感じが足りなくて。それで結局、指で弾いたんですけど、今回、弓で録り直すことができたのは面白かったですね」




バンドとしての絆を深めた


そうした楽器のアンサンブルに妙に加えて、注目したいのはヴォーカルをすべて録り直したこと。そこにも最高のパフォーマンスを記録したいという堀込の想いが込められていた。

■堀込「ツアーが終わった後って、歌がすごく自然で良い感じになっているんです。『11』を出した時と明らかに出来が違うんですよね。それをちゃんと良いマイクで録音して残しておきたかった。とくにコトリちゃんの〈fugitive〉は、もとの曲より朗らかな感じに録れていると思います」

■コトリンゴ「アコーディオンを弾きながら歌ったんですけど、足踏みしているとピアノよりウキウキした感じになるんです(笑)。自然と顔がにこやかになってくる。にこやかに逃亡者の歌を歌うって、ちょっとシュールで楽しかったですね」

ライヴとスタジオの融合。ある意味、KIRINJIとKIRINJIのコラボレートともいえる今回のアプローチは、メンバー自身にとっても発見の連続だったようだ。

■コトリンゴ「最初は歌を録り直したり、うまく演奏できなかったところをやり直すくらいかなって思ってたんですけど、出来上がったものを聴いて“こういうこともできるんだ!”って驚きました。ライヴのイケイケ感とスタジオ素材の冷静さが同時にあって普通のライヴ盤とは全然違う」

■千ヶ崎「(完成した曲を聴いて)“こうなったの!?”の連続でしたね。予想していたとおりのところもあったけど、大幅にライヴと違うところもある。“こんなに長いブレイクあったっけ?”って」

■田村「ここまでやったらライヴ・アルバムじゃないよね。前にヤン富田さんがキリンジの曲をリミックスした時にアコースティック・ギターを弾いたことがあったけど、その時と近い感じだった。高樹君が自分でリミックスしているようなもんだよね」

思えば、いろんなリミキサーに委ねるという方法もあったかもしれない。でも、そうしなかったのは、KIRINJIというバンドの魅力を最大限に発揮したいという堀込の意気込みがあったからだ。

■堀込「これだけアレンジができる人が揃っていて、しかも、それぞれ複数の楽器が弾けるじゃないですか。だからリミックスで聴かせるより、この人たちの能力を最大限に活躍してもらいたいと思ったんですよね。ポストプロダクションに関しては僕中心になってはいますけど、コトリちゃんが弾いたピアノに対して何を絡めたらいいだろうかと玄さんに相談して、そこでスティールパンを入れたりとか。それぞれが自分のパートをダビングして“はい、お疲れさま”って感じではなくて、メンバーがやったことから発想を得て、それがまたみんなに伝わっていく。そこに有機的な繋がりがある。そういう点では『11』の時よりもメンバーの顔が見えるし、みんなのパワーで出来上がっている感じがします」

『11』以上にバンドとしての絆を深めた今作。そのラストを『11』ではオープニングでに置かれた「進水式」で締めくくっているのは感慨深い、と思ったのだが……。

■堀込「いやあ、順番に曲を並べたら入れるところがなくなっちゃって(笑)。今回、リズムもハーモニーも変わってないから、印象を変えるためにイントロをピアノからギターにして一人で歌ってるみたいな感じにしたんです。そしたら“俺が最後だぜ”みたいな顔してきて、しょうがないなあと。まあ、前作で(〈進水式〉を)最後に置くというアイディアがあったりもしたんで」

■コトリンゴ「結果的に意味ありげになりましたよね」

■千ヶ崎「そう。最後にドーンと高樹さんの顔が出てきて(笑)、今回のほうが良かったと思いますよ」

まるで船首像のごとく堀込が先頭に立ち、「不可思議な世界を探ろう」(「進水式」)と新しい旅に出たKIRINJI。その航海が実り多きものだということを、この素晴らしいアルバムが伝えてくるはずだ。

取材・文 村尾泰郎 CDジャーナル 2015年12月号掲載

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NEW EXTRA11


KIRINJI 発売日
2015年11月11日
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収録曲
[Disc1]
<収録内容>
1.だれかさんとだれかさんが[5:12]
2.fugitive[4:43]
3.ONNA DARAKE![4:15]
4.狐の嫁入り[6:18]
5.虹を創ろう[5:59]
6.雲呑ガール[4:39]
7.ジャメヴ デジャヴ[6:40]
8.心晴れ晴れ[5:56]
9.進水式[5:12]

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